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賑やかな秋の祭り

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賑やかな秋の祭り
賑やかな秋の祭り 賑やかな秋の祭り

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 朝。

「今日は誘ってくれてありがとう、美羽ちゃん」
 高原 瀬蓮(たかはら・せれん)はにこにこと隣を歩く親友に礼を言った。
「どういたしまして。こういう賑やかなお祭りは一人で楽しむより誰かと楽しむ方が楽しいからね(あの二人、どこかにいるはずなんだけど……)」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は瀬蓮に答えながら密かに顔見知りの例の双子を捜していた。遊ぶためと悪さをしていないか監視するために。
 そして、双子よりもびっくりの再会が舞い込む事に。

 一方、平行世界から来た可愛らしい来訪者達が祭りの喧噪の中を歩いていた。
「……あの二人もここの私達も見つからないね、瀬蓮ちゃん」
 控え目な少女が隣の親友に声をかけた。
「そうだね。折角お呼ばれしてくれたお礼を言いたかったのに。またどこかで悪さをしてるのかな。こっちの二人も悪戯が好きだから」
 元気印の瀬蓮はきょろりと招待してくれた人物を捜していた。以前この世界で出会い見覚えがある人物を。
 しばらくうろうろし
「紅葉や銀杏が降って来て秋らしくて素敵だね」
「そう言えばそうだね」
 控え目美羽と元気娘瀬蓮はこちらの双子を捜しながらも頭上から降る秋の葉を楽しんでいた。
 そうやって何気に楽しみながら角を曲がった瞬間
「!!」
 びっくり。
 そこにいたのは
「えと、平行世界の私達だよね? どうしてここに?」
「美羽ちゃんと瀬蓮がいるよ」
 美羽と瀬蓮だった。こちらの世界の。
「ここにいる美羽ちゃん達のサプライズになるからと招待されたの」
 一度ここに来て美羽と交流がある元気娘瀬蓮が事情を明かした。
「……それはつまり……私達を驚かせようとしたあの二人からの悪戯って事になるのかな?」
 美羽は小首を傾げつつ元気娘瀬蓮の話を理解し、念を押した。
「その通りだよ」
 元気娘瀬蓮は力強くうなずいた。
「へぇ、あの二人、たまにはいい事するじゃん!」
 美羽は未だ捜索し見つからぬ双子に感心していた。双子が聞いていたら調子に乗り面倒な事になりそうだが。
 和気あいあいと再会を喜ぶ横では
「……美羽ちゃん」
「……瀬蓮ちゃん」
 それぞれの世界の瀬蓮と美羽が戸惑っていた。何せ二人は初対面の上に大人しい性格だから。
 その事を思い出した美羽は
「あぁ、そっか、瀬蓮ちゃんは初めてだよね。この二人はね、平行世界の私達なの」
 思い出したように瀬蓮に紹介した。
「初めましてというのはおかしな感じだけど、よろしく、こっちの瀬蓮」
 元気娘瀬蓮は親しげに握手の手を差し伸べた。
「……よろしく」
 瀬蓮は初めての事に恐る恐るながら手を握り握手をした。
 それから
「……何かこっちと正反対だね」
 ちらりと超ミニスカートを穿いた向こうの自分を見てから感想を洩らした。こちらで超ミニスカートを穿いて蹴りの達人なのは美羽なのにそれが向こうでは自分だから。意外すぎてびっくりである。ちなみに向こうの美羽はこちらの瀬蓮と同じように優しく穏やかで服装も大人しめである。
「そうだよ、瀬蓮ちゃん。平行世界の二人はこっちの私と瀬蓮ちゃんが逆になった感じだよ」
 瀬蓮の驚きように笑った。サプライズを計った双子の思惑は見事に成功である。
 ご対面が終わったところで
「良かったら一緒にお祭りを楽しみながら双子を捜すのを手伝うよ(丁度私も捜していた所だし……ついでにお礼も言おうかな)」
 美羽は話題を本筋に戻した。丁度密かに双子を捜索していた美羽にとっては渡りに舟である。
「そうしてくれると嬉しいな。ね?」
「……うん。それにこっちの私と一緒にお祭りを楽しみたいし」
 元気娘瀬蓮は即答するなり隣の控え目美羽に意見を求めるも迷う事無く答えは決まっていた。賛成のただ一つ。
「瀬蓮ちゃんもいい?」
「いいよ」
 美羽と瀬蓮も問い掛けど意見は同じ。
 これによって自分達と祭りを楽しむという不思議な事になった。もちろん、双子捜索は忘れない。

 祭り楽しみ中。
「どこも秋の味覚ばかりだね……」
「……どうかした?」
 瀬蓮と控え目美羽は同じ大人しい性格からかお菓子を食べながら仲良く歩いていた。
「……色々驚いちゃって、だってあまりにも違うから」
「それは私も。瀬蓮ちゃんから聞いた事あるけど、百聞は一見にしかずだね」
 瀬蓮と控え目美羽は互いに自分の変わりように驚いていた。平行世界の美羽はやはり親友から話を聞いていたようだ。
 そこに
「それは私もだよ。前に会ったのは瀬蓮ちゃんだったから自分に会えてとても嬉しいよ」
 美羽が加わった。何せ映像で知ってはいるが平行世界の自分に接するのはこれが初めなのだ。
 その時
「ねぇ、三人とも、何か向こうで困ってる人がいるよ。しかも……」
 元気娘瀬蓮がずっと前方を指し示した。そこには困っている恋人さんがいた。
 しかもその原因は……
「あぁあ、ヒスミとキスミだ。それに……」
 美羽が捜していた人物達だった。それだけでなくおまけが付いていた。
「ヒスナとキスナもいる。どうしてここにいるのかな」
 控え目美羽がまさかという顔でおまけの人物に気付いた。
「……誰かに招待されたのかもしれない」
 控え目美羽も気付いた。親友の瀬蓮と共によく知る長い髪に二人そっくりの悪戯っ子の顔を。
「そうかもだけど、こっちに来てまで悪戯するなんて」
「放って置けない」
 呆れる仕置き担当の元気娘瀬蓮と美羽。
 そして
「……」
 互いに顔を見合わせる。やる事はただ一つ。
「行こう、瀬蓮ちゃん」
「うん、止めに行こう、美羽ちゃん」
 美羽は瀬蓮を、元気娘瀬蓮は控え目美羽に声をかけるなり駆け出した。
「待って、美羽ちゃん」
「速いよ、瀬蓮ちゃん」
 それぞれの世界の瀬蓮と美羽は急いで親友を追いかけた。
 四人は相手に気付かれないで接近出来ると思いきや双子達は勘付き、逃走を開始。
 瞬時に
「さすが、二人。気付かれたよ。はやく追いかけよう!」
「もちろん……二人も行くよ!」
 キックマスター元気娘瀬蓮と美羽は駆け出した。美羽は後ろにいる大人しい二人に声をかけた。
「……瀬蓮達も行こう。二人に置いてかれちゃう」
「うん。こっちでも同じなんだね」
 急かす瀬蓮と既視感に思わず笑みを洩らす控え目美羽は元気娘達に続いた。

 一方、追われる者。
「ねぇ、このままじゃ、追い付かれるよ」
 ヒスナは振り返り背後に迫る顔見知りに不安げ。
「それなら二手に別れたらどうだ。そしたら攪乱できる」
 キスミがここで名案を閃くと
「それじゃ、俺とキスナでキスミとヒスナだな。向こうと何か違う所があったらいけないからな」
 ヒスミが指揮を執り手早く指示を下す。
「分かった。それじゃ……」
 キスナはこくりとうなずいた。
 走りながらの相談は終了し実行に移そうと動く。

 一方、追う者。
「このままだともしかしたら二手に別れて逃げるかも」
「そうなったら面倒だね。私が先駆けで行って足止めをするからその間に……」
 元気娘瀬蓮と美羽は走りながら話し合っていた。仕置きの経験からか双子がこの先取るであろう行動を読んだ。
「先に行くね」
 美羽は『バーストダッシュ』で双子達との距離を一気に詰めようと試みた。

 再び追われる者。
「よし、行くぞ、キスナ」
「行こう」
 ヒスミとキスナ。
「オレ達はあっちだ、ヒスナ」
「あっちだね」
 キスミとヒスナ。
 四人が二手に別れて逃げようとした瞬間
「こらぁーーー、悪戯はだめだよーーー」
 『バーストダッシュ』で美羽が登場すると共に怒りの大声が轟いた。
「!!」
 双子達はビクッと体を震わせ、二手に別れるのを阻止されてしまった。
 続いて
「もう、逃げられないよ」
 元気娘瀬蓮が登場。
「……悪戯しちゃ駄目だよ」
「二人共、速いんだから」
 大人しめな美羽と瀬蓮が最後に登場。
 そして
「瀬蓮ちゃん」
「美羽ちゃん」
 蹴りの達人の二人は顔を見合わせるなり
「迷惑を掛けられて困った人達のために……」
「お仕置きだよ!!!」
 美羽と元気娘瀬蓮は同時に超ミニスカートを翻して強烈なキックを繰り出してお仕置きをした。
「!!!」
 二人の強烈なキックで四人はすっかりノックダウンとなった。

 仕置き終了後。
「……ふぅ」
 二人の仕置き人は息を吐き、一息。
 そこへ
「……大丈夫、四人とも」
「……この世界に招待してくれてありがとう」
 瀬蓮と控え目美羽がダウンしている双子達の様子を心配そうに伺いに来た。
 優しい二人に声をかけられ
「……何とか……」
「礼はいいって……お祭りを盛り上げようとしただけなのに」
 復活したキスナとキスミが代表として答えた。
「盛り上げるのもそこそこにしないと……というか今は四人だけなの? というかどうしてヒスナ達がいるの?」
 美羽が立て続けに気になる事を質問した。
「ロズはまいた」
「ヒスナ達と一緒に祭りを楽しみたかったけど、オレ達が頼んでも言う事聞かないだろうから……色々としてオレ達の頼みじゃないようにして招待して貰ったんだ」
 双子は質問に素直に答えた。
「……もう(予想通り)」
 美羽は予想通りの返答に溜息を吐いた後、
「罰として無害な魔法薬を使った楽しくて美味しい魔法スイーツを作って食べさせて」
 両手を腰に当て恒例の罰を双子達に与えた。
「はぁ、何でわざわざ作らなきゃなんねぇんだよぉ」
「そうだよ。折角、こっちの世界のお祭りを楽しんでいたのに」
 ヒスミとヒスナが真っ先に文句を垂れ
「でも配るお菓子も少なくなってたから補充するのにいいかも」
「それもそうだね」
 キスミとキスナは企みをもぽろり。
 しかし
「……残念だけど、見張るからね」
 美羽のこの言葉で
「はぁ」
 双子は溜息を吐いて諦めた。
 この後、魔法含有という事で美羽達を伴ってイルミンスール魔法学校に行き見張り付きの中、外見は普通だがオレンジ色の光が中に詰まったパンプキンケーキを作り上げた。
 そして
「……美味しい」
「……オレンジ色なんて秋らしくて素敵」
「見た目は普通なのに中身は輝いているなんてびっくり」
「……これは素敵な魔法だよ」
 美羽、瀬蓮、元気娘瀬蓮と控え目美羽は美味しく食べた。
 それを見た双子達は満足そうであった。
 その後、再び祭りに戻り、八人は賑やかな祭りを歩き回った。
 途中、隙を見て双子達四人は姿を眩ました。
 いつもの事なので美羽達四人は気にせず、祭りを楽しんだ。
 ちなみに双子は朝に好奇心から料理の手伝いをすると約束した民族料理を扱う屋台で面白そうという理由でウェイターと呼び込みの仕事をしていた。

 祭り終了後。
「……今日はとても楽しかったよ。ありがとう」
「食べたり飲んだり……それに一緒にキックしたり凄く楽しくて別れるのが名残惜しいよ」
 ここを去らなければならない平行世界の美羽と瀬蓮はとても名残惜しいのか表情は寂しそうであった。
「それは私もだよ。こうして瀬蓮ちゃんと私と一緒にお祭りを楽しめて本当に嬉しかったよ」
「……今日は二人に会えて一緒に過ごせてとてもいい思い出になったよ。素敵な日をありがとう」
 見送る方の美羽と瀬蓮もまた寂しげであった。何せ別れてしまえばそう簡単には会えないから。
 ここで
「……お互い双子に振り回されたりと大変だけど頑張ろうね」
 元気娘瀬蓮がこのお別れな空気を何とかしようと思いっきりの笑顔で言うが、寂しさが見え隠れしており、浮かべた笑顔によってさらに深くなる。
「そうだね」
 美羽も笑うが同じく寂しさが居座っていた。
 いつまでもこうしていると寂しさばかりが募り余計に別れ難くなるため
「もう行くね」
「今日の事、二人の事、忘れないからね」
 平行世界の瀬蓮と美羽はようやく別れを口にした。
「私も忘れないからね……また会おうね!」
「元気で」
 美羽と瀬蓮は最後にと別れの言葉と共に握手をしようと手を差し出した。
「……うん、また会おうね」
「そっちも元気でね」
 平行世界の美羽と瀬蓮は差し出されたこちらの自分達の手を握り握手をしてから二人は背を向け、仲良く有るべき場所へと帰って行く。

「……(ありがとう)」
 美羽は二つの背中を見送りながら心の中でつぶやいていた。