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リアクション
ユニコーンの護衛1
「……いつ来るか分からないというのは少し大変だね」
昶から情報がもたらされた次の日。粛正の魔女が予告した日。エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はユニコーンに寄り添いながらそう言う。
「シュトラール、もし君の前で血を見せるようなことになったら謝るよ。できるだけそうしないように気をつけるけどね」
自分たちではなく敵対者のちを流すこと。それでもユニコーンであるラセン・シュトラールは厭うだろう。
「さて、周りの警戒に行ってくるよ」
ひと通りユニコーンに伝えたいことを言ったエースはそう言ってユニコーンの住処を出る。
「しかし、軍隊のような格好と動きの襲撃者か。野盗の時のように利用されてるだけってことはないだろうね」
前村長からの情報や昶の情報からエースはそう結論を出す。
「なんとか捕まえて関係性とかを聞き出したいところだね」
そう思いながらエースはスキルを駆使したあたりの警戒に従事した。
「あなたもやっぱり心配?」
エースの出て行った後。入れ替わるようにして入ってきたリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は腕の中にいるケットシーのチャトランにそう聞く。
「……大丈夫よ。あなたもシュトラールも私達が守るから」
腕の中から腕を伸ばすようにするチャトランにリリアはそう言う。
「エレスももし異変を感じたら伝えてね」
ユニコーンの側に佇むリリアの愛馬、ペガサスのエレスにそうお願いする。
「……シュトラールもこの子たちをお願いね」
動物というのは殺気などそういったものに敏感だ。あたりに漂う雰囲気にはエレスもチャトランも不安になっているだろう。
「それじゃ、私も警戒に行ってくるわ」
本当は離れたくないが、そうも言っていられない。
「聖獣ユニコーンを狙うなんて許さないわよ。いかなる理由があろうとも万死に値するのよそんな愚行は」
この手で襲撃者を懲らしめないと気が済まないリリアだった。
「一応ワイヤー式警戒システムは張り巡らせたが……もし相手が高度な軍事訓練を受けていたら厳しいか」
警戒システムを確認しながら源 鉄心(みなもと・てっしん)はそう呟く。
「やっぱり自分の目で確認しながら……だな」
警戒システムに頼りきりならず自分の目で確認すると鉄心は決める。幸いにも村の端に位置するここは遮蔽物となるものは少ない。狙撃ポイントとなるところもないため、接近自体に気づくのは難しくないはずだ。
「しかし、相手は20人ほどだという話だが……その程度でこの防衛網を抜けると思っているんだろうか」
この場に集った契約者は20には届かないがそれに近い人数がいる。歴戦の強者も多く、ちょっとやそっとでは破れないだろう。
「……よほど腕に自信があるのか、それともまだ隠しダネがあるのか」
わざわざ契約者が多く集まっていた時に襲撃を予告してきたことにも疑問がある。
「……どっちにしてもやることは変わらないか」
ラセンを守る。背景に何があろうとそれは変わらない。
「まさかこんなにも早くあのスイカの価値に気づかれるなんて驚きですわ」
ユニコーンの側にてイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)はそう言う。
「……えーっと、イコナちゃん?」
イコナと同じようにユニコーンの傍にいるティー・ティー(てぃー・てぃー)は苦笑い気味にイコナに何を言っているのか聞く。
「きっと、わたくしがスイカのお守りをお願いしたからラセンさんも狙われてしまったのですわ……」
イコナの結論:粛正の魔女は食いしん坊
「……ラセンさん。今回のこと、気にする必要はありませんからね」
とりあえずイコナの発言を流すことにしたティーはラセンにそう話しかける。
「確かに今ここに集まっている契約者の人たちはあなたを守るために集まっています。でもそれを迷惑をかけたなんて思わないでください」
そう言ってティーはラセンの頭を撫でる。
「あなたは何も悪いことをしていないんですから。だから守らせてください。私達に。あなたを。理不尽から」
それをみな望んでいるのだからとティーは言う。
「ラセンさんは人と一緒に歩みたいと言ってくれました。……それは、私達も一緒なんです」
寄り添っていきたいと。
「私もイコナちゃんもここでラセンさんを守り続けます。もし夜になっても寝ないで護衛し続けますから安心してください」
「むにゃむにゃ……大きいスイカですの」
いつの間にか床に転がり寝言を言っているイコナ。幸せそうな顔だ。
「…………大丈夫です。イコナちゃんは寝ぼけている方が強いと巷で噂が……」
全力でフォローするティーだった。
「……邪魔だから殺す、随分と勝手な話ね」
ユニコーンの住処周辺で他の契約者同様、警戒する奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)は今回の襲撃についてそう思う。
「襲撃ってただ事じゃない、ってことだよね。……護るよ、私も」
沙夢の傍に立つ雲入 弥狐(くもいり・みこ)はそう言う。二人共今回の襲撃について思うところがあるらしい。
「弥孤。今回はサポート優先で行くわよ」
「うん。無茶はしないように……だね」
今回は以前のように二人きりではない。サポート。それが出来る状況でこそ二人は真価を発揮する。
「……来たよ!」
超感覚で襲撃者の存在を感知した弥孤はそう叫ぶ。その声に(あるいはその前から)襲撃に気づいた契約者たちは身構える。
「……やはり、警戒システムには引っかからなかったか」
それなり以上に訓練を受けている相手らしいと鉄心は思う。しかし、奇襲を受けたわけではないので結果としては問題ない。
「サポートするよ!」
迎撃に当たり始める契約者たちを援護するように弥孤は毒虫の群れで毒バチを襲撃者たちに向ける。
「ふん……」
蜂を前に襲撃者の一人は合図をして機晶エネルギーを消費して強く光るものを地面に投げ込む。
「あ、あれ?」
その影響が毒蜂たちは弥孤の影響下を離れてあちこちに霧散する。
「だったら……!」
弥孤はその身を蝕む妄執を発動させ、襲撃者の一人を幻覚のもとに放る――
「すまんな嬢ちゃん。そういうのは効かないんだ」
――はずだった。
「弥孤! 下がって!」
異変を察知した沙夢はそう言って弥孤を下がらせ、弓を構える。
(邪悪な存在ならこれで……!)
弓に聖なる力を込めて沙夢は射る。
(当たった。けど……)
聖なる力とともに勢い良く敵に向かった矢。だが、そのインパクトの瞬間、込められていたはずの聖なる力が極端に弱くなるのを沙夢は見ていた。
(…………もしかして、彼らは契約者の力を無効化する力を持っているの?)
毒虫の群れへの対処は単なるあちらの知識だろうが、弥孤のその身を蝕む妄執や沙夢の破邪の刃を弱めたのはそうとしか思えない。
(……もう少し確認しないといけないわね)
仮にもしそうだとしたら戦略を立て直さないといけないだろう。
「でも……私たちだって、あの頃より強くなってるわ」
敵の力がどうであれ、この場にいる契約者の力を合わせて負ける気はしなかった。
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