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パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 
パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~  パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 

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 六階・夜灼瓊禍玉の間


 棺のなかで夜灼瓊禍玉が眠らされていた。
「よくわかんないけど、あぶない儀式さんやってるらしいの。だから施設さんに来たんだけど……」
 及川 翠(おいかわ・みどり)が棺をのぞきこんだ。
「……タマちゃんが居るの。タマちゃん、どうして眠っているの?」

「儀式を止めることは大事。だけど、タマのことも大事よね……」
 ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)もまた心配そうに棺をのぞきこむ。ミリアは先日、タマと楽しく踊ったときのことを思い出していた。
「あの時の彼女が、本来のタマだと思うから」
「はい。確かにタマさんは大切な友人です。しかし……」
 ナターシャ・トランブル(なたーしゃ・とらんぶる)の顔にも憂慮が刻まれている。もっとも、ナターシャの心配は夜灼瓊禍玉に対してだけではなく、パートナーにも向けられていた。
「……翠さん達、もしかして儀式の事を忘れてませんか?」
 説得する方針に異論はないが、ナターシャは八紘零の画策に強い危機感を抱いていた。パラミタに災厄をもたらすという血に染まる空。今回におけるミッションの目的は、あくまでも赫空の儀式の阻止にあった。
 ミリアもそれは充分に理解している。最上階に安置された右腕の力を消し去るには、ギフトを殺す方が確実だ。ミリアはその事実を知りつつも、夜灼瓊禍玉を悲しそうに見つめるサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)にこう告げた。
「――サリア、思うように話しかけてみなさい」

「タマちゃんはお友達だもん! 戦うのはダメだよっ!」
 棺に近づいてサリアは訴える。彼女の瞳には、一点の曇りもない友情が込められていた。
 ここは彼女たちの親愛を信じよう――。他の契約者たちは、さらに上の階を目指す。


「やっぱりこうなるわけね……これだから!」
 他の契約者が去るなか、リネン・エルフト(りねん・えるふと)もパートナーと共に留まっていた。
「八紘零! タマたちを好きにはさせないわよ」
 リネンの怒りは発電所が震えるほど激しかった。自分の過去が、夜灼瓊禍玉の今に重なる。かつて犯罪組織に切り捨てられ、処分直前に脱走したときの忌まわしい過去――。
「嫌な昔を思い出しますわね……本当に」
 ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)が、リネンに寄り添った。
「けれど、今のあたしたちには力がありますわ。立ち向かえるだけの力が」
「そうね。ユーベル」
 大切なのはすでに過ぎ去った時間のなかにあるのではない。つらく悲しい境遇にあっても、リネンは“今”を生き抜いてきた。まだ見ぬ“その先”に、より大切な時間があると信じて。
 未来へ立ち向かう力をリネンたちは手に入れた。
 だから、今度はその力で。大切な時が奪われようとしている夜灼瓊禍玉を救いたい。

「目を覚ませ。そして……落ち着けよタマ。大丈夫だ、慌てなくていいんだぜ」
 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が宥めるように棺へ語りかけた。
 傍らでは、ミュート・エルゥ(みゅーと・えるぅ)が八紘零による襲撃に備えている。
 サイバーアイで周囲をくまなく警戒するミュート。ふと、彼女は激しい動きを感知する。
 それは棺の中から発せられていた。
 ガタガタという夜灼瓊禍玉の凄まじい痙攣は、やがて棺ごと揺さぶりはじめる。恐怖に震える彼女の心を表すように、覆っていたガラスの蓋が、粉々に砕け散った。