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リアクション
「エンド、調べ物はそれくらいにして眠った方がいいですよ」
ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)があれこれと調べ物をするグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に声をかけたが
「……しかし」
グラキエスは諦め切れないのか手から書物を離さず、訴えるような目でロアを見るばかり。
しかし
「バイタルが少し乱れてきています。体調を崩したら遺跡探索に行けませんから……ここは私が片付けておきますから」
仲間として家族としてグラキエスの身を案じるロアはほんの少しも許さない。夏の消耗からまだ回復しきれずベッドで過ごす時間も長いグラキエスにとってほんの少しを許す許さないは命に関わる事にもなるから。口調はあくまでも優しく笑みさえ浮かべてはいるが。
「……分かった」
楽しみにしている遺跡探索を出されては従うしかなく、調べ物を少し名残惜しそうに切り上げてベッドに向かった。
「……」
ロアは静かに片付けを始めた。
その間。
グラキエスは大人しくベッドに入り
「……」
すぐに寝入っていた。
そこに
「……グラキエス」
体調が回復しきっていないグラキエスを心配するゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が現れた。
「……休むように言ったと聞いたが、すでに眠ってしまったか」
心地良さげな寝息を立てるグラキエスの寝顔を見ながらゴルガイスは軽く息を吐いた。実は、ここに来る前にグラキエスが調べ物をしていた部屋に立ち寄りロアから休むように言ったと教えられたのだ。
「……まだ時折夏の面影を感じる事はあるが、秋もそろそろ深まるだろう。季節も変わりグラキエスも少しずつ回復してきた……しばらくすればまた……」
夏に比べると元気になってきたグラキエスに対して
「ふ……以前ならこんな余裕をもって見守る事などできなかったものだが……」
以前のいつ倒れるのかとひたすらグラキエスの身を案じネガティブになっていた頃とは違い、どこか落ち着きがあった。
「我もグラキエスも共に今日までの月日を歩む中で随分変わったな……グラキエス、お前は我らの為でなく自分から生きたいと望むようになった……」
ゴルガイスの言ではパートナーロストを起こさないためにと生き続けなければというグラキエスも変わったらしい。
「……そして我は、罪を犯し後悔を……」
ゴルガイスは振り返る。過去にグラキエスを見捨て絶望させた事、それを後悔し契約を結び共に歩んだ日々、グラキエスに重荷を下ろすように、自分を責め続けないで欲しいと言葉をかけられ、共に幸せに生きようと伝えられた事。
そして気付くのだ。
「……我がお前を支えているようで逆に支えられていたのだな」
支えているばかりかと思ったら支えられていたと。それが傍にいると言う事で共に歩むという事だと。
互いの変化を思った時
「……我が友よ、お前はこれを喜んでくれるだろうか」
ゴルガイスの意識は遠くに旅立った。グラキエスを生かすために自分を犠牲にした亡き友がいた過去に。
現在の2024年から5年ほど前、どこかの研究所。
「……」
グラキエス、いやROAシリーズのエンドナンバー、END=ROAと言う名前でエンドと親しげに呼ばれていた暴走をし記憶を失う前のグラキエスがいた。
どこか思い悩んでいる様子であった。
その悩みとは
「……最近ロアルドの様子がおかしい。実験を終わらせたらいつも笑ってくれるのに」
自分の開発者でゴルガイスの友であるロアルドがいつも見せくれる優しい笑顔が最近見られない事である。その度にエンドの胸が悲しみで締め付けられたまらず表情まで暗くなってしまう。ちなみにロアルドはロアの本体を作った技術者でもある。
「……どうしてだろう」
何が原因なのかエンドは必死に頭を巡らせる。“親”であるロアルドに元気になって欲しいから。何気に口調が現在よりも砕けている。
考えを巡らした結果
「……そう言えば、最近魔力が上手く操れない」
自分自身に原因があるのではと思い至り
「使った後倒れることだってあった……そのせいでロアルドは……」
倒れた事も思い出しますます自分のせいだと深く気を落とす。
しかし、それはエンドのせいではない。エンドに内蔵する狂った魔力が徐々に制御が利かなくなっている事が原因なのだ。
そこに
「……大丈夫か。ロアルドからまた倒れたと聞いた」
心配で様子を伺いに来たゴルガイスが現れた。
「大丈夫だ。でも……」
エンドはロアルドと同様に慕うゴルガイスに訊ねようとする。ロアルドが笑わないのは自分のせいではないのかと。
察したゴルガイスは
「お前のせいではない。そんな顔をする必要は無い」
励まそうとする。
「……ありがとう(もっともっと頑張らないと)」
ゴルガイスに礼を言いながらもエンドは胸中でロアルドの笑顔を見るために頑張らなければと健気に思うのだった。
その間、
エンドの実験結果から察した研究所の上層部から廃棄命令が出るのは時間の問題と察した開発者ロアルドが何とかそれを回避しようと奮闘していた。
しかし
「ロアルド、今度はもっと頑張るからそんな顔しないでくれ」
実験後に倒れて目覚めたエンドに向けるロアルドの表情が物語っていた。廃棄命令回避は不可能であると悟り、エンドを不安にさせまいと隠してはいるものの隠しきれずエンドに忍び寄る影を気付かせる。
ロアルドは必死なエンドの言葉で急いで抱く危惧を引っ込めるも
「……ロアルド……」
エンドの不安はシミのように広がるばかりであった。
そのエンドを見てロアルドは決めていたのかも知れない。命を失うかも知れない行動を起こす事と覚悟を。
その後、程なくして上層部は反逆しエンドを逃がそうとしたロアルドを静粛し、廃棄処分命令を実行されそうになったエンドの魔力が暴走しロアルドと同様に慕っていたゴルガイスが自分を恐れて命惜しさに見捨てた事に絶望し、再び魔力が暴走した。結局最後はゴルガイスと契約する事により生き延びる事に成功した。記憶喪失と引き替えに。同時にゴルガイスに重い十字架を背負わせた。
その瞬間からエンドはゴルガイスによって付けられた新たな名前、グラキエス・エンドロアとして生きる事になった。名の“グラキエス”はゴルガイスが名付け、苗字の“エンドロア”はロアルドを偲んでゴルガイスが本来の名称を苗字にしたのだ。
そして、現在、2024年。
「もう寝入ってしまいましたか」
片付けを終えたロアがグラキエスの様子を見に現れ、静かに寝入っているのを見てから静かに
「……秋になったとはいえ体力面では回復まで注意しないといけませんね」
グラキエスのバイタルが安定した事を確認してから
「アラバンディット、随分と感慨深そうですがどうしました?」
何やら物思いに耽るゴルガイスが気になり訊ねた。ロアルドと同じ姿と記録と記憶を持つ魔導書のロアは現在、破損したデータを完全に復元するには至っていないがそれがなくとも仲間として家族としてグラキエスだけでなくゴルガイスも支えてきた。
不意に声をかけられ気付いたゴルガイスは
「……あぁ、お前か」
ゆっくりとロアに振り向き、一瞬だけ視線を重ねた。その姿にグラキエスの“親”でありロアの本体を作った亡き友に瓜二つの姿形に。
そして
「……ただ過去を思い出していただけだ」
今までの苦しげな様子はなく唯純粋に懐かしく感慨深そうに答え、部屋を出て行った。
「……」
ゴルガイスがどの過去を思い出したのか自分に振り向いた瞬間に悟ったロアはゴルガイスの変化に感慨深そうに微笑み
去る後ろ姿に
「お前はよくやってくれた。流石は私の友だ」
ゴルガイスには聞こえない声でつぶやいた。
窓から秋の深まりが近い事を知らせる涼しげな風が吹き込んできた。
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