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【冥府の糸】記憶都市の脱出劇

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【冥府の糸】記憶都市の脱出劇

リアクション

「これで片付いたか」
 羽純は最後の敵を切り伏せると、肺に溜まった空気を深く吐きだした。
 尋問した所、彼らがデットリーパー――《冥府の門番》と呼ばれる存在を崇拝し、生と死を超えた新しい世界を作ろうとしていることがわかった。
「生と死を超えたか……」
 彼ら組織の目的はわかった。だが、犯人の組織の現状やこの魔法陣での目的はわからないままだ。
「せめて読んでいた本がわかれば……」
「『封印術式』だけでは何だかわかりませんね」
 優梨子は玲亜が辛うじて読んだタイトルの一部を伝えた。だが、それだけでは範囲が広すぎる。
「せめて写真でも撮ってあれば……」
「あるわよ」
 突然、扉から顔を覗かせた玲亜がそう答えた。
「表紙だけだけど手伝わされている間、わたげうさぎ型HCで撮影してたの」
 集まってきた歌菜達に玲亜が見せた画像には、確かに犯人が燃やした本の表紙が映っていた。
「これなら脱出した後に検索でもすれば引っかかるかもしれないね」
「ああ、ん? 吹雪はどこいった?」
 玄関ホールを見渡しても吹雪の姿が見当たらない。
「そういえば戦闘中も見なかったな」
「羽純くん、あれ見て!」
 歌菜が声をあげて指さしたその先、玄関ホールを出たところの道に足跡が大量についたダンボールが忽然と放置されていた。
「もしかして一人で追いかけたのか?」
 羽純の予想通り吹雪は犯人を追いかけていた。
「待つであります!」
 仲間が戦っている間に、踏みつぶされながらも段ボールを被って研究所を抜け出した吹雪。
 今は目の前を走る犯人を追い掛けていた。
「しつこい奴め!」
「なんのであります!」
 犯人が放った炎を段ボールで防ぐと、それを捨てて新たな段ボールを被り直す。
「甘いであります! これは復両面段ボールとって、片面やただの両面とは強度が違うのであります!」
「知るか!」
 再び攻撃を受けるが、吹雪は同じように段ボールで凌いだ。
「いくつ持ってやがる!?」
「乙女の秘密というやつであります☆」


 そんな犯人との攻防が行われている頃、都市郊外では生徒たちが白い魔法使いから話を聞いていた。
「では《冥府の門》というのは、その《冥府の門番》が開こうとしているナラカへの扉というわけですか」
 話を聞いたロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)が確認するように内容を繰り返した。
「あんた達スロトルオ族はそいつが復活しないようにこの時間軸で封印の魔術。つまり呪われた都市ごと沈めることにしたんだな」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の言葉に魔法使いが首肯する。
「なるほど。俺の調べた内容に《冥府の門》とかいう単語が出てきたのにも納得がいった」
「それならマスター、帰ったらドゥルムさんに話を聞きに行ってみましょうか」
「時間があればそうしよう」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は嬉しそうなベルクに微笑む。ベルクは調べた内容が役に立ったことを嬉しそうにしていた。
 そんな二人の横でティー・ティー(てぃー・てぃー)は心配そうにしながら源 鉄心(みなもと・てっしん)に問いかけていた。
「ということは、私が地底湖で聞いた水竜さんの『鍵を閉じよ』は《冥府の門》のことでしょうか」
「おそらくは外れかけた封印をし直して欲しいとのことだったんだろう」
 話では呪われた都市は三つあるらしい。この荒野と前回の地底湖。それと名前も聞いたことのない都市が一つ。
「仮に場所がわかったとしても問題は封印を施せるのがスロトルオ族だということだ」
「ドゥルムさん自分の力もわかってない感じでしたから、きっと封印の方法もわからないと思います」
「せめてこの場に来ていればな……」
 今後の問題を考え、頭を悩ませる鉄心。すると、その袖をイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が引っ張ってきた。
「どうしたイコナ?」
「ドゥルムさんならあそこにいますわ」
「……は?」
 イコナが指さす眼下の街で、暴走した影から逃げる少女の姿を見つけた。白いフードコートを身につけ、首からは魔法使いと同じスロトルオ族の首飾りをつけている。距離があるため判断が厳しいが、おそらくドゥルム本人だと予想される。
「なんでこんな所に」
「どうしますの鉄心?」
「どうするって、助けるしかないだろう」
 魔法使いの手を離れた影はスロトルオ族であるドゥルムと魔法使いを狙っているだった。
 生徒達は二人を守るように動き出す。
「ポチ、私達が援護している間に彼女を!」
「任務了解です、ご主人様」
 フレンディスの指示を受けて忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)はビグの助の背に乗り、颯爽とドゥルムの元へと駆け付ける。
「さぁ、何をしているんですか!? 特別に乗せてやるですよ!」
 戸惑いながらもドゥルムが乗ったのを確認すると、自身の腰を掴ませ急いで来た道を戻りだした。すると、急にポチの助が笑い出す。
「フ、フフフ……端末が使えず一時はどうなる事かと思いましたが、さすが超優秀なハイテク忍犬な僕! こんな状況でも遺憾なく戦闘犬力の実力を発揮しています!」
「ほとんど戦闘には参加してないけどな」
「な!?」
 並列飛行していたベルクの鋭いツッコミに開いた口がふさがらない。事実他の仲間に比べると撃退数とか交戦数は少ない。けど、そこは多大な貢献をしているはず(?)ということにしたい気持ちのポチの助。
「で、でもそこまで言うのなら、この僕の素晴らしい戦闘力を見せてやらないこともないのです」
 そう言うとポチの助は懐からボンバーワンを取り出し、前方の敵に向けて投げつけた。
 しかし、進行方向に投げつけたため、彼らはすぐに追いついてしまう。
「あ――」
 微妙に横へずれたボンバーワンがベルクの目の前に流れてくる。ベルクは咄嗟に上へと蹴り飛ばし、頭上で火花が飛びとった。
「あっぶねぇ」
「け、計算通りなのです。最初からエロ吸血鬼を――」
「てめぇ「あ――」とか言ってただろうがっ! いいから移動に集中してろ!」
「うぅ……」
 耳と尻尾を垂れてしょげるポチの助はドゥルムに頭を撫でられていた。
 ポチの助の【グラビティコントロール】でビグの助は難なく街を取り囲む壁を昇りきり、ドゥルムを無事魔法使いの元へと送り届ける。
「あ、あの……」
 ドゥルムが自分の先祖に対して何を言おうか悩んでいると、魔法使いはそっと首飾りに触れ宝石が淡く光り出した。


 その頃、時見 のるん(ときみ・のるん)は街の図書館に来ていた。
 魔法研究所と違い、一般の本なども多く保管された館内。
「この街の歴史がわかれば何かわかるかもしれない」
 パートナーであるアレン・オルブライト(あれん・おるぶらいと)のその一言から彼らは他の生徒達とは別行動をとることにしていた。
「あ、なんか光った」
 二階で周辺部族に関する書籍を探していたのるんは、窓から街の外に緑色の光を目撃する。それは魔法使いがドゥルムの首飾りに触れた時のものだ。
「ねぇねぇ、今なんか街の外で光ったよ? もしかして例の魔法使いかな?」
 のるんは吹き抜けのホールに向かって話しかける。
 すると、一階で街の歴史について調べていたアレンが顔を出してきた。
「たぶん間違いないだろう」
「じゃあ後で話を聞いてみようね」
「そうだな」
 返答を終えて調べものに戻ろうとするアレン。しかし、すぐに呼び止められ、足を止めることになる。
「それで何かわかった?」
「うん。まぁ、この都市が交易の中継地点になってたという所か。大規模な魔導書の処分場とかそういう記述はないな。そっちはどう?」
「まだスロトルオ族に関する書籍は見つからないよ〜」
 結構な時間捜索を行っているが、あまり有益な情報は得られていない状況だった。
 そこへ、研究所からやってきた犯人が訪れる。
「すいません。少々尋ねたいんだけど地図はどこにあるかな?」
「え、地図ならあっちの方だよ」
「ありがとう!」
 人懐っこい笑みを浮かべて尋ねてくる犯人に思わず回答してしまったのるん。
 地図が置いてある棚に移動する犯人を見送り、のるんとアレンは仲間の中にいたかと首を傾げた。
 本棚を漁っていた犯人は一冊の本に挟まっていた紙を食い入るように見つめる。
「これで辿りつける……ん?」
 不意に視線の隅に――段ボール。不自然なくらいに光差し込む吹き抜けのホールに置かれている。
 それがゆっくりと近づいてきた。
 顔を向けると動きを止め、まるでだるまさんが転んだの状態だ。
「本当にしつこい奴だ」
 犯人は長剣を掴むと、一跳躍に距離を詰め振り下ろす。刃は段ボールを切り裂き真っ二つにした。中から現れたのは切り裂かれた吹雪の顔――ではなく、紙一重で攻撃をかわした鳥人型ギフトだった。
「もらったであります!」
「舐めた真似を!」
 回り込んでいた吹雪が背後から襲いかかる。瞬時に反応して見せた犯人は降りかかる切っ先を止めるが、吹雪の狙いはそこではなかった。
 吹雪は蹴りを入れて本を吹き飛ばす。
「何を見ていたか確認するであります!」
「アレン、お願い!」
「わかった」
 吹雪が犯人を足止めしている間に、アレンは落ちた本を拾い上げる。
「『大陸旅行記』?」
 タイトルに疑問を持ちながら表紙を捲り挟まっていた四つ折りの紙を開くと、それはこの時代の街の名前が記した地図だった。
 犯人の狙いがわからいまま、どうにか記録に残そうとした、その時。
「くぅ……」
 今までに一番強烈な頭痛と視界の歪みを感じ、アレンの意識は遠ざかる。

 気を失っていた生徒達が目を覚ました時、彼らは荒野のど真ん中に放り出されていた。
 そこは魔法陣が描かれていた場所であり、周囲には行方不明だった業者とドゥルムの姿もあった。しかし、犯人――ミッツ・レアナンドの姿はなく、代わりに藁人形の式神が落ちていた。
「……やっぱり連絡とれない」
 歌菜はミッツとの連絡を試みたが応答はなかった。不安は大きくなる。
「うわっ、なんですかこの恰好は!?」
 東 朱鷺(あずま・とき)はいつの間にか可愛らしい魔法少女衣装になっていたことに驚いた。思い出そうとすると、微かに黒歴史が蘇る。
 皆が無事の生還を喜ぶ中、朱鷺は黙って瞑想を始めた。
「帰還をお喜びの所申し訳ないが、状況を説明していただけるかね」
 突然、生徒達に向かって、教導団の制服を着た初老の男性が話しかけてきた。
 彼の他にも制服を着た数名が生徒達を取り囲むようにして立っていた。魔法陣から出てくるのを待っていたようである。
 初老の男性はドゥルムの無事を確認すると、心底ほっとしたような表情をしていた。
「我々は以前から《冥府の番人》について調査を進めてきました。この度、彼らを崇拝する者達による妨害があったとのことで急遽駆けつけた次第です」
 男性が話すには《冥府の番人》の封印にドゥルムが必要だと判断し、積荷と一緒に護送してもらっていたという。しかし、魔法陣に取り込まれ、仲間の護衛は命を落とした。
「我々は《冥府の番人》がナラカから再び現世を目指す者達の集合体だということを突き止めました。これを放置すればいずれは世界のバランスが崩れ大変な事態を起こすことでしょう。その前に何としても止めねばなりません」
 まるで演説でもするかのように、最後の都市を封印しなくてはならないと男性は話を閉めくくった。
 そこで、生徒達は各々が持ち帰った情報を交換し合う。
 犯人が調べていたのはスロトルオ族の封印術と古い地図だった。
「おそらく都市の封印を解くためだろう」
 魔法使いから聞いた三つ目の都市。
「名前はわかっても場所がわからないな」
「あ、それならわかるかもしれません」
 すると優梨子は、住宅を撮影している時に写りこんだ地図の写真を見せてきた。そこには確かに魔法使いから聞かされた都市の名前が書かれていた。
「ここが最後の都市ですか。後は封印の方法がわかれば……」
「それなら大丈夫。あの人が教えたから」
 ドゥルムはまた暖かさの残る首飾りにそっと触れた。一族の使命を知ったドゥルムは、ただ一人の生き残りとして誓いを口にする。
「話を聞かされ、教会を出た時を誓いました。自分にしかできないならやってみせようって。皆を守って見せるって、そう決めたんです」
 そんなドゥルムに周囲はあまり気張り過ぎないようにと声をかけていた。
 それでも、一人の少女の手に世界という巨大な重荷が背負わされたことは変わらない。

「ところで、護衛の御駄賃のほうは……」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)はおずおずと男性に尋ねる。
 すると封筒が差し出され、中には数枚の小銭と物資破損などで差し引かれた明細表が入っていた。


(完)

担当マスターより

▼担当マスター

虎@雪

▼マスターコメント

 この度はご参加いただきありがとうございました。
 リアクション製作を担当させていただきました、虎@雪(とらっとゆき)です。

 初めに完成が遅くなりまして申し訳ありません。
 次からは期限に間に合うように努力したいと思います。

 いつものことながら素直な感想が聞ければと思います。

 機会がありましたら、またどうぞよろしくお願いいたします。
 ありがとございました。


▼マスター個別コメント