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リアクション
控え室の扉が叩かれ、スタッフがスタンバイの旨を告げる。
「……よし! あゆみちゃん、ミディー、ディオ、いよいよ私たちの出番よ。
あれだけ練習したんだから、緊張しないでいこっ」
立ち上がり、部屋にいた四人で結成したチーム『PINKY☆UMA』のリーダー、霧島 春美(きりしま・はるみ)が他の三名、月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)、ミディア・ミル(みでぃあ・みる)、ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)を励ますように声をかける。
(ど、どうしようっ。出番だって分かったら、緊張してきちゃったっ)
春美に次いで立ち上がったものの、あゆみは纏った衣装、ピンクを基調としたインバネスコートやミニスカートから覗く手足が小刻みに震えているのに気付く。胸元のチェック柄のリボンまで揺れてしまいそうだ。
(……ううん、ダメダメ! 思い出して、あゆみ!
はるみんとディオちゃんとミディと、いっぱい練習したじゃない!)
紅白歌合戦に出場すると決めてから、過ごした練習の日々。
泣いたことも、怒ったこともあった。だけど、いっぱい笑ったし、とっても楽しかった。
くいくい、と服の裾を引っ張られる感覚に、あゆみが視線を向けると、ミディアの顔があった。
「練習とか辛かったけど、ミディーも楽しかったよ。
この仲良し四人組なら、きっと大丈夫☆ だから、どうせなら楽しもうよ、ねっ、あゆみ☆」
ミディアの言葉に、春美もディオネアも頷いて応える。
――そう、みんなと一緒なら平気――
「心配無用、私は月美あゆみよ! クリアーエーテル!」
ディアストーカーを被り、天眼鏡をビシっ、とかざして、あゆみが胸を張って口にする。
ステージに向かう気持ちを胸に、四人は支度を整え、部屋を後にする。
「わー、色んな人がいるねー」
舞台袖で出番を待つ中、すれ違った他の出場者を見て、ディオネアが感想を漏らす。
所属も違えば、それぞれ持ってる考えも違うであろう者たち。それらが今日は、一つのイベントを盛り上げるために同じ場にいる。
「うん……人も多いし、上手い人ばっかりだし……。
独立記念なんてくくりだからかな、みんな、ちゃんとした考え持ってそうに見える」
春美も、あゆみやディオネアと一緒に、事件の解明に奔走したことならある。
でもそれは、国の統一だとかに比べれば、ほんの小さな事件。
自分たちが担当した事件よりも、よりたくさんの、そしてより複雑な考えが絡み合っているのだろう、そう思えた。
「私たちがいつも追ってる事件なんかとはまったく違う世界の話みたいだけど、どっちも現実。
……うーん、よく分かんなくなるね。難しいことはいいや、今日は歌お! 思いっきり」
「うん、ボクもそれでいいと思うよ。
ボクもコーラスとベースで盛り上げるね☆ ミディーと踊りもがんばるよ♪」
ディオネアが言い終えたところで、紅組の司会であるエレンの紹介が入る。
「次は、キュートな四人組『PINKY☆UMA』のステージです!」
「ボクたちの出番だね!」
「うん、行こっ!」
エレンの紹介を受けて、四人がステージに上がる。
おそろいの衣装、ディオネアとミディアというマスコットキャラの存在に、ステージが始まる前から歓声があちこちで聞こえてくる。
「皆さん、こんにちは【PINKY☆UMA】です」
圧倒的な人の数に圧倒されそうになりながら、マイクを握った春美が自分の想いを響かせる。
「平和な世界を望むのは、みんな同じだと信じます。考え方、やり方は違ってもいつか分かりあえると信じます。
……むずかしい演説をぶつガラじゃないので、私たちは歌います。神様とあなたに、声が届くように……」
春美の言葉を引き継いで、あゆみが同じく声を響かせる。
「みんなあると思うんです。不安で不安で仕方ない時……幸せを望むからこそ、私たちは悩むのだと思います。
そんな気持ちを4人で歌にしました。
未来はきっと素晴らしい。そんな台詞を笑って言える人間に、私もなりたいです。
では、聞いて下さい……。『未来』」
あゆみが言い終え、そして、春美がマイクを持った腕を高く上げる。
すると上空から小さな星が舞い降り、ステージで弾けてスポットライトに照らされ、見る者に幻想的な効果をもたらす。
悲しくて、寂しくて、涙が止まらない時は
四葉のクローバーを探しに行こう
見つけたらほら、少し笑顔になれる
幸福になれるなんて迷信だなんて言わないで
良くなろうと能動的になれればいい
「がんばれる」きっかけになればいい
私たちは少しづつ未来へ進んでいる
時は後戻りしない
不安な時もある
寂しい時だってある
目を閉じても眠れない日もある
夢があるからこそ悩む
停滞の恐怖
今が怖い
未来を信じられる証がほしい時がある……
間奏に入ると、春美とあゆみが手を繋いで空を舞い、観客席まで飛んで、持っていた天眼鏡や用意したパイプ型のクッキーを渡したり、声援を送ってくる人たちにウィンクで返したりといったパフォーマンスを見せる。
「ミディ、ボクたちも行くよ!」
「任せといて! 最高のペアダンスを披露しちゃおう!」
その間ステージでは、ディオネアとミディアによるペアダンスが披露される。愛嬌ある仕草に、可愛い物好きな観客は完全に魅入っていた。
四葉でなくていい
あなたの笑顔
奇麗な夕日
おいしい紅茶
そっと背中を押してほしい
私達は未来の人間なんだ
そして未来は輝いている☆
「聞いてくれてありがとー! みんな、愛してる〜」
歌い終え、万感の拍手と歓声に、春美が大きく手を振って応える。
「ふむ、もし次に機会があろうなら、エリザベートと一つ組んでみようかの」
「……それは、誰をターゲットにしてんだ?」
アーデルハイトと涼司のそんなやり取りがありつつ、審査の結果が発表される。
涼司:9
鋭峰:7
コリマ:8
アーデルハイト:8
ハイナ:7
静香:9
合計:48
「千雨さん、似合ってますよ。やはり同性に整えてもらった方が決まりますね」
準備を終え、控え室から出てきたメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)を一目見た志位 大地(しい・だいち)が、優しげな表情と共にそう答える。水色のゴシックドレス(ロリ調ではなく、スカート丈は足首が見える程度)を纏い、髪の毛も衣装に合わせてセッティングされていた。
「ありがとう、素直に受け取っておくわ。……それにしても、良かったわね大地、そのネックレスをしているところをあの二人に見られたら、修羅場どころじゃ済まないわよ」
「? これが、ですか?」
千雨の視線の先にある、指輪がつけられたネックレスを手に、大地が首をかしげる。
「……まあ、どうでもいいですけれど。それじゃ、行ってくるわね」
くるり、と踵を返し、千雨が舞台袖へと歩いて行く。千雨がこの場で大地に声をかけたのは、緊張を和らげるためだったが、まあ概ねその効果は果たされたようである。
(私の歌で、少しでも何かを感じてもらえれば……)
千雨が今から歌う歌は、1番のみ。
本当は2番も作ろうとした(コンセプトはあった)が、それよりも、歌を聞いた女王――アイシャ――やそのパートナー――理子とセレスティアーナ――、各学校の校長がどう感じるか、できれば何らかの回答が得られればという想いから、歌詞を作るのは見送った。
もちろん、一人の生徒の歌に、そこまで応えてくれるかどうかの保証はない。
それでも、伝えてみないことには、始まらない。
「出番です、お願いします」
かけられるスタッフの言葉に背中を押されるようにして、千雨がステージに立つ。
拍手で出迎える観客に一礼し、スタンドマイクから千雨が、自らの想いを込めた歌を響かせる。
舞い散る 粉雪
街を白く塗り替えていく
さぁ今日も お仕事しなきゃね
ひとつ あなたの幸せを誰かに渡して
とびきり驚いた顔を見たわ
またひとつ 違う誰かに幸せ与えて
とても喜ぶ笑顔を見たの
幸運を運ぶ空色の翼
いま 羽ばたかせ
さぁ、彼の元へ帰りましょう
あなたが望むのなら
あなたの幸せを 誰かに運ぶわ
けれど 本当に幸せでいて欲しいのは
少しずつ孤立していく あなた
ねぇ 私は青い鳥になりたいの
あなたを幸せにしたいの
悲しそうな顔をしないで
微笑んでるあなたが好きよ
寒そうなあなたを せめて温めたい
この翼で
「なぁ、この歌を聴いていると何故か、アムリアナを思い浮かべるのだ」
歌い終え、静かに一礼する千雨に拍手を送りながら、セレスティアーナが理子に小声で話しかける。
「あたしも。なんか、『私』があたしたちで、『あなた』がアムリアナ様って感じかな。
……あたしたちが『私』のようになれてたかは、分かんないけどね」
あはは、と笑う理子、その表情は、笑うしかない、そんな感じの表情であった。
「…………」
そして、二人の話を耳にしながら、アイシャは頭の中でこの歌への“回答”を試みようとしていたのであった。
涼司:8
鋭峰:7
コリマ:8
アーデルハイト:9
ハイナ:8
静香:9
合計:49