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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山

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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山
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リアクション

 日中、花見会場。

「どの季節でも花達は姿を見せてくれるけれど。春は暖かくなってきて、冬を耐えた花達が色々と美しい姿を見せてくれるいい季節だよね。この季節の代表は桜だけど他にもこの山に素敵な子達がいるかもしれない。プリムラとかクロッカスとかサクラソウとか。フクジュソウとかあるかもしれない。アネモネ・ネモローサとかスミレも」
 花見の話しを耳にしたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は花見会場に乗り込むやいなや近くの植物と話したりあちこち植物との出会いを求めに行ってしまう。
「……エース、植物の相手をするのもいいですが……聞いていませんね」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は夜の花見の準備を忘れて植物と戯れるエースに呆れていた。このような事は想定内である。エオリアはそのために来たのだ。
 エオリアはてきぱきとテントと食事の用意を進めた。それだけではなく夜に備えての防寒対策として非常持ち出し袋など様々なキャンプ装備も持って来ていた。

 夜。

「……これが夜光桜。なかなか綺麗じゃないか」
 植物を愛するエースが夜光桜に興味を覚えないはずがない。桜が目を覚ました途端、エースは夜光桜を遠近両方で美しさを確認していた。
「そうですね」
 エオリアも作業を止めて夜光桜の美しさを楽しむ。
「光を弱めながら散るみたいだね。ここは妖怪の山だから妖力か何かを秘めているのかな」
 エースは手の平に載った花びらがどんどん輝きを失いただの花びらに変わる様子を見てますます夜光桜に興味持っていた。
「そうかもしれませんね。それより、僕は今日が無事に過ごせるのか気になりますが」
 エオリアは夜光桜以上に気になる事があった。
「……あぁ、確か主宰者はあの二人だったね」
 エオリアが誰の事を言っているのかすぐに分かった。主宰者であるあの双子だと。
「今まで裏のない企画はありませんでしたからね。今回も何かあるはずですが……もう聞いていませんね」
 エオリアが企画云々を話した時にはもうエースは夜光桜の幹に優しく触れながら『人の心、草の心』でこの山での生活や四季の変化に美しさを褒めたりとお喋りを楽しんでいた。褒められた夜光桜の輝きが何気に増したように見えた。

 そこに噂の二人組ヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)キスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)が登場。
「おいおい、裏のない企画ってなんだよ!」
「オレ達はいつもみんなを楽しませようと思って」
 エオリアの発言をしっかり聞いていた双子はむっとした顔をしていた。

 しかし、エオリアはまともに相手をするような事はせず、
「……どうぞ」
 お菓子とハーブティーを双子に用意。

「おう」
「……美味しそうだな」
 あまりに美味しそうなお菓子に双子は表情を緩めて頬張り始めた。
「まだお菓子もお茶もありますから。どんどん食べて下さい」
 エオリアは上手に流してしまう。何度も巻き込まれているので手際が良い。

 思う存分、食べて飲んだ後
「ごちそうさん、美味しかったぜ」
「ありがとうな。じゃ、ヒスミ行くか」
 文句を言いに来た事も忘れて双子は会場から出て森の方に行った。

 双子を見送った後、
「……エース、皆さんにお菓子を配って来ますね」
 聞こえていないだろうと知りつつもエースに一言、言ってからエオリアは手作りのお菓子を他の参加者に配りに行った。

 エオリアのお菓子配布中、
「……あれは」
 夜光桜とのお喋りが一段落した時、エースは会場をにらむ色白の肌に色鮮やかな着物を羽織った美女を発見した。そして、紳士の務めに忠実なエースは女性の元に急いだ。

「何か騒がしいと思って来てみれば、何なのよこれは。どこもかしもイチャイチャと……呪ってやるわ」
 木の陰から毒を吐きながら忌々しそうににらむ女性。嫌なら立ち去れば良いのに全くその気配がない。
 その時、
「一緒にお茶でもいかが、素敵なお嬢さん」
 エースの軽やかな誘い文句が女性の毒々しい言葉を遮った。
「ん、私?」
 いきなりの誘い文句に驚いた女性はエースを確認するなり自分を指さしながら聞き返した。
「どうぞ」
 エースは薔薇を一輪差し出す事で女性の質問に答えた。
「えぇ、ありがとう」
 女性は数秒差し出された薔薇を見つめてから受け取り、エースのエスコートで花見に参加となった。

 エース達の花見スペース。

「まさか人に誘われるとは思わなかったわ」
 女性は貰った薔薇とエースを見比べながら意外そうに言葉を洩らした。
「……人にという事は妖怪なのかい。こんなに美しい妖怪がいたとは思わなかったよ」
 エースは女性の姿をもう一度確認した。確かに普通より色白だが、言われなければ妖怪とは分からないレベルだ。
「お世辞が上手い人もいるもんね」
 女妖怪は褒め言葉に口元を綻ばせた。
 タイミング良くお菓子配布に行っていたエオリアが帰還した。
「戻りました。エース、お客様ですか?」
 見知らぬ女性を発見し、エースに訊ねた。
「そう言えば名乗ってなかったわね。私は橋姫の清奈(きよな)。いつもは橋にいるんだけど、ここに住む友人が心配で来たのよ。前に事件があったでしょ。だから」
 女性は名乗っていない事を思い出し、改めて正体を明かした。
「それでご友人は?」
「無事よ。ネネコ河童の女々と言うんだけど。彼女、結構な酒好きだからしばらくすれば来るはずよ。まぁ、来ても酒好きには付き合えないから声をかけるつもりはないけど」
 清奈は酒好きの友人を思い出しながらエオリアに答えた。
「……そうですか。こちらのお菓子をどうぞ」
 早速、エオリアはお菓子とハーブティーを清奈に振る舞った。
「ありがとう。彼女の顔を見たから帰ろうと思った時、騒がしくて様子を見に来たらイチャイチャと目障りな事をしているじゃない」
 ハーブティーで喉を潤しながら語る口調がどんどん毒々しいものとなり、最後は表情までもが嫉妬と恨みに溢れる夜叉のような形相に変貌していた。
「……人が多いですからね」
 エオリアは、清奈の妖怪的なところには触れず、さらりと流しながらエースの分のお菓子とハーブティーを準備した。
「……そうね。悪いわね、不快な事を言って。私の種族の性質みたいなものだから許してちょうだい」
 清奈は自分の妖怪としての性質に何も言わないエース達に一言謝った。
「いや、不快な思いなんかしていないよ。こんな素敵な女性と時間を共に出来るのだからね」
「そうですよ。素敵な妖怪の女性とお花見をする事が出来てこちらも楽しいですよ」
 エースもエオリアも嫌な顔一つせず、清奈との花見を楽しんでいた。
「ふふふ。こんな素敵な二人の殿方を独占出来るお花見なんて今日はいい日かもしれないわね」
 清奈は優しいエース達に顔を綻ばせた。洩れたのは心の底からの言葉だった。
「お互いにね」
 エースも笑みを浮かべて清奈に答えた。
「好きなだけ食べて下さいね。お茶もお代わりを用意していますので」
 『調理』を持つエオリアは手際よく自分が作った最高に美味しいお菓子を次々とエースと清奈の前に並べていった。
 賑やかな花見が始まった。

 夜、花見会場。

「ミルザム、今日は忙しい中呼び出して悪かったな」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は招待状を送って呼び寄せたミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)に申し訳なさそうに言った。実は今ミルザムは都知事として地球で住民避難や怪物対策に追われており、その活動の際のシャンバラとの話し合いの都合でシャンバラにいて貴重な空き時間をシリウス達に会うのに使ったのだ。
「いえ、気にしないで下さい。こうしてみんなとお花見が出来て嬉しく思っているんですから」
 ミルザムはにこやかだった。ミルザムにとって友と過ごす事は何より頑張る活力になるのだ。
 それならとシリウスも気を取り直し、花見を始める事に決めた。
「そうか。じゃ、まずは飲むか。花見と言えばこれだろ」
 とシリウスが取り出したのは、大瓶に入った自家製のさくらんぼ酒。
「……付き合いますよ」
 ミルザムは笑いながら盃を手に持った。
「もう、シリウスはすぐそれなんですから。飲み過ぎないで下さいよ」
 リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)はシリウスの行動に困ったように笑ってからおつまみの用意を始めた。

 花見を始めて少し。
「……こうして桜をゆっくり眺めて楽しむのは初めてですが、素敵ですわね」
「……そうだな」
「……やっぱり故郷の桜を見ると落ち着きます。日本の桜も綺麗ではありますけど」
 酒を飲みながら夜光桜を愛でるリーブラ、シリウス、ミルザム。
「そうか。それなら日本の桜も見てみたいな。もしその時は……」
 ミルザムの言葉にシリウスはちょっとした事が頭に浮かぶも察したミルザムによって言葉は遮られた。
「分かっています。案内しますよ。そして今日みたいにお酒を飲みましょう」
 そう言ってミルザムは友と過ごす時間を心底楽しんでいる笑顔を浮かべた。
「さすが、ミルザム。分かってるじゃねぇか」
 シリウスは声を弾ませ、自分とミルザムの盃に酒を注いだ。
「もう、そればかりなんですから」
 呆れるのはリーブラばかり。
「……今回は何も無く終わるといいですわね」
 ふとリーブラは一抹の不安を口にした。
「だな。主宰者があいつらだからな。まぁ、何があってもこれだけ人がいたら何とかなるだろ」
 リーブラと同じく何も起こらないという事は一切考えていなかったりする。それでも呑気に花見を楽しんでいる辺り随分双子に慣れさせられたようだ。
 この後すぐ狐火童の事を知らされるも隣の花見客と騒ぐ事に心を傾けた。

「……これが夜光桜なのね。こんな不思議なお花見は初めてね。賑やかすぎる場所は苦手だけどせっかくだからお酒でも飲んで楽しもうかしら」
 奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)は夜光桜を楽しみに来た他の参加者達で混雑する会場を見渡した。賑やかなのは苦手だがたまにはいいかもしれないと。ただしお酒の力は必要だが。
「みんな楽しそうだし。たまにはあたしもお酒飲んじゃうよ! 今日は花より団子なんて言わせないからね!」
 雲入 弥狐(くもいり・みこ)は賑やかな様子に心が躍っていた。あまり飲まない酒も飲みたい気分になるぐらいに。
「あそこで何かお菓子を売っているみたいだけど」
 西村 鈴(にしむら・りん)がリース達の店を発見し、指し示した。
「お菓子? 本当だ、ちょっと買って来るね」
 大好きなお菓子の存在に気付いた弥狐は猛スピードで買いに行ってしまった。甘い誘惑には勝てないようだ。
 弥狐が戻って来てすぐ狐火童の事を知るもそれほど気にせず花見を始めた。

「苺ソースがかかっているクレープとお花の形をしたチョコがあるクレープに水面に落ちる桜の花を表現した和菓子だよ。どれもお花見にぴったりでしょ。このジュースも美味しいし次はお酒も飲むよ!」
 弥狐は買って来た二種類のクレープや創作和菓子を次々と口に放り込み、リース作の飲み物もあっという間に飲み干してしまう。それから甘酒に手を伸ばした。
「花見酒なんて贅沢ねぇ。いつもよりお酒がすすむよ。今日は止まらないよ」
 鈴は沙夢が持って来た日本酒を飲んでいく。
「飲み過ぎは体に悪いからほどほどにね。弥狐?」
 沙夢は鈴の止まらぬ様子に注意してから弥狐の様子を確認。
「……ん〜」
 甘酒を飲んでいた弥狐は先ほどとは打って変わってとても大人しかった。
「大人しくなったわね。あれは……」
 弥狐の確認を終えた沙夢は自分の楽しみに戻ろうとしたが、夜光桜から視線を感じ目を向けた途端動きが止まった。
「ん、どうしたの? 三本足の烏?」
 鈴が沙夢が何かを見ている事に気付き、視線の先を辿ると妙な烏が止まっていた。
「八咫烏よ。天と地と人を表す三本の足を持つ導きの神様」
 沙夢はこちらを見つめる烏の正体を明かした。
「……それはまた凄いのが来たのね。確かに普通の烏とは別格の雰囲気があるね」
 鈴は改めて八咫烏を見た。
「えぇ、八咫烏のような人になれたらいいと思うけど、なかなか難しいわね」
「そんな事より、沙夢、飲もう。弥狐はすっかり楽しんでるし、遅れを取るわけにはいかないよ」
 酒に夢中の鈴は沙夢の真面目な話しを流して現実に引き戻した。
 隣では
「ん〜、次は梅酒」
 弥狐が大人しく酒を飲んでいた。ただし飲むのは甘い酒。
「……よろしかったら、お一つどうですか?」
 リーブラがチェリージャムを載せたクラッカーやかパンを持って現れた。たまたま沙夢の隣に陣取り、折角の花見だからと声をかけたのだ。
「美味しそうね。せっかくだから頂くわ。ありがとう」
 沙夢はクラッカーを一つ貰った。

「それはまた美味しそうなお酒ね」
 鈴はシリウス達が飲むさくらんぼ酒に興味を持った。
「あぁ、さくらんぼ酒だ。花を見ながら実を味わう、ってのもなかなか風流だろ」
 シリウスがニヤリと笑いながら答えた。
「さくらんぼ酒ね、チェリージャムを載せたクラッカーやパン、本当に桜づくしね」
 鈴はさくらんぼ酒やリーブラが用意したおつまみに目を走らせながら思わず笑った。
「……飲むか?」
 酒瓶を傾かせ、注ぐ気満々のシリウス。
「当然。花見にはお酒、定番よ」
 鈴も盃を差し出し、飲む気満々。

「……今日は気持ちの良いお酒ね」
「そうですわね。夜に光りながら咲く桜というのもシャンバラらしくて……綺麗ですわよね。毎年、こんな風に賑やかに季節を楽しめればいいですわね」
 沙夢とリーブラはのんびりと夜光桜を楽しみながら会話していた。
「そうね。でも実際はそう上手くはいかないものなのよね」
「えぇ、本当に」
 しみじみと話す沙夢とリーブラ。
 そこに
「お菓子とジュース貰うね」
 弥狐がチェリージュースとクラッカーやパンに手を伸ばし、賑やかな花見の途中である事を沙夢とリーブラに知らせるのだった。

 賑やかに酒盛りをしている三人の所に
「あたいも混ぜてくれないか?」
 プロポーション抜群の女河童が現れた。
「……河童か」
「おう、ネネコ河童の女々(めめ)さ」
 シリウスの言葉に女々は豊満な胸を叩き豪快に笑いながら名乗った。
「そのお酒は?」
「あたいが作ったお気に入りの酒さ。仲間に入れて貰うのに手ぶらじゃまずいだろ?」
 訊ねる鈴に女々はにやりと唇の端を吊り上げながら言った。
「……妖怪のお酒ですか」
「なかなかうまいよ」
 妖怪の物である事を気にするミルザムに酒瓶を掲げながら言った。
「そう言われたら飲みたくなるな」
「私も」
「……危険な物は入っていませんよね」
 女々の言葉でそれぞれ酒に興味を持つシリウス、鈴、ミルザム。
「……危ない物は一切入ってないさ。まぁ、一口」
 女々は詳しい事など説明せず、さっさと三人の盃に注いでいった。

 見た目は普通に透明。
「……せっかくの花見だしな」
「見た目も匂いも普通みたいだしね」
 シリウスと鈴は見た目と匂いを確認した後、一気に飲み干した。
「…………」
 ミルザムは二人の飲んでいる様子を見て無事を確認してから恐る恐る一口飲んだ。

「……さっぱりしてなかなか美味しいな」
 とシリウス。
「いくらでも飲めるよ。もう一口貰える?」
 と鈴。
「……美味しいです」
 ミルザムは残りを全部飲み干した。
 いくらでも飲めるほどさっぱりした口当たりで癖になる酒だった。アルコール度数は高いが、それさえも自覚出来ないほどの美味しさ。
「好きなだけ飲みなよ。あたいはあんた達が持って来た酒を飲ませて貰えればいいさ」
 女々はさくらんぼ酒に興味を持ち、ちらりとそちらに視線を向けた。
「いいぜ。ほら」
 シリウスは酒のお礼とばかりに並々と注いだ。
「私達が持って来た物もいいよ」
 鈴は自分達が持参した日本酒を持って来た。
「なかなか美味しいな」
 女々はシリウスや鈴に貰った酒を飲み干し、満足そうだった。
「まさか河童と酒を飲み交わすとは思わなかったぜ」
 シリウスは飲みっぷりがいい女々の様子を見ながら思わず笑ってしまった。
「あたい、人は嫌いじゃないけど人の方があたいがいたら悪い事が起きるとか言うんだ。実はここで騒ぎが起きた時は相撲の助っ人で呼ばれていなかったんだよ。あたい、こう見えても強いからね」
 女々は酒を飲みながら軽く身の上を話し始めた。人に避けられているという言葉を口にする時少しだけ寂しさが滲んでいたり。
「……悪い事が起きる、か。そんなもん、考え方次第だろ。気にするなって」
 シリウスは女々の盃に酒を注ぎながら励ました。
「今は不思議な桜の下で美味しいお酒を飲むという事で」
 そう言って鈴は女々の酒を煽った。
「これから起きる悪い事と言うと飲み過ぎで明日が辛いぐらいですよ」
 ミルザムは軽く笑いながら女々の酒を飲んだ。
「あんた達、面白いねぇ。ほら、もっと飲みな」
 女々は大笑いしてから鈴に注いで貰った酒を飲み干し、三人の盃に自分が持って来た酒を注ぎ、三人と一匹の酒盛りは大変賑やかだった。