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リアクション
【十一 勝利の行方】
いよいよ、夏のS−1クライマックスも残すところ、あと一試合のみとなった。
決勝に勝ち上がってきたのは、涼介・フォレストと魔女っ子ヒート・ろざりぃぬ。
順当といえば、これ程までに順当といえるカードも、そうそう無いだろう。
この決勝戦では、ランバージャック・デスマッチ方式が採用される。
つまり、選抜予選で敗退した選手達がリングの四方を取り囲み、涼介、若しくはろざりぃぬが場外に落ちた際には、すぐさまリング内に押し戻すという形式である。
「ヒャッハーッ! 俺様んとこに落ちてきたら、一発二発は覚悟しなッ!」
場外の一角で炎魔人魔異都が嬉々とした声を放つと、別の一角ではグレート・ザ・極道が口に含んだ海水を上空に向けて、毒霧よろしく盛大に噴射している。
更にオクトパスマンなどは、ろざりぃぬが落ちてこないかと手ぐすね引いて待っており、落ちてきたら色々やってやろう、などとけしからん発想に悶々としていた。
しかし、真面目に押し戻し役を担当している者の方が多いのが、救いといえば救いだろう。
少なくともジェイコブ、ミルディア、コア、シャナ、ライゼといった面々は炎魔人魔異都やグレート・ザ・極道、オクトパスマンを監視する役割も自らに任じており、決勝戦という神聖な戦いを決して邪魔させないようにという意識を、強く持っていた。
ルーシェリアと悠里の超セクシーラウンドガールがリング上から退き、いよいよ、決勝戦の開始である。
既に涼介とろざりぃぬはリングインを果たしており、後はレフェリー正子がゴングを要請するのを待つばかりであった。
「これで最後だ。悔いが残らぬよう、大いにプロレスを楽しもう」
「どっちが勝っても、恨みっこ無しってことで、ね」
涼介とろざりぃぬが握手を交わした直後、ゴングが鳴った。
序盤は矢張り、グラウンドの静かな展開から始まった。
が、それも数分と持たず、徐々に技のレベルを双方共に上げてゆく。
まず涼介が、フライング・クローズラインでろざりぃぬを弾き飛ばすと、ろざりぃぬはトップロープ越しに場外へと転落した。
「ヒャッハーッ! 来たぜ来たぜ来たぜーッ!」
「スミスミスミーッ!」
場外の砂浜で尻もちをついているろざりぃぬに、炎魔人魔異都とオクトパスマンが殺到しようとした。
ところが。
「えぇい、やめんかッ!」
「折角の決勝に、つまらぬ水を差すんじゃないッ!」
コアとジェイコブがそれぞれ、炎魔人魔異都とオクトパスマンの前に立ち塞がり、両者揃っての強烈なラリアットをぶちかましていた。
その間に、ミルディアとライゼ、シャナの三人が駆け寄ってきて、ろざりぃぬをリング内へと押し戻す。
ただひとりグレート・ザ・極道だけは、リングサイドの反対側に陣取っていたこともあって、手持無沙汰のまま、この一幕を眺めているだけに終わった。
結局、炎魔人魔異都とオクトパスマンはコアとジェイコブにその場でKOされてしまった為、代わりにルカルカと菊がリングサイドに入ることになった。
「だから最初っから、ヒールは入れない方が良いっていったのに……」
「まぁ、試合はまだ始まったばかりさね。ここから、しっかり役目を果たしゃあ良いさ」
呆れるルカルカに、菊は苦笑を浮かべて小さく肩を竦める。
一方、炎魔人魔異都とオクトパスマンはリングサイドの観客席に押し込まれ、パイプ椅子に座らされた上で全身を縄でぐるぐる巻きにされてしまった。
菊がいうように、試合はまだまだ続く。
今度はろざりぃぬが、お返しとばかりにロープ際でバックドロップを仕掛け、涼介を場外に放り出した。
涼介が落ちる先は、丁度、グレート・ザ・極道の真上である。
流石にこの展開では海水式毒霧を浴びせる余裕など無く、半ば背面プランチャーに近しい攻撃を受けることになってしまった。
「おぉーっとぉッ! これは思わぬハプニングだぁーッ! グレート・ザ・極道、涼介・フォレストに押し潰されてダウーンッ!」
学人の実況が場内に響き渡り、会場が笑いに包まれた。
グレート・ザ・極道も心得たもので、わざとダメージを受けた風を装って、ふらふらと鉄柵の外へと退場してゆく。
再びミルディアとライゼが涼介をリング内に押し戻している間に、グレート・ザ・極道の代わりにパンツマシンが入ってきた。
「あら、また入ってきたの。今度はちゃんと喜ばせ……じゃなくって、ちゃんとお仕事出来るの?」
「いやだから、もう試合はやんねぇんだって」
ミルディアの意味深な問いかけに、パンツマシンはやれやれとかぶりを振った。
どうにもミルディアの性癖には、対処のしようが見つからない。
それはともかく、再びリングインした涼介は、ろざりぃぬと打撃の応酬に入ろうとしていたが、その威力にいささか、蔭りが見える。
矢張り、膝へのダメージがここで牙を剥き始めたのか――シャナとパンツマシンは、幾分心配そうな面持ちを涼介に向けた。
涼介の異変には、ろざりぃぬも気付いていた。
だが、ろざりぃぬは涼介の下半身ではなく、ルカルカと対戦した時のように、背面への一点集中攻撃に徹し始めた。
膝への警戒は、当然涼介も考えているだろう。だからろざりぃぬは敢えて、無警戒の背面に的を絞った。
「あぁ……膝を庇う余り、ろざりぃぬさんの真意に気付いていないようです……」
シャナが、残念そうに呟いた。
如何に百戦錬磨の涼介といえども、曲者・ろざりぃぬの意図に気付いた頃には、脊椎に相当な打撃を受け過ぎていた。
ろざりぃぬとルカルカの試合を少しでも研究していれば、同じ轍を踏むことも無かったかも知れない。
だが今は、涼介はろざりぃぬの策にまんまとはまっていた。
ケブラドーラ・コン・ヒーロ、スリーアミーゴス、そしてバックドロップの三重奏を喰らった涼介。
ルカルカの時と同様、踏ん張りが利かなくなったところで、ブラックタイガーボムでのフィニッシュが待っていた。
レフェリー正子の3カウントに合わせて、観客席からも3カウントのコールが響いた。
涼介は既に、2カウント目で諦めていた。エビ固めを弾き返せる力が、下半身に伝えられないことを自分でも分かっていたのである。
勝利が決まった瞬間、ろざりぃぬはごろりと後方へ一回転し、膝立ちのまま、勝ち名乗りを受けた。
と、そこへ学人がリング上に上がってきた。
神妙な顔つきで拍手を贈っていた学人だが、やがてろざりぃぬとふたり、手を取り合って、泣きながら優勝を喜び合った。
* * *
―― S−1クライマックス決勝 ――
○魔女っ子ヒート・ろざりぃぬ (19分09秒、エビ固め) 涼介・フォレスト●
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