イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【アガルタ】未来へ向けて

リアクション公開中!

【アガルタ】未来へ向けて

リアクション


★未来へ向けて02★


「魔物避けについてだが、こういう電柵を考えてみた。どうだろうか?」
 設計図を手にハーリーに説明をしているのはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だ。その場所はやや暗い……というのも、アガルタのさらに地下にある洞窟内だからだ。
 本来なら外で見ればいいんだろうが、時間短縮のためと、ハーリーが移動しながらの説明を求めたからだ。
 電柵とは、人の活動域を遠く囲い、触れると電気が流れると共に明かりがつく仕組みのことだ。こうすることで魔物にこれ以上近づくと危ないことを理解させ、人と魔物の住み分けをするのだ。
 ハーリーとしても魔物を追い出すことも止むなしとは思っていたが、できるかぎり共存の道を探したかったので渡りに船だった。

「だから、少しくらいゆっくりしないとダメだって言ってるのに」
「わかったわかった。これ終わったら休む」
 頬を膨らませて文句を言っているルカルカ・ルー(るかるか・るー)の小言を軽く聞き流すハーリーに、ダリルは内心呆れつつ、口ではしっかりと説明を続ける。

「それと地上部の開拓についてだが」
「ああ、聞いてる。道の整備計画だろ? さすがというか。あのままでほとんどいけそうだって、部下が感心してたぜ」
「それは大げさだろう」
「そんなことはないと思うが……まあ、置いといて。電柵については把握した。できればすぐにキルルと道の整備について進めて欲しいんだが……ああもちろん、部下もつける。まだまだなやつだから、ついでに鍛えてやってくれ。キルルには話をつけてある」
 ダリルに言ったあと、ハーリーはまた別のことについて周囲と話し始める。道の整備については、完全にダリルに任せた、ということだろう。
 その信頼が嬉しいと同時に、今まで一人でなんでも背負おうとしていた彼の成長も感じて、ダリルは少しだけ笑い、背を向けて歩き出した時には顔を引き締めた。

 ルカルカはそんな2人の様子をなんともいえない顔で見ていたが
「おい、ルカ。電柵設置は頼んだ。あと、もうすぐガイド候補が来るから、びしばし鍛えてやってくれ」
「ええっちょっと」
 いきなり話題を振られて戸惑った。たしかに両方ともするつもりではいたのだが、相手から言われるとは思っていなかった。
 そしてやはり、ハーリーはそれ以上何もルカに要望を言うことはなく……つまりそれだけ信頼されていると言うことで
(まあいろいろと言いたいことはあるけど、やっぱり嬉しい)
 ふふっと笑って、ちょうどやってきたガイド候補たちに向き直った。
「まず最初に大事なことを言っておくね。それは命を粗末にしないってこと。いざってときはSSSを呼んで、無茶はしない。約束してね」
「は、はい!」
「じゃあ、基本からいくね」


 電柵の設置を手伝っていた千返 ナオ(ちがえ・なお)がふいに声を上げる。
「これだけだと順路が少し分かりづらくないですか?」
「ん、そうだなぁ」
 柵と照明で一応順路は分かるようにしているが、洞窟の雰囲気を保つために照明は足元を照らすのみで明るさは抑え気味だ。たしかに分かりづらいかもしれない。
 頷いた千返 かつみ(ちがえ・かつみ)は、順路の看板があればいいかもな、と言った。
「ちょっと待っててくれ。聞いてくる」
 念のために現場の責任者と話し、看板用の資材をもらえることになった……というか
「おしつけられたとも言う」
「ノーン?」
「冗談なんだぞ」
 ははは、と笑うノート。じゃなく、魔導書のノーン・ノート(のーん・のーと)が舌を出す。まったく、と呆れるかつみだが、もらってきた資材を見下ろしてさてどうするか、と悩む。エドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)が彼の意図を読み声を発する。
「単純に順路だけだと味気ないよね」
「そうなんだよなぁ。好きにしていいって言われたし、何か良い案ないか?」
「ん〜、そうですね。……案じゃないですけど、非常口の看板も作って大丈夫ですか? そういう案内も大事だと思うんですけど」
 ナオが頭にイメージを浮かべながら意見を述べる。
「いいと思うけど、って、なんか楽しそうだね」
「いえ、土星くんのイラストをつけたら目立つかなって」
「土星くんはこの街のシンボルみたいなものだしな。いいのではないか?」
 エドゥアルト、ノーンからの言葉を聞いて、ナオは笑って「がんばります!」と声を上げた。
「ああ、街のシンボルといえば、噴水もそうだよね。たしか噴水広場は猫の足跡が地面に描かれてたよね。
 矢印の代わりに猫が移動している感じはどう?」
「あ、いいですね。とても可愛いと思います」
「よさそうだな。じゃあそれでいくか」
 その後、4人で話し合い、普通の看板では見難いからと案内用のランプ用意して影絵風に順路を示してみることに。ただ、場所によってはとても明るい場所もあるのでそこは影絵のかわりにカッティングシートで作成して、壁に貼り付ける。

「よーし、そうなると猫とか土星くんとかたくさん描かないとな」
 かつみが笑顔で言ったのに、他3人の肩が反応した。
「あ、かつみちょっと待って。これ切り取るのやってくれるかな。役割分担した方が効率よいはずだし」
「え? でも」
「私は細かい作業向いてないからさ」
「じゃ、じゃあ取り付けを」
「あ、俺はランプの取り付けやりますよ。高いところの作業も任せてください」
 そしてナオもそこに参戦し、かつみに切り取り作業をさせる。かつみは不思議そうな顔をしていたが、わかった、とやがて小さく頷いた。
 ナオとエドゥは顔を見合わせて息を吐き出した。
(出展した絵を見たけど……うん、やっぱり今回も絵をを描かせるのは止めとこう)
(配置も結構大事ですからね。可愛い影絵がホラーになったら大変ですし)
 実はかつみ、芸術センスが常人とかなり違うのだ。それがいいか悪いかはさておき、今回はあまりよろしくない。

(ん? いや待つのだ。使えるかもしれないぞ)
 だが一人(一冊?)は逆の発想を思い浮かべた。

「かつみ、ちょっと土星くんのイラスト一枚描いてくれ」
 ノーンが突如かつみにそんなことを言い、せっかく別の作業を割り振ったエドゥが慌てる。
「ちょっとノーン?」
「わかってるわかってる、案内用に使うんじゃないから」
「……別にいいけど、何に使うんだ?」
「まあいいからいいから」
 疑問の声もなんのその。ノーンはかつみに絵を描かせた。つぶらな目。丸いからだ。体からぽちぽちと生えた手足。特徴的な輪っか。
 土星くんである、というのはその特徴から分かる。というイラスト。上手下手という観念から逸脱したイラストを手に、ノーンは観光の目玉である泉付近できょろきょろとした。
「ここらへんでいいか」
 そしてその土星くん『もどき』のイラストを見えにくい場所に貼り付ける。
「何してるんだ?」
「いわゆる隠れキャラというやつだ。
 この泉には土星くん『もどき』の妖精がいて、泉のそばに土星くん『もどき』隠れている。その土星くん『もどき』を見つけられると幸運になるという……いたたたたたた」
「『もどき』『もどき』って、『もどき』で悪かったなっ」
 ノーンの行動を怪しみ、その動きを観察していたかつみがノーンの額をこぶしでぐりぐり。
「い、一応ラッキーアイテムなんだぞー」
「嬉しくない。まったく。これは外す……あれ? どこいった?」
 呆れてイラストを外そうとしたかつみだったが、いつのまにかイラストが姿を消していた。ノーンも持っていない。2人して首をかしげ周囲を探してみたが、イラストは見つからなかった。
 さらに探そうとしたが、そこで他のグループの声が聞こえてきた。

「じゃあ今からルカがお客さん役するから、案内を実際してみて……ってわわ、ランプが可愛くなってるー。ナオたちが作ったの?」
「はい。順路を示しているつもりなんですが、わかりますか?」
「なるほど。はっきりと順路だと雰囲気も崩れる。けど意味は分かる。いい案だな」
「って、かつみとノーン? そんなところで首をかしげてどうかした?」
「イラストが一枚行方不明で……見なかった?」
「ルカは見てないけど、みんなは……見てないか。淵は?」
「俺も見ていないな」
 イラストを踏んでこけてしまっては大変、と皆で探してみたが、イラストが出てくることはなかった。

 イラストが見つかるのは、もう少し先。そしてそのイラストが本当にラッキーアイテム化するのはさらにもう少し先の話だ。


 と、そんな不思議な話もありつつ、洞窟内の準備はちゃくちゃくと進んでいた。


***


「火力、機晶力……、風力や太陽光発電。どれがよいとお考えか?」
 そうハーリーに問いかけるのは夏侯 淵(かこう・えん)だ。彼は発電施設の設置を提案しているのだ。電柵の為、だけではない。
 人口が増えれば自然と電力の消費も増える。地上部を開拓していくとなると、電力不足になる可能性がある。
「そうだな。地上じゃ強い風が吹いてる。それを利用できればと思ってるな。機晶力や火力もある程度は必要だろうし、なんといってもただの風じゃなくて砂嵐みたいなものだからな。あとは太陽光か……ん〜、悩みどころなんだよな。
 近々対策チームを作ろうと思っていたところだ」
「たしかにあの風を利用できれば一番良いな。うむ、分かった。
 いずれにせよ、ここの水は冷たい。発電施設に利用するとよいかもしれぬぞ」
「なるほどな。ああ、考えておく。意見、ありがとな。良かったら対策会議にも顔を出してくれ」
 話がまとまったところで、淵はしずかに作業を見守る。いざというとき、結界を張って守れるようにという意味と、設置されていく電柵には風船を当ててちゃんと発動するか確認するためだ。
「北斗、頼んだぞ」
 相棒に声をかけながら、淵は自分の仕事をこなしていく。


 そしてまた別の場所でも、自分の仕事をこなしている者たちがいた。
 薄暗闇の中、音なく動く小さな影――辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の袖から何かが飛んでいく。そして刹那自身は地を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、一箇所に留まらずにその動作を行う。
 投げられた何か――暗器は、一直線に魔物にせまり、その皮膚をかすり取るようにして地面へと突き刺さった。
 だが刹那の表情は変わらない。なぜなら、それこそが彼女の狙いだったからだ。
「キ……シャアア?」
 目が小さい(おそらく退化したのだろう)魔物の動きが鈍くなる。あの暗器には効力を弱めた痺れ薬が塗られていたのだ。
 それでも魔物たちは突如自分達の縄張りに入ってきた外敵を追い払おうと、大きな口をあけた。戦意を失っていない様子に、表情を変えないまま刹那は息を吐き出した。

「悪く思うなよ、こちらも仕事じゃからでのぉ……そうじゃろ?」
「ああ。ちょっとここらへん、借りるぜ」

 刹那の体が大きく後方へと飛び、代わりにその場に降り立ったドラゴニュート。カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が額の宝石へと意識を集中させる。
 するとなんと、彼の体がどんどんと大きくなり、巨大なドラゴンへと姿を変えた。頭上から魔者たちを見下ろし、一睨み。息を吸い込み、咆哮をあげる。

「……っ!」
 魔物たちは声も出せなかったようで、動きにくい身体を必死に動かしながら洞窟の奥へ奥へと消えていった。
 カルキノスはその様子は見下ろ……しているわけではなかった。いつもと同じ視点から見守る。
 刹那には、最初からカルキノスの姿は変貌していない。今のは幻影だ。

「あの様子じゃと、よほど怖い者をみたようじゃな」
「刹那のことかもしれねーぞ」
「わらわを見て去ってくれるというのなら、仕事が簡単になってよいのぉ」
 そんな軽口を言い合いつつ、2人は次の場所へと向かう。2人は周辺の魔物を追い払っているのだ。
(どれだけ魔物対策をしようと、近寄るものはおるからの。あれだけ怖がらせておけば、少なくとも当分のうちは大丈夫じゃろう)
 ただ倒した方が楽は楽だが、殺してしまえば人を憎む可能性もある。長い目で見ればこちらの方が安全だ。
 何より

「祭が、みなにとって少しでも楽しいものになるとよいの」
「だな。まあ、少なくとも俺は確実に楽しむぜ。屋台で食う! 飲む! そして花火! 全部をな」
 ぽつり、と呟いた言葉に、カルキノスが反応した。彼が言う未来は、想像しやすい。そして名前も顔も知らぬ誰かが喜ぶ様子も同時に思い浮かべられ、刹那は暗器を持つ手に力を入れた。

「ならば、もう少し頑張るとするかの」


 未来のために。


***


 洞窟観光の準備、とは別の一団があった。調査隊である。
「あっちは行き止まりでした」
「そうか……となると周辺の地形は」
 若い衆の報告を受けている黒いドラコニュート、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が手元の紙に何か書いていく。
 どうやら洞窟の地図らしい。
 洞窟が観光に使われると聞き、ブルーズは時折こうして調査に赴いていた。元々この洞窟を見つけたこともあり、この洞窟に慣れているようだった。もちろん、調査の許可は得ている。
 右の道が先に続いているので、全員でそちらへと向かう。

「ん? 明るくなってき……! これは」
 急に視界が広がる。そして人工ではない灯りがブルーズたちを優しく照らす。

 その美しさに、ブルーズは口を閉じた。言葉にしてしまうと、その美しさが損なわれる気がしたのだ。
 一言で言うならば、水晶の花畑。
 その水晶の中に光る植物があるらしく、その光を浴びた水晶の花たちが思い思いの色を周囲に広げている。

 後々調査が進み、洞窟観光の目玉の一つとなると同時にこの光が魔物避けに有用ということがわかり、安全性も増すことになる。

 だがそれは先の話。この時点ではまだ分からない。
 ブルーズは調査のため水晶を持ち帰った。その際、水晶の一部を特別にもらえることとなった。

「おかえり。今日は随分と時間かかったんだね。何か成果があったのかい?」
 帰ってきたブルーズを出迎えたのは黒崎 天音(くろさき・あまね)。今日は女将の姿ではない。どこかへ電話をしていたような仕草にブルーズは少し首を傾げつつ、ああ、と頷いて布に包んでいたソレを渡す。
 布を開いた天音が、目を見開く。
「これは……?」
「調査中、水晶の花畑を見つけてな。発見者ということで特別にくれたのだ」
「へぇ〜そんなところがあったんだ」
「ああ。もしかしたら別の場所にもあるかも知れんな。水晶の採掘ができるようになれば、エヴァーの職人達が喜びそうだ」
 資源がほとんどないアガルタ。新しい産業となるかもしれない。
 天音は話を聞きながらじっと水晶を見た後、これをくれないか、とブルーズに問いかけた。
「かまわないが、どうするんだ?」
 土産としてもらったのでブルーズに否やはないが、これをつかって何をするのかは興味がある。
「ほら、総合展示場で作品を募集してるからさ。出してみようかなって」
「なるほどな。ぜひとも使ってくれ」
 話が落ち着いたところで、今度はブルーズが問いかけた。

「ところで、今日は用事があると言っていた筈だが、何をしていたんだ?」
「ん? いやちょっと……兄弟水入らずもいいかなって思ってね」
「?」