校長室
Down to Earth
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店先でゆかりとマリエッタと別れると、彼等は帰路に着く前に土産店へ入った。 「託、これなんてどうかしら?」 ガラスの工芸がついた根付けのような細工の紐の飾りを提案するジゼルに、託は頷いている。説明書きを読むと託のリクエストしたお守りらしいし、此処にあるものの中でも割と女性向けのプレゼントだ。 「色はどうしようかなぁ」 「私だったら赤かな。可愛いし、中華街の雰囲気に合ってるから」 「赤かぁ……」 「それでね、私も琴乃……というか琴乃とお腹の赤ちゃんにお土産あげたいんだけど、縫いぐるみとか、いい?」 「有り難う、喜ぶよ」 ぱたぱたと駆け出したジゼルに入れ替わって、アレクがやってきて店のカウンターを指差している。 「託、あれにしよう」 「あれって……」 アレクが示しているのは、笑顔なのに微妙に禍々しいオーラが漂う使いどころの全く分からない仮面だ。 「糞の役にも立たないものを買ってこその土産!!」 「……それもそうだねぇ」 あれを買って渡したら、母には何点貰えるだろうか――。 「月餅って色んな味があるのですね。マスター、私、全種類食べてみたいです」 フレンディスにじっと見つめられてベルクが詰まっている間、真は自分の買い物を殆ど終えていた。 「お買い物はお済みになったんですか?」 御神楽夫妻やパートナーのノーンらへの土産を選び終えた舞花がそう尋ねるのに、真は後ろ頭をかいている。 「うーんあと工芸茶も欲しいんだよね。 そうするとそれに合うガラスのティーポットも欲しくなるし……。 っとその前に烏龍茶も買わないと」 踵を帰って奥へ戻ると、蒼が月餅を抱えていた。 「ルームメイトに?」 「うん、これもってぇー、にーちゃんに買ってもらったおにゅーのチャイナ服もって帰るんだぁい!」 「……蒼、学校は、日本は楽しい?」 ふっと微笑み、真はどんな答えが返って来るか分かっている質問を蒼へぶつけた。 「うんっ。大変だけどたのしいよー! でも、シャンバラのことも時々気になるんだぁ……。みんな元気かなぁ、あの子も元気かなぁ…………」 「俺も蒼の事よく考えるよ。元気にやってるかなって……」 柔和な笑みを見せる真に、蒼は何かに気付いたようにはっとしてはにかむように唇を噛み締める。 そうして皆が買い物をしている間、店先の休憩スペースでマンゴージュースを飲みながら待っているユピリアの隣に、ハインリヒが腰掛けた。 「君はもういいの、ユピリア」 「ティエンには買ったし、あとは陣が選ぶみたいだから任せちゃうわ。 実はちょっとはしゃぎ過ぎて疲れちゃって……」 相槌を聞きながら、ユピリアは歩き疲れた足をぶらぶらと動かして少しの間黙っている。 ハインリヒに会ったら言いたいことがあったのだ。タイミングが中々見つからなかったが、言うならきっと今だろう――。 「ねえ、ハインツ」 くるりと振り返ったグレーアイズを、ユピリアは真っ直ぐに見つめた。 「当分その時は来なさそうだけれど。 またあなたのお姉さんが現れたら、今度こそ助けてみせるわ」 ハインリヒの顔から笑顔が消える。アレクと真逆で微笑んでいる事が多い彼だが、あれは殆どが嘘の笑顔だと言う事をもう知っているユピリアは、ハインリヒが自分の言葉を真剣に受け止めているのだと分かって、彼の出す返事を静かに待っていた。 「なんで?」 ――どうしてそこまで言ってくれるのか。 ハインリヒが呟いた短い言葉の裏を読み取って、ユピリアは微笑んだ。 「そうね、大切な友人と可愛い妹への、ちょっとした意地かしら」 (――私なりの、ね) ユピリアは心の中でそう言い切る。 「そうだユピリア。僕ね、結婚したよ」 「え!?」 にこっと笑って言うハインリヒに、ユピリアは思わず席を立ち上がった。 「ツライッツ・ディクス(つらいっつ・でぃくす)と!?」 「他に誰が居る」 スヴァローグ・トリグラフ(すゔぁろーぐ・とりぐらふ)らパートナーごと家を託して来た相手だ。確かに彼しか居ないだろうが――。 ふらりとベンチへ戻ったユピリアは、大きく息を吐き出した。そういえばこう言う事が、前にも有ったじゃないか。 「…………全くジゼルといいハインリヒといい、あなた達ってどうしてそう唐突なのかしら」 「正確には結婚とは違うんだけけれどそれはまあ……。うん、結婚したよ僕等。 ユピリア達のお陰だ、本当に」 有り難うとハインリヒは言う。 「そっかー……おめでとう」 「僕も結婚ってあんまり意味があるとは思ってなかったけれど、ちょっと考えたんだ」 呆れ顔からじっと話しを聞く態度に戻ったユピリアに、ハインリヒは続ける。 「僕等はパートナーが死ぬと影響を受けると言われているけど、老衰による別離はあまり含まれないんだってね。 もし、クローディスさんが亡くなって、僕が居なかった時に――、 僕が彼に残してあげられるものって何かなって考えたら、こうしたほうが良いって思ったんだ」 静かな声を耳に入れて胸の奥にぎゅっと迫るものを感じたユピリアは、わざとおどけた調子を作った。 「そうよね。私やツライッツは何時迄も若いままなのに、あなたはいつかヨボヨボのおじいさんになっちゃうのよね」 「それはどうかな」 「どういう意味よ」 「僕もアレクと同じ事が出来るって事だよ」 にひっと笑ったハインリヒに「ちょっとあなたどれだけ隠し事してるのよ!」とユピリアが声を上げる。 と、丁度皆が店から外に出て来た。 「そろそろ帰るか」 アレクの皆に言った言葉は、夢から戻る合図だ。 しかし彼等の還る場所は、厳しいばかりの現実では無い。 これからまたやってくる開拓地での冒険の日々に想いを馳せて、彼等はパラミタが浮いている方へ向かって夜空を仰いだ。
▼担当マスター
東安曇
▼マスターコメント
シナリオにご参加頂き有り難う御座いました、東安曇です。 抽選にご参加頂いた皆様、有り難う御座います! 今回は参加出来る枠が少数で申し訳有りませんでした。 次回の個人シナリオは行動フリーのシナリオを予定しております。そちらで最後のシナリオです。 それでは、また別のシナリオでもお会い出来れば幸いです。