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リアクション
元野盗
「コーヒーもらえますか?」
ウエルカムホーム内にある店ネコミナス。そのカウンターに座ったミナホ・リリィ(みなほ・りりぃ)はマスターである奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)にそう言う。
「この時間にくるのは珍しいわね」
そう言いながら沙夢はコーヒーを炒れていく。
「実は今から三日後まで休暇もらってるんですよ」
「結構長い休みね」
コトンとコーヒーをミナホの前に起き沙夢は言う。
「湯るりなす関係の仕事がやっと終わったんです」
「……もしかして今まで休みもらってなかったの?」
「うーんと……最後に休みもらったのは湯るりなすの計画が始まる前ですから……」
それ以後だと初めてとミナホは言う。
「まぁ、簡単に休めないってのは分かるわ。私も店を空ける訳にはいかないもの」
契約者として村外で活動するときなど臨時で休業するけどと沙夢。
「その辺も考えないといけませんね」
沙夢の炒れるコーヒーは美味しいと村で評判だ。適当にバイトを雇って沙夢のいない間任せるとはいかないだろう。
「考えると言えば村長。この店をJAZZ喫茶にしたいんだけど大丈夫かしら」
「その話なら瑛菜さんからも聞いていますよ。宿泊部屋からもそれなりに離れていますしよほど大きな音でなければ問題ありません」
「ならそうさせてもらうわ」
話が一段落しミナホはコーヒーを飲む。
「あ、村長いらっしゃい」
コーヒーを飲んでいるミナホに、接客を終えた雲入 弥狐(くもいり・みこ)がやってくる。
「弥孤さん。お疲れ様です。精がでますね」
「うん。沙夢に頑張ったらケーキ貰う約束なんだ」
沙夢を見るとつまみ食いをされるくらいならねと苦笑いをする。
「弥孤さんは何かお店のことで提案とかありませんか?」
「そうだね……ゴブリンとかコボルトを店に呼ぶことはできないかな?」
客として迎えいれないかと弥孤は言う。
「現状それは難しいですね」
「やっぱり村の人怖がっちゃうかな?」
「はい」
弥孤にミナホははっきりと言う。
「それで弥孤さん。どうして村の人達が怖がるか分かりますか?」
そのうえでミナホは続ける。
「……自分よりも強いから?」
「そうですね。そしてもうひとつ大きな理由があります」
「……意志疎通ができないことね」
横で話を聞いていた沙夢が答える。
「たとえ相手が自分より強くても、自分に対する害意がないとはっきりと分かれば怖がることはありません。……まぁ、常識的な範囲内での話ですが」
だからとミナホ。
「彼らと意思疎通が出来る方法を模索していきましょう。たとえしゃべることは出来なくても亜人種である彼らとなら不可能ではないはずです。……私も彼らが祭、ミュージックフェスティバルにどんな形でか参加して欲しいと思っていますから」
難しくはある。けれどそれを目指す価値はあると。
「……村長って、意外にいろいろ考えてるんだね」
「あはは……まぁ、いつまでも何もできないでいるわけにはいかないというか……この間みたいな事件の時に何も出来ない分は」
村長としての役割を果たしたいとミナホは言う。
「事件の時役に立たないってことはないんじゃない?」
どういう理由かは分からないけどユニコーンの力を使えるんだからと沙夢。
「うーん……それなんですけど、事件の時に役立つか微妙というか、正直契約者の方一人いれば私いらないんですよね」
「どうして? 便利そうだけど」
ミナホの言葉に弥孤は首を傾げる。
「よく分からないんですけど、私はユニコーンの力を垂れ流しにしているだけで、効率で言ったら契約者の方のヒールの方がよっぽどいいんです」
それにとミナホ。
「粛正の魔女対策も私がユニコーンの力使うより、狙われた対象に契約者の方が補助魔法かけた方が早いですから」
役に立てないことが残念な風にミナホは言う。
「力と技術はセットだものね。村長は貴重な力はあるけどそれを扱う技術がない。……こういうのを宝の持ち腐れというのかしら」
「……はい。まったくもってその通りです」
はぁとため息をつくミナホ。
「でも、どうして村長はユニコーンの力を使えたのかな? 理由は分かってるの?」
弥孤の疑問。
「全然わかってないです。……もしかしたら私が10年ほど前からの記憶がないことが関係しているかもしれませんけど」
「村長、記憶喪失だったの?」
「うーん……もしかしたら記憶障害かもしれません。それ以降の記憶も結構抜け落ちてる部分があるんで」
「よく村長職が務まるわね……というか、結構あっさり言ったけど」
「村に長く住んでいる人はだいたい知っていますから、隠すことでもないですし。仕事関係は全部書類にまとめてますから。あった人にこの人誰だっけとなったこともないので」
少なくとも村長になってから仕事関係で記憶を失った覚えはないとミナホは言う。
「……村に来る契約者とこの情報は共有しても大丈夫かしら?」
ミナホになぜあんな力があるのか参考になるかもしれないからと沙夢は聞く。
「大丈夫ですよ」
とくに悩んだ様子も見せずミナホはあっさり頷いた。
「エリー、やっぱり帰ろう?」
ネコミナスの店の少し外。ミナホに気づかれない位置でアテナ・リネア(あてな・りねあ)は一緒についてきたエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)にそう言う。
「うゅ……いいの?」
アゾートから紙をもらい事情を聞いたアテナは、やっぱりちゃんと会って聞いたほうがいいとエリシュカとともにミナホを探していた。
「……うん。大丈夫だよ」
そう言ってアテナは踵を返しウエルカムホームから出る。
(やっぱりミナホちゃんは……ううん、違うよね……?)
そんなはずないとアテナは自分の疑問に首を振った。
「ニルミナス……話には聞いてたけど、けっこう発展してきてるじゃない」
村の南側の入口。そこから見える景色にリネン・エルフト(りねん・えるふと)はそう感想を言う。
「発展ねぇ……まぁ村としちゃね。活気があるほうかな」
リネンの感想にヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)はそう返す。
「じゃあ別れて軽く回ってみましょ。何かあったら連絡お願い」
「ん、分かったわ。ヘイリーはどうする?」
「あたしは防衛団とやらに顔出してみるわ」
事前に仕入れていた情報を元にヘリワードはそう言う。
「じゃ、私は先に宿を取ってくるわ。その後は適当に回るから。また後でね」
そうしてリネンとヘリワードは一旦別れて行動を始めた。
「へぇ、けっこうサマになってるじゃない……腕はともかく」
リネンと別れた後、村のハズレでニルミナス防衛団が訓練をしていると聞いたヘリワードは、その訓練様子を見てそう言う。
(……これなら空賊団として関わる必要はないかな)
村の規模に対しては十分な数と装備が揃っている。今はまだ練度が足りないが、それでも完全な素人というわけではない。
「元野盗……ね」
そのことに思うところがある人はいるだろうが、少なくとも訓練風景を見る限りそう悪人のようには見えない。
「少しいい?」
訓練をある程度眺めたヘリワードは防衛団の一人に声をかける。
「あなた達のリーダーとかいる? 話を聞きたいんだけど」
「リーダーですか?……それが今はいません」
「いないって……留守にしてるとかじゃなくて?」
ヘリワードの言葉に防衛団の男は頷く。
「ニルミナス防衛団は元野盗たちで構成されてるって話だからてっきりその時のボスがそのままリーダーやってると思ってたんだけど」
「それが……ボスは怪我が治ったと思ったら行方不明でして。……うぅ、ていうか、その『ニルミナス防衛団』って村の外にまで広がってるんですか」
微妙な顔をして男は言う。
「ま、ニルミナスの事を調べたら端には出てくる程度には広がってるね。名前、不満なの?」
「いや、悪くない名前だとは思うんですけど、そのまますぎるというか、適当過ぎませんか?」
男は知らない。その名前を考えるのにミナホは寝る間を削って二週間ほど考えたことを。
「そう? 堂々と地名を名乗れるって素晴らしいことよ」
胸を張るべきだとヘリワードは言う。
「だから変えるとしたら『ニルミナス』の部分じゃなくて『防衛団』の方じゃない? 警衛団とか」
「いいかもしれませんね。……ところであなたは?」
結構話してから今更なことを男は聞く。
「『シャーウッドの森』空賊団の団長やってるヘリワードよ。この村の防衛力が少し気になってね」
「団長……もしよければ訓練の指導お願い出来ませんか? まとめ役がいなくて訓練もあんまり図っどっていなくて」
以前、契約者の人たちに訓練してもらった時の効率よりだいぶ下がっていると男は言う。
「そういうことなら」
自分の目的を考えてもちょうどいいとヘリワードは快諾した。
「ふん……まぁ、俺がいなくてもある程度は大丈夫か」
ヘリワードがニルミナス防衛団を訓練している様子を影から観察する人間が一人。先ほど話に上がった元野盗のボス、ユーグという男だ。
(……後は、村人との軋轢をどうにかすればあいつらはこの村で上手くやっていけるだろう)
野盗たちは改心したと村人たちには認識されている。けれど、それでも野盗達のやったことに対して何も思わないというのは難しい。
「あなた、何をしているの?」
その場を立ち去ろうとしたユーグに声がかかる。ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)のパートナーで旅が好きなアーミア・アルメインス(あーみあ・あるめいんす)だ。
「いや……訓練風景が珍しかったから見てただけだ」
ユーグは適当にそう返す。
「そうなの? その割には変な顔してたけど」
「……変って、どんな顔だよ」
「難しそうで、優しそうで……寂しそうな顔」
その表情が気になったからつい声をかけてしまったとアーミア。
「気のせいだろ」
そっけなくユーグはそう返す。
「ふーん……ね、あなたこの村の人?」
「……一応はそうなるのか?」
自分の今の立場を考えてユーグはそう返す。胸を張ってニルミナスの村人とは言えないが、この村を拠点に動いているのは確かだった。
「暇ならこの村を案内してくれない? 半年くらいまえに一度この村に来たんだけど、いろいろ変わってるみたいだし」
そういう変化を楽しむのも旅の醍醐味だとアーミアは言う。
「半年前からだと……契約者の拠点『ウエルカムホーム』が出来たのと温泉施設『湯るりなす』が出来たのが大きな変化だな」
他にも細々とした施設ができたりしているが大きなところだとそうだとユーグ。
「それじゃ、そこを中心にお願いできるかな?」
「……まぁ、あいつらがここにいるなら大丈夫か」
ため息を付いてユーグは言う。
「……嫌だった?」
「いいや、そうでもないさ。美人に絡まれるのはそう嫌な気分じゃない」
「む……もしかして口説かれてる?」
少しだけ警戒した様子でアーミアは言う。
「口説いていいなら口説くが……一応手を出していい女と悪い女の区別くらいはつく」
「そっか。なら安心。よろしくね」
「はいはいよろしく」
適当にそう返しユーグはアーミアを案内していった。
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