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学生たちの休日16+

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    ★    ★    ★

「ただいま〜です」
「お帰り、千代。夕飯できてるぜ」
 キマクのサルヴィン川近くにある白亜の新居で、セシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)を出迎えました。エプロンがやけに似合っていて、なんだか主夫しちゃっています。
 先だって結婚したばかりの新婚さんな二人ですが、まだ共働きなので御茶ノ水千代はコンロンへと出むいていて、キマクへ戻ってくるのは週末の休みだけです。
 そんな妻のためにセシル・レオ・ソルシオンはこの新居を買ったわけですが、ちょっとした小さなお城風の外観でとても喜んでもらえた次第です。本宅というか、本拠地としては大型飛空艇のエル・ソレイユがありますが、そこはやはり新婚ですから、二人っきりになれる場所があった方がいいに決まっています。
「今夜は手鞠寿司と、精のつくニンニクダレの冷やし中華素麺だぞ。さあ、そんなとこに突っ立ってないので、早く中に入った入った」
 セシル・レオ・ソルシオンが、ちょっと御茶ノ水千代を急かしました。
 御茶ノ水千代としては、せっかくの新婚さんなので、お帰りなさいのチューぐらいはあるかと期待していたものですから、少しがっかりしています。
「はーい」
 残念そうに靴を脱いで家に上がろうとしたときです。唇に暖かくて柔らかい感触がありました。ふいをついて、セシル・レオ・ソルシオンが時間差お帰りキスをしてきたのです。
「油断大敵」
「んもう、ばか……」
 してやったという顔のセシル・レオ・ソルシオンに、御茶ノ水千代が顔を赤らめて夫の背中を叩きました。
 食事もお風呂も二人一緒。独身のころと比べたら、とても大きな変化です。
「でも、じきに三人になるさ。いや、三人はほしいから、結局五人かな?」
「うん、頑張る」
 食後にソファーでセシル・レオ・ソルシオンにだきかかえられるようにされながら、御茶ノ水千代が答えました。

    ★    ★    ★

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! ククク、いよいよ、この俺も最終形態にパワーアップする日がやってきたようだな!」
 キマクにある採石場の一番高い所に仁王立ちになったドクター・ハデスが、白衣の裾を音をたててはためかせながら大声で言いました。すり鉢状の採石場に、その声が反射して響き渡ります。
 それを聞くのは、100人のノーマル戦闘員たちでした。
 この場所で特訓さえ行えば、絶対に新たな力に芽生えます。そう、お約束という名の特殊な儀式です。これによって、創世クラスの力を持つ悪の科学者にパワーアップしようというのでした。
 すでに、オリュンポス特戦隊との岩石落としや、スイング丸太や、竹槍ミサイルなどの特訓を済ませてあります。よく見ると、着ている白衣も裾が破けてぼろぼろで、ところどころ血反吐がこびりついた物でした。いかに、今まで厳しい特訓をしてきたのかが物語られています。
「そして、最後の仕上げだ。100人組み手。さあ、遠慮なくかかってくるがいい。この試練を乗り越えたときこそ、不撓不屈の精神で俺は生まれ変わるのだ。出でよ、カウンター!!」
 ドクター・ハデスがそう言って手を翳すと、彼の頭の上に000という数字が浮かびあがりました。
「ゆくぞ!!」
 ドクターハデスが坂を駆け下りていくと、待ち構えていた戦闘員たちが一斉に襲いかかってきました。
 パンチ一閃!
 ドクター・ハデスが吹っ飛びました。頭の上のカウンターが001に変化します。
「まだまだあ!」
 そう叫ぶドクター・ハデスに、戦闘員がフライングキックを見舞いました。吹っ飛ぶドクター・ハデスに、別の戦闘員が踵落としをしかけて地に沈めます。
 カチカチ。
 カウンターが003に上がりました。
 どうやら、この頭のカウンターは、ドクター・ハデスが戦闘員を何人倒したかではなく、ドクター・ハデスが何回ダウンしたかをカウントする物のようです。
「ま、まだだ……」
 ゆらりとドクター・ハデスが立ちあがります。そこへ、戦闘員がチョップを浴びせかけてきました。
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「ふっ、このカウンターが100となるとき、俺は何者にも負けない強靱な力を手に入れるのだ!」
 悪の科学者であるべき者は、やられてもやられても復活してこなければいけません。勝つことはできなくとも、負けて死ぬことは最終回まで許されないのです。雑魚や中ボスであれば途中退場もあるかもしれませんが、ラスボスとなるのであれば、最後まで生き抜くだけの強靱な肉体と精神が必要です。
 そのための、これは100人斬られの特訓でした。
「さあ、かかってこいやあ!!」
 ドクター・ハデスの言葉に、戦闘員たちがよってたかって、フルボッコにしました。頭の上のカウンターがどんどん大きくなっていきます。
 はたして、100は達成できるのでしょうか……。

    ★    ★    ★

 ここはアトラスの傷跡近くにできた遊園地です。
 何やらたくさんのチラシをかかえたキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)が、遊園地で遊ぶ人たちにむかってチラシを配っていました。
「何々、何かのサービス券?」
 たまさか遊園地に遊びに来ていたチラシを受け取ったデクステラ・サリクスが、興味津々に言いました。
「なんだなんだ、ろくりんぴっく?」
 チラシに書かれた文字を読んだシニストラ・ラウルスが首をかしげます。
「今年は、ろくりんぴっくの年のはずネ。でも、まだアナウンスないヨ。なので、ろくりんぴっく開催に賛同してもらうためのチラシなのネ」
 キャンディス・ブルーバーグが言いました。
 ヴァイシャリーにいる茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)の所を離れて、人が多そうなここキマクの遊園地で地道に宣伝活動を行っているというわけです。
 実際、今年はろくりんぴっくの開催年なのですが、世界情勢が激動のため、全世界規模の催しが困難となっています。現在、それをおしてでも開催にこぎつけられないかと、関係各位が努力中ですが、まだ結果は出ていません。
 そのため、開催にむかって少しでも力になれればと、ろくりんぴっくのマスコットらしいキャンディス・ブルーバーグが頑張って宣伝活動を行っているというわけです。
「ふーん」
 適当に聞き流すと、シニストラ・ラウルスはデクステラ・サリクスを連れていってしまいました。
「負けないネ。これがろくりんぴっく精神ネ
 めげることなく、キャンディス・ブルーバーグがチラシ配りを続けます。
「ろくりんぴっくかあ、懐かしいよね」
 立ち止まってチラシをもらった秋月 葵(あきづき・あおい)が、じっくりとその文面を読みました。
「こらあ、あたしの遊園地で勝手にチラシを配らないでよ!」
 そこへ、魔威破魔 三二一(まいはま・みにい)が駆けつけてきました。
「でも、これもろくりんぴっくのためネ」
 チラシを持って、これは必要な行為だとキャンディス・ブルーバーグが言いはります。
「ろくりんぴっくねえ……。ここも競技場に使ってくれないかなあ。プールとか結構あるし……。まあいいわ、お客さんの邪魔にならないようにやってよ。迷惑かけたらすぐにつまみ出すからね」
「分かったネ」
 なあなあで認めてくれた魔威破魔三二一に、ぬぼーとした返事をすると、キャンディス・ブルーバーグはチラシを受け取ってくれる人を求めてジェットコースターの方へと移動していきました。
「ああ、すいませんお待たせしちゃって」
 キャンディス・ブルーバーグの許から戻ると、魔威破魔三二一がエステル・シャンフロウ(えすてる・しゃんふろう)たちに謝りました。いきなりチラシ配りが目についたので、案内からいったん離れて注意しにいったのです。
「いいえ、お仕事御苦労様です。盛況のようで、一安心ですわ」
 エステル・シャンフロウが、ニッコリと微笑みました。
 何度か遊びに来るうちに、ここを気に入ったエステル・シャンフロウが、スポンサーとして出資することになったのです。
 まあ、とは言っても、財源はデュランドール・ロンバスのカンパニーがほとんど請け負っているわけですが。
「ねえ、そろそろ遊びに行っちゃってもいいですかあ?」
「いいですよね?」
 堅苦しい視察はもう飽きたと、ニルス・マイトナーフレロビ・マイトナーが、エステル・シャンフロウに訊ねました。
「こら、君たちは、姫の護衛だろう」
 デュランドール・ロンバスの雷が落ちる前に、グレン・ドミトリーが釘を刺しました。
「まあまあ、私もそろそろ何か乗りたい気分ですし」
 とりなしつつ、一番遊びたそうにエステル・シャンフロウが言いました。
「だったら、新しく作ったアトラクションがありますからそちらへ行きましょう」
 そう言うと、魔威破魔三二一がエステル・シャンフロウたちを案内していきました。