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 現在から数年後。
 平和なシャンバラ。

 ペガサスなどの巨大生物が育てられている遊牧場。

「……という事なんだけど。分からない所はある?」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)はペガサスを撫でながら後輩達を育成するべく頑張っていた。
「大丈夫でーす」
「リネン先輩って空賊王だったんですよね。復帰としかしないんですかぁ。リネン先輩がペガサスを駆って戦っている凛々しいお姿を見たいです」
 後輩である二人の少女はリネンに憧れの眼差しを向けていた。
「残念だけど、今はもう空賊は必要無いから復帰はしないわ。それより質問は無いの?」
 リネンは後輩の質問をさらりと答え、指導の方に戻った。
「無いですよ。リネン先輩の指導は完璧だし、それに元空賊王なんて格好いいです!」
 後輩は憧れの眼差しでリネンを見つめるばかり。
「……今日はここまでね」
 リネンは熱烈な眼差しに指導を続けても今日は身が入らないだろうと判断し、ここまでにした。

 後輩達が去った後。
「……はぁ、空賊王か。あれから本当に平和になったわね」
 リネンは空を仰いだ。現在世界平和により空賊団を平和的に解散し、タシガン空峡の空賊王として『天空騎士』と畏れられたのもすっかり過去の話で今は遊牧場の経営者。

 リネンが物思いに耽っていた時、
「リネンママ!!」
 自分を呼ぶ元気な少女の声が近付いて来た。
「……ん?」
 リネンは我に返り、視線を前方に向けると黒髪の幼い少女とフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)がこちらに駆けて来た。
「お疲れ、リネン。この子がどうしてもペガサスに乗るって聞かなくて」
 フリューネは仕事を終えたリネンを労うと共に子供の我が儘に少しだけ困り顔になっていた。フリューネもまた世界平和に伴い義賊を引退していた。
「だめ?」
 子供は上目遣いにリネンにおねだり。
「遠くに行かないって約束するならいいわよ」
 リネンは子供の可愛いさに顔をゆるめて許してしまう。
「はーい!」
 子供は元気に返事としてお気に入りのペガサスの元へ行き、あっという間にペガサスを駆って空へ。リネン達の指導により幼いながらも立派なペガサス乗りなのだ。
「……なんか感慨深いわね、フリューネ」
「そうね。私達の子供が私達のペガサスの子供に乗ってるんだものね」
 リネンとフリューネは空を駆る子供の姿に感慨深くなっていた。何せ自分達の子供が乗っているペガサスもまた二人のペガサスの子孫だから。
「えぇ。こんな平和な……フリューネと結婚して幸せな毎日を送れるなんて思わなかった。ずっと叶わないと思ってたから」
 リネンは恋が実り幸せ過ぎる生活を今送っている事に心の底から嬉しく思っていた。
「……気持ちを決めるまでかなり待たせてしまったわね。その間、リネンは急かすような事はしなくて私に素敵な時間をくれた」
 フリューネは申し訳なさそうに昔の事を振り返った。これまで共に過ごした時間、気持ちを決めると言ったものの遅くなった返事に結婚、世界が平和になると共に子供が生まれた事を次々と思い出していた。
「それはフリューネと楽しく過ごす事が私にとって一番だったから」
 リネンは返事が貰えるまでフリューネを急かす事無く待っていると言い続けていた。何よりもフリューネと過ごす事が一番だったから。
「……だから今度は私がリネンに素敵な時間をあげたいなって」
 フリューネは幸せそうな笑みをリネンに向けた。
「それはもうとっくに貰ってるわ」
 リネンはそう答え、子供に優しい眼差しを向けた。
「リネンママ、フリューネママ!!」
 子供は自分の勇姿を見て貰おうと空からリネン達に手を振る。
「遠くに行かないのよ」
 リネンは声を張り、子供に約束させた事を思い出させる。
 子供は分かっていると答え、空を飛び回っている。
「あの姿、リネンにそっくりね」
 フリューネは空を駆る子供の姿にリネンの姿を重ねる。
「しかもフリューネに似て美人だからあの子が大人になった時悩むわね」
 リネンはフリューネにそっくりの美人ぶりに心配する。
 そんなフリューネとリネンは顔を見合わせ
「リネンったら」
「フリューネだって」
 自分達の親馬鹿ぶりに笑った。

■■■

 覚醒後。
「……フリューネと結婚かぁ」
 リネンはまだ幸せ過ぎる未来の余韻に浸っていた。これまでにも未来を体験した事はあるがそのどれもが酷いものだったから余韻に浸るのも仕方が無いのだ。



 現在から数年後。

「何かこういうの久しぶりだな。準備はこれでいいよな」
 うきうきの那由他 行人(なゆた・ゆきと)は通りを歩いていた。突如、身なりが気になり立ち止まった。
「……長い旅も終わってようやく戻って来た日常だもんな。恥ずかしい格好なんか出来ないからな」
 行人は念入りに格好を確認した。

 その時、
「……あの頃とは色々変わったよな」
 ふと行人は鏡張りの柱に気付き、成長した自分の姿を写しながら物思いに耽った。
「……大きな事に巻き込まれているって知ってから……努力して旅に出て……見つけて」
 行人は何かに巻き込まれ行方不明となった大切な彼女を捜す長旅に出てようやく見つけ出して数日前に帰還し、現在はこうして彼女とお出かけの約束をしている。
「ってこんな事している場合じゃない。早く行かないと」
 行人は待ち合わせの事を思い出し、駆け出した。
 その途中、行人は幸せな夫婦に遭遇するのだった。

「……すぐに大きくなっちゃうね。寝る子は育つって言うから」
 ベビーカーを押す南條 琴乃(なんじょう・ことの)は優しい眼差しを眠る我が子に向けていた。
「そうだねぇ。もう少し大きくなったら海や山とか色んな所に連れて行って色んな風景をこの子に見せたいね」
 おむつやミルクなどが入っている荷物を持つ南條 託(なんじょう・たく)も愛おしそうに我が子を見ていた。
 南條夫妻は天気が良いため我が子を連れてのんびりと散歩をしていた。
「そうね。その前にお父さん、お母さんと呼ばれるのが最初の楽しみかも」
 琴乃は子供の頬に軽く触れながら顔を緩ませた。
「確かにそうだねぇ。それだけでなくてどっちが先か気になるね」
 託がおもむろに言った。
「きっと、お母さんが先よ。だってこの子可愛いんだもん」
 琴乃はきっと挑むような目を託に向けつつ親馬鹿としか思えぬ理由を発するのだった。
「それはどうかな。もしかしたら僕が先かも」
 託も負けてはいない。親としては最初に呼ばれる栄誉は手にしたいもの。
「……おや、あれは行人かな?
 託は琴乃と親馬鹿な事で張り合っていた時、知った顔がこちらに来るのに気付いた。 
「おーい、行人」
 託は足を止めて、行人が来るのを待った。琴乃も同じく歩みを止めた。
「託にぃ!」
 行人は託達の元に急いで走って来た。ちょうど彼女との待ち合わせ場所に急ぐ途中であった。
「彼女と出かけるのかい?」
 託は慌ただしい行人の様子にもしやと心当たりを訊ねた。
「うん、ようやくね。しかし、びっくりしたよ。長旅から戻った時に二人に子供がいて。えと、名前は何だっけ?」
 行人は託に答えた後、ベビーカーで眠る子供に目を向けた。長旅から戻った数日前の事、その際に子供を抱く琴乃と託が迎えてくれた事を思い出すも子供の名前だけが思い出せない。
「『奏詩(そうた)』だよ。琴を『奏』でるに、『詩』でねぇ」
 託は眠る我が子に目を向けながら名前を教えた。赤毛で茶色の目をした元気な男の子だ。
「奏詩、そうだったね。良い名前だよ。」
 行人はようやく思い出した顔になり、奏詩に目を向けた。
「だろう。それにとても可愛くて……っと行人は待ち合わせがあったね」
 託は行人の言葉に思わず親馬鹿を発揮するも引き止めてしまった事に気付いた。
「そうだった、行かないと! じゃあまたな!」
 行人はすっかり話し込んでしまった事に気付き、慌てて挨拶もそこそこに彼女と待ち合わせ場所に向かった。取り戻した日常を楽しむために。
「行ってらっしゃい。楽しんで来るんだよ」
「気を付けてね」
 託と琴乃は手を振って行人を見送った。
 それから南條夫妻も我が子との散歩に戻った。

■■■

 覚醒後。
「……子供かぁ。行人はどうだった?」
 託は未来の子供、奏詩の寝顔を思い浮かべ頬をわずかに緩めた後、行人に訊ねた。
「明るい未来が体験出来たよ」
 行人は体験した未来をもう一度振り返りながら託に答えた。
「それなら良かった」
 と、託。実は、大切な人が行方不明で不安を抱く行人を元気付けるためと自分のこの先の未来に興味があったため未来体験の誘ったのだ。
「……託にぃ、ありがとうな」
 行人は託に礼を言った。ほんの少しだけ行人にも希望が見えたようであった。