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リアクション
第一章「絶望の戦場」
〜町上空・高高度〜
遥か町の上空。地表の町が霞むほどの高度で教導団の艦艇と影で構成されたイコン群の戦闘は繰り広げられていた。
影の部隊を率いるガルディア・ノーマッド(がるでぃあ・のーまっど)の奇襲によって、教導団の艦艇はその半数以上を失う。
炎に包まれ、爆散していく空中戦艦。生き残ったのは戦艦の四番艦と大型輸送艦のみである。
戦艦の直衛に出ていたイコン部隊は母艦を失ったものの、そのほとんどが健在であった。彼らはすぐさま陣形を立て直し、生き残った四番艦と大型輸送艦の防衛に入る。流石は教導団、狼狽える様子はない。
迫る影の部隊に対し、彼らは横に広がる様にして陣形を組み直す。
彼らの背後の四番艦は主砲の砲身がひしゃげており、各部の装甲板も剥がれ落ちて煙を上げている。航行しているのがやっとの状態であった。
教導団のイコン部隊は身を盾にして四番艦、大型輸送艦が後方に退避する時間を稼ごうというのだろう。
「お前は雇われの身だ……こんな酔狂な真似に付き合わなくてもいいのだぞ?」
機体のコックピットに届く通信に彼――大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は笑顔で答えた。
「気にすることあらへん、ここで逃げたらバイト料出ないやろうしな」
「そうか、恩に着る……」
通信の声の主は少し嬉しそうな雰囲気だった。泰輔が加勢し続けてくれることに頼もしさを感じたのだろう。
視線を動かし、泰輔はレーダー見る。そこには無数の赤い点がこちらに向かってきているのが表示されている。
「ぎょうさんおるようやで……どこに撃っても当たりそうな勢いや……派手に暴れて、バイト料もがっぽがっぽ――――」
余裕の言葉を吐こうとした泰輔を讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が制する。
「待て、何かくる……回避に努めろ、泰輔ッ!」
その声を最後まで聞く前に彼の隣に位置していた機体の頭部が爆発四散する。続けて空から降り注ぐ砲火がその身体を撃ち貫き、無数の穴を開けた。
身体をくの字に曲げ穴から部品を撒き散らしてその機体は落下、爆発。操縦者が脱出した様子はなかった。
「なんや、何が起きとるッ……!?」
レーダー上の表示では赤い点……つまり影のイコン達と接敵するまではまだ距離があった。
という事は別の何かに攻撃されたという事になる。
泰輔は敵をレーダーに頼らずに目視で探す。バンデリジェーロの頭部を振って索敵、それを見つけた。
自分達の斜め上方向にいくつもの艦影、いや、影そのものいえばいいだろうか。黒い影で構成された大小様々な戦艦群がそこにあった。
それらは底部や側面に備えられた黒い砲身をこちらに向け、砲火を放ってくる。
無数の砲弾の雨が教導団のイコン部隊に降り注ぐ。
「回避ーーッ! 回避しろーーっ!」
「うわあぁぁぁああーーっ!」
「くそ、動け、動いてくれよっ!」
砲火に晒され、抗う事ができずに倒れていくイコン部隊の断末魔の声が次々と通信に入ってくる。
泰輔のパンテリジェーロは彼らの前に躍り出るとソウルブレードを振り回して砲火を捌く。闇色の刀身が弾丸とぶつかって火花を散らした。
「無理せず回避に専念するんやっ! 耐え抜けば輸送艦から増援のイコン部隊がでるんやろ、要はそれまで持たせればええんや!」
「泰輔、敵のイコン部隊と接敵する。上空からの砲火に注意しろ、回避パターンとルートを送る」
泰輔は送られた回避パターンとルートから最適な物を選び、実行に移す。
迫る影のイコンに対し、突進――と思いきや影のイコンの眼前で姿を消す。次の瞬間には背後からソウルブレードが影のイコンの腹部を貫いていた。
ソウルブレードを引き抜き蹴り飛ばした影のイコンにウィッチクラフトライフルを向ける。ロックオンを待たずに数度発砲。影のイコンは原形を留めぬ程に撃ち抜かれ掻き消える様に消滅した。
「おっけー、いい具合や。愛してるで、顕仁っ」
「ふっ、当たり前であろう……愛しい泰輔の傍で、愛しい泰輔と共に闘う――これほどの喜びはそうあるものではないわ」
二人ならば、負けはしない……どんな相手にさえも。
彼らはそう信じ、大部隊に剣を向ける。それは誰かを守る勇者の様にも見えた。
モニターには高度の表示が出ている。その表示は機体の高度が急速に下がっている事を示していた。
いくつかの砲弾が至近距離で炸裂し、機体を揺らす。振動が操作スティックを握る腕を揺らすが特に操縦に支障がでるほどではない。
彼――堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)は微細に操作スティックを操り、機体の動きと着地予測点を調整する。
砲火の雨を抜け、眼下に街並みが見えてきた時であった。機体に警告音が鳴り響く。
「やはり、簡単には下ろしてくれないみたいだね……!」
「直上、敵機は二機。ライフル装備タイプとソード装備タイプ」
ランダム・ビアンコ(らんだむ・びあんこ)の声を聴いて、彼は機体を起こし空中で自機の上空から飛来する二機の影を見据えた。
降下しながら銃剣付きビームアサルトライフルを自機に近い影のイコンに向けた。照準のロックオンを確認してからマガジンが空になるまで掃射する。
帯の様にビーム弾が伸び、影のイコンに迫った。回避行動をとるが時すでに遅く、影のイコンは腰から頭部にかけてビーム弾の直撃を受け、体勢を崩す様にして霧散。
回り込むような機動で剣を手に向かってくるもう一機の影のイコンに反応し、機体を反転。銃剣部分でその攻撃を受け止め、弾き返す。
衝撃で跳ね上がる様に腕が上がり、無防備になった影のイコンの胸部に銃剣を突き立てる。刺された部分から影が血の様に吹き出し、苦しそうにもがいてから影のイコンはそのまま消失。
直後、サージェント・ペパーのレーダーに反応、大型の影の魔物が複数地上部隊に接近しているようだった。
「ランダム、攻撃を大型の影の魔物に打ち込む……タイミングの指示を頼むよ」
「わかった、任せろ」
降下しながらサージェント・ペパーは腕を突き出すように構え、眼下の大型の魔物を狙った。
「距離、800、600、400……200……今だ!」
「……消えされぇっ!」
拳を突き出した姿勢で真っ直ぐ影の魔物へ向かう。
着地、同時に衝撃波が発生。小型の影の魔物を跡形もなく消し飛ばす。大型の影の魔物は攻撃を受け、身体を保てなくなったのか崩れる様にして消滅した。
機体のブースターを吹かせながら地上に着地した堀河はすぐさまランダムに問い掛ける。
「周辺への被害は?」
「特になし。地上部隊にも被害は見られず。せいぜい足元の地面にひび入れたぐらいだ」
それを聞いて安心した堀河は眼前に見える大型の影の魔物を次の目標と定めた。
地面を蹴って跳躍。空中でブースターを噴射して滑空し、右手に構えた銃剣付きビームアサルトライフルで影の魔物の足を狙う。
ビームの弾丸が影の魔物の足を貫き、その体勢を大きく崩した。傾く影の魔物の頭部を掴んで引き倒す。
地面が砕けて割れ、破片が周囲に飛び散った。影の魔物の胸部に銃剣を突き立てた。苦しみもがく様にして影の魔物は消え去る。
「よし、この調子で僕達が大型の影の魔物を引き受けよう」
地上部隊を守る為、堀河達は大型の影の魔物の方へ走っていった。
〜町・大通り〜
地上部隊と影の魔物が衝突している場所、そこは開けた大通りであった。真っ直ぐに屋敷へと道が続いているがその道中には影の魔物が次々と湧き出している。
薬莢が排出され続ける音が断続的に続く。それは戦闘の過激さを物語っていた。
打ち倒しても打ち倒しても現れる影の魔物。それらはゆっくりとした動作で近づいてくる奴もいれば、飛び掛かるようにして襲い掛かる奴もいた。
しかし一様にして共通しているのはその全てが一定のダメージを与えると、身体を保てなくなり消失する事にあった。
――勝機はないのではない、限りなく……少ないだけだ。
そう思いながら負けのイメージを頭から完全に締め出すと、冷静に。的確に。効率よく影を屠っていく大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)。
機関銃の照準器で影の魔物の一団を狙う。中心辺りに狙いをつけ、トリガーを引いた。次々と弾丸が発射され砲身を赤く熱していく。
降り注いだ銃弾の雨を受け、多くの魔物は地にくず折れて消滅する。
だが、その後ろに数十はいるかという別の一団が見えた、敵は一向に減る気配はない。
「上空からの砲撃支援も期待できない今、ここを抜かれるわけにはいかない……っ!」
本来であれば上空の艦隊、イコン部隊からの援護砲撃、火力支援の類を受けての地上部隊の侵攻が予定されていた。
しかし、上空の艦隊は奇襲を受けほぼ壊滅状態、イコン部隊も艦隊の防衛に手いっぱいで地上を気にしている余裕はない。
希望があるとすれば先程、一機のイコンが降下し大型の魔物を引き受けてくれている事ぐらいであった。
味方の教導団地上部隊も彼と共に敵へ砲火を浴びせながら前進を試みている。状況は一進一退、何か突破口が開けなければ屋敷に辿り着く前に弾薬が尽きて押し込まれてしまうだろう。
崩れた瓦礫を遮蔽物の代わりにしてしゃがみ込むと身を潜めながら機関銃の砲身を魔物へと向ける。掃射。数体の魔物が頭部を吹き飛ばされ掻き消える様にその姿を消した。
「ぐぁっ!」
隣で射撃していた地上部隊の隊員が魔物が放つ影に撃ち抜かれる。咄嗟に彼の服を掴んで剛太郎は地上に引き倒した。直後、彼の頭のあった位置を影が通り過ぎていく。
引きずるようにして瓦礫の内側に彼を運ぶと傷口を見る。黒い瘴気のようなものが傷口から立ち昇り、隊員は苦しみの声を上げた。
(これは、なんだ? 出血しているようには見えない……まさか呪いの類か?)
「衛生兵ーーッ! こいつを頼む……っ!」
後方に控えていた衛生兵が到着し、彼を担いで運んでいく。
剛太郎は彼らが無事後方に退避できるように機関銃を撃ちまくる。近くにいる敵から優先的に撃破し、貫通も考慮して掃射。空の薬莢がごろごろと足元に増えていった。
射撃の振動が腕を次第に痺れさせていく。常日頃から訓練し、銃器の扱いに慣れている彼とは言え限界は近いようだ。寧ろ、彼以外であればここまで連戦はできなかったであろう。
体の悲鳴を精神力で捻じ伏せるとすぐそばに待機しているアネットさんと射撃を代わる。
アネットさんは剛太郎に弾薬を渡し、彼がリロードしている間の射撃支援を担う。敵に向けられた銃口が火を吹いた。
リロードを終えた剛太郎は機関銃を敵に向けなおし、射撃を再開。向かってくる二体の魔物を撃つ。それぞれ胸部に銃弾の雨を浴びた魔物は衝撃で空中に跳ね上がって霧散する。
彼は基本的に撃ち漏らした敵については完全に意識の外に切り捨てている。なぜなら、考える必要がないからだ。優秀なパートナーの存在によって。
剛太郎が撃ち漏らした魔物が爪を振り上げ迫る――が、その爪は届かない。爪が届く前にソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)の刃が魔物を両断したからである。
彼女は空中で家の壁を足場代わりに蹴ると、その勢いのまま突進。空から急襲し大剣の一撃で数体の魔物を纏めて葬った。
地上に滑りながら着地し、大剣でブレーキを掛けると右足を軸に半回転。回転力を生かした回転斬りを放つ。十体以上の魔物が衝撃で空に浮かび上がっては爆ぜた。
「……まだまだいきますわよっ」
大剣を引いて突きの体勢で構えると彼女は剛太郎の機関銃の雨の中を魔物目掛けて猛進する。機関銃の雨は彼女には当たらない。どこに撃つかどう狙うかに限らず、撃つ時の癖をさえも熟知した二人だからこそ成せる連携行動である。
銃弾で足止めされた一団を彼女が一刀の下に斬り伏せる。
二人の前に敵はない、そうとも思える戦いぶりであった。
しかし、二人は気づいている……戦線はそう長くは持たないことを。二人は戦い続ける、突破口が開かれる……その時を信じて。
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