校長室
そして、蒼空のフロンティアへ
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★ ★ ★ 「なんだか久しぶりよねー」 とてもニコニコしながら、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が言いました。以前、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)に告白してから、初めての二人だけのデートです。今夜は、もう逃がしません。 対照的に、水原ゆかりの方は、相当思い詰めているようでした。 ついうっかり一線を越えてしまったがために、もうずっと自堕落な生活が続いています。歯止めがききません。 そして、ついにパートナーであるマリエッタ・シュヴァールから告白されるという、行き着くところまで行き着いてしまったのです。いったい、どうしたらいいのでしょう。 とりあえず、なるべくはぐらかす形でごまかし続けてきたのですが、今日は二人共に休暇がとれてしまったのです。これは、逃げようがありません。さらに悪いことには、告白されてからずっと御無沙汰させているので、マリエッタ・シュヴァールの蓄積の反動が、本気で怖いです。 ひとまず、いつも通りの、普通の恋人の――いえ、女友達のように、町に出て、ショッピングをして、クリスマスですのでプレゼント交換をして、美味しい物を食べて、後は家に帰って寝るだけ……って、そういう意味じゃ、いや、そうじゃなくて、あわわわわ。なんで、家に帰るだけのはずが、ホテルのロビーに立っていたのでしょう。その上、ニコニコ顔のマリエッタ・シュヴァールが、リザーブしていた部屋の鍵を指先でクルクル回しながら、腕を絡めてくるではありませんか。 「ちょ、ちょっと、マリー……」 呆然とするのもなく、部屋に引きずられて行きます。 バタン。 水原ゆかりの背後で、ドアが閉められました。 ガチャン。 鍵も閉められました。 万事休すです。 「マリー、あなたの想いを打ち明けてくれて……本当に嬉しい。私もあなたのことが好きよ。でもね……その、あなたの言う『好き』と、私の思う『好き』とは、ちょっと違うような気がするの……」 脂汗をだらだらと垂らしながら、やっと、水原ゆかりが切り出しました。今日こそ、けじめをつけなければなりません。そうでなければ、きっとこの先も、ズルズルとこの関係が続いていってしまうでしょう。 「だから……あなたの想いには応えられなくて……。ごめんなさい……って、ちょっと……あっ……」 きっぱりと断ろうとした水原ゆかりの唇を、マリエッタ・シュヴァールの唇が塞ぎました。 みなまで言わせるものですか。強い意志に、水原ゆかりは逆らえません。 チュンチュンチュン。 翌朝です。 結局、おきまりのコースを着々と進んでいるだけのような気がします。 「結局……、私たち、こうなるのね……」 ベッドの上で半身を起こしながら、水原ゆかりがつぶやきました。 「……ごめん、カーリー……。でも、あたし……、カーリーのこと……諦められない……。ねえ、あたしのこと、嫌いになった?」 「ここまで愛されるなんて、思いもよらなかったわ……。マリー、私は面倒な女よ。それでもいいの?」 涙ぐむマリエッタ・シュヴァールの頭をだきよせて、水原ゆかりが訊ねました。 静かに、けれど、しっかりとマリエッタ・シュヴァールがうなずきます。 別に、割りきってしまえば、これはこれでハッピーエンドです。流されるよりは、泳ぎ切った方がいいのかもしれません。 「カーリー……」 「愛してるわ、マリー」 ★ ★ ★ 世界樹イルミンスールは、今年も光術で美しく飾られていました。超巨大なクリスマスツリーと化したその美しさは、パラミタでも随一です。魔方陣が幾重にもゆっくりと回転し、光のサンタの橇などが、周囲を飛び交っています。澄んだ夜気は梢で弾け、光の雪となって降りかかりました。 「噂には聞いていましたが、本当に綺麗ですね」 リクゴウ・カリオペが、しっかりとメモをとり始めました。和装ドレスにベレー帽と、ちょっと和洋折衷の格好をしたそばかす少女です。気になったことは、なんでもメモして記録する記録魔でもあります。 「ただ、あれはなんなんでしょう?」 ずいぶんと遠くに小さく見えるだけですが、なんだか変な木彫りの像があります。聞いてみると、森のでっかい職人さんによる、一刀彫りなんだそうですが、それにしては巨大で奇妙な像です。 「まあ、それでも、味のある像が森にあると……めもめも」