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百合園女学院の進路相談会

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百合園女学院の進路相談会
百合園女学院の進路相談会 百合園女学院の進路相談会

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 身体のラインを協調するデザインと深いスリット。その大胆でセクシーなデザインのチャイナドレスを身に纏うだけのスタイル。
「こんにちは、アナスタシアさん」
 面談であっても、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)の立ち姿はいつもと変わらない。
(私が着たら絶対にあちこち余ってしまいますわね……それにしても……高校生なのですわよね)
 個性的な生徒との面談を終えて、その生徒の目の前でいちゃついていた姿を思い出し、自分の胸が足りないと思われたことも思い出して。
 慌てて百合っぽい妄想を頭から振り払い、アナスタシアは小夜子に挨拶を返した。
「私ももうすぐ高校卒業ですね。進路なのですが、まだ迷っているんです」
「そうですの、そう言った方たちのために相談会があるのですわ。何かこれがしたい、といった優先順位はおありになるの?」
「とりあえず……、恋人の事を考えると離れ離れになりたくはないですね」
「恋人ですの……」
 アナスタシアも、小夜子の恋人が誰か知っていた。というより、入学当初からその天然な雰囲気と様々な災難に巻き込まれてきたお姫様体質、そしてあの露出度の高い魔鎧と胸――百合園女学院で彼女の名を知らない者はかなり少ないのではないか。
泉 美緒(いずみ・みお)さんは、百合園の短大の一年生ですわね。このまま短大を卒業されると伺っていますわ」
「そうですよね。……となると、空京大学への進学はありえませんし、ヴァイシャリーから離れず百合園の短大に進むのが良いのでしょうが……」
「本当に仲が宜しいのですわね」
 一時も離れたくない、という気持ちはアナスタシアは味わった事が無い、どころか恋愛もしたことがない。しかし今は、大切な人と離れ離れになりたくない、という感情なら解る気がするのだ。
 校内で見かける二人の姿はいつも仲睦まじく寄り添っていた。
「……短大以外に他に何か選択肢はあるのでしょうか?」
「もし短大のに進学したとして、その後のことは考えていらっしゃいますの?」
「恋人の進路次第かなと思っていますけど……我ながら恋人中心ですね」
 小夜子は笑った。しかし、もう彼女にとって美緒のいない人生なんて考えられない。
 アナスタシアは神妙にそれを聞いていた。
 美緒がいるから行く……それは、確かに恋人中心だ。他にしたい事が無い、ともとれる。しかしその彼女が美緒と同じ場所に行くのを何故か「躊躇う」だけの理由がある、というのは、会長として少なからず気にかかった。
「会長の私としては短大に進学していただければとても嬉しいですけれど……、ヴァイシャリーにいながらということになると、大まかに二つの選択肢がありますわ」
 一つめは、進学。百合園女学院以外にも、市井の塾や学校、専門学校がある。勿論非契約者中心の、地元民のための学校だ。地球の学制とは異なるところも多いが、その分パラミタやヴァイシャリーに密着した勉強や、ひとつの分野を極めるための勉強をすることができる。
 二つめは、就職。ヴァイシャリーにある商店や施設に就職したり、職人見習いになる。これは地球と職種が違うものの、多岐に渡る。好きなお店の店員をしたり、デザイナーになったり、自分に合った職業も見つかるだろう。
「三つめは、……無職のまま何もしない、ということですけれど……百合園には実家で花嫁修行をなさる方もいらっしゃいますし、財力があるということで趣味に生きる方もいらっしゃいますから」
「そうですか……ありがとうございます」
 ゆっくりと頷いた小夜子は、次はもっと小さな声で、
「あと個人的な悩みですけど……言いにくいですけど……」
 小夜子はためらいつつ言った。その躊躇いには、今度は悩みではなく恥じらいと……相談相手のアナスタシアの性格も含まれていた。
「女の子同士だと子孫が残せませんよね」
「ええ……普通は……そうですわよね」
「パラミタだと何か良い方法はないでしょうか……」
「……方法というのは……あの、その……」
 ぱっと頬を赤らめるアナスタシアに、小夜子は顔を上げて、
「えっ。冗談ではありませんよ。すぐ試すわけではありませんが将来的には……。地球ではまあ養子を貰うとか、精子バンクとかに行くのがいいんでしょうけど……」
「た、たたた試すとか何をおっしゃってますの!?」
 パラミタ出身ゆえに、アナスタシア本人の嗜好はともかく同性愛自体は受け入れているが、生々しいとなれば、それとこれとは話は別だ。
 紅茶をせき込みそうになるのを抑えて、でも小夜子の目がとても真面目なので、それに真面目に答えるべきだ、と、思い直す。
「……私は詳しくは存じませんけれど……魔術的な方法などがあるにはある……らしい、と聞いたことがありますわ」
「そうですか……」
 恥ずかしそうに微笑を浮かべる小夜子を見て、アナスタシアは相談を受けるのに一番大切な資質は平静を保つことだ、などと考えるのだった。