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リアクション
「この夢札さえあれば、夢の中とはいえ、キロスさんと結婚式を挙げられるんですねっ!」
アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)は夢札を希望に満ちたキラキラした目で見ていた。
「キロスさんの婚約者にも関わらずことごとく結婚式を邪魔されて来ましたが、今度こそ!!」
アルテミスはこれまでに失敗した結婚式を振り返り溜息を吐くが、すぐに夢札を握り締め挙式に並々ならぬ熱を見せた。
アルテミスは夢札を使いぐっすりと眠ると共に夢に旅立った。
■■■
新婦控え室。
「……さすが夢ですね。こんな素敵なドレス現実では有り得ませんよ」
アルテミスは現実では有り得ない美しい装飾が付属したウェディングドレスを纏い、鏡の向こうの自分に惚れ惚れ。
その時、待ちに待ったノックの音。
「どうぞ!」
扉の向こうにいる相手が誰なのか知るアルテミスは弾んだ声で言った。
扉が開き現れたのは
「アルテミス、支度は出来たか?」
正装したキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)だった。
室内に入り
「ほぅ、なかなかいいじゃねぇか」
美しい花嫁の姿にキロスは目を離す事が出来ず、アルテミスを二度も三度も惚れ直す。
「そうですか。キロスさんも格好良いですよ」
アルテミスはキロスの褒め言葉に可愛らしく頬を染めて嬉しさを表した。
そして、
「さあ、キロスさんっ! 今日こそ結婚式を挙げましょう!(さすがに、夢の中までは、ハデス様も妨害に来られないはずです!)」
拳を握り締め、まるで結婚式ではなく決闘に赴くのかと思えそうな気合いの入りよう。ことごとく結婚式を邪魔されて積もり積もったものがあるのだろう。それよりも夢の中に希望を求めている姿が悲しい。
「随分、気合い入ってるな。今日は決闘じゃなくて結婚式だぞ」
キロスが呆れたようにツッコミを入れた。これまで何度となく恋心をライバル心と勘違いされ決闘を申し込まれた時を彷彿するらしい。
「分かっていますよ。しかし、今日はそれ以上に大事なんです。行きましょう! いざ、式場へ!!」
アルテミスは半端無い気合いと共に控え室を出て行った。
「おいおい、大丈夫かよ」
キロスはアルテミスのテンションに溜息を吐きながら後に続いた。
とにもかくにも結婚式が始まった。
その式場は夢らしくアルテミスのあらゆる希望が詰め込まれた素敵な場所であった。
式場。
新郎新婦の入場、指輪交換など結婚式定番の手続きは滞りなく進み、最後のとっておきのイベントのみとなった。それは誓いのキス。
誓いの言葉が終わり
「……(これで、これでキロスさんと結婚が出来ます!!!)」
アルテミスはこれで結婚成功だとまだにも関わらず成功した気になっていた。
「……(アルテミスの奴、今日は妙だな。あいつなりに結婚式に緊張しているって事か?)」
キロスは控え室での事や式の間のアルテミスの様子からただ事ではないと多少心配していた。
誓いのキスが行われるその瞬間。
「キスミ、結婚式だぜ!」
「ヒスミ、結婚祝いをプレゼントしないとな」
どこからかともなく陽気に双子登場。
同時に青と白の球体が双子によって投げ込まれ、球体は着地と同時に割れて青と白の煙が会場を満たした。ちなみに森で熱々カップルと遊んだ後である。
すぐに煙は晴れるも
「何なんですか!?」
「何なんだよ!?」
アルテミスとキロスは広がる光景に思わず大声を上げた。
なぜなら
「どこを見ても私ばっかりじゃないですか」
「アルテミスの隣にいたはずが、何で自分に取り囲まれているんだよ」
左右どこを見ても自分、自分。結婚式衣装を着た自分に取り囲まれていた。しかも運悪く大量の自分達出現によって本物の二人は離れ離れとなっていた。
「盛り上がるだろ! 俺の投げた白色は消えた分増えるだけじゃなくて一定時間経ったら増えるという効果も入れた」
「サプライズだろ! オレが投げた青色の奴は偽物にキスをしたら偽物が消える仕掛けを入れた」
双子は自分達が仕組んだ悪さの内容を明かした。心無しかヒスミの方がやり過ぎ感があったり。
「えぇぇ、それじゃ、結婚式が終わらないじゃないですか……それってつまり挙げられないという事ですか……」
「……とんでもねぇサプライズだな」
アルテミスとキロスはそれぞれの場所でそれぞれに双子の悪さに困っていた。
一方。
「それじゃな、ハッピー・ウェディング!」
「大丈夫、二人なら出来るって、末永くお幸せに!」
二人の困り顔をケラケラ笑って楽しんだ双子はこの夢を去って行った。
残された二人は
「……どうしたらいいんでしょうか……ここは私の夢、私の思い通りに出来るはずですが……」
アルテミスは、何か解決方法は無いものかと考え始め
「とりあえず、ここを抜けてアルテミスの所に行かなきゃなんねぇな……手段を選んでいる場合じゃねぇ」
キロスは手段を選ばず取り囲む自分を何とかしながらアルテミスの元へと進む。
しかし、
「……増える量が多すぎですよ!!」
「これじゃ、無理だろ」
アルテミスとキロスは一定時間経過して増える自分達の量に思わず声を上げた。何せヒスミがやらかした訳なので一人や二人ではなく数十人単位なのだ。講じる手段を考える隙も与えてくれなかった。
「もしかして……」
アルテミスは厄介な妨害工作に嫌な予感を抱いていた。
そして、それは見事に的中してしまった。
■■■
覚醒後。
「……夢の中なら現実よりも簡単にキロスさんと結婚式を挙げられると思ったのに……大間違いという事ですか……なぜ……もしかして、何か悪い呪いにかかっているのでしょうか……キロスさん、私、結婚式を挙げる事が出来るのでしょうか……」
アルテミスはまさかの想定外の乱入者によってまたもや結婚式不成功となりがっくりと肩を落としてうなだれ、まるでお通夜のようであった。
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