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DIE1章 彼には死んでもらわないと(出番が増えて)面倒だったんです

 そもそもの始まりは一体何処からだったのだろうか。
 このホテルに来たことか。殺人事件か。霞 千明(かすみ ちあき)に占ってもらったことだろうか。
 それとも、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)が落とし穴に落ちて死んだことだろうか。
 
――話はキロスが落とし穴に落ちた所まで遡る。

「……それにしてもどうしようかしらこれ。そのままにしておくわけにもいかないし」
「けど、これ相当深いよ?」
「そうなのよね。どうしようかしら……」
 夏來 香菜(なつき・かな)ルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)が穴を前にして考えていた。千明はオロオロと慌てているだけである。
 穴は底が見えないほど深い、というわけではない。ちゃんと底も、遠目からでも医者が黙って首を横に振るレベルの有様のキロスも確認できる程度の深さであった。
 しかし穴を降りてキロスを運び出す、とするのは困難な深さなのは間違いない。だが流石にこのまま放置というのも寝覚めが悪い。
 さてどうしたものか、という状況を変えたのは一人の乱入者だった。
「話は聞いてないけど聞かせてもらったわ!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がドアをぶち破る勢いで部屋へ乱入してきたのであった。何処からかキロスの事態を聞いたのだか聞いていないのだか、とにかく何か察したらしく来たという。
 最初は「キロスなんだし酷い目に遭ったっていっても大したことないでしょ」と笑っていたルカルカであったが、穴を覗き込むと「……おぉ……キロス……死んでしまうとは何事だ……」と呟いていた。
 想像以上の有様に驚いたものの、ルカルカは【ダークヴァルキリーの羽】を使い穴からキロスを引き上げた。そこで驚愕の事実が判明した。
「キロス、生きてるわよ」
 何と言う事か。キロスは生きていたのである。医者が黙って首を横に振るレベルの状態であったが確かにまだ生きている。
 だがほとんど無視の息。ウインドウはもう真っ赤。ドット単位の命である。呼びかけても意識がなく、このままでは危険な事は変わりない。
「んー……心臓は動いてるわね。時折止まるけど、大丈夫かな。とりあえず起こすわよー」
 それ大丈夫ちゃう。だがお構いなしにルカルカはキロスの上体を起こし、
「目ぇ覚まさんかい!」
と思いっきり殴った。グーで。
「何時まで寝てるの!? 起きないと額に肉とか米とかの刑よ!? もしくはそこいらの通りすがりの男に目覚めのキスしてもらうわよ!? それが嫌ならとっとと起きろぉッ!」
 キロスの耳元で叫ぶと、ルカルカはビシビシとキロスをぶん殴る。もう鈍い音がしていた。
「そ、その辺にした方が……」と千明は止めようとするが、ルカルカの勢いに恐れをなして強くは言えない。
 ルシアはというと「あの有名な額に肉……ちょっと見てみたい」と何処か期待したような顔をしている。香菜は「実際見ても大したことないわよ」とルシアに呆れた様に言った。いや止めろや。
 そんなこんなで誰も止めず、オラオラとルカルカの拳は止まらない。この状態だときっと止めても無駄無駄無駄ァだっただろうが。
「オラオラオラァッ! ……あるぇ?」
 ぶん殴り続けていたルカルカは、漸くキロスがピクリとも動かない事に気付いた。そして胸に耳を寄せるが、黙って首を横に振った。ほら言わんこっちゃない。
「おおキロス、この程度で死んでしまうとは……」
「いやこの程度って……相当殴ってましたよね、今」
 千明が突っ込むが、聞いちゃいないようだった。
「死んでしまったのはどうしようもないわ。とりあえず今ルカに出来る事は、これくらい」
 そう言ってルカルカは【登山用ザイル】を取り出すとキロスだった物を縛り始める。何故このような行動を取ったかというと、後にルカルカは「万一ゾンビとかなって復活したりしたら嫌だし、縛って冷蔵庫に放り込んでおこうかと思った」と語っていた。
「あ、あの……止めておいた方が……」
 嫌な予感があったのか、千明が止めようとしたが遅かった。
「失礼します! 今お客様がまた被害に遭われたと聞いて……」
 ホテルの警備員達が部屋に飛び込むようにして入ってきたのだ。
 警備員達が目にしたのは、酷い有様のキロスをザイルで縛るルカルカの姿。これが怪しくないわけが無かった。
「か、確保ぉーッ!」
「え、え、え?」
 あっという間にルカルカは警備員達に両脇を抱えられてしまう。
「ちょ、なんでルカが捕らえられてるの!?」
「死体を縛るだなんて怪しすぎる! 騒動が治まるまで大人しくしてもらおうか!」
「は!? ルカ何も悪いことしてないよ!? キロスを起こすつもりがうっかりトドメ刺しただけだよ!?」
 いやそれは悪い事しかしてない。
「拘束させてもらう」
「ちょ、ルカは国軍少佐よ!? 悪い事なんてしないって! ねぇちょ、話聞いてぇー!」
 警備員達は一切聞く耳持たず連行していく。残ったのはルカルカの悲痛な叫びだけであった。