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リアクション
「七夕で夜通しイベントとは楽しい事考えるじゃん。ただ、何か悪戯を仕込んでいるかもだけど……まぁ、早期に見抜いて排除すれば問題無いかな」
「彼らの手口は周知済みですからね」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)はすっかり主催者である双子の対応も手慣れた様子であった。
「七夕イベントだから笹に願い事を書かなきゃ」
「そうですね」
そう言うなり二人はさらりと短冊に願い事を書き終え、笹に飾り七夕における最大のイベントをさっさと終わらせた。
「願い事も終わったし後は双子を弄りに行くかな。短冊に何を書いたのか興味あるし」
「……何となく予想はつきますが」
エースとエオリアは双子とロズを捜しに行った。まずは手近の場所からと言う事で浜辺から。仲睦まじく七夕デートに興じるメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)とリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)に声をかけてから双子達を捜しに行くも浜辺にいたためすぐに発見する事が出来た。丁度、双子は美羽達と飾り付けをし終え別行動をしていたロズと合流したばかりであった。
浜辺。
「いつもと変わらず元気そうですね」
「やぁ、三人は短冊に何書いたの?」
エオリアとエースはいつもの調子で双子に声をかけた。
途端、
「!!」
聞き知った声に驚き、動きが止まった。
「そんなにびっくりしなくとも」
「何もしませんよ」
エースとはエオリアはいつもと変わらぬ反応に苦い笑いを浮かべながら言った。
「何なんだよ」
「本当にさっきから、何もしてねぇのに注意ばっかされるし」
双子は何か言われる前に文句を垂れた。これまでにシリウスや北都に散々釘を刺されたので。
「いいじゃありませんか。気に掛けられてるという事で」
エオリアは柔和な笑みを浮かべ双子を宥め
「それで、何書いたの?」
エースは再度同じ質問を繰り返した。
「発明とか悪戯が成功しますようにと、説教されませんようにと」
「ロズの研究が進みますようにと、ロズが幸せになりますようにと」
双子は飾ってある笹を見ながら答えた。
「……これからも三人でいられますようにですか」
エオリアは双子の五つ目の願い事を発見し、口に出した。
「いい感じだろ?」
「全部の笹に願いとか飾りとか吊して回るんだ」
双子は訳も無く誇らしげであった。
「それはいいと思うけど、説教云々は叶えて貰えないと思うよ。毎度自業自得だし」
エースが正論を挟む。
「それは……」
「余計な事言うなよ」
正論の指摘に双子は言葉が濁ってしまった。
「……懲りないですね」
双子の馴染みの様子にエオリアは微笑ましく見て
「で、ロズは?」
エースはロズにも双子と同じ質問した。
「……これだ」
ロズは自分が書いた短冊を見せた。
そこには
「双子が幸せになるようにと三人で一緒にいられますように、か。もっと双子みたいに欲張ってもいいと思うけど」
自分だけの願い事はなかった。
「いや、これで十分だ。皆のおかげで自分が切っ掛けとなった問題は解決し先の生き方も見つかった。酷い騒ぎを起こした自分にとってはすでに十分だ」
ロズはこれまでの事、エース達も関わった様々な騒ぎを振り返り感慨深げに答えた。
「……そうですか」
エオリア。この時にメシエ達が食べ歩きに行く旨を伝えに来た。エース達はまだ話が終わっていないため同行は断った。
再び話は戻り
「で、そっちはどんな願い事を書いたんだ?」
今度はヒスミがエース達の願い事を訊ねた。
すると
「まずはまだまだパラミタで楽しく暮らせますようにって書いたよ。実家からそろそろ戻って欲しいとか連絡が来ているんだよね。どうしても重要な決裁書類とかはこちらで処理しているもんだから。地球に戻って人脈広げて……って重要性も良く解っているけどさ。まだもう少し、自由を楽しみたいから」
エースは願い事と理由を語った。
「自由にか」
「分かる、分かる」
双子は激しくエースの理由に同意を示していた。
「で、そっちは?」
キスミが残ったエオリアの願いを問いただした。
「皆が健やかに暮らせますように、と地球との行き来がもっと便利になりますようにと書きました。まだ色々と日数かかるので地球上の国とほとんど変わらない時間で移動出来たら、もっと便利に過ごせると思うので。何より地球の食材とかも取り寄せて美味しいお菓子が作れるじゃないですか」
エオリアも解説付きで願い事を教えた。
「お菓子って、論点、そこ?」
思わずエースがツッコミを入れた。
「えぇ、そこです」
エオリアはあっさりと切り返した。
「お前のお菓子美味しいもんな」
「その種類が増えるのはいい事だ」
エオリアの美味しいお菓子を知る双子は賛成した。
ここで
「そうそう、聞き忘れる所だったけど今日はどんな悪戯仕掛けたの? 怒らないから、言ってごらん。正直に話したら、かき氷買ってあげるから」
エースは話題を双子にとって振れて欲しくないものに進路を変えた。
「言うわけ無いだろ」
「そもそも言ったら悪戯にならねぇだろ」
口を尖らせ、激しく反抗。
「そう来るか、だったらお好み焼きもつけるよ?」
エースは小さな子供でも相手にするかのように接する。
「……」
エースのおちょくりにむぅとする双子。
それを見るなり
「悪戯の事はさて置き、一緒に屋台も巡ろうか」
エースはカラカラと面白そうに笑って食べ歩きに誘った。完全に双子をからっている。
「……って、からかったのかよ」
「何だよ、全く」
弄られたと気付いた双子は不満顔になるもエース達の誘いを受け、仲良し夫婦が経営する海の家に向かった。
そこで美味しい時間を過ごした後、双子は全部の笹に願い事を吊すという目的のためにエース達と別れた。エース達はあちこち食べ歩きを楽しんだという。
「綺麗ねぇ……そう言えば、七夕って年に一度織姫と彦星が出会う夜の祭典だったわねぇ。ロマンチックで素敵よね」
天と海に広がる美しい星空に見惚れる浴衣を纏ったリリア。
「君はこういうイベントが好きだね」
リリアのように声に浮かれた様子は見られないがメシエはしっかりと浴衣を着て楽しんでいたり。
「そうね。隣に愛する人がいたら余計にね」
リリアは振り返り、笑顔を向けると共にいつの間にか調達しておいた短冊をメシエに差し出した。
「……」
じっとリリアの手にある短冊を見つめるメシエに
「私も書くからメシエも何かお願い事書いて」
リリアは可愛くお願いをする。
「……仕方無いね」
リリアのお願いを受けては断れないメシエは短冊を受け取った。
そして二人はそれぞれ願い事を書き始めた。丁度、エース達が双子捜索に出る旨を伝えに来た時だ。
「……(……願い……リリアがずっと幸福な笑顔で過ごしますように、という所かね)」
メシエは存外すぐに書き終えた時、
「私も書き終えたわ。メシエといつまでも笑って過ごせますようにって」
リリアは書き終えた短冊を見せながら笑んだ。
「……短冊飾りは付けてあげるよ」
メシエは短冊を受け取ろうと手を出すと
「ありがとう、メシエ。私はもう少し飾りを追加するわ。賑やかな方がいいから」
リリアは短冊を託し、星飾りを作り始めた。
「高い所に飾る方が願い事が叶う気がするからね(何より高い場所なら他の人に読まれにくい)」
メシエは自分とリリアの短冊をなるべく高い所に吊し、
「……(こうしてメシエと結婚して七夕を迎える事が出来るなんて……織姫と彦星は会える時以外は離れ離れなのよね……それなら私達の子供として降りて来てくれれば、ずっと一緒に過ごせるわよ)」
リリアは天の川を眺めながら大量の飾りを作り
「気が向いたら、私達の所へ来てね」
にこにこしながら笹に飾っていった。
飾り終えた二人は双子達と長くなりそうなやり取りをしているエース達に一言を言い置いてから
「メシエ、久しぶりの食べ歩き楽しむわよ」
リリアはメシエの腕に自分の腕を絡ませ、可愛らしい笑顔で見上げた。
「……君の大好きなミニカステラも、他に食べたい物があるなら買ってあげるよ」
メシエは可愛い妻の笑顔にほのかに口元をゆるめた。
「それならたっぷりとおねだりしちゃうから」
リリアは嬉しそうに甘えっ子になった。
二人の食べ歩きはミニカステラからリリアが飲みたいと興味を持った冷やし飴から始まり、たっぷりと楽しんだ。最終的に浜辺に戻り仲間と共に花火を楽しんだ。
買い食いの最中。
「何で外で食べるとこんなに美味しいのかしらね」
リリアはすっかり食べ歩きをエンジョイしていた。食べた物はどれもこれもいつも以上に美味しく感じる。
「……一休みにでも少し夜空を見上げて楽しまないかい」
メシエは何気なく星空鑑賞に誘った。
「そうね。七夕祭りだし」
リリアはにこにこと幸せそうに誘いを受けた。
夫婦は仲良く腕を組んで屋台の明かりから離れた。
星空の下。
「……綺麗ねぇ」
リリアは夜空を見上げ、美しい瞳に星を映した。
「いつまでもこの美しい星空が楽しめるといいね」
メシエが星空よりも愛おしく瞳に映したのは自分を独りにしないリリアの横顔だった。
「大丈夫よ。だって、短冊にお願い事したんだから」
リリアはメシエに笑いかけた。
二人はしばらく寄り添い、星空を見上げていた。その姿は誰が見ても素敵な夫婦そのものであった。
最後は浜辺にてエース達はメシエ達とも合流し到着直後にエースが購入しておいた花火を楽しんだという。
「……綺麗ね、メシエ」
「あぁ、悪くないね」
リリアとメシエは寄り添い仲良く花火を楽しみ、
「星空の下で花火するとより綺麗に見える気がしますね」
エオリアは手元の花火と星空を楽しみ、
「あぁ、このままずっと皆で楽しく過ごしたいね……何か夜の海って少し物悲しい雰囲気、あるよね」
エースは少し感傷的になってしまったり。
ともかくたっぷりと七夕祭りを楽しんでいた。