イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

国境の防衛戦

リアクション公開中!

国境の防衛戦

リアクション

 
 
 5・終幕
 
 
 機影が近づいてくる。それも、複数。
 カサンドロスは、驚愕の目を見開いた。
「……イコンだと!?」

「本当にあったのか!」
 負傷していないテオフィロスは、外の待機場所に連れ出されていた。
 空を駆ける、近づいて来る、それらを、呆然と見つめる。
 目が、その数を数えた。7機。
「……カサンドロス様……!」

「――随分早いお着きじゃねえか。まだ5日めだぜ」
 ふう、と、長い長い溜め息を吐いて、ジェイコブ・バウアーが呟いた。
「……何とか、セーフであります」
 隣りで、共に戦っていた昴コウジが、ほっとして息をつく。
「……いいえ。アウトでしょう」
 ある意味で。そう言ったライラプス・オライオン(らいらぷす・おらいおん)に、平 教経(たいらの・のりつね)が、要塞を見る。
 ――既に、要塞としての役を果たすことはできないだろう、その残骸を。


 それは、教導団の所有する、実験機だった。
 空中に留まったまま、半ば背負っている巨大な銃を構えるイコンを見て、龍騎士達はそれぞれ、その場を撤退しようとする。
 ここは、問題ない。生徒達も居るからだ。
 問題は、カサンドロスの居る場所。
 そこにはカサンドロスと龍騎士達しか居ない。

「舐めた真似をしてくれる!」
 カサンドロスは、龍に飛び乗り、空へ舞い上がってイコンに向かった。
 イコンの構える銃の先に、光の粒子が集まる。
 それらが光線を放つ前に、回り込んで攻撃を仕掛けようとしたのだ。
 しかし、その瞬間に、内ニ体のイコンの構える銃から光線が放たれた。
「何だとっ!」
 溜めが早すぎる。
「試作品か?」
 その溜めの早さは、地上で見ていた教導団兵にとっても驚きで、そんな声がどこからか漏れる。
 避け切れなかったカサンドロスに対し、不意打ちの1射めに続く、残りの五体からの、駄目押しの2射目が放たれた。
「ぐあ!!」
 強烈な攻撃を受け、カサンドロスは騎乗する龍諸共に森の中へ落下して行く。
 イコン部隊は、確実に仕留める為に、カサンドロスを負って落下地点へと向かった。

 地に落ちたカサンドロスは、すぐさまに起き上がろうとした。
 だが、そのダメージは計り知れなく、左腕は、肩から無くなっている。
「…………不覚っ…………!」
 ぐら、と、カサンドロスの身体が傾ぐ。
 不甲斐ない。
 口惜しい。
 こんな所で。
 こんな輩に。
 砕ける程に奥歯を噛み締めながら、ぎり、と尚光を失わない力で、近づきつつあるイコンの群れを睨み付ける。
 発見されるのは時間の問題だ。
 深い森の木々に隠されているとは言え、近づけば解る。
 最後だ。
 自覚して、それでも、最後まで、矜持を失わない。
 まだ生きている。生きている限りは、戦う。
 最後の力を振り絞ろうとした時、
「こっちだ、カサンドロス!」
 後方から声が響いた。
 カサンドロスより先に、側についていた龍騎士が振り返る。
 森の中に潜んでいたのは、一人の仮面の男だった。
 ずっと隠れて様子を見ていたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が、脱出口を確保して、彼等を呼んだのだ。
「あんた等を逃がす! こっちへ!」
 カサンドロスは振り返らなかった。返事もしない。
 敵の言うことなど、聞く耳すら持たないということか。
 最後の最後まで足掻こうとも、彼は既に自分の最期を受け入れていた。
「カサンドロス様、ここは一旦、退却を!」
 だが側の龍騎士達は、カサンドロスの死を避けるべく、トライブの策に乗ろうとした。
「引けぬ!」
「ここでカサンドロス様が死んでは、全てが無駄です!
 雪辱は、生き残らねば成せません!」
「トゥルエル」
 倒れていた龍が起き上がった。
 名を呼ぶ声は龍から放たれたものと気付き、トライブが驚く。
 龍騎士の龍が、人語を操れるとは思っていなかったのだ。
「我の背に」
 カサンドロスの龍の意図に気付き、龍騎士の一人が頷いた。
 カサンドロスがカッと吠える。
「私に、そなた等を囮にして逃げろというのか!!」
「言い合っている余裕はない。
 カサンドロス、本懐を遂げよ」
「トゥマエル、トゥルヤル、カサンドロス様を頼む」
 素早く龍の背に飛び乗ったトゥルエルは、残る二人の龍騎士にそう言い残す。
 激昂するカサンドロスが再び口を開く前に、龍は飛び立ち、イコンの群れに向かった。
「許さぬぞ! 戻れ、マライカ!」
「カサンドロス様!」
 二人の龍騎士が、両脇から叫ぶカサンドロスを引き止める。
「仮面の男。案内しろ。早く!」
 引きずるようにして叫ぶ龍騎士を、こっちだ、とトライブが導く。
 カサンドロスががくりと頭を垂れ、身体を龍騎士達に預けた。
 緊張の糸が切れたのだ。



 ――三日後。
 全身に攻撃を浴びて重体だったカサンドロスが意識を取り戻し、龍騎士達が、トライブから得た情報を彼に伝えた。
 イコンの群れに向かって行ったカサンドロスの龍、マライカとトゥルエルは、イコンの総攻撃に遭って沈んだらしい。
 しかし森の中に落ちた死骸を発見することはできなかった。
 ドラゴンの、矜持の高いことを、彼等も知っている。
 屍を晒さないよう、何らかの方法で自らの死体を隠したのだろう、そう判断された。
 カサンドロスは、部下を囮に逃げる真似はしない。
 そう知っているエリュシオンの龍騎士達は、その背に乗り、最期を迎えたのがカサンドロスであることを疑わなかった。
「申し訳ありません」
 黙りこくるカサンドロスに、トゥルヤルが謝罪する。
「ですが、カサンドロス様には、屈辱に耐えても、志を果たしていただきたく」
 カサンドロスは、視線をトライブに向けた。
「……貴様の目的は何だ」
 トライブは肩を竦める。
「善意だとは思わないんだな」
「ふざけたことを言うな」
「訊きたいことがある。その為に、あんた等に恩を売った」
 ここは正直に言った方がいいと判断した。彼等から、正直な返答を得る為に。
「何だ」
「……林紅月という女を知っているか?」
 シャンバラ女王をエリュシオンに連れて行った、白輝精のパートナーだ、と説明すると、カサンドロスは不審げに眉を寄せた。二人の龍騎士も顔を見合わせる。
 少し沈黙が漂い、やがてカサンドロスは口を開いた。
「新たな選帝神様のパートナーの女か。……見たことはあるが、詳しくは知らぬ」
「……そうか」
 ぐっ、とトライブの拳が握られる。
 彼女は、何処にいるのか。
 彼女に再び会う為なら何でもする。
 そう誓って、生きている。
 ふう、と息を吐き出し、
「もう一つ、これは好奇心だが」
と訊ねた。
「人間のヘクトルが龍騎士に選ばれた理由って何なんだ?」
 途端に、激しい怒りの目で睨み付けられる。
 まずいところを突いたか、と、トライブは心中で後悔するが、カサンドロスが起き上がる様子は無い。
 斬り捨てようとしない理性はあるようだ。
「あの男が龍騎士になったのは、相応しいからなどではない」
 吐き棄てるようにそう答えたのは、傍らのトゥルエルだった。
「機龍のテストパイロットが必要だった。
 あの男が、契約者だったから。ただそれだけの話だ」
 

 トライブは、その後すぐに彼等と別れた。
 必要な話は聞いたし、最早カサンドロス達に用はない。
 隙があるようなら、と、攻撃を考えないでもなかったが、カサンドロスは元より、二人の龍騎士にも隙はなく、そもそも彼等はトライブのことを全く信用していないようだった。
 それならそれで、さっさと退散する。
 彼等がこの後どうするつもりなのかも、興味は無かった。
 その心にあるのは、ただ。
「……紅月……」
 


◇ ◇ ◇



 こうして、国境の防衛戦は終わる。

 砦内に侵入した敵兵達が、誰も司令官を取ろうとしなかったことで、鈴木周達と藤堂は、戦いの中、密かに都築少佐を運び出すことに成功していたが、半ば意識を失って苦しむ彼を教導団衛生兵に預けて、その後どうなったのか、周は解らなかった。

 カサンドロスは撃退したが、国境の砦は、最早砦として機能するものではなくなった。

 これによって、西シャンバラは、ひとつの大義名分を失うこととなる。


「お世話になりました」
 帰る前に、ミルディアと真奈は、彩蓮に別れの挨拶をした。
「……次に会う時は、敵同士となるかもしれませんね」
 その時はよろしくお願いします、と言った真奈に、確かに、と彩蓮は苦笑する。
「でも」
 今は、まだ。
 彩蓮が差し出した手を、ミルディアは笑って握り返した。



「教導団管理地から友愛の基地に変えよう作戦は、成せなかったけど」
 ひっそりと、ブルタ・バルチャは、今回の戦果に満足していた。
「妥協点」として考えたそれではなく、より強く希望していた、共倒れという結果に収まったからだ。
「いい傾向だね!」
 これによって、事態はどう動き、変わって行くのか。
 それはまだ、彼にも全く知る由のないことだったけれど。




 後日、樹月刀真のパートナー、漆髪月夜が作成した今回の防衛戦のレポートが、所属学校を通じて各学校へ送られた。
 使ってくれ、と添付された、風祭隼人による映像も添付されている。
 これが、今後の龍騎士への対策の参考になれば、と、月夜は願った。
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

 ご参加ありがとうございます。担当の九道です。
『クリア条件:一週間耐久』なシナリオでしたが、残念ながら、結果は痛み分け? ということになりました。
(一息に進んでいるように見えますが、実は途中途中で日付が変わっています。
 実のところ時系列が行ったり戻ったりしてます。
 最前線の従龍騎士達は、途中で一旦退却しているはずです。
 あまり意識しなくてもいいと思います。
 というかしないでくだs)

 書く前は、龍騎士部隊を蹴散らす気満々でいたのですが、いざアクション判定の結果、これは無理、ということになってしまい。
 アクションによって結果が変わるのが醍醐味だよね……と思いつつ。

「龍騎士と戦う」関連のアクションをかけてくださった方の内、龍騎士と従龍騎士や、龍騎士とカサンドロス、と、相手が2種類あった場合、基本的に先に戦う方で処理をさせていただきましたのでご了承ください。
 例・カサンドロスの前にまず龍騎士→龍騎士
 例・カサンドロスを誘き出すために従龍騎士→従龍騎士
てな具合。

 何はともあれ、皆様、お疲れ様でした。

 グランドシナリオは始まったばかりです。
 今回の結果が目的どおりでも違っていても、
 このまま突き進む人も巻き返しを図る人も、
 次回もまた、頑張ってくださいませ。