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第七章 現在・双子の相手


 現在から数年後。

 イルミンスールの町中にある賑やかな工房。

「二人共、元気? 遊びに来たよ!」
「お昼もまだだと思って差し入れを持って来たよ!」
 すっかり美女に成長した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)高原 瀬蓮(たかはら・せれん)がお弁当片手に工房に入って来た。

「ちょうど、良かったぜ」
「すっかり空腹で死にそうだったんだ」
 現れたのは工房の主であるヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)キスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)。こちらもまた青年であった。
「瀬蓮ちゃんと一緒に作ったお弁当だよ」
「食べてみて」
 美羽と瀬蓮は持参した弁当を広げた。瀬蓮が作ったおかずは美羽の指導のたまものか昔より美味しく見える。
「なかなかいける」
「ようやく落ち着いたぜ」
 双子は空腹だったためあっという間に弁当を平らげた。
 そんな時、
「この箱には何が入っているの?」
 瀬蓮が妙な箱を見つけ、双子に訊ねた。美羽も興味を惹かれ見に行った。
「それが作った物さ。開けていいぜ」
 ヒスミが瀬蓮を促した。
 瀬蓮が箱を開けると
「うわぁ、美羽ちゃん、可愛いチョコがたくさん入ってるよ」
 可愛らしい形をしたチョコが迎えた。
「ウサギに星に花に熊に可愛いのがいろいろあるね。これが発明?」
 チョコを確認した美羽は双子に訊ねた。
「ふふん、中に秘密があるんだよ!」
「食べてみろよ。調整はきちんとしてあるから問題ねぇぞ!」
 双子は意味深な事しか言わず、食べるように促す。
「……ゴクリ」
「美羽ちゃん?」
 意を決した美羽はリボン型のチョコを口に放り込んだ。瀬蓮は心配そうに見守っている。
 チョコを咀嚼した美羽の表情が
「んんん、美味しいよ!! それに今なら魔物を万まで蹴り倒せそうなほどやる気が湧いてる!」
 至福とやる気に満ちたものに変化した。
「……大丈夫?」
 美羽の変わりように心配する瀬蓮。
「大丈夫だよ。身体には何も異常は無いよ。それよりどうして?」
 美羽は笑顔で瀬蓮に無事を伝えてから双子にからくりを訊ねた。
「この中にはヒラニプラで入手し工夫した溶ける機械を入れたんだ」
「食べた人の精神に作用してやる気を起こさせるんだ」
 双子はチョコを真っ二つに割り、いくつもの歯車が取り付けられた小さな機械を見せた。
「へぇ、面白いね。見た目も可愛いし甘いし……凄いよ!!」
「美羽ちゃんと瀬蓮の大好きなものが詰まってるもんね」
 可愛い物や甘い物が大好きな美羽と瀬蓮は双子の発明を大絶賛した。
「よかったら少し持って帰っていいぜ」
「弁当のお返しって事でさ」
 双子はチヤホヤされすっかり嬉しくなっていた。
「ありがとう! 瀬蓮ちゃん、どれにする?」
「どれにしようかなぁ。どれも可愛くて迷っちゃうね」
 美羽と瀬蓮はどれをお持ち帰りしようかと迷っていた。双子はその姿を満足そうに眺めていた。

■■■

 薬の話を聞きつけやって来た美羽は被験者にはならずに暗い未来に苦しむ双子の様子を見ていた。前に双子が催した花見に参加した事はあるが、直接双子に接触するのは今回が初めて。
「……何か可哀想」
 椅子に縛り付けられ、心なしか悲しそうな顔をしている双子に哀れに思う美羽。
 そこで美羽は双子に明るい未来を見て貰おうとピンクの薬を手にした。
「体験中に別の薬を吹き掛けたらどうなるか分からないみたいだけど。同時に吸った人もいるし。きっと大丈夫だよね」
 薬を手にした時にアゾートに言われた言葉に少しだけためらうが他の被験者の事を思い出し、美羽はピンクの薬を双子に向かって噴射した。

 薬噴射後。
「……何か楽しそうな顔をしてる。きっと素敵な未来を見てるんだね」
 美羽は双子の表情が心なしか幸せなものに変化した事に喜んだ。
 しかしこの後、双子は最初に体験していた悪夢の未来に戻ってしまった。