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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう
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リアクション

 10年後、2034年。葦原長屋、朝。

「じゃあオレ出かけてくるよ。約束通り帰ってきたら沢山一緒に遊ぶから二人とも父さんと母さんの言う事を聞くように」
 成長して昔以上に一層顔立ちが端正になったジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)は靴を履いてから見送りに来た弟と妹の頭にそれぞれ手を載せ、名残惜しそうにしているのを言い聞かせる。
「絶対だよ、お兄ちゃん、今日は前に見付けた面白い場所に案内したいから」
 母親に似た好奇心旺盛さとのんびりさを持つ茶髪の少年は早く自分が見付けた場所に案内させたくて堪らない様子で
「お姉ちゃん、本を一緒に借りに行く約束忘れないでね。お兄ちゃんはのんびりだから約束はこっちが先だよ」
 父親に似た聡明さと冷静さを持つ黒髪ロングの少女はのんびりな兄よりは先にと自分の主張をする。成長してもジブリールの性別曖昧は変わらずのため弟妹は兄や姉としてそれぞれ慕っていた。
「大丈夫だ。帰ったら二人の約束きちんと果たすから」
 ジブリールはせっつく弟妹にしっかりと言い聞かせてから家を出たが、
「……あれ、手紙?」
 郵便受けから手紙が見えて足を止めた。
 そして、改めて郵便受けを確認した。
 すると出て来たのは三通の手紙。
「……この三通の手紙……母さんと、犬と……オレ? 犬宛はキスミ達の所へ行くついでに届けてやるとして……母さんのは……」
 ジブリールはすぐに宛名を確認するなりもう一度家に入った。

 家内、玄関。

 家に入るなりジブリールは玄関先で弟妹を呼び寄せ
「二人にお願いがあるんだけど、この手紙を母さんに渡しておいてくれるかな?」
 一通の手紙を差し出した。
「いいよ」
「任せて」
 弟妹は受け取るなり渡すべくターッ走って行った。

 微笑ましい弟妹の後ろ姿を見送った後
「……良く見るとこの手紙、宛名も差出人もオレになってる……という事はオレが書いたはずだけど……」
 手紙の差出人を確認したジブリールは心当たりが浮かばず妙な手紙に首を傾げる。
「……とりあえず」
 自分宛という事でひとまず封を開けて中身を確認する事にした。そうすれば何か思い出すだろうと。

 その考えは
「……10年後のオレへ……あぁ、そうか。そういえばそうだった」
 当たりだった。最初の一文を目に入れた途端、昨日の事のように全てを思い出した。
「……そうだ。あの時、イルミンスールで今の自分に手紙を書いたんだ。オレに弟と妹が出来て五人賑やかに楽しく……」
 ジブリールはあの時便箋に染み込まされた未来体験薬で見た未来を思い出した所で言葉を途中で止め
「あぁ、そうか」
 得心の顔になったかと思いきや
「はは、今のオレ、あの時に書いた10年後の未来を生きているのか。いつの間にか辿りつけていたんだな。これは、最高に嬉しい事だね」
 突然吹き出した。手紙の懐かしさと昔望んだ未来がそっくり今の自分であるというおかしさに。
 ジブリールは笑う気持ちを落ち着かせ
「……(今のオレは十分幸せだけど……それでも沢山問題にぶつかると思う……でもだからこそかな? 未来のオレは今のオレよりずっと幸せそうに視えた、か。あれからオレは自分が進むべき道……暗殺技術を人を生かすための技術にしようとあれこれ頑張っていたな……それに色んな人にも出会った……)」
 手紙の続きを読みつつ自分の将来を模索していた昔の自分を思い出し、あの頃に出会った絆が今も続いている事に感慨深くなり10年という月日が経った事を改めて実感した。
 そして、ジブリールは
「……手紙を受け取ったら今日視た未来通りか教えてくれよ? か」
 手紙の最後の文章だけ声に出して読むなりニヤリと唇の端を歪め
「……今日もオレは皆と賑やかに楽しく、勿論大変な事件も相変わらずだけど、充実した日々を生きているよ……10年前のオレ」
 と文章を通して昔の自分に向かってつぶやき
「さて、気分もいいし今日は存分に……昨日調薬探求会で完成させた薬を提供して悪戯加担しようかな?」
 いつも以上に今日という日が愛おしい気持ちで家を出て行った。
 途中、手紙を渡すために寄り道をしてから双子との待ち合わせ場所に向かった。

 双子との待ち合わせ場所。

「遅いぞ」
「何かあったのか」
 寄り道で少し遅れたジブリールを迎えるヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)キスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)は流れた月日によってすっかり立派な青年に成長していた。
「実は出掛けに10年前に書いた手紙が届いてさ。それで遅くなってね」
 ジブリールは遅れた理由を素直に話すと
「やっぱり、お前の所にも届いてたのか。実は俺達の所にも届いたんだ」
 ヒスミの方も届いていたようだ。互いに宛てた未来年数が同じだったのだ。
「あぁ、悪戯とか発明しているのか? とかありふれた事しか書いてなくてさ。本当、元気に悪戯してるって話だよ」
 キスミが肩を竦めながらつまらないという感じで手紙の内容を語った。
「確かに……でも昔に比べて大人しくなったとか落ち着いたとかは言われるよね……相変わらずやり過ぎる時はあるけどさ」
 ジブリールは今もつるんで双子の悪戯に荷担している者として冷静な感想を口にした。
「あーー、そりゃ、年食ったって事か」
「やり過ぎはこいつの専売特許だから、仕方ねぇよ」
 双子は昔を思い出しつつ笑いながら言う。10年も経ち少しは大人の部分も見せるようになったようだ。
「まぁね。でも二人にお近付きになったのは手紙を書いたあの時だったんだよね。まさか今でもこうして交流が続くなんてあの頃は思いもしなかったよ」
 ジブリールは手紙書きが双子と仲良くするきっけだったと思い出し今もこうして交流している事に奇跡を感じる。知り合いたいと思わなければこうして過ごす時間もなかったのだから。
「そりゃ、俺達もだ」
 ヒスミが双子を代表して言った。こちらも同じだ。ジブリールとの出会いを大切だと思っていた。
「で、家族の方は元気か?」
 キスミがジブリールの家族の様子を訊ねた。ジブリールと交流しているためか今でもフレンディス達と交流が続いているのだ。
「相変わらず仲良しだよ。今頃手紙で一騒動あるかもだけど。そっちは?」
 ジブリールは手紙を巡るあの夫婦の様子を想像し口元を綻ばせながら双子に訊ねた。
「ロズは生まれが特殊なだからか、今も昔と同じ姿だぜ。そんな事よりも変わらず監視されてるのが気にくわないんだ」
「でもあいつの万が一に備えての研究は昔よりずっと進んだ。割と難しくて奥深いから完全に完成とは行かないが完成には近い所まで来てるぜ!」
 双子はロズの近況を報告した。変わらず保護者のロズを巧みにまいてここに来たのだ。寿命がありながらもロズの姿が変わらない事は気にしていないらしい。
「で、こっちは今日悪戯に使う魔法薬を持って来たけど、そっちは?」
 キスミが持参した魔法薬を見せると
「持って来てるよ。昨日調薬探求会で完成した薬」
 ジブリールも持参した物をお披露目した。
「すげぇな。相変わらず調薬探求会で頑張ってるんだな」
 ヒスミが感心の声を上げた。ジブリールと交流をする間にジブリールが調薬探求会に所属した事を知ったのだ。
「まぁね、おかげで昔に比べて知識も出来る事も格段に増えたよ。でもまだまだかな」
 ジブリールは肩を竦めながら答えた。知識を求める事に終わりは無いのだ。
 話が一段落した所で
「とりあえず、今日を楽しもうぜ!」
 ヒスミが話を本題に戻すと
「あぁ!」
 キスミは少年だった時と同じく目を輝かせて乗り
「そうだね(今日も楽しい一日になりそうだ。これからも……)」
 ジブリールも乗った。今日だけでなくこれからもこんな日が続く事を思いながら。

 賑やかな一日はまだ始まったばかりだ。

 10年後、2034年。葦原長屋、朝。

「お父さん如何なさいましたか?」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)はうろうろとしているベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に気が付き訊ねると
「フレイ、ジブリールが見当たらねぇが……」
 ベルクは朝食で見たっきりジブリールの姿が見えない事を不審に思っていた。10年の月日のおかげがフレンディスのベルク呼称に変化が見えていた。
「ジブリールさんでしたら先程双子さんの所へお伺いに行くと申しておりました故夕食までお戻りになられないかと、昨日成功した調薬がとお話しておりましたが……」
 フレンディスは出掛ける前にジブリールに言われた事を思い出し伝えると
「……キスミ達の所へ行ったのか!?」
 ベルクは頓狂な声を出し
「しかも調薬……また結託して余計な悪戯目論んでなければいいんだが……(あいつらロズの研究も完成間近まで進めて……子供の時と違って落ち着いた部分あるかと思いきや全く変わってねぇし、ロズも大変だな)」
 疲れが滲み出る深い溜息を吐いた。同じ保護者として変わらずロズとは交流があり互いに溜息を吐き合っているのだ。
「双子さんとご一緒ならばご心配なさらずとも大丈夫ですよ」
 ベルクと違ってフレンディスは心配のない良い笑顔。年月が経っても変わらず双子への絶大な信頼はあついまま。
「……はぁ」
 変わらぬフレンディスの様子にベルクは溜息しか出なかった。
 その時
「お手紙だよー」
「お姉ちゃんから渡してて頼まれたの」
 子供達が現れてフレンディスに手紙を差し出した。
「まぁ、私宛へのお手紙のお届けですか。有難う御座います(これは……私、からですか? 不思議なお手紙ですね……)」
 受け取ったフレンディスはまじまじと差出人が自分になっている手紙を不思議そうに確認してから封を開けた。すっかり昔書いた事を忘れていた。

 一方。
「……手紙(あれは確か10年前の……だよな。フレンディスに来たという事ならジブリールとポチ宛にも届いているな)」
 ベルクはすぐに手紙の見当が付いた。
「ねぇ、どんなお手紙なの?」
 息子が興味津々に目を輝かせベルクに聞く。
「過去からの手紙ってやつだ。あれは10年前お前達が生まれる前に書いた物だ」
 ベルクが手紙の正体を告げると
「……過去からの手紙……面白そうだなぁ」
「……お手紙が届いたという事は10年経ったんだね。10年……どうなってるのかなぁ」
 兄妹はますます興味津々に。
「なんだ二人も自分の未来が気になるのか?」
 ベルクが笑いながら訊ねると
「うん!」
 兄妹はこくりと力強くうなずいた。
 それに対して
「そうだな……今度双子に頼んでみるか。喜んですぐに作ってくれるはずだ……ただ、どんな未来が視えたにしてもそれは不確定。視えた未来が嫌なら覆すように生きて……っつーてもまだ意味が解らねぇか」
 父親らしい面を見せたりするが、難しい話をしてしまったので子供達の様子を窺うと
「えーと、未来は分からないものだから嫌な未来なら大好きな未来に頑張ってしたらいいんでしょ」
 聡明な娘が少し考え込みながら自分なりに理解した事を伝えてくれた。
「そうだな」
 ベルクは破顔し子供達の頭を撫でた。
 そのまま
「……で、フレイ、手紙は……」
 ベルクは手紙の中身を訊ねようと声をかけた。何せ当時は恥ずかしがって教えてくれなかったので。
 途端
「……っ!?」
 封を開けて中身を確認していたフレンディスはベルクの声に弾けたように振り向くなり
「これは……マスターは読んだらいけませぬ……!」
 フレンディスは顔を赤らめ凄い勢いで手紙を隠して尻尾まで垂らして隠れた。
「……そうやって尻尾垂らして隠れなくても中身見ねぇよ! 大体予想つくし……というか、またマスターと呼んでるぞ」
 ベルクは溜息を吐きつつ昔の呼び名が出ている事を指摘した。パニクると出て来るのだ。
「そ、そうでした……その、ベルクさんには内緒です」
 フレンディスは気を落ち着かせてから改めて内緒の旨を言い直した。
 すると
「どんなお手紙だったの?」
「教えて」
 兄妹が目を好奇心に爛々として訊ねてくる。
「二人も大人になってからですよ」
 フレンディスは我が子であっても頑として見せないを貫き通す。いつもはおっとりのんびりなお母さんなのだが。
 そのため子供達は諦め父親の方に擦り寄り
「……」
 ちろりと物言いたげにベルクを見るのだった。
 すぐに言いたい事が分かったベルクは
「俺は手紙書いていないから届かないぞ」
 子供達にとって残念な答えを告げた。
「どうして書かなかったの?」
 息子が好奇心から訊ねた。
「さぁな、それも秘密だ。お前達が大人になってからだ(言っちまうとフレイにせっつきそうだからな)」
 ベルクはあっさりとはぐらかした。何せ子供がまたフレンディスにせっつきそうな内容なので。
「教えてくれないの?」
「ずるい!」
 父親もだめと知るなり兄妹は頬を膨らませ不満を顔一杯に表現した。
「……そう言うなって(あの時俺はフレイが視た未来に向かって努力するだけだと……いつ報われるんだろうと思っていたが……今はこうして……幸せだな……絶対手放しはしない)」
 ベルクは子供達の頭を撫でながら手紙書きの時に洩らした言葉を思い出し、あの頃あれこれと耐え忍んだり行動したりしていたが、こうして今望んだもの、幸せを手にしていると思うと心の底から満たされ大切にする事を誓う。

「…………(ま、まさか、手紙が届くなんて思いませんでしたが……未来体験薬で見た通りの未来が訪れるとは……でも……幸せですね……マス……ベルクさんとジブリールさんと子供達と一緒で……ポチも幸せになっていますし)」
 フレンディスも今の幸せに感謝していた。

 後ほど他の二人の手紙の内容を知るなり
「…………この世界は皆が望んだ未来という事か」
 ベルクは感慨深くつぶやいていたという。

 10年後、2034年。ツァンダ某家、朝。

「……おはようなのです」
 起きたばかりの獣人姿の忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が朝食を作る忙しない音が響く台所に向かって言った。10年が経ち背丈がほんの少しだけ高くなり成犬に近づいた犬の耳と尻尾が特徴の獣人少年になっていた。

 台所から挨拶とジブリールが手紙を届けてすぐに帰ってしまった話が飛んできた。
「……手紙? あの生意気ターバンが手紙だけ寄越して帰ったのですか?」
 ポチの助はテーブルの自分宛の手紙に気付くなり手に取り
「偶には少しくらい上がっ……いえ、何でもないのですよ」
 顔見せずに行ったジブリールの対応にちょっぴり寂しさを見せるも性格からか慌てて本音を隠してしまった。
 改めて
「……しかしこの手紙……宛名も差出人も僕ですが……一体いつ……」
 ポチの助は手紙を確認するもなかなか心当たりが思いつかなかったが
「!!」
 考えている内に思い至り
「……そうです(これは10年前、僕が未来こうなると決意表明した手紙……間違い無いのです……まさか急いで書き上げて中途半端になった手紙が届くとは……)」
 とうとう思い出した。理由あって家出をした最中に参加しフレンディスに見つからないように手紙を書いた事を。
 そして
「……この手紙、君も一緒に読みませんか?」
 ポチの助は台所に向かって声をかけた。今共に生きる笑顔が可愛い少女の顔を浮かべて照れながら書いた手紙を今他人に見せようとしているとは。
 他人の手紙を読む事に遠慮する声に
「構いませんよ。この手紙は昔の僕が書いた僕はやっぱり超優秀なハイテク忍犬だったと証明するもので……そして僕のお嫁さん……君についてなのですから」
 ポチの助は少し照れながら思い出した手紙の内容を明かして誘う。
 今度は誘いに乗り台所から姿を現したのはポチの助のお嫁さん、昔ずっとフードを被り続けていた機晶姫のあの子だった。
「……では」
 ポチの助は開封して封筒の中身を取り出し、広げた。
 そこには手紙は中途半端だが込められた想いはしっかりしていて超一流の専属機晶技師になって今のお嫁さんの悩みを解決して毎日笑顔にしてあげてるのだろうという決意に満ちたものであった。

 手紙を読み終わり
「ふふん、昔の僕は夢を叶えたのですよ。なぜなら超一流のハイテク忍犬ですからね」
 ポチの助はすっかり胸を張っていた。決意表明通りお嫁さんの悩みを解決し共に生きている今に。
 お嫁さんは昔から変わらぬ可愛い笑顔で悩みを解決し毎日を笑顔にしててくれている事やこうして同じ道を歩いている事についてお礼を言った。
 すると
「そ、そんな事は当然なのですよ! 僕は君の旦那さんですから」
 ポチの助は自分に向ける可愛い笑顔に照れながら少し慌ててしまう。

 そしてお嫁さんはこれからも変わらず大好きだよとポチの助に言って朝食の準備の続きをするために台所に引っ込んだ。

 残されたポチの助は
「…………僕も大好きなのですよ」
 小さな声で愛をこぼしていた。

担当マスターより

▼担当マスター

夜月天音

▼マスターコメント

 参加者の皆様お疲れ様でした。そして大変ありがとうございました。
 過去や現在や未来を過ごして頂いたり未来の自分に宛てた手紙を受け取って頂いたりと時間を過ごして頂きありがとうございました。
 本シナリオにて夜月名義のシナリオは終了となり感慨深くもあり寂しさも感じております。
 これまで参加して頂きました皆様大変ありがとうございました。ここまで来る事が出来ましたのはひとえに皆様のおかげです。感謝してもしきれません。
 そして最後まで至らない所だらけで大変申し訳ない気持ちで一杯です。

 もしまたどこでお会いできました際はどうかよろしくお願い致します。