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古城変死伝説に終止符を

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古城変死伝説に終止符を

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 古城。

「うわぁ、実験室から出ていた煙とか火事とか消火されてる」
 オルナは解決に向かいつつある自宅にほっとしていた。
「……オルナ、後で迷惑を掛けた町の人達にも謝罪しに行くのよ。私も付き添うから」
 オルナと違ってササカは事後処理に頭を痛めていた。
「……分かってるって」
 ササカの痛い言葉にオルナは小さく返事をしていた。
 その間、陽一は薬を受け取りに向かった。ダリルから薬は外にいるブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)に預けていると言われたので仲間の肉体の守護をしているブリジットの元へ急いだ。

「もしかして幽体離脱クッキーかい?」
 陽一はブリジットの所に着くなり、中身がお出かけ中の肉体に目を向けた。あまりにも馴染みのある様子だ。陽一もヴァイシャリーで開催された親睦会でウルバス老夫妻の探し物の手伝い時に体験した事がある。
「そうです。幽霊相手にはこちらも幽霊の方が速やかに事が進みますので。これが幽霊浄化薬です」
 ブリジットは答えながら霧吹きが何本も入ったディバックを手渡した。
「あぁ、ありがとう。それと悪いけど二人の事を頼むよ」
 陽一はディバックを背負いながらブリジットにオルナ達を任せ、漆黒の翼を使い空から町へと急いだ。
「お任せ下さい」
 ブリジットは陽一の頼みを引き受け、事件解決までオルナ達に外に待機するように指示をした。

 町。

「さてと」
 陽一は町に戻るなり特戦隊達に霧吹きを配り、幽霊浄化を開始して貰う。当然、陽一も霧吹きを使って出会う幽霊達を穏やかな表情に変えて消し去っていった。
「……建物も確認しないといけないな」
 幽霊がいるのは外だけではない。陽一は丁寧に建物の中も確認して発見次第薬を噴射して片付けて行く。
 一通り終われば、抜かりがないか何度も町を巡回していく。
「……いないか。ようやく浄化完了だ」
 何度目かの巡回終了後、幽霊達を一掃した事を確認した。
 失敗薬の処理が早かったためか手に負える範囲内に収まったようだ。
 陽一は避難していた者達に安全になった事を知らせてから古城に向かい、町の方は解決した事を知らせた。報告だけならわざわざ古城に行く必要は無いのだが、陽一は魔法使いさんの事が知りたかった。魔法使いさんが度々関わっている正体不明の魔術師なのか、もしそうならリリトから何か手掛かりを得たのかどうかを。

 古城。

「……すごいわね。あれだけ掃除したのにまたこの有様というのは」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は呆れていた。幽霊騒ぎを差し引いても城内の様子は綺麗とは言い難い。
「しかも今回は幽霊付きってオルナもツイてないわね」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は肩をすくめた。
「セレン、それでどうするの? 前みたいに派手に片付けるつもり?」
 セレアナは前回同様爆発を含んだ片付けをするのか幽霊の相手をするのかと訊ねた。
「今回は幽霊の方を何とかするわよ。言葉で友好的に話しかけて大人しくして貰うわ」
 セレンフィリティは“壊し屋セレン”の呼び名としては相応しくない事を言い出した。
「……つまり銃で語り合うわけじゃないのね」
 まさかの回答に驚くセレアナ。銃をぶっ放して幽霊退治かと思っていたので。
「何、驚いてるのよ。ほら、行くわよ」
 セレンフィリティは心外だと少しだけ不機嫌な顔をするも仕事を果たすべく一歩を踏み出した。
「……失言を口からこぼさなければいいんだけど」
 セレアナは少々の心配を抱えながらセレンフィリティに続いた。

 前住人の会話による説得を試みて早速一人目に出会った。
「あれはクラーナみたいね。せっかくだから力を貸して貰うわよ」
 セレンフィリティはぼんやりと物思いに耽るクラーナを発見した。
「そうね。同じ住人なら交渉もし易いでしょうし」
 セレアナも賛成した。交渉がスムーズに行けば、セレンフィリティの口から失言が洩れる可能性も低くなる。
「クラーナ!」
 セレンフィリティは辿り着く前に声で引き留めようと呼びかけた。
「……そうだ……あの時は……夜で……」
 クラーナはセレンフィリティの声が聞こえていないのかぶつぶつと何事かをつぶやいていた。
「事態解決のため力を貸して欲しいのだけど」
 セレアナがクラーナの元に到着してすぐに改めて協力を頼んだ。
「……えぇ、もちろん」
 今度は聞こえたのかクラーナは我に返りセレンフィリティ達に答えた。
「様子がおかしかったけど、何かを思い出したのね?」
 セレアナがほんの少しだけぼんやりしているクラーナに訊ねた。
「……どうやって自分がこうなったのか考えていたら何かぼんやりと、今までそんな事考えもしなかったのに」
 クラーナは素直に答えた。
「……そう、今まで無かった事、ね。それはきっと良い方向に向かっている証拠よ」
 セレアナはクラーナを励ました。頭の中では侵入前に聞いた以前眠るリリトに出会った者達の話を思い出していた。何か影響を与えているのかもしれないと。
「そうそう。これだけ人がいるんだから何とかならないはずは無いわよ。ほら、あたし達もやる事やるわよ」
 セレンフィリティもざっくりながらも励ましてからさっさと歩き始めた。セレアナとクラーナも急いで続いた。
 セレンフィリティ達はクラーナの力を得て前住人達の説得に勤しむ事に。
 その最初の相手はクラーナの夫だった。
 遭遇するなり、オランドは転がる紙類に火を付けたり、怪しげな魔法薬を投げつけてくる。
「攻撃はやめて、私達は話し合いをしに来たのよ」
 セレアナは火を魔法薬もろとも『氷術』で凍らし消火した。
「ちょっと、この人に見覚えないの!? 自分の奥さんが分からないほど頭までもうろくしたわけ!?」
 セレンフィリティが苛立ちが見え隠れする声を上げる。
「セレン、それは言い過ぎ、怒らせてしまうわよ」
 セレアナは頭まで云々と余計な事を言ったセレンフィリティに呆れていた。
 案の定、オランドは怒り、さらなる攻撃を仕掛けようとする。
「オランド! 私よ。クラーナよ!」
 クラーナが何とか止めようとセレンフィリティ達の前に立ち塞がった。
「…………」
 オランドはじっとクラーナを見ていたかと思ったらすっと姿を消し、どこかへ去った。
「……オランド」
 クラーナは心痛な顔で消え去った夫の名前をつぶやいた。
「すぐに元に戻るわよ」
「セレンの言う通りよ。貯蔵庫に行った人が上手く説得して解決しくれるはず」
 セレンフィリティとセレアナはクラーナを励ました。
「ありがとう。そうねきっとみんなが何とかしてくれるはずよね」
クラーナは顔を上げ、表情を明るくした。
 この後、セレンフィリティ達とクラーナは前住人の説得に戻った。

 次に遭遇したのは、荒れ狂う女性だった。交渉を持ちかけただけで攻撃を受けてしまうセレンフィリティ達。
「こっちが生きているだけで攻撃仕掛けて来るって本当に厄介ね」
 『行動予測』で飛んで来る物を上手に避けて飛ばしてくると思われる物を『サイコキネシス』で遠くへ飛ばし攻撃が来ないようにするセレンフィリティ。
「ここで亡くなっている以上、他者に対してかなりの不信感を抱いているのよ」
 『女王の加護』で察知し対応するセレアナ。
「大丈夫? あの二人があなたの力になりたいと言っているんだけど」
 クラーナがセレンフィリティ達の間に入り、女性に言葉を掛ける。
「……みんなのために……料理作って……パーティーの前日……」
 同じ幽霊であるクラーナの声は届いたのか女性は攻撃をやめて苦しそうに支離滅裂な事を口にした。
「それで何が不満なの?」
 セレンフィリティが解決の糸口をと訊ねるが、
「明かりが消えて……痛くて……あぁぁ」
 女性はセレンフィリティに答える事なく苦しそうにうなるばかり。
 この後、クラーナが何度話しかけても答えなかった。
 その様子に大雑把なセレンフィリティはとうとう我慢出来ず
「……それでどうして欲しいの? パーティーをして欲しいとか? それ以外にして欲しい事は無いの? さすがにパーティーは無……」
 セレンフィリティは何とか要求を引き出そうとする。しかもセレアナが危惧していた失言までしようとする。無理、出来ない、という単語を。人に不信感を抱いている相手に対して拒否の言葉はまずい。
「私達が出来るのは明かりを用意する事だけだわ」
 失言の予感を察したセレアナがセレンフィリティの気持ちを穏当な言葉に変換して『光術』で光球を生み出した。
「……」
 女性はじっと光球を大人しく見ていた。
「……これで料理は出来るでしょう?」
「……」
 セレアナの言葉に答える様子は無いが、とりあえず満足したのか大人しくなった。
「満足したみたいね。さぁ、次行くわよ」
 セレンフィリティは解決を確認するなりセレアナとクラーナを急かして次へと向かった。途中、ウルバス老夫妻とミエットに遭遇した者達に出会った。