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夏最後の一日

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夏最後の一日

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 朝、パラミタ内海のビーチ、パラソルの下。

「泳ぎまくって疲れたからこれ飲んだら一眠りしようかな」
「そうねぇ(今日はこのまま終わるのかしらね……そう言えばこの夏はセレンと結婚して最初の夏だったわね)」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は散々泳いで疲れた体を癒すため冷たい飲み物で一休みをしていた。
 その時、
「あれ、セレンお姉ちゃん達も海に来てたんだ」
 セレンフィリティ達にとって聞き覚えある声が背後からし振り向くとそこにいたのは
「絵音じゃない」
「あら、絵音」
 二人が親しくしている水着姿の絵音がいた。
「どうしたの? 家族で海水浴?」
 まさかの知り合いにセレンフィリティは驚いたように訊ねた。
「ううん、お母さん達は仕事。幼稚園のお友達と来たんだよ。ほら」
 絵音はぷるりと頭を振り、水着姿の子供達と引率する数人の保護者を指さした。
「そうみたいね」
 セレアナは賑やかそうな一団に笑みを洩らした。
「セレンお姉ちゃん達も遊びに来たんだよね?」
 今度は絵音が訊ねると
「そうよ。今年最後の夏を思いっきり楽しもうと思って」
 セレンフィリティは先程とは打って変わって元気そのもので答え
「絵音はどう? お友達と仲良くやってるの?」
 セレアナが近況を訊ねた。
「やってるよ。スノハちゃんも来てるよ」
 絵音は笑顔で答え、泳いでいる親友に手を振ったりした。
「セレンお姉ちゃん達は元気だった?」
 今度は絵音がセレンフィリティ達の近況を訊ねると
「元気元気。実はお姉ちゃんたち、結婚したのよ。良かったら後で花嫁姿の写真を見せてあげる」
 セレンフィリティがきゃらきゃらと笑いながら結婚報告。
 それを聞いて
「うわぁ、花嫁姿見たい。でもセレンお姉ちゃん達とっても仲良しだったから幸せになってよかった。だって結婚ってすごく好きで仲良しの人とするんでしょ?」
 絵音は拍手をして祝福した。子供のためか結婚認識も可愛らしいものであった。
「えぇ、その通りよ」
 セレンフィリティは即答しちらりと最愛の人の横顔を見た。
 その時
「ねーちゃん、勝負しようぜ!!」
 会う度にセレンフィリティに勝負を吹っ掛けるヴァルキリーの少年ウルトの声が飛んできた。
 途端
「いいわよ。泣いても知らないからね! 絵音行くわよ」
 セレンフィリティは即乗りするなり立ち上がり、絵音を誘った。
「う、うん」
 絵音はセレンフィリティのパワーに押されながらも仲良くお友達の所に行った。
 セレンフィリティの背中を見送りながら
「……物凄く能天気なセレンの事だからどうせまた子供以上に子供っぽくはしゃぎまくるわね。勝負に負けたりして暴れるかも……」
 と思いつつ子供と勝負する様子を眺めていた。

「この旗を倒した方が負けだからな」
「えぇ、いいわよ」
 ウルトとセレンフィリティは砂山のてっぺんに棒切れを立てて交代ずつ砂を崩していくゲームを始めた。
 勝負の結果は
「俺の勝ち! ねーちゃん弱いなぁ」
 ウルトの勝利であった。
「もう一回、もう一回勝負よ!! 今度は手加減しないんだから」
 負けたセレンフィリティがムキになって再戦を言う。
 再戦しまたセレンフィリティが負けてしまった。
 そして、数回勝負するも
「……ねーちゃん、もう諦めたら」
 セレンフィリティは全敗し、ウルトから憐れみを受ける事に。
 しかし
「……シャンバラ教導団の中尉殿を本気にさせたらただじゃすまないんだから」
 セレンフィリティは大人げない事を言って側にあった子供の水鉄砲を手に取り、容赦無く水を発射。
「うわぷっ!?」
 ウルトの顔面もろに命中。
「今度は水鉄砲で勝負よ!!」
 セレンフィリティは水鉄砲を発射しながら新たな勝負を申し込む。
「いいぜ! ほらほら」
 ウルトは手近の水鉄砲を取り、セレンフィリティに水を浴びせて逃亡。
「うわっ! やったなー! 子供だからって手加減しないんだから!!」
 攻撃を受けたセレンフィリティは水鉄砲は生ぬるいと考えたのか水鉄砲を抱えたままダッシュし、
「捕まえた!!」
 逃げ回るウルトに追い付き、抱えて
「それー!!」
 ドボンと海の中へ放り込む。もちろん相手は子供なので手加減はする。
 すぐに
「ねーちゃん、やりやがったな」
 ウルトは海から出てセレンフィリティに水をぶっかけ、そのまま水の掛け合いとなった。

 その頃、
 勝負に負けて大暴れするセレンフィリティを見るや
「もう、セレンったら」
 セレアナはあまりの大人げなさにあちゃーと額に手を当てつつ
「……(自分たちは女同士だから子供が生まれることはないけど、もしあの子が母親になったら……)」
 結婚の先を想像し
「多分全然母親らしくないわね。むしろ子供の方がしっかりしそう」
 セレアナはくすりと苦笑を浮かべた。
 ふと
「……」
 セレアナが視線に気付き振り向くとパラソルの下で読書をしていたシュウヤと目が合った。
「……(こっちを見ているけど、何だか寂しそう)」
 心無しかショックを受けている様子にセレアナは察し、そっとシュウヤの隣に行き腰を下ろした。
「……おめでとう……何だかほんの少し寂しいけど」
 割と大人な性格のシュウヤは少しショックはあれど落ち着いた声音でセレアナを祝った。これまで友人の暴れぶりを通してセレアナと関わる内に憧れを抱いたらしい。その気持ちはまだ幼く無自覚ではあるが。セレアナは全て察していた。
「……ありがとう」
 セレアナは微笑を浮かべながら礼を言うと
「これからも遊べるんだよね……もしかしてもう会えない?」
 シュウヤはやっぱりショックと寂しさがあるのか恐る恐る訊ねる。
「えぇ、そこは変わらないわ。私も楽しいもの」
 セレアナはシュウヤを傷付けぬよう言葉を選びながら優しく言った。
「……それならいいよ」
 セレアナの自分を思いやる気持ちに気付いたのかシュウヤはほんのり寂しさ潜む笑顔で言った。
 そして
「私達も遊びましょうか」
 セレアナは立ち上がり一緒に遊ぼうと手を差し出すと
「……うん」
 シュウヤは子供が読むには難しい本を置いて手を取った。
 二人は仲良く水遊びをするセレンフィリティと子供達の輪に加わり、昼食まで散々遊びまくった。

 昼食時。
 セレンフィリティ達は子供達と一緒に海の家で食事をする事にした。
「何で海で食べると美味しいのかしらね、ほら、絵音もしっかり食べないとだめよ。昼も遊ぶんだから」
 セレンフィリティはあれこれと大量に頼み、食欲魔人ぶりを発揮し
「う、うん、セレンお姉ちゃん、凄い」
 絵音や他の子供達を驚かせるも中には
「俺も負けねーからな」
 ウルトのようにライバル心を剥き出しにする子もいたりと賑やかであった。
「……全く、元気ね」
「うん」
 セレアナはセレンフィリティの有様に呆れながらシュウヤと一緒にのんびりと食事をした。セレアナの結婚にショックはしていたシュウヤだが、やはりセレアナと仲良くしたいのは変わらないのだ。
 昼食が終わって昼からも思いっきり遊んだ。
「あっちまで競争よ」
 セレンフィリティは子供達を引き連れて海を泳いだりと子供達が帰る夕方までセレンフィリティ達は付き合った。
 二人だけになったのは夜になってからだった。

 夜。
「夏最後にはいい思い出になったけど……あー、疲れた」
「本当に子供以上にはしゃいでたんだから当然でしょ」
 すっかりお疲れのセレンフィリティと呆れ気味のセレアナは天と海に煌めく星空を眺めつつ二人だけの時間を過ごした。