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空京通勤列車無差別テロ事件!

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空京通勤列車無差別テロ事件!

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【ルカルカ・ルー】

「中央車両付近で、少し問題があったようだ。確認に行くぞ。ルカルカ、蓮華、一緒に来い」
「はい、団長」
 ルカと蓮華は金団長からの指示を受けて、車内移動を開始した。
 アキラ達は、この場に残していくことになったわ。あまり大人数で一斉に動いたりすると、下級悪魔にこちらの存在が知られるかも知れないからね。
 それにしても、さっきから感覚が何だかおかしいな。
 金団長に教えて頂いたんだけど、ルカの視界が空京メタTVとかいう放送局の映像に使われてるんだって。
 一体どうすればそんなことが出来るのか知らないんだけど、金団長や馬場さんの視界もルカと同じように、映像抽出電波にリンクしてるらしいの。
 自分の見ている光景がそのまま画像として使われるのって、凄い不思議な感じよね……。
 それから、もうひとつ。
 実はちょっと前に、馬場さんから極秘中の極秘だっていう小料理を頂いたの。
 何でもこの小料理は、他の女性の……それも、性的な恥辱感が発生している女性の精神と、自分の精神が一時的にオーバーラップしてリンクするっていう特別な効果を発揮するものなんだって。
 つまり、この小料理の効果が持続している間は、下級悪魔の痴漢行為を受けている他の女性の感覚が、ルカの体にも直接伝わってくるから、敵の居場所が何となく分かるようになるって訳。
 ただ、ルカの精神にも色々影響が出るから、そこんとこは気を付けなきゃいけないって馬場さんもいってたけど……一体、どんな影響なんだろう?
 まぁとにかくそんな訳で、視界はTVの電波にジャックされてるし、感覚は他の女性とリンクしたりと、かなりややこしいことになってるから、いつものルカとは、ちょっと違うって感じかな。
 隣を行く蓮華が不思議そうにルカの顔を見てるんだけど、こればっかりは、説明しても分かって貰えないだろうな。
「あ……ルカルカさん?」
 途中、聞き覚えのある声に呼び止められたから、誰だろうと思って振り向いたら……あらやだ、このひと達も囮役やってたんだ。
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)、そしてエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の御両名。
 ふたりとも、れっきとした男性の筈、なんだけど……何これ? すっごい綺麗じゃない。
 外見性別を変化させてる訳じゃないから、ただの女装の筈なんだけど、そこらの女子高生なんかよりも、よっぽど可愛いし、堂に入ってる。
 エースがメイド服で、エオリアがお嬢様風のワンピース。
 ふたりできゃっきゃうふふな会話をしてたから、声をかけられるまで、エースとエオリアだってことに全然気づかなかったわ……何かしら、この敗北感。
 後でじっくりと、メイクとか衣装とかの情報を教えて貰わないといけないわね。
 でも流石に、金団長の美しさにはふたりとも、超ビックリしてる。
「こ、これは……団長閣下。お話には聞いてましたが、これ程とは……」
「今は、その呼称では呼ぶな。囮捜査中なのだからな」
 金団長の言葉に、エースとエオリアはすっかり恐縮して、背筋をぴんと伸ばしてる。こういうところは、相変わらずよね。
「何か、あったのでしょうか? もしかして、もう悪魔達が……」
 エオリアが問いかけると、金団長は女性としての美貌に少しだけ、困惑の表情を浮かべた。
「いや……まだそれも、はっきりとは分かっておらん。ただ、中央車両付近で何かが起きたらしいのでな。確認しに行こうとしていただけだ」
 中央車両はもう一両後ろだから、ここから先はルカか蓮華が見に行っても良いんだけど……。
 って、ルカがそんなことを考えてたら、いきなり横の、何もないスペースから、やっぱり同じく聞き覚えのある声が囁きかけてきた。
「わざわざ見に行く必要もねぇぜ。俺がさっき、一部始終見てきたからな」
 ルカが慌ててその方向に視線を走らせると、何もない空間なんだけど、そこに明らかに、誰かの気配が。
 あ、分かった。これ、光学迷彩だ。
 でもって、光学迷彩で姿を消してるひとの正体は、声でもう分かってる。強盗 ヘル(ごうとう・へる)だね。
「何かあったの?」
「まぁ、あったっちゃあ、あったわな」
 金団長と蓮華、それにエースとエオリアも興味深そうに、姿を消したままのヘルの声に耳を傾ける。
 んで、ヘルの報告内容なんだけど……何だか、聞いてて気分が悪くなってきちゃった。
 何でも、変熊さんが男性としての大事なアレを失う、悲惨な事故があったんだって。しかもそれには、ダリルが微妙に絡んでるっていうから、ルカとしては、すっごく微妙な気分。
「悪魔共とは直接の関係はねぇから、団長閣下がわざわざ足を伸ばす必要はないと思う」
「成る程、確かに無駄に時間を食うだけだったな」
 金団長もヘルの言葉に納得し、その時点で、中央車両への移動は取りやめになった。
 ただその時、いきなり車内放送が……。
『お客様にお願いします。無賃乗車はおやめください』
 ダリル……いきなり、何をいい出してんのかしら。
「無チン乗車ってか。ダリルも冗談きついな」
 ちょっと、ヘル。誰がうまいことをいえっていったのよ。
 でも、変熊さんにはちょっと、同情しちゃうかな……女でいえば、顔を傷つけられるようなもの、なのかも知れないね。

 それにしても、作戦は始まったばかりだからなのかも知れないけど、悪魔達はまだ全然それらしい動きを見せないわね。
「痴漢が出るのは恐らく、次の空大西キャンパス前駅に停車してから、じゃないでしょうか。あの駅で大勢、乗客が乗り込んできますから、痴漢にしてみれば、最も動き易い環境が出来る筈です」
 声をかけてきたのは……うわぁ、このひとまで女装してたの? しかも、綺麗だし。
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)か。協力に感謝する」
 金団長がわざわざお言葉をかけて下さったので、ザカコさんも少し緊張してるみたい。
 協力してくれるのは教導団としても嬉しい限りなんだけど……ただ、エースにしてもエオリアにしても、それにザカコさんにしてもそうなんだけど、ちょっと痴漢の食いつきが悪そうな感じだなぁ。
 あのね、綺麗なことは、綺麗なんだよ、それは間違いないんだけど……ただ、三人とも背が高過ぎるのよ。
 痴漢っていうのは、自分には力で逆らえない弱い女性を狙うのが常道だからね、いかにも屈強な体格の女性ってのは、そうそう狙われないんじゃないかなぁ。
 そういう意味では、肉体外見を女性化させた金団長の選択は、正解なのよね。だからこそ、ルカや蓮華も油断出来ないんだけど……。
 はっきりいって、女装してる三人は身長が180センチ前後あるから、余程の物好きじゃない限り、痴漢もそうそう寄ってこない、と思う。
 折角綺麗に女装してるのに、何だか凄く、勿体ないなぁ。
 でも、黙ってても何の足しにもならないから、ルカが正直にそのことを指摘すると、三人とも、しまった、って顔して、途方に暮れちゃった。
 うん、まぁ……協力してくれるのは本当にありがたいんだけど、そのままじゃ多分結果が出せないだろうからね、いうべきことはやっぱり、いっておかないとね。
「そういうことなら……俺は大丈夫、かな」
 蒼空学園の制服を着た、12歳ぐらいの女の子が話しかけてきた。
 あれ? 誰だっけ? ルカ、この女の子と知り合いだっけ? っていうか、本当に女の子かな? う〜ん、ちょっと微妙なんだけど……。
「あ、ごめん。俺だよ、俺。匿名 某(とくな・なにがし)だよ」
 名乗りを受けて、ルカはちょっとびっくりしちゃったよ。
 うひゃー、本当だ。よくよく見たら、某じゃないの。
 聞けば、【タイムコントロール】で若返って、男女どちらでも通用する外観で勝負してきたっぽい。
 確かにこれなら、女の子で通用するかも。
 少なくとも、エース、エオリア、それにザカコさん達よりかは、狙われ易いのは間違いないかもね。ただ、ちょっと若過ぎるかな、って気がしないでもない。
「だ、大丈夫だっ! きっと痴漢の中には、小学生趣味の奴だって居る筈だっ」
 随分力説してる某だけど、うん、まぁ、そういう年代の子を専門にしてる痴漢も居るには居るかな。
 勿論、今回テロを仕掛けてくる悪魔達の中に、居るかどうかは別問題だけど。
 ところでさ……さっきから微妙に気になってるんだけど、普通に座席に陣取って、お茶をぷはーって飲んでるのはフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)さん、だよね?
 何ていうか、全然囮役って感じじゃないんだけど。もしかして、そもそも囮役じゃなかったりする?
 すぐ近くで吊革につかまってるのは、フィーアのパートナーの……えぇっと、思い出せない、確か作戦名簿に載ってた……あぁそうそう、森 長可(もり・ながよし)さんね。
 こっちも別段、囮役って感じじゃなさそう。このふたり、何でこの特別仕様列車に乗ってるんだろう?
 まぁ、別に作戦の邪魔になりさえしなければ、それで良いんだけどね。
 なんて簡単に思ったのが、そもそも間違いだった。
 この長可ってひと、急に暴れ出したよ!
 いきなり槍を振るって、何考えてんのよ!?
「いかん……ルカルカ、蓮華、あの者を取り押さえよ」
 金団長の指示を受けるまでもなく、ルカと蓮華、それにエースにエオリア、ザカコさん、それにヘルも、一斉に暴れ出した長可を取り押さえにかかった。
 流石にこれだけの人数のコントラクターを相手に廻したら、幾ら槍を持ってようが何しようが、無力化するにはあまり時間がかからなかった。
「ちょっとあなた、一体何考えてんのよ!」
 他の乗客達が驚きおののいて、遠巻きに眺める中、蓮華が取り押さえた長可に怒鳴りつけた。
 すると長可は……。
「いちいち誰が悪魔とか面倒臭く、男なら誰でもよかった。反省も後悔も、する必要はないと思っている」
 みたいな意味の台詞を放ったものだから、もう呆れるしかないっていうか、何ていうか。
 結局、彼女の監視はエースとザカコさんに任せることにしたんだけど、そういやパートナーのフィーア、長可がこんなことになってるのに、まだ呑気にお茶なんて飲んでる。
 このふたり、一体どうなってるのかしら。

「女装の囮だとか、いきなり暴れ出す女だとか、一体どうなってんだろうね、この電車……」
 某が、幼い顔つきでこんな台詞を口にしてるけど、いや、君も同じようなものだからね。
 自分だけ違うとか、思わないように。
 いやでも、悪魔と遭遇する前から、何だかすっごく疲れた気分ね……こんなので今日一日、持つかしら?
「つーかまーえたー♪」
 不意に、同じ車両の優先座席付近で、聞き覚えのある声が。
 あれは……セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
 っていうことは、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も、すぐ近くに居るのかしら。うぅん、そんなことはどうでも良いわ。
 今はセレンフィリティが痴漢と遭遇したっぽい事実に、意識を集中すべきよね。
 ルカはすぐに、蓮華やスティンガーと一緒にセレンフィリティの声がした方に向けて、車内の人ごみを押し分けながら急ぎ足で向かっていった。
 後ろから、金団長も急ぎ気味に追いかけてくる。
 先にルカと蓮華、スティンガーが問題の箇所に到着すると、珍しく普通の服装に身を包んでいるセレンフィリティが、中年親父の右腕をねじり上げて、さぁこれからフルボッコにしてやるぞってな勢いで拳を振り上げているところだった。
 それを、スティンガーが慌てて制止する。
「ちょっと待った。そのおっさん、どうやらコントラクターではない、普通の一般市民のようだ。全力での攻撃は拙い」
「えー、何いってんのよ。痴漢なんかに人権はないのよ。このままボコってやるのが常道ってものよ」
 あのね、それは流石に拙いわ。
 いくら犯罪者とはいっても、相手は非コントラクターの一般人。それに対してコントラクターが全力で攻撃を振るったら、完全に過剰防衛だし、逮捕には不必要な攻撃であるとして、法にも抵触しちゃうわ。
 第一、そんなことで一般人を半殺しにしちゃったら、教導団の立場が拙くなるじゃない。そしたら、金団長の顔に泥を塗ることにもなっちゃうのよ。
「そこまでだ、セレンフィリティ。我らの本来の目的以外のところでの不要な暴力行為は、職権の域を超える。任務は遊びではないのだ。慎むように」
 最初、セレンフィリティは女体化している金団長が誰なのか、分からなかったみたい。
 でもすぐに金団長だと気づいて、慌てて姿勢を正した。
 難を逃れてその場から逃げようとしている例の中年はというと、セレアナがすかさず取り押さえて、身柄を拘束した。
「調子に乗って、逃げようだなんて甘い考えは捨てた方が良いわよ」
 いつもより随分と冷たい響きのする声に、ルカはちょっと背筋が冷えた気分。
 恋人のセレンフィリティに対して痴漢行為を働いたんだから、そりゃ内心じゃあ、はらわたが煮えくり返っているかも知れないね。
 でも、セレアナはセレンフィリティよりは自制が利くタイプだから、嬉しそうにボコってやろうなんて考えは起こさない。
 やっぱりこのふたり、良いコンビだよね。
 金団長も、セレンフィリティとセレアナに対して改めて、痴漢逮捕について今後の指示を出している。
 その時、突然ルカの意識が半分、飛びそうになった。
 一体、何が起きたんだろう?
 よく分からないけど、ルカの視界が、いつの間にか誰か別の視界と入れ替わってるような感じがした。
 もしかして、これが……馬場さんの小料理の効果?
 他の女性の精神とリンクした、んだと思う、多分。ってことは今、ルカが見ている視界の主は、下級悪魔の痴漢行為に遭ってるってことになるわ!
「あ……いや……」
 視界の主が小声で、抵抗する仕草を見せた。
 声の主は……このひとは、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)さんだ!
 ただでさえ凄く胸が大きいのに、薄手の半袖ブラウスにショートパンツ姿ときたら、そりゃ痴漢も放ってはおかないわね。
 小夜子さんは、凄く恥ずかしそうに全身をもじもじさせながら、後ろから伸びてくるいやらしい手の動きに、必死に耐えてる……ほんのり上気した頬が、余計に色っぽいわ。
 っていうか、呑気に実況してる場合じゃないわね。
 痴漢の右手が小夜子さんの豊満で柔らかな胸を、慣れた手つきで揉みしだいている一方で、左手が……あ、拙いわ、ショートパンツの内側にするっと滑り込んで、一番大切なところに……。


 あら?
 一体、何?
 急に視界が……。