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第2章 〜眺める者〜

「ふむ」
 屋根の上には1人の軍服に身を包んだ痩せこけた男が、タバコを吸いながら地上の様子をみていた。
「あいつだけでは心細いと思って様子を見に来たが、どうやら見当違いだったようだ」
 痩せこけた男は吸っているたばこを屋根の上に落とすと、後ろを振り返る。
 そして痩せこけた男は、いつの間にか立っていた若い男性と男の子に驚いたのだった。

「授業参観か何かかな?」
 男が聞くと、若い男性、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)はゆっくりと口を開いた。
「町の中で暴れるのは貴方達ですか」
「なるほど……それなら俺達で間違いは無いな」
 男は地上を一瞥すると頷いた。
「どうです、悪いことにはしません。町から手を引きませんか?」
「……悪いな、それは出来ない。命令だからな。あんたも依頼か何かで来たんだろ、依頼も頼まれた以上は簡単には断れないそれと同じだ」
 それを聞いた男の子、メイ・アドネラ(めい・あどねら)は「はっ」と嘲笑った。
「おいおい、そのためなら善良な市民が傷つこうと関係無いってことか?」
「……人生は時として残酷だ。心を鬼にしなければいけないこともある」
 どこか遠くを眺めながら離す男に、メイは「うわー本気だ」とつぶやきながら一歩後ろに下がった。

「どうしても……ですか?」
「くどい。私もこれ以上話を聞くほど暇は無いよ?」
 男はゆっくりと腰につけられた鞘から綺麗に反った刀を抜きだした。
 霜月は素早く、刀を取り出した。メイもそれにならい魔銃カルネイジを構えた。
 しばし、静かな時間が流れ、にらみ合いが続く。
 先に斬りかかろうと男が一歩踏み出したときだった。

「どいてくれーっっ!!!」
 不安定な屋根の上にもかかわらず、忍者のように紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が霜月達めがけて走ってくる。
 男と霜月は何事だと、そちらの方をよく目をこらしてみるとさらに数人の影が屋根の上を駆け走り、向かってくるのが見えた。
「まてえええっ!」
「こ、こいつらいつまで追いかけてくるでありますか!?」
 それは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)と、追いかける20人ほどの兵士達だった。
 吹雪は逃げ回りながらも、疾風迅雷による勢いに任せ、男へと体当たりしてしまう。
「なっ――」
「「「あ……」」」
 吹雪の体当たりにより、衝撃を受けた男はそのまま屋根の外、地上へ向けて放り出される。
 霜月や唯斗達は足を止め、思わずその落ちていく男を眺めることしか出来なかった。
「ふっ……待たせたなであります」
「あ、ごまかした」
 立ち上がって額を袖で拭う(降り)をする吹雪に、メイは鋭くツッコミを入れる。
 吹雪は屋根の上からマリア達を追跡しながら状況把握、そしてマリアに危険が近づいてることを知らせるためにコルセアを向かわせたのだが。
 その後、不幸にも屋根の上に居る事がばれてしまい、兵士に追われる目に遭っていたのだった。
 唯斗もその時、たまたま屋根の上を歩いてグロッグ司祭までこっそりと行こうとしていたのを見つかってしまったらしかった。

「一般人だとなんども説明したんだが、あいつらまったく信じてくれないんですよ……」
「一般人は屋根の上を歩きませんから……」
 突然、霜月は呆れながらも唯斗の話を聞いていると、突然背後から殺気を感じとった。
 霜月は背後へと歴戦の武術で一閃を繰り出すと、見事、男の刀をはじき返した。
 吹雪達はその攻撃をしてきた主が、先ほど屋根から落としたはずの男だと気がつき、驚きの声をあげる。
「ま、まさか、不死身でありますか!?」
「ふっ、よみがえるのだよ。何度でも死の淵からな。不死鳥のようにな」
 男は刀を片手に持ち帰ると、もう片手をゆっくりと挙げる。
「あ、これは……避けろ!」
 唯斗はそれが何かの合図であることを察すると、叫んだ。
 吹雪と霜月達にむけて銃弾が何発も飛んでくる。先ほど吹雪達を追いかけていた兵士によるものだった。

「気を取られている場合じゃ無いぞ?」
「わわっ!?」
 男は刀を両手で持ち、メイへ向かって斬りかかる。
 すかさず霜月は刀を構えると、激しい金属音を鳴らし男の刀を防ぐ。
 しかし、はじき返すことは出来ず、刃と刃が重なり鍔競り合いが広げられる。
「ぐうっ!」
「メイには手をだすな!」
 うなり声を上げながら男のは徐々に、霜月へと刃を近づけていく。
 男が霜月に気を取られている間に、ラスターハンドガンと魔銃カルネイジを構えると、男に向けて放つ。
 男は刀を振り下げ、バックステップでそれらを避ける。
「てーっ!!」
 突然兵士達から声があがると、再び銃弾の雨が霜月達へと襲いかかる。
 メイは慌ててよけようとするが、銃弾の多さに足が追いつかない。
「うおおおっ!?」
「大丈夫か?」
 メイは霜月に抱えられ、何とか銃弾が止むまで逃げ切った。

「銃弾装填完了、構え!」
 しかし、霜月達を休ませないように兵士達は再びライフル銃を構える。
「そうはさせませんよ」
 兵士達が振り向いた瞬間そこには、お面をつけた男が居た。
 突然兵士達の背後から、声が聞こえたかと思うと武器凶化された不可視の封斬糸により兵士達の手が血しぶきを上げた。
「ぐっ……うわあああああっ!!」
 獣のような悲鳴を上げて兵士達は屋根の上を転げ回り、地上に落ちる物まで居る。

「なんだと……っ!」
 振り返ったまま驚く男に、吹雪は容赦なく極斬甲を振り下ろし、斬りかかった。
「グランツ教には鉄槌を下すでありますよ!!」
「ふんっ、甘い」
 男は吹雪の一閃を刀で受け流す。
 しかし、そこにほんの一瞬の隙が出来ていることを霜月は逃さなかった。
「隙あり!!」
 霜月の振り上げた刀はみごと男の肩を切り裂き、男の肩から血がにじみ出る。
「くっ、やってくれる……」
 男は肩に手を当て、よろめく。
「まだ、終わりじゃないよー?」
「ぐうっ、動きを封じられたか」
 唯斗は男に隙を与えぬように不可視の封斬糸で体を縛り上げる。
 これで、男は身動きがとれなくなる。
「全員ご無事ですか?」
「なんとかであります」
「まあな。大丈夫だろ。あとはこいつを縛ったままその辺に」
 全員が安堵をついているときだった。突然屋根全体が大きく揺れた。
 それは、霜月達の居る建物に何かが突っ込んだような。

 よろめきながらも男は、不可視の封斬糸をもった唯斗を巻き込み地上へと放り出された。