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そして、物語は終焉を迎える

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そして、物語は終焉を迎える

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「土井竜平さん」
「ああ」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)が言うと、土井竜平が前に出て、メガネをくいと持ち上げた。

「俺の名は土井竜平(どい りゅうへい)。またの名をバー「アーシャル・ハンターズが起こした事件について、いろいろ調べてたんですよね。ちょっと、そのことについて教えてもらえないかしら」……はい」


 土井竜平は息を吐いていくつかの資料を広げた。
「彼女がいつ大陸に来たのかだとか、そもそも、本名や出身なども不明だ。わかるのはスリーサイズとブラのカップサイズ、身長に体重、靴のサイズくらいだな」
「なんでそれがわかるんですか……」
 近くにいたウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)が言う。
「彼女が手を下した事件は大きく二つ、幽霊屋敷のメイドの殺害および人体実験的ななにか、発掘現場においてガス事故に見せかけた発掘作業員の殺害だ。そして、飛行場テロ事件において実行犯の殺害、劇場の事件においても、仲間と思わしきテロリストを殺害している」
「最悪ですねぇ」
 ミュート・エルゥ(みゅーと・えるぅ)が息を吐いて言った。
ドクター・ハデス(どくたー・はです)が関わっていたという件についてはどうなんだ?」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が尋ねる。
「劇場のことだよね。確か、アーシャル本人じゃなく、他のテロリストに関わっていたんだっけ?」
 酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が言う。ゆかりは頷いて、
「彼はどうも、囮に使われたようですね。彼が暴れまわっている間に、対象者と接触、なんとか逃げようと思ったんでしょうが……それこそ、アーシャル・ハンターズ本人の登場でそうはいかなくなった、というところでしょう」
 そう言葉を続けた。
「本人に聞くのが一番早そうだけどな」
 藍華 信(あいか・しん)は言い、
辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)たちに関しては?」
 続けて質問を投げる。それにもゆかりが答えた。
「彼らも同じでしょう。テロリストの護衛をしていたようです。ですが……アーシャルと接触したかった、というのが本音でしょうか」
「そうでしょうね。テロリストが殺される際には止めようともしなかったし」
 ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が続ける。
「ソラも、そのとき接触したのよね?」
 ニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)も言うが、
「ええ。なかなかの――いい女だったわ」
「ソラよだれよだれ」
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)がハンカチを取り出してソランの口元を拭う。
「とにかく……アーシャルと直接関わりがあるというわけではなさそうだな、あの連中は」
 牙竜が言う。
「俺もそう思う。ドクター・ハデスはわからんが、辿楼院は暗殺者だ。アーシャル自身が直接手を下している以上、関わりがあるとも思えない」
「ずいぶんと、そちらの事情にも詳しいようですね」
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は少し棘のある言い方をするが、
「ロリっ子暗殺者は人気がある。写真は高く売れるんだ」
 帰ってきた言葉にそのまま倒れこみそうになった。他にも数人、バランスを崩す。
「と、とにかく関わりはないにせよ、接触している以上、今回も姿を現す可能性は十分あります。出来れば捕獲して、事情を聞きたいところですね」
 ゆかりが無難にそうまとめる。




「フハハハ!我が名は世界征服を企む秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」

 噂のハデスはメンバーの集まった部屋を盗聴していた。ある程度の話を聞こえると、彼は立ち上がる。
「やはり我々を利用していたとは……フハハ、我が組織に目をつけるとはなかなか聡明だが、まさかダシに使おうとするとは。おかげで自爆装置で吹き飛んで、危うく死ぬところだったからな」
 フフ、とハデスは笑う。
「しかし……アーシャル・ハンターズめ! すべての契約者の抹殺が目的ということは、我らオリュンポスもターゲットだということか……?!」
 ハデスはあごに手をやって考え込む。
「我々の計画を阻む不確定要素は排除しなければならぬ。奴らはまずアーシャルを狙っている……利用価値はありそうだ」
 そこまで口にし、ハデスは高らかに笑う。
「フハハハ! どんな野望かは知らないが、我々オリュンポスを倒そうとするなど愚の骨頂! そのようなことは断じてさせん……はぅっ!」
 と、ひとり高らかに主張しているハデスの首筋に【局所戦闘術】による手刀が振り下ろされ、ハデスは意識を失った。
「やれやれ、ハデス君の短慮にも困ったものです。本当にアーシャルさんがすべての契約者を殺せる手段を持っているなら、僕達の世界征服のために利用しない手はないというのに」
 手刀を放ったのは天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)だ。彼は気絶したハデスを静かに見下ろし、呟くように言う。そして、ハデスが使っていた盗聴器に耳を向ける。
「ずいぶんと人が集まっているようですね……このままでは、アーシャルさんも戦力的には厳しいでしょう。手を貸せるようなら、そうしたほうがいいでしょうね」
 そう言って十六凪は【ユニオンリング】を取り出す。
「彼女の抹殺対象から、どうにか僕たちを除いてもらえるよう、交渉いたしましょう。ハデス君、それでは、体をお借りしますよ」
 そう口にし、十六凪はハデスと合体し、外見上はハデスの体となりながら立ち上がった。





2、崩れゆく洞窟の中で




「……ダメですね。こちらの通信機も壊れてしまいました」
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は雑音しか流れてこない通信機を見て息を吐いた。
「洞窟って、いくらなんでも道があり過ぎでしょう。どっちに行けばいいのよ」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)も息を吐く。
 彼女たち二人は他のメンバーと行動していたのだが、地震とそれによる落盤により他のメンバーとはぐれてしまっていた。それからなんとか合流しようと歩いていたが、持ち前の方向音痴がこの状況で出てきてしまい、壮絶に迷い込んでいた。
 そして最後の頼みの綱、アデリーヌの通信機も音を発すのをやめた。八方塞とはこのことだろうか、と、二人して息を吐く。
「二人っきりですが……喜べる状況ではないですね」
「そうね。いくら恋人と二人きりでも、こんな状況で喜べる人はさすがにいないでしょ」



「くしゅんっ!」
「どうした歌菜、いきなり」
「なんか急に……噂でもされてるのかな」



 とはいえ、止まるわけにはいかない。
 幸いにも近くにモンスターなどはいなかったため、怪しげな雰囲気を避けるようにも、進んでゆく。人数的に追い詰められたら終わりのため、逃げ道は一応、確保しつつ進む。
「待って、音がしない?」
 しばらく右に左に歩き、だんだんと足が進まなくなっている最中、さゆみが小さく声を上げる。
「幻聴……ではないですね」
 アデリーヌも耳を澄まし、少しずつだが近づいてきた足音に気づく。話し声も聞こえるし、明かりも見えてきた。
「助かった……」
 少しずつ近づいてきた人影に、さゆみは安堵の声を上げたのだが、
「大丈夫か、SAYUMIN」
「SAYUMINさん!」
「あまり助かってはいないようですね」
 近づいてきた人物が土井竜平、そして、皆口虎之助だと知るとアデリーヌがそう口にした。
「……いきなり失礼だな。安心しろ。俺たちだけというわけじゃない」
 言って、少し後ろを指差す。
「さゆみさん! ご無事でしたか!?」
 そこには数人のメンバーがいた。その中のひとり、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が二人に駆け寄る。
「さゆみさんたちがはぐれたって聞いて、心配してたよ。見つかってよかった」
 酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)も二人に近づいてきて言う。彼女が引き連れていた【バラミタドーベルマン】たちが、わんわんと大きく鳴いた。酒杜 陽一(さかもり・よういち)が、通信機に向かって「さゆみさんたちを見つけたよ」と声を出していた。
「この洞窟はどうなっているんだい? さっきから地震みたいな揺れがあって、実に不安定だ」
 長曽禰 ジェライザ・ローズ(ながそね・じぇらいざろーず)が声を出す。
「前に来たときはこんなことなかった。モンスターがアンデット化しているって話にもあるように、アーシャル・マクレーンのせいだろうね」
 陽一は答える。
 そうしている間に、フレンディスは水筒を取り出してさゆみたちに渡した。「ありがと」とさゆみは言い、水筒の水を口に含む。「いえいえ」と答えるフレンディスは、【バラミタドーベルマン】たちと並び、耳と尻尾がぴこぴこ揺れていた。
「陽一さんも、ここに来たことが?」
 さゆみは水筒をアデリーヌに渡して言う。
「お宝の噂に惹かれてね」
 陽一は冗談めかして言う。
「アンデット化したモンスターねえ……人間の姿をしてない分、やりやすいっちゃー、やりやすいけどな」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は前回の戦いを思い出して言う。
「アンデットか……つまり、もう死んでる、ってことだよね」
 ジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)は思うところあるのか、あごに手をやってそう言った。
「だからこそ、完全に消滅させないといけない分厄介だよ。俺たちは、蜃気楼とも戦わないといけないんだ」
 陽一はそう口にする。ほんの少しだけ、場が沈黙した。
「陽一さん、例の蜃気楼、どの程度の強さなんです?」
 同行しているウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)が尋ねる。
「悔しいが、私らはドクター・ハデスたちとの戦いで手一杯だったからのう。直接刃を交えたわけじゃないのじゃ」
 ファラ・リベルタス(ふぁら・りべるたす)が言葉を続ける。
「私も聞きたいわ。その噂の蜃気楼とやら」
 ルナ・リベルタス(るな・りべるたす)は、今までの事件の際には参加していない。ファラやウィルからある程度話は聞いているが、やはり、刃を交えたものの言葉を聞きたいようだ。
「数人で一斉攻撃して、やっと効果があった、ってくらいかな。一対一では、攻略は難しいと思う」
 歩きながら、陽一は口にする。
「それが二体いるんだからね。とっても厄介。だからこそ、今回も持ってきたよ、お兄ちゃん」
 美由子が口にして、どこかへポーズを取った。
「じゃじゃーん! 今回も、【商人の切り札】で、武器を持ってきたよ! 今回の美由子プレゼンツ、VS蜃気楼の秘密兵器は、これだよ☆」
「なにが始まったんだっ!?」
 いきなり始まった謎コーナーに、陽一も少し引く。竜平たちはばしゃばしゃと写真を撮りまくっていた。
「ももも、もしかして前回のアレ!?」
 ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)がロゼの後ろに隠れて口にする。
「あのムカデかあ。あれはすごかったなあ」
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)も思い出して口にするが、
「今回は大百足じゃないんだ。はい、お兄ちゃん、【終焉剣アプソリュート】」
 言って、美由子は剣を渡す。
「【アブソリュート】か。足止めにはちょうどいいかもな」
 受け取って、陽一は礼を言う。冷気の力を秘めたその剣は、青白く光っているようにも見えた。
「いちお、大百足もあるけど?」
 前回活躍した、ムカデの姿となる剣を取り出すと、「ギャー」とアリアクルスイドが身を隠した。
「状況によっては、かな。どうなるかわからないから、とりあえず持っててよ」
 陽一が言うと、「わかった」といって美由子は【三上山の大百足】をしまう。
「そういえば、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は捕まってないんだっけ」
 涼介がふと思い出して口にした。
「いろいろ探したのじゃが、どこにも見つからず、じゃ。奴の性格からして、おそらくは逃げたんじゃろうな」
 ファラが答える。
「あの人にはいつも困らされるね……」
 ロゼがそう口にし、
「でも、彼のことだ。あの程度でくじけるとは思えないよ。さっきも話してたけど、やっぱり今回も、アーシャル・ハンターズと手を組んでいると思ったほうがいい」
 そう続ける。
「ということは、また戦うことになるかもしれないんですね」
「今度は遅れは取らぬぞ、ウィル」
 ウィルとファラが続けて口にする。
「そうだな……でも、のんきに会話している状況じゃねえな」
 ベルクが口にし、全員が周りを見回す。怪しげなシルエットが、周囲から近づいてきていた。
「アンデットのモンスターっ!?」
 アリアクルスイドは叫んだ。
「そうみたいだな……」
 陽一が、さっそく渡された剣を構える。
「三方向からだ。それぞれ数人で足止めしよう。あまり戦力を割きたくない」
 言って、ひとつの道の前に立ち、【プロボーク】を使って敵の目を向けさせる。
「ようするに雑兵の数減らしってことね。分かったわ」
 ルナは陽一の隣に立つ。
「アンデッドに改造されたような者達と戦うのは気が咎めるが……仕方あるまいな」
「少しでも早く敵を倒します。涼介さんたちは進んでください」
 ファラとウィルは、もう一方の道へ。
「ジブリールさん。無理を承知でのお願いですが……この小刀を使って下さいまし。効果は解っているやと思います」
 最後の道の前に立ったジブリールに、フレンディスは声をかけた。
「フレンディスさん……この刀をオレに貸すって事は、”殺す”のではなくて”救済しろ”って意味だよね?」
 ジブリールは手にした【小太刀・煉獄】を目にし、言う。フレンディスは静かに頷き、
「……決して無理をしないで下さい」
 そう言葉を繋ぐ。
「うん……任せてよ。オレは大天使の名を持っているからね。ここでアイツらを助けられないようじゃ、名前負けしちゃう」
 剣を手のひらで回し、ジブリールは答えた。
「ま、さっさと片付けちまわねぇとな。ジブリール、いくぜ」
 ベルクも杖を構えて前に出る。ジブリールも頷いて、剣をしっかりと握り、身構えた。
「みんな、無理だと思ったら引くんだよ」
 ロゼが言い、涼介を先頭に、残った別の道へと進んでゆく。それを見送って、それぞれの道に立った戦士たちが、ゆらゆらと歩いてくるアンデッドモンスターへと駆けて行った。