校長室
賑やかな秋の祭り
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朝。 「……まだね(あれから色々あったから会ったついでに近況を話したいけど向こうも同じくらい時間が流れているはずだろうから……どうなってるのかしら)」 こちらの世界のリネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)は待ち合わせ場所にて来訪者達を待っていた。 「……元気にしているといいけど」 リネンは彼女達が元気である事を思いながら待っていた。 その時 「久しぶり」 「元気そうね」 来訪者平行世界のリネン・ロスヴァイセとフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が現れた。 「二人共、久しぶり。あと……」 リネンは招待客が一人足りない事に気付き、二人に訊ねようとした時 「……来たわよ。仕方無くね。この二人があんまりうるさくいうものだから」 二人の後ろに隠れていた平行世界のヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)が前に出て来てツンとする。 「……来てくれて嬉しいわ、ヘリワード・ザ・ウェイク。話では聞いていたけれど会うのはこれが初めてだから(今のヘイリーとは違う。何かツンツンしているし、やっぱり誘わない方が良かったかな)」 リネンは親しげに迎えながらも内心自分が会いたいというだけで誘って悪かったかなと思ったり。 「……適当にぶらついてるから二人と好きに話せば」 ヘリワード・ザ・ウェイクは気に掛けるリネンをよそに近くの屋台で何やら買い食いを始めた。 「……(割と楽しんでくれてるみたい?)」 リネンはヘリワード・ザ・ウェイクの行動にひとまず安堵した。 ここで 「……彼女を連れて来るの大変だったのよ。こちらと違ってあの通りだから、この子と一緒になだめすかして何とか……」 「大変だったけど楽しんでいるみたいで良かったね」 フリューネ・ロスヴァイセとリネン・ロスヴァイセが買い食い中のヘリワード・ザ・ウェイクを見ながら苦笑しあっていた。何せ向こうのヘリワードは経歴も態度も相変わらず、極中立でツンツンしており二人になだめすかされてやっかみ半分好奇心半分という何とも面倒な状態でやって来たのだ。 「……面倒を掛けて悪かったわね」 リネンは自分の無茶な願いを叶えてくれた二人に感謝を口にすると 「いいのよ。私も会わせたいと思っていたから」 フリューネ・ロスヴァイセはころころと笑った。 「そう言ってくれると嬉しいわ。私達も買い食いをしながらお祭りを楽しみましょうか。たっぷりとお喋りもしながら」 フリューネ・ロスヴァイセの優しい言葉に笑んでから素敵な提案をした。 「もちろんよ」 「私も。こちらの料理を食べて美味しそうな物があったら向こうに帰ってお姉ちゃんに作ってあげたいから」 平行世界のフリューネとリネンは賛成した。ヘリワード・ザ・ウェイクは何も言わなかったが、買い食いをする三人の後ろをついて歩いていた。 買い食い中。 「二人はあれからどう?」 リネンは秋の味覚を頬張りながら平行世界の二人の近況を訊ねた。 「変わらずかしら」 同じく食べ歩きをしながらフリューネ・ロスヴァイセが即答。 「というと一匹狼の義賊空賊をしているという事?」 詳しく聞こうと聞き返すと 「えぇ、そうよ」 フリューネ・ロスヴァイセはあっさり。 「……私は仕事から帰って来たお姉ちゃんが少しでも安らげるようにって頑張ってるかな。だって、お姉ちゃんは私の大事な家族だから。相変わらず私を心配させないようにと仕事の話もあまりしないし」 リネン・ロスヴァイセはほんの少し照れながら変わった自身の事について話した。彼女は危ない所をフリューネ・ロスヴァイセに救われてから身元不明な所をロスヴァイセ家に引き取られ、フリューネの義妹的な存在となりメイドとしてフリューネの世話焼いて暮らしているのだ。 「頑張ってるのね」 「こちらの世界の私が頑張ってるのに私が頑張らないのは駄目だと思って……戦う事は出来ないけれど」 リネン・ロスヴァイセは普通の女の子な明るい笑顔を浮かべながらこちらの世界の自分を見つめた。戦闘とは無縁の普通の女の子でも家族のために出来る事はあると。 「……(本当に普通の女の子だなぁ)」 リネン・ロスヴァイセの明るい笑顔にほんの少し眩しい物を感じた。別に自分の今までの生き方を否定する訳では無いのだが。 「それでそちらはどう?」 リネン・ロスヴァイセが食べながら訊ねた。 「……こっちは色々あって」 リネンはちらりと平行世界の自分とフリューネの顔を交合に見てから 「……実は私、結婚したのよ、初夏のころに」 リネンは結婚報告をした。 「それはおめでたいわね」 「おめでとう」 ロスヴァイセ義姉妹は拍手をして大いにリネンを祝った。 肝心なのはここから 「……相手はフリューネなの。それで今、姓が変わってリネン・ロスヴァイセなのよ(……何か平行世界の自分達に報告って変な感じ)」 リネンは恐る恐る結婚した相手を伝えた。平行世界の自分達に報告とは妙な気持ちだ。 途端 「少し驚きね。やっぱり姿は同じでも別世界は別世界なのね」 「お姉ちゃんと結婚したの!?」 ロスヴァイセ義姉妹は大いに驚いた。 「……こちらではあの二人結婚してるのね」 ヘリワード・ザ・ウェイクも何気に話を聞いていたり。 「でも分かる気がするかも。お姉ちゃん、素敵だし、優しいし、私を助けてくれたし、強いし……」 リネン・ロスヴァイセはちらりと義理の姉を見やり思いつく限りに褒め続ける。よほどフリューネ・ロスヴァイセを大切に思っている事が垣間見える。 「……もう、そんなに褒め言葉を並べないで、恥ずかしいから」 当のフリューネ・ロスヴァイセはあまりにも褒められ恥ずかしそうに頬を染めていた。 「……だから同姓同名になっちゃったのよね。だから呼びづらいなとか思ったり」 リネンが発生した問題について口にした。 「確かにそうね。でもすぐにいい呼び方が思いつかないわ」 リネン・ロスヴァイセも同意しながらも良い呼び名が思いつかず首を傾げるばかりであった。 「……そうね。ところで恋人とかはいたりする? 結婚は?」 リネンは話をフリューネ・ロスヴァイセの恋バナにした。 「……唐突ね。確かに結婚はしていないけれど……色々とね。他にはどんな事があったの?」 突然の話にフリューネ・ロスヴァイセは苦笑を浮かべながらはぐらかし、話題を変えた。 「他には……」 リネンは追求してはいけない空気から最近あった世界崩壊の危機に遭遇し何とか乗り切った事を話した。 話し終えた所で 「という事でこっちはやっとひと段落かな……そちらは大丈夫だった?」 平行世界の状況を訊ねた。もしかしたらと考えて。 「大丈夫と言うよりまだそういう事は起きていないわ」 フリューネ・ロスヴァイセの答えに 「……そう、やっぱり世界が違うからこっちで起きた事件が起きたり起きなかったりとか時期違う事もあるという事かしら」 リネンは両世界の違いを感じた。 「たぶん、そうだと思うわ」 「……お姉ちゃん、私も頑張るからね」 ロスヴァイセ義姉妹はうなずいた。リネン・ロスヴァイセはりんとした顔で姉を見た。戦えないなりにもやれる事をして家族として妹として支えるのだと。 「ありがとう。でも本当に大丈夫かしら……もしその時が来たら……」 妹の思いはありがたいが、フリューネ・ロスヴァイセは気掛かりであった。本当にそんな騒ぎが起きたら上手く立ち回れるのかと。妹を守りながら。 「……大丈夫よ。仲間とか頼れる人はいるんでしょ? 一匹狼でも、独りじゃないものね、フリューネは……そうでしょ?」 リネンは殊更に明るい調子で励まし、悪戯っ子のように言った。 「……えぇ。でも実際、話で聞くよりもきっと大変なんでしょ?」 フリューネ・ロスヴァイセはうなずきながらも聞くと見るとでは実際に違うだろうと考え危惧は払拭されず。 「大丈夫よ。彼女がいるし」 そう言うとリネンは自分達の話を聞きながらも好き勝手に買い食いしては楽しんでいるヘリワード・ザ・ウェイクの方に顔を向けた。 「……ん、あたしの事?」 話がどうやら自分に向かった事に気付いたヘリワード・ザ・ウェイクは不機嫌そうなツンとした顔で答えた。 「そうよ。変わらず一匹狼の空賊として放浪中なの?」 リネンはヘリワード・ザ・ウェイクのツンなんぞ気にせず、訊ねた。 「そうだけど……そう言えば、二人に余計な事を吹き込んで」 ヘリワード・ザ・ウェイクはふと同化現象後の平和なひとときにこちらのヘリワードがフリューネ・ロスヴァイセに託した言葉を思い出し、嫌な顔に。 「余計な……あぁ、ヘイリーが言った事ね。意地を張るな云々だっけ」 ヘリワード・ザ・ウェイクの様子からようやくリネンは思いに至りクスクスと笑いがこぼれる。なぜならツンとしながらも何やかんやと気になっている様子が丸分かりだから。だからこそここにいるのだろうと。 「……そうよ。全く」 ヘリワード・ザ・ウェイクは秋の味覚を頬張り、ウンザリと肩をすくめながら言った。 「うんざりの割にはこっちに来て、二人の事が気になってるんでしょ?」 リネンは言葉とは裏腹に全く帰る様子がない事から心ならずもロスヴァイセ義姉妹の事を気に掛けているのだと見抜いた。 「……」 図星を突かれヘリワード・ザ・ウェイクは言葉を失い、静かに秋の味覚を頬張った。 「とにかく、私は向こうを助けられないから……もしもの時が来たら二人をお願い、ヘリワード」 リネンは真剣な表情でよく知る緑の目を見据えた。自分の気持ちが届く事を願って。 「……ったく、平行世界まで口出しとはご苦労なことね!」 うんざりの溜息を吐いたかと思ったらヘリワード・ザ・ウェイクは悪態を吐き、そっぽを向いた。 「そりゃ、心配だからよ。平行世界とはいえ三人は私と私の大切な人達に変わりがないんだから」 心底心配の様子を見せるリネンに対して不意に眉を吊り上げた顔でリネンをにらみつけ 「あのね、あたしはあんたのパートナじゃない。わかってるわよね?」 刃の如く鋭い言葉をリネンに斬り付ける。自分に関わるなと。しかしその奥には別の思いも見え隠れ。 その見え隠れする思いをリネンは読み取り 「分かってる。だけど、平行世界のフリューネが頼りに出来るのはヘリワードしかいないのよ」 リネンは分かってくれると信じて言葉を重ねた。世界は違えどヘリワードはヘリワードだから。 その結果、 「……まぁ話だけは覚えといてやるわ」 リネンの話す世界の危機や自分にかける必死な言葉に少しほだされたようで、やっとここからがある種のスタートラインといった感じである。フリューネ達と関わり自身が変わるだろうスタートラインに。 「えぇ、それで十分」 笑顔を浮かべるリネンは信じていた。きっとヘリワードはフリューネの力になり平行世界に訪れるだろう危機も何とかしてくれるだろうと。 この後、四人はのんびりと祭りを楽しんだ。