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リアクション
隠れ甘味処。
「このケーキ、美味しいわねぇ」
「そのケーキならほのかな花の香りで、渋みも少ない飲み心地のディンブラ紅茶がお勧めですよ。クリームの味わいをさっぱりさせてくれます」
シリウスの奢りで羽純に教えて貰った限定ケーキを食べるオリヴィエと親しげにケーキトークをする歌菜。
「しかし、そのケーキを選ぶとはお目が高いな」
ちゃっかりケーキを食べる羽純がオリヴィエに話し掛けた。
「……羽純くん」
歌菜はケーキを楽しむ羽純も少々呆れ口調。
「……分かっている。しかし、場を和やかにするために合わせて食べるくらいはいいだろ?」
羽純は歌菜の呆れを察知するなり急いで弁解をした。甘党故に甘味処で何も注文しないというのは選択出来なかったようだ。
「もう、羽純くんたら」
歌菜は軽く頬を膨らませた後、自分も何か注文した。
「ボクも場を和やかにするために食べようかな。シリウスのおごりで」
サビクはオリヴィエのケーキを見ている内に食べたくなり隣のシリウスをちらり。
「おいおい、勘弁してくれ」
シリウスは弱り声を上げた。
「場を和やかにするためだよ。ついでに勧められていた飲み物も注文しておくね」
「まぁ、ありがとうねぇ」
サビクはシリウスの言は聞き入れず、さっさと適当なケーキとオリヴィエの飲み物を注文した。オリヴィエはためらわずサビクの厚意を受けるのだった。
「私も何か注文しましょう」
舞花も飲み物を注文した。
皆の注文した品が届いてから改めて話し合いが行われた。
話し合い開始後。
「まずは魔法中毒者について教えて下さい」
「奴と会ったんだろ? どんな話をしたんだ? 奴はどんな姿をしている?」
舞花とシリウスが立て続けに魔法中毒者について質問をした。
「……」
『嘘感知』を有するサビクは静かにオリヴィエを見る。相手が嘘を言わないかどうかを見張るために。
「ごめんなさいねぇ。吸血鬼の女性としか知らないのよ。話したのはシンリちゃんだから」
オリヴィエは申し訳なさそうに顔を曇らせシリウスに奢って貰ったディンブラ紅茶を一口。
「そうか。こちらも詳しい情報はまだだからな。後ほど聞かせて貰うか」
羽純はサビクが嘘ではないと合図を出したのを見るなり話を打ち切った。
そして、
「次は特別なレシピの事です。お願いします」
「少しでもいいから教えてくれ。そちらは完全に先手を打って有利な状況だ。少しくらい情報をくれてもいいだろう? 何よりこちらの誘いを受けたのならするべき事があるだろう」
歌菜がお願いすると一緒に羽純が話してくれる方向に持っていこうと言葉を添えた。
「そうねぇ。確かに御馳走してくれたのにこちらは何も話さないのは駄目よねぇ。でもあんまり詳しい事は言うなとシンリちゃんに言われているから少ししか話せないけどいいかしら」
オリヴィエは困りつつも羽純の言葉通りだと思い何とか話そうと決めた。
「えぇ、構いません。お願いします」
どんな情報でも今は欲しいため舞花は話すように促した。
「存在しているけれど形の無いものに形を与えるレシピよ。調薬を嗜むものとして利用価値があるもの。あれは全てが揃わなければ何なのか分からないけどシンリちゃんには分かるみたいなの。調薬関連の魔道書だから」
オリヴィエは特別なレシピについてシンリから聞いた話を伝えた。
「……調薬を嗜む者としてですか……それ以上の事は」
「シンリちゃんのお許しが出ないと無理ねぇ」
舞花がさらなる追求をするもオリヴィエは困り顔で拒否。いくら口が柔らかいとは言え、心得てはいるらしい。
その時、
「申し訳ありません、遅くなりました」
家宅捜査を終えたヨシノが登場。
「ヨシノちゃん、お久しぶりねぇ」
「えぇ。お久しぶりです、オリヴィエ。彼はまだなのですね」
久しぶりの再会を楽しむオリヴィエとヨシノ。シリウスからシンリも出席する事は聞いているがやはり彼の事になると表情は険しい。
「あぁ、もう少ししたら来るはずだ」
とシリウス。
「丁度、家宅捜査の結果も来ましたね。交渉の際、レシピの情報を全て魔法中毒者に渡したそうですが、どうしてそのような事をしたのですか? 取引をした貴重な素材ももしかしたら特別なレシピに関する物ではありませんか」
フューチャーデバイスに届いた家宅捜査の情報から舞花は気になる点を訊ね始めた。
「そうだぜ。結構執着していただろ」
シリウスも加わる。これまで特別なレシピに関わった事があるため執着は知っている。
「素材についてはその通りよ。交渉についてはシンリちゃんが少し意地悪さんになって」
オリヴィエは変わらずのんびりと答える。
その時、
「随分盛り上がっているみたいだね」
多くの問いの答えを持つ人物、シンリが登場。
「ようやく来たか。丁度聞きたい事が集まったところだ」
羽純が皆を代表してシンリを迎えた。
「聞きたい事か」
聞き返しながらシンリはヨシノから離れた席に座った。
「そうだ。先程、情報が来たんだが、交渉の前に仲間を盗み見に行かせて情報を得たにも関わらず中毒者と取引をして特別なレシピに必要な素材と引き替えに全てのレシピの情報を渡したらしいな。素材ぐらいどうとでもなるだろうに。しかも邪魔者、つまり友愛会が来る事まで告げた。完成させる事を望んでいたという事だよな。しかし情報を得ているのなら自分達で作る事が出来るのにそれをしないのは何かあるという事。まずい何かが」
『エセンシャルリーディング』を有するシリウスは集まった情報をまとめシンリにぶつけ『ソウルヴィジュアライズ』で表情を伺った。自分の推理が正しいかを確認するために。
「……レシピとして考えると実際に作るとは違うからね。あのレシピには齟齬があった。それだけさ」
シンリは事も無げに答えた。シリウスの目に映るシンリは先程と変わらぬ様子。つまり打ち解けてはいるが動揺などは無いという事。とにもかくにも自分が見た事を予め皆と打ち合わせしていた符丁で知らせた。
「……(上手いな)」
シリウスは胸中でつぶやいた。こちらの質問に答えながらも肝心な事は答えない。さすが会長だけあってシンリは取引に慣れている。それは皆も同じであった。
「しかし、相手にはそれを伝えませんでしたよね。齟齬がある薬の効果を確かめたいと考えているのですか。自分達が作製する特別なレシピを改良するためですか。長所を伸ばし、短所を解決というように」
『博識』を有する舞花は届いた情報から『エセンシャルリーディング』を用いて推理しシンリにぶつけた。
「まぁ、そうだね」
シンリはただ肩をすくめるだけ。
「その齟齬とやらは話してくれるか」
羽純は期待せずに特別なレシピについて追求をした。
「……そこはね、話せないよ。さすがにね。それにすぐに分かると思うよ」
シンリはにこやかにはぐらかした。隠すべき事は隠すらしい。
「すぐにとは人を犠牲にするという事ですか。そんな事は許されませんよ。調薬は人を助けるための物ですよ」
シンリの様子から不穏なものを感じ取ったヨシノは立ち上がり、シンリに食ってかかった。
「それは君達の言い分だよ。こちらは違う。だからこそ袂分かつことになった。そうだろう」
シンリはシリウスの奢りで注文した飲み物で喉を潤しつつさらりと流した。
「あらあら」
オリヴィエは楽しそうに対立する二人を見守っていた。
「……とりあえず、落ち着け。まずは話だ」
「……えぇ」
シリウスは何とかオリヴィエを落ち着かせ座らせた。
落ち着いた所で
「それで特別なレシピでどんな魔法薬が作れるんですか」
「オリヴィエさんからヒントのようなものは聞きましたが」
歌菜と舞花が特別なレシピの詳細を追求。
「すぐに分かる物を隠す必要は無いから答えるよ。記憶を素材に変える物だよ」
シンリは予想外にあっさりとレシピの内容を明かした。話したとしても誰も止める事は出来ないと知った上であると誰もが分かった。
「確かに存在していながら形の無い物だけど……(こうもあっさりだと何かあるのか怪しみたくなる。嘘ではないみたいだけど)」
『嘘感知』で確認するサビクはシンリが嘘を吐いていないと分かるも疑念は消えない。
「……記憶を素材にか。調薬を嗜む者らしいが、詳細はどうなんだ?」
「そこまでは教えられないよ。すぐに分かる事だしね」
羽純の詳細を求める事に関してはさらりとはぐらかすシンリ。
「そのようなものに齟齬があるという事はとんでもない事になりますよね。ところでその情報は探求会ではどうなっているんですか? 黒亜さんは知っていますか?」
舞花は嫌な予感を抱きつつ一番に思いついたのは妖怪の山での素材回収だ。
「持って帰って貰ったよ。黒亜は鼻が利くから今頃彼女なりの改良を施した物を作り上げているかもしれない」
シンリは事も無げに言い放った。皆の目には黒亜がやらかす事を期待しているようにも見えた。
「おいおい、そこはちゃんとしろよ」
「また妖怪の山みたいな事が起こるという事ですか」
妖怪の山での騒ぎに関わったシリウスと歌菜は明らかに嫌な顔をした。中毒者の相手も厄介そうだというのに黒亜が関わるとなるとさらに面倒事になると。
「シノアちゃんとヴラキちゃんも帰ったからあの子達や他の人達が止めているかもしれないわ」
オリヴィエはケーキを楽しみながらほんわりと物騒な事を言い放った。これまたこの先騒ぎが起きる事など気に掛けていない様子。そもそも彼女は調薬よりも実験を眺めるのが主な活動であったりするので。
「……かもしれないとは、どうにも頼りないな」
羽純は厳しい口調で言葉を挟む。
「事を起こす時に大事なのは十分準備をしておく事だよ。万が一が起きても対応出来るように。さぁ、オリヴィエもうそろそろ戻るよ」
シンリは意味深な事を言うなり、オリヴィエを急かした。もう用事は終わったと。
「オリヴィエさん、約束していたケーキのレシピを教えますね」
歌菜は約束したケーキのレシピの事を口にして少しだけオリヴィエの足を止めた。
「えぇ、是非お願い」
「レシピは……」
知りたそうにするオリヴィエに歌菜は細かにレシピを教えた。
「御馳走してくれてありがとう。教えてくれたレシピ試してみるわ」
改めてオリヴィエは御馳走してくれたシリウスとレシピを教えてくれた歌菜に笑顔で礼を言ってからシンリに続いて店を出て行った。
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