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学生たちの休日13+

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「コハクったら、遅いなあ」
 鍋を食べながら、まだ現れないコハク・ソーロッドのことを思って小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がつぶやきました。
「ええと、連絡を受けた時間からすると、そろそろ着くはずですよ」
 メモを見ながら、リクゴウ・カリオペが言いました。
「着いたようですね。あれを」
 ショワン・ポリュムニアが空の一点をさし示しました。そこに、ステルスを解いたヴィマーナが現れました。
 一瞬、場が騒然としかけましたが、ショワン・ポリュムニアが説明してすぐに静まります。
 降下地点がありませんので、源鉄心がイコンから誘導して、コハク・ソーロッドが何度か往復して散楽の翁たちを地上へと降ろしました。
「お待ちしておりました」
 ショワン・ポリュムニアたちが、深々と頭を垂れて礼をします。
「久しぶりですね」
 初めて対峙したであろうコンちゃんたちに、散楽の翁が挨拶をしました。
「こんにち……」
 挨拶を返そうとするコンちゃんたちを、大神御嶽たちがあわてて止めました。
「私の知らない間に、何か悪い癖を身につけてしまったようですね」
 さすがに、ちょっと散楽の翁が引きます。
「この子たちを知っているんですか?」
 大神御嶽が訊ねました。
「知っているも何も、この子たちを作ったのは散楽の翁様です」
 にこやかに笑っている散楽の翁に代わって、アマオト・アオイが答えました。その場にいた者たちが、ええっと顔を見合わせます。
「じゃあ、ケンちゃんをなおすことも……」
 大神御嶽が、メイちゃんが首から提げている魔法石に封印されたケンちゃんをさして聞きました。
「むろん、材料さえあれば可能です。そちらの方は、すでに手配はしてあります」
「それでは、彼女たちのマスターも開放できるでしょうか」
「可能ですが、それなりの手順は必要ですね。それは、また後のこととして、今はコウジン・メレを取り戻さないと。封印されている間はずっと消息不明で、やっとその存在を感知できたのですから」
「大丈夫ですにゃ。罠はかんっぺきですにゃ。でも、わたくしたちよりも、そちらが目立ちすぎにゃんでは? 敵が警戒して寄ってこなかったら、台無しですにゃ」
 イコナ・ユア・クックブックが、作戦の主導権は我にありという顔で言いました。
「では、ちょっとカモフラージュしましょう」
 タイオン・ムネメが上空のヴィマーナに乗っているパイフ・エラトとシンロン・エウテルペへ合図を送りました。ステルスモードで隠れているヴィマーナから、何やら荷物が投下されます。開けてみますと、ゆる族ふうの着ぐるみでした。このコスプレで変装しようと言うことのようです。
「中に呪符が貼ってありますから、一種の結界になっています。これであれば、感知されることはないでしょう。その上で、口寄せの陣を張ります」
 そう説明すると、散楽の翁が巫女たちを指示して、特定の場所に立たせました。五芒星の位置となるように、アマオト・アオイ、タイオン・ムネメ、リクゴウ・カリオペ、ショワン・ポリュムニア、タイモ・クレイオを立たせ、その中央に散楽の翁が立ちます。
「コウジン・メレの体内には、ポータラカ人としての私の一部であるナノマシンが入っています。そのせいで、イレイザー・スポーンはコウジン・メレを完全に同化できずにいるはずです。それを強化して、こちらへと誘導します。ただし、その間私たちはこの位置から動けなくなりますので、現れたイレイザー・スポーンの排除は、みなさんにお願いします」
「まっかせて!」
 散楽の翁の言葉に、小鳥遊美羽が元気よく答えました。
「負けていられません」
 ティー・ティーも、何やら準備を始めます。
「ふっ、少なくとも、あの駄ウサギとの差は、はっきりとさせて見せますにゃ」
 イコナ・ユア・クックブックの方は、何やら別方向の闘志で満々です。
「じゃあ、それまでは鍋パーティーの続きですら。い、いやですら、ふりですら、ふり」
 なんだか、食べることの方が主目的のように、キネコ・マネーが言いました。とはいえ、さすがに身構えていては、敵も警戒するでしょう。幸い、散楽の翁たちは立ち位置が重要なだけのようですから、一緒にパーティーを楽しんでもらいます。
 しばらくして、やっと散楽の翁たちの口寄せが効果を発しました。
「えーっと、対人レーダーに反応。きたようですよー」
 スープ・ストーンが、イコンのレーダーを見て源鉄心に報告しました。ちょっと投げ槍気味です。
 すかさず、源鉄心がティー・ティーとイコナ・ユア・クックブックにテレパシーで伝えて、迎撃準備に入ります。
「鍋パーティーですか、美味しそうですね。私も混ぜてもらえませんか?」
 イルミンスールの制服を着た女の子が、にこにこしながら寄ってきました。
「どうぞどうぞ、美味しいですにゃ」
 イコナ・ユア・クックブックが、女の子を手招きします。それに答えて、女の子がみんなの輪の中に入ってきました。こちらは準備万端整えていますので、いかに変装していてもバレバレです。
「今ですにゃ、サラダ!」
 イコナ・ユア・クックブックが、取り押さえるようにサラダにむかって叫びました。けれども、突然名前を呼ばれても、サラダは不思議そうに首をかしげるだけです。事前の段取りがなっていません。
「何をしているのにゃ。えいっ!」
 情けないと叫ぶと、イコナ・ユア・クックブックが封印の魔石を投げました。が、さすがに女の子に変装していたコウジン・メレが身を躱します。代わりに、そばにいたサラダに封印の魔石があたって、サラダをその中に閉じ込めてしまいました。
「無様ですうさ。ミニうさティーたち、取り囲むうさ。さあ、もう逃がさないうさ、これでも聞くうさ!」
 ミニうさティー・ミニいこにゃ軍団にコウジン・メレを取り囲ませますと、ティー・ティーが天使のレクイエムと眠りの竪琴でコウジン・メレを眠らそうとしました。
「ねんねんころ〜りよ〜、おこ〜ろりよ〜うさ」
 その歌声を聞いて、ミニうさティー・ミニいこにゃ軍団たちがバタバタと倒れて眠ってしまいます。肝心のコウジン・メレの方は、しっかりとレジストしたようです。
「ふざけた攻撃を。さあ、大人しく、そこの者たちを差し出してもらおう。それだけの体組織があれば、俺は完全なイレイザー・スポーンとして単独で行動できる。もはや、愚かなエリュシオンの領主や、ニルヴァーナを脱出しようとしていた小娘の身体に頼らなくともすむ。そして、再びヴィマーナを手に入れて、世界樹を同化するのだ」
 メイちゃんたちを指さして、コウジン・メレが言いました。いや、コウジン・メレに寄生していたイレイザー・スポーンでしょう。どうやら、その正体は、グランツ教に作り出され、ソルビトール・シャンフロウの体内に隠れて、ヴィマーナ艦隊をコントロールしていたコアタイプのイレイザー・スポーンだったようです。他の生物に同化して支配することにより、最終的には世界樹とコーラル・ネットワークを乗っ取って自滅させようとしていた物の残滓でした。
「そうはさせるものですか!」
 待ってましたとばかりに、小鳥遊美羽がブライドオブブレイドを呼び出しました。
「この身体ごと斬るか。面白い!」
 そう言うと、イレイザー・スポーンがコウジン・メレの身体に巻きつくように、いくつものヘビの姿を現しました。その鎌首を一斉に持ちあげて、小鳥遊美羽に襲いかかろうとします。
「そんな攻撃、ブライドオブブレイドにかかれば……」
 えいやっと、小鳥遊美羽が、イレイザー・スポーンだけを光条兵器で切り捨てようとしました。けれども、その光の刃が、あっさりと弾き返されます。
 見れば、コウジン・メレの手にも、同じブライドオブブレイドが握られていました。確かに、剣の花嫁であるコウジン・メレもまた、光条兵器を持っていて当然でした。しかも、調整がよいのか、かなり強力です。
「援護します!」
 コハク・ソーロッドや大神御嶽たちが、一緒にコウジン・メレに攻撃しようとしました。
「手を出さないで!」
 通常攻撃ではコウジン・メレを傷つけてしまうと、小鳥遊美羽がみんなを制しました。その一瞬を逃さず、コウジン・メレが大きく口を開けたヘビの頭とブライトオブブレイドで攻撃を仕掛けてきました。
「黙って、見ていられるか!」
 一斉攻撃に小鳥遊美羽が晒されるかと思われた瞬間、イコンから飛び降りてきた源鉄心の真空波が、イレイザー・スポーンのヘビの頭を次々に切り落としました。ポイントシフトでコウジン・メレの背後に着地した源鉄心が、連続して投げの極意を仕掛けますが体勢を崩すのが精一杯でした。逆に、振り返り様のブライドオブブレイドが襲いかかってきます。
「縛!」
 その瞬間、散楽の翁が、一瞬だけコウジン・メレの動きを止めました。ナノマシンによる筋肉の硬直が、ブライドオブブレイドの動きを遅らせます。そのわずかな瞬きの間に、小鳥遊美羽のブライドオブブレイドがコウジン・メレと源鉄心ごと、イレイザー・スポーンを斬りました。最大出力でコウジン・メレの全身を薙ぎ払い、寄生しているイレイザー・スポーンだけを光条兵器で消滅させたのでした。
 粉が舞うようにしてコウジン・メレの身体から光が飛び散ったかと思った後、その身体が糸の切れたマリオネットのように倒れ込みます。
「おっと!」
 あわてて、源鉄心が倒れてくるコウジン・メレをだきとめました。
「ふう、危なかった……いてっ!!」
 ホッとしたところを、なぜかティー・ティーに蹴飛ばされて、源鉄心がひっくり返ります。コウジン・メレの方は、目を覚ましたミニうさティーたちがしっかりと支えていました。