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夏祭りの魔法

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夏祭りの魔法
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「やー、ののちゃん、今日は一日お疲れ様!」
「こちらこそ、お疲れ様。一日本当にありがとうね」
 レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす) は、やっと仕事から解放された喜びとともに、ののの隣に寄り添って、一緒に花火を楽しんで居る。
 夏祭りの手伝いを買って出たレオーナは、今日は一日屋台で調理を行っていた。そのほかにも設営や後片付けなど、何くれと真面目に真面目に働いた――のののために。
「ののちゃん、そっちの花火とって貰って良いかな」
「これ?」
 そしていよいよ、レオーナにとっては本日のメインディッシュタイム、というわけだ。
 レオーナはわざとののに花火を取って貰うと、一緒にやろう、と微笑んで取って貰った一本を二人で持った。
 自然、肩と肩がぴたりと密着する形になり、二人の距離がぐぐっと近くなる。
 なお、よい子は危険なので真似をしないように。
「綺麗だねー」
 レオーナとの距離の近さについてはあまり気にする素振りのないののは、二人の手の中で燃えている花火を見詰めている。赤やオレンジの炎に照らされて、暖かな色に染まっているののの顔を見詰めていると、ののがふと気付いてレオーナを見る。
 視線が絡んだ。
「ののちゃん……あなたは大変なものに火を点けてしまいましたね……私の、心です」
 どこかで聞いたような台詞と共に、レオーナはののの顔に自分の顔を近づける。
 周囲の喧噪も、今だけ二人には聞こえなくて、あ、とののが思った頃には、二人の唇が触れあっていた。
 おっと、と弾かれたように体を離すと、レオーナはしまった、という顔をした。
「ええっと……ごめん、つい、妄想が具現化してしまって」
「あ、ああいや、良いんだけど。びっくりしたっていうか。こっちこそごめん、なんか、嫌がったみたいだったよね」  嫌じゃなかったんかいー、と突っ込みそうになるのを堪えて、レオーナはもう一度ごめん、と頭を下げる。
「あ、謝んないでいいって。ほんと、全然私そういうの気にしないし。ただほんとにちょっぴりびっくりしただけで」
 ほら、とののはレオーナのおでこにちゅ、と唇で触れてやる。
「ね、全然平気」
「ののちゃんっ!」
 レオーナは弾かれたように顔を上げて、ぎゅっとののに抱きついて来た。
「私、ののちゃんとはずっと仲良くお友達で居られるといいなって、思ってるの」
「うん」
 ののは笑顔でレオーナの言葉を受け止める。
「もし私がセクハラ魔でも……友達でいてくれますか?」
「もちろん! あー、でも、流石にちゅーは」
「ダメ?」
「宣言してからでお願いします」
「宣言すればいいの?!」
 思わず突っ込むレオーナに、ののはぷっと吹き出した。釣られてレオーナも笑い出す。
 どうやら二人の間には、固い友情が芽生えたようだ。



 花火大会もすっかり終わり、人々は三々五々帰途に着いた。
 ただ、辺鄙な場所であることもあり、帰りの交通手段が無いなど、事情がある人には客間を開放している。
 数組が一夜の宿を借りているうちの一組が、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の二人だ。
 アイドルとして超多忙な日々を過ごす二人は、たまには休みを取らなくては過労死する、と今日の休みをもぎ取ってきた。
 今日は一日、お揃いの浴衣を着て、買い食いをして、射的に輪投げに金魚すくいに、と、普通の女の子として思いっきり楽しんだ。模擬結婚式にも顔を出したし、ついでに花火も堪能した。
 沢山はしゃいで、思い出を沢山残した。
 それは、さゆみが死んだ後も生き続ける最愛の人、アデリーヌの為。
 人間と吸血鬼では、生きる時間の長さが、あまりにも違う。だからせめて、二人の思い出だけは沢山たくさん、残してあげたい。
 さゆみはシャワーを借りた後、一糸まとわぬ姿のままでベッドに身を投げた。柔らかな布団が心地良く、一日の疲労感を包み込んでくれる。
 その隣には、アデリーヌの姿もある。
「ね、今日は楽しかったわね、アディ」
 射的や輪投げで無邪気に競い合ったことや、美味しいものをたくさん食べたこと、一つ一つ思い出しながら、さゆみはアデリーヌの指に自分の指を絡める。
「ええ、とても」
 アデリーヌはそれに答えるように、絡められた手を引き寄せるようにして、さゆみと肌を合わせた。
 楽しかった、と語る割に、さゆみの表情には影がある。
 その影の正体を知っているアデリーヌは、たださゆみを抱きしめるしか出来ない。
 いつかは寿命によって引き裂かれてしまう自分達。今日一日、必要以上にさゆみがはしゃいでいたのも、その不安を誤魔化すためだろう。
 ――互いを思いやる気持ちが互いの心に影を落としていることに、二人は気づいて居ない。
 けれど、そこに揺るがぬ愛があることは、疑いようのないことだ。
「ねえ、アディ……」
 何かを言いたそうに、さゆみがアデリーヌの頬に手を添える。
 そのままゆっくりと唇が合わさる。言葉にならない不安な気持ちが、合わさった唇からアデリーヌへと伝わっていく。
 初めは触れているだけだった唇がやがて、深く絡み合い始める。
「さゆみ……今はただ、わたくしだけを愛して……」
 恋人の不安をなだめるように、アデリーヌはさゆみの上に覆い被さる。自分だけしか見えないように。自分だけしか感じることのないように。喩えひとときでも、愛しい人の不安を消してあげるために。
 さゆみはこくりと頷くと、アデリーヌの首に抱きつくようにして、二人の距離をゼロにする。
 今はただ、触れあっている肌だけを感じていたい。
 シーツの隙間に溺れて、二人は朝まで睦み合っていた。