校長室
そして、蒼空のフロンティアへ
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★ ★ ★ 「もしもし、編集長ですか。すみません、迷いました……」 『何をやっとるんだ。ミイラ取りがミイラになってどうする!』 携帯電話に出た月刊世界樹内部案内図編集長の声が、薄暗い通路に響き渡りました。 「すみません、すみません」 元ゴンドラ協会長が、携帯電話を持ったままへこへこと頭を下げました。 女王像の欠片窃盗の罪で投獄され、つい先だってやっと出所してきたばかりです。 ザンスカールの職業斡旋所で見たバイト募集の張り紙を見て応募したのですが、まさかこんなことになるとは思ってもいませんでした。 『まあ、なんだ。どのみち、そのバイトは毎回遭難者が出るバイトなんで、気にせずマッピングを続けてくれたまえ。イルミンスールの方でも把握しているだろうから、そのうち捜索隊がやってくるだろう』 なんだか呑気にそう言うと、編集長は電話を切ってしまいました。 「ちょっ、捜索隊! 手配してくれないのか!? もしもーし、もしもーし!!」 叫んでみても、返事はありません。 「ホントに、捜索隊は来るのかよ……」 どこへ続いているとも分からない、薄暗い通路の先を見据えて、元会長が言いました。 日々成長を続ける世界樹イルミンスールは、それにつれて内部の構造も変化していきます。そのため、迷子になる者たちが後を絶たないのでした。最悪、閉じてしまった通路の迷宮の中で遭難してしまうことすらあります。 もっとも、エリザベート・ワルプルギスは世界樹と同調しているので、遭難者が生きているうちに脱出路を開いて捜索隊を出しています。ただ、それが遭難して一時間後なのか、一週間後なのかは、エリザベート・ワルプルギスの気分次第なのでした。 「とほほほほ……。救助隊はいつ来るのやら……」 元会長がとぼとぼと通路を進んでいくと、ずいぶん先の方で明かりが見えた気がしました。 「おーい、誰かいるのかー」 慌てて、光が見えた方へと駆けていきます。あっ、転びました。 なんとか立ちあがると、目の前に一人の少女が立っていました。 「よかったのじゃー。人がいたのじゃあ」 半べそのビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)が、元会長にしがみついてきました。 「もしかして、あんたも……」 「うん、迷子なのじゃ」 元会長が一番聞きたくなかった言葉を、ビュリ・ピュリティアは元気よく口にしました。 「ああ、もうおしまいだあ」 せっかく人が見つかったのに、自分と同じ迷子かと、元会長が頭をかかえました。 「大丈夫なのだあ。ここには友達がたくさんいるのだ。きっと、見つけだしてくれるのだ。だって、友達なのだからあ」 安心しきった笑顔で、ビュリ・ピュリティアが言いました。 ★ ★ ★ ぴんぽーん。 イルミンスール魔法学校の職員室で、遭難警報器が音をたてました。 「教授、また誰かが遭難したようです」 アリシア・ルード(ありしあ・るーど)が、ベルバトス・ノーム(べるばとす・のーむ)教授に告げました。 「またか。まったく、面倒な。すぐに回収に行くぞ」 「はい」 やれやれという感じで、持っていた資料をデスクの上に投げ出すと、ベルバトス・ノームとアリシア・ルードは職員室を出ていきました。