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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

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グラン・サッソで撃ち合いを
「おお、ここがグラン・サッソか」
 グラン・サッソ。
 第40代イタリア国王ムッソリーニが幽閉され、その救出のための戦いが行われた場所である。
「サバゲーにはもってこいの場所だな」
 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は、ここでムッソリーニ救出作戦を、サバゲーで再現するためにやって来たのだ。
「あ。もうお仲間が集まってるみたいだよ」
 神矢 美悠(かみや・みゆう)の目線の先には、二人の到着を待ちわびていた、現地のサバゲー愛好者たちがいる。
 ケーニッヒはあらかじめインターネットを利用して、彼らに連絡をとっていたのだ。
「ムッソリーニ救出作戦を再現しよう!」
 サバゲー愛好者たちにとって、これは最高の提案だった。
 事件の舞台となったアルベルゴ=リフュージオ・ホテルも「モノを壊さないなら」という条件つきで、協力を了承してくれた。

 メンバーは、ドイツ軍チームとイタリア軍チームに分かれ、ルールを決めた。
 ムッソリーニを救出できるかどうかで勝敗が決するのだ。
 その、ムッソリーニ役に指名されたのは、美悠だ。
「では、開始!」

 ケーニッヒは、ドイツ軍チームのリーダーとして、先頭に立った。
 チームを二手に分け、正面と裏手からホテルに突入する作戦。
 ちなみに史実では、イタリア軍はすぐに降伏して事件は片付いてしまっているのだが、それを再現してはサバゲーにならない。
 それはもはや演劇である。
 ケーニッヒたちは、史実とは異なる結果になろうとも、本気で撃ち合うことを約束していた。

 物陰から躍り出たケーニッヒが、すばやく数発発射する。
 タタタタ……。
 すぐに数名が、ヒットを申請し、悔しそうに見学者へとまわった。
 さすがにパラミタで実戦経験を持っているケーニッヒ。
 その動きは、他のサバゲー仲間たちを圧倒していた。
 そして彼は、とうとうムッソリーニが捕らえられている部屋の前までやって来た。

 ばたんっ!

 ドアを開けた瞬間、信じられない出来事が起きた。
 救うべき相手……ムッソリーニが、ケーニッヒに向けて撃ってきたのだ!
「お、おいおい美悠! ムッソリーニが撃ってはいけないのだよ!」
「だって、つまらなかったんだもん!」
「なに?」
「あたしだって……あたしだってエアガン撃ちまくりたいよっ!」
 美悠のガマンは限界を超えた。
 サイコキネシスで複数のエアガンを同時に撃ち出したのだ!
「それはルール違反……」
 もちろん聞いちゃいない。
 タタタタタタ……。
 次々と倒されていく。
 ドイツ軍も、イタリア軍も、一般客も、ホテル従業員も。
 この弾の雨を避けることは、まず不可能だ。
 それはまさに、空から降る雨を避けるに等しい。
 逃げ場が全くないまま、人々はペイント弾が自分の服に染みを作るさまを、ただ見つめるだけだった。

 やがて。
 アルベルゴ=リフュージオ・ホテルは、全滅した。
 勝ったのはドイツ軍でもイタリア軍でもない。
 ムッソリーニの一人勝ちだ。
「そんなばかな……」
 サバゲーなのだから史実は覆ってしかりなのだが、まさかのムッソリーニ一人勝ちに、さすがのケーニッヒも以降の言葉が出ない。
「てへっ」
 暴れるだけ暴れたムッソリーニは、ぺろりと舌を出した。