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血星石は藍へ還る

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血星石は藍へ還る

リアクション

【1】


『白銀の月よ、伝えて。
 「ひとときでもいい 夢の中で私を思い出して。
 愛しているものが ここにいることを 忘れないで」』





 赤い海の中を黒い影が横切る。
 その咽が震える度、唇が開く度、歌が溢れ響き渡った。
「――素晴らしい。
 水中でこれ程真っ直ぐな音を伝達出来るなんて!!」
 アクリルの壁に張り付いて見つめた先には、少女とも魚とも鳥ともつかない形の『生き物』が培養液を泳いでいる。彼女が液体に指先をつけた途端、細い足を尾に変えた。あの瞬間生まれた愉悦は亡失したはずの絶頂で男の頭を麻痺させている。
「水中の尾、陸上の足、空中の翼。
 まさに我が故郷の最高の科学者達が作り上げた生物兵器に相応しい芸術的な姿。

 そして今、私は私の最高傑作『Blutstein(血星石)』によって君を究極の存在へ昇華した!

 ああ、その完全なる美を、歌をもっと聞かせておくれ。
 私の究極のセイレーン――
 パルテノペー」
 恍惚に顔面の皮膚を歪める男の耳には少女の歌が伝える言葉は決して届かない。
 心無い歌に隠された真実に目が向く事は無いだろう。
 だからこそ――否、少女にとってこの男は『道端の石ころ』と同等の存在で、どうだっていいのだ。問題だったのは落ちていた場所が路肩で無く、道のど真ん中だったというだけで、路傍の石に興味等持てない。

 ただ今は月光に導いて欲しい。
 伝え届けたい、愛するものたちへのこの歌を。
 





『月光よ、照らし出して。

 「私はここで待っています」 と』