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イルミンスール大図書室、その深層は!?

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イルミンスール大図書室、その深層は!?

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    ★    ★    ★

「まったく、鉄心まで迷子になるとは、困ったものですにゃー」
 迷子になったイコナ・ユア・クックブックが、ぶつぶつと文句を言いながら一人歩いています。
「おーいにゃー」
 誰かいないかと呼びかけてみますが、どこからも返事がありません。
 ひとりぼっちです。
「こ、こういうときは落ち着いて、とりあえず、元来た道を引き返すのですにゃ。そうしたら、知ってる場所に出るはずですにゃ。そのはずですにゃの……」
 そう言って引き返すものの、すでにどっちから来たのかさえ分からなくなっています。完全な迷子です。
「だ、誰かー。返事してにゃー」
 だんだんと心細くなって、ついにその場にへたり込んでしまいました。
「にゃー」
「捨て猫?」
 うつむいていると、突然声をかけられました。見あげると、キーマ・プレシャスが身をかがめてのぞき込んでいます。
「た、助かったにゃー」
「仕方ないなあ。拾っていってあげよう」
 そう言うと、キーマ・プレシャスはイコナ・ユア・クックブックに手を貸して立ちあがらせました。

    ★    ★    ★

『――これって、迷子だよね』
「ええっ、やっぱり、私って、迷子なのぉ」
 アリスの川村玲亜が、憑依している奈落人の川村玲亜と頭の中で会話を交わしました。ちょっとややっこしいですが、どちらも川村玲亜です。
『もう、玲亜ちゃんに任せてたら、もっと迷子になっちゃうよ。交代して』
 そう言うと、奈落人の川村玲亜が表に出て来ました。
「さてと、じゃあ、まずこれからだよね」
 そう言うと、川村玲亜は川村詩亜に連絡を入れました。
「ああ、玲亜。いったい今どこにいるの?」
 試作量産型わたげうさぎ型HCをかかえた川村詩亜が、携帯にむかって言いました。
『えっと……、とにかくデータを送るから見つけてよね』
「分かったから、それ以上迷わないでよね」
 そう言うと、川村詩亜は走りだしました。

    ★    ★    ★

「で、出口はどこなのだ……」
 山ほどの禁書をかかえたリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が、出口を探してうろうろとしています。けれども、さすがに荷物を持ちすぎです。歩くのもやっとという感じでした。
「無理なんじゃない。だって、行く先行く先、道がふさがっていくのだよ」
 きっぱりと、ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)が言いました。
 巨大魔道書の第一発見者となってから、もう何日が経過したことでしょう。実は、リリ・スノーウォーカーとララ・サーズデイが第一遭難者なのでした。
「こんなに禁書が一杯……。全部希少本ではないか。これを全部売りさばけば、機動戦艦の艦隊を買ってもおつりがくるのだよ……多分」
 嬉々として、勝手に売りさばくために禁書を拾い集めたリリ・スノーウォーカーでしたが、世間はそうは問屋が卸しません。どうもこの世界の支配者が、それを許さないようなのでした。それは、噂の大司書なのでしょうか。
 いずれにしろ、自分たちが入ってきた入り口を探しても、いっこうにそれが見つかりません。まあ、最初から、入り口は一方通行だったような気もしますが、すでに忘れました。
「どっちにしても、こんなに禁書をちょろまかしたのでは、出られるものも出られないのだよ」
 いいかげんに捨てれば出られるかもしれないと、ララ・サーズデイが言いましたが、当然リリ・スノーウォーカーは耳を貸しませんでした。
「きっと、リリたち以外にもこの世界に紛れ込んでいる馬鹿者たちがいるはずなのだよ。馬鹿だから、きっと暴れてこの世界を破壊しているはず。それに便乗して脱出するのだあ」
 めげないリリ・スノーウォーカーでした。多分、ゴチメイのことを肌で感じとっていたのかも知れません。

    ★    ★    ★

「これで、リンちゃんが引っ掛かるはずだよ」
 ローゼンクライネの持ってきたリンちゃんホイホイを仕掛けたコハク・ソーロッドが小鳥遊美羽に言いました。
 リンちゃんホイホイというのは、妖精スイーツとドーナツをてんこ盛りにした餌の横に、紐のついたつっかえ棒をした巨大な笊をおいた物です。
 これで、リン・ダージ(りん・だーじ)を捕まえようというのですが、はたしてうまくいくのでしょうか。もちろん、小鳥遊美羽とコハク・ソーロッドは自信満々ですが。
「それにしても、ここは以前の探索のときのようにモンスターが襲ってこないですね」
 身構えていたのに、いっこうに敵らしき敵が現れないので、ちょっと拍子抜けしたように小鳥遊美羽が言いました。
「戦いは、ないにこしたことはないけれど。それよりも、もうちょっと人手がほしいかな。頭数は多い方がいいだろうし……」
 そんな会話を交わしていると、何やら物音が聞こえてきました。見れば、いつの間にか本当にリン・ダージが妖精スイーツをほおばっています。
「えいっ!」
 思わず、反射的に小鳥遊美羽が紐を引っぱってしまいました。本当なら、そのまま声をかければすむことなのですが、リンちゃんホイホイを仕掛けてしまった手前、やっぱり紐を引きたくなるというものなのでした。
「きゃん!」
 絶好調で妖精スイーツを食べていたリン・ダージが、頭の上から覆い被さってきた笊に上半身を押さえつけられてつんのめりました。笊の端から、お尻だけ突き出して突っ伏しているという状態です。勢いで巻きスカートがめくれて、ローライズの黒いレースのパンツが丸見えです。
「ぶふぁっ!!」
 ふいをつかれたコハク・ソーロッドが、まともにリン・ダージのパンツを見てしまい、鼻血を噴いてぶっ倒れました。その勢いで、いろいろ持ってきた物を地面にぶちまけてしまいます。その中の一枚の紙が、ひらひらと舞いました。
「きゃー、コハク、しっかりしてー」
 あわてて、小鳥遊美羽がコハク・ソーロッドを助け起こしました。
「聞こえマシータ。これは、リンちゃんの声デース」
 そこへタイミングよくやってきたのは、アーサー・レイスです。まったく、天然のリンちゃんレーダーでも持っているのでしょうか。
「さあ、このカレーを食べるのデース」
 カレーの入った寸胴を持って、アーサー・レイスがズンズンと近づいてきます。
「だーれよー、こんな罠を仕掛けたのはあ! あー、またあんたねー!」
 笊を吹っ飛ばして復活したリン・ダージが、すぐさまフライングキックでアーサー・レイスを蹴り飛ばしました。
「ああ、貴重なカレーがあ……」
 寸胴を地面に残して、アーサー・レイスが転がっていきます。
「こんにちはー。呼びましたー。えーい」
 そこへやってきたコンちゃんが、きっちりとアーサー・レイスに御挨拶して止めを刺しました。どうやら、コハク・ソーロッドの落としたコンちゃん御挨拶券に呼び寄せられたようです。見かけと違って、この御挨拶券は、強力な呪符か何かだったのでしょうか。
「見つかってよかった。助けに来たんだよ」
 なんとなく落ち着いたところで、小鳥遊美羽がリン・ダージに言いました。とりあえず、自分たちがリンちゃんホイホイを仕掛けたことはスルーです。
「ありがとー。食べる物探してたんだけど、これでみんなにも何か食べさせてあげられそうだよ」
 アーサー・レイスが残したカレーの寸胴を見て、リン・ダージが言いました。自分は食べる気はありませんが、まあ、他のゴチメイたちは辛くても大丈夫……だといいなあ。
「ふはははははは、我こそは……以下略」
 そこへ現れたのは、ドクター・ハデスと怪人デスストーカーです。まったく千客万来です。どうも、散らばっていたはずの探索者たちが、自然と集められだしてでもいるのでしょうか。
「貴様たちにこの場所の地図……ゆけ、シャンバラ最強怪人デスストーカーよ!」
「お任せDE……うぼあ!」
 皆まで言わないうちに、怪人デスストーカーが遠くへと吹っ飛んでいきました。きらん。
「まったく、手間かけさせるんじゃないわよ」
 パッとスカートをはだけますと、ガーターリングにくくりつけていたグレネードランチャーを早撃ちしたリン・ダージが、銃口からのぼる硝煙をふっと吹き飛ばしました。それを見て、またひっくり返るコハク・ソーロッドでした。