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リアクション
「うむ、五名ともよく似合っておる。
ポテンシャルを秘めておるというわらわの目に、狂いはなかったようだ」
控え室で、五精霊を着替えさせたカナタが、うむうむ、と満足気に頷く。五精霊それぞれのイメージカラーを基調とし、キュート&イノセントのカヤノから、セリシア、セイラン&ケイオース、サラと順に、クール&センシブルへとシフトしていく衣装は、まるで五精霊の為に用意されたかのようであった。
「これならば、『TTS』にも引けを決して取らぬ。出番も『TTS』の直後を用意した、存分に歌い、演奏してくるがよい」
「ああ。かけられた期待には、力の限り答えよう。もちろんシャンバラ建国を祝うことも、そして、私たちが楽しむことも忘れないさ」
サラが答える、五精霊のユニット『Elements―5!』の出番は、『TTS』の後に設けられていた。
「……! 済みません皆さん、お姉様からです」
そこへ、セリシアの『姉』であるサティナから連絡が入る。セリシアは事前に、サティナのパートナーである伊織が、アムリアナ女王の行方を探していることを教えられており、探索に協力もした。今そのサティナから連絡が入るということは、何らかの進展があったということになる。
「はい、セリシアです。どうされましたか?」
『あっ、セリシアさん、僕ですー!
今、アムリアナさんを会場にお連れしてるところですー!』
通信の向こうから、伊織の急いでいるような声が聞こえてくる。どうやら無事に、アムリアナ女王を見つけることが出来たようだ。
『今、急いでそっちに向かってますー!
ごめんなさいセリシアさん、理子さんのステージに間に合うよう、出来る限り時間を引き伸ばしてくださいですー!』
「はい、分かりました。理子さんのステージは、私たちのステージの後。
その方が到着されるまで、私たちが繋ぎます」
伊織から寄越された通信を聞き入れ、セリシアが他の面々――サラ・カヤノ・セイラン・ケイオース、それにプロデューサーの立ち位置にいるケイとカナタ――に呼びかける。
「今、伊織さんが理子さんと面識の深い方を会場にお連れしようとしています。
その方を、理子さんがステージに上がっている時に会わせたいと、強く願っています。
……私の我侭ではありますが、皆さん、力を貸してくれませんか?」
セリシアの願いに、一番に答えたのはやはりというか、カヤノだった。
「よく分かんないけど、要は盛り上げろってことでしょ!?
やってやるわよ! はなっからそのつもりだったしね!」
「ま、そういうことだ。建国を祝い、私たちがステージを楽しみ、セリシアの願いを果たす。
私たち五名が力を合わせれば、造作も無いことであろう?」
サラの言葉に、セイランとケイオースも頷く。直前が十二星華のステージということもあってか、“力を合わせる”という部分に重きを置いた言葉に、セリシアもはい、と頷いて答える。
直後、扉が叩かれ、スタッフがスタンバイの旨を告げる。
「よし、皆、行くぞ! ……ケイ、私の演奏、見ていてくれ」
「ああ!」
ケイのかざした手を、サラがパン、と打ち、そして一行は舞台袖へと向かう――。
「次のステージは、五名の精霊長によるユニット『Elements―5!』が歌う、『蒼空の物語』です。それでは、どうぞ!」
エレンの紹介を受けて、五精霊――サラ・カヤノ・セリシア・セイラン・ケイオース――がステージに上がり、それぞれ担当する楽器を携え、配置につく。『TTS』のステージの興奮が抜け切らない雰囲気は、ともすれば大きなプレッシャーになる。
「はん! そんなの関係ないわ! こっからはあたいたちのステージよ!」
しかし、ことカヤノに至っては、そんな心配など無用であった。根拠の無い自信が、今は頼もしくすら見える。
「この日のために、俺たちも練習してきた。後は、いつも通りにやれば、必ず心に届く演奏になる」
ケイオースのドラムセットがリズムを刻み、そこにセイランのキーボード、サラとセリシアのギターとベースが重なる。
「いっくわよー!」
生み出されるメロディーに乗って、カヤノの歌声が響き渡る。
あの日見上げた蒼空 僕らはいる
紡がれる 小さな物語
君とならどこまでも行けるよ
擦り傷を負いながら 躓きながら それでも歩いて行ける
疲れ果てて 立ち止まっても それでもまた一歩を踏み出せる
僕らは一人じゃない
僕らには大切な想いがある 君との絆がある
何か信じて 誰かを信じて
痛みも苦しみも 悲しみも 全て呑み込んで 手を伸ばす
僕らの翼はまだ小さいけど それでも
あの日見上げた蒼空に 僕らはいるのだから
Our story goes on……
幾度の関わりを経て、人間と共に歩むことを決めた精霊。彼らがそうであるように、生きとし生けるものは全て、誰かと共に歩む権利を有しているはず。
今はその相手が見つからなくとも、いつかはきっと見つかる。そして見つかったなら、どんな時でもその手を離さず、共に歩もう。
それはきっと、どんな事よりもかけがえの無いものだから――。
ステージを終えた『Elements―5!』のメンバーに、惜しみ無い拍手と歓声が送られる。
それは決して、『TTS』に引けを取らない盛り上がり様であった――。
控え室に戻ったところで、再びセリシアの下に、サティナから連絡が入る。
『セリシアさん、皆さん、ありがとうございましたー。
何とか間に合いましたー』
「そうですか、それはよかったです」
伊織の声に、セリシアが微笑んで答える――。
――今はたとえ、離れていても。
大切な友達であるあなたと、またいつか笑い合いたい。
だから、自分はこれからも頑張る。
そして、また会えた時には笑顔でこう言い会うの。
「ただいま」「おかえり」――。
『Dear My Friend』と名付けられた曲が、理子と美羽によって届けられる。
「瀬蓮ちゃん、アイリス、ジークリンデ……。これが、私たちの想いだよ」
言葉を紡いだ美羽に、理子に、会場から大きな拍手がもたらされる。それに応えるように、二人が深々と頭を下げる。
(ジークリンデ……)
ここに至っても姿を見せないジークリンデに、理子が心で呼びかけた、その時――。
「お、おい、あれはまさか……」
「そんな……アムリアナ女王!?」
会場が、一気にざわめき立つ。
アイシャとセレスティアーナは平静を保っていたが、各学校の校長たちは意外な人物の登場に、少なからず動揺しているようであった。
普通なら、ここで司会が出てきて、出場者に花束を渡すところで、
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と、手伝いを頼まれたリフルと一緒に出てきたのは、青い髪の少女。
その姿は、死んだと思われていたシャンバラ女王、アムリアナにそっくりであった。
「お疲れさまです。……素晴らしい歌を、ありがとう」
「うん……こっちこそ、来てくれてありがとう」
少女から花束を受け取り、理子が声を震わせ、目尻に涙を浮かべる。
「間に合ったんだね。よかった……」
一方、コハクとリフルから花束を受け取った美羽も、そう口にした後、涙を浮かべる。
ただ、泣く理由は、理子と異なっていた。
「ふぇ……瀬蓮ちゃん、アイリスぅ……」
理子がジークリンデと再会できたことは、嬉しい。……だけど、瀬蓮ちゃんとアイリスは、ここにはいない。
泣いちゃいけないと思えば思うほど、瞳からは涙が零れ、地面を濡らしていく。
「……美羽」
と、リフルが美羽を、そっと自らの胸に引き寄せる。二人の姿は、コハクが壁になっていて観客からは直接見えない。
「ふぇ……ぇぇえん!!」
堰を切ったように泣きじゃくる美羽を連れ、リフルとコハクがステージを後にする。
「マイク、借りていいかしら」
「うん、いいけど……?」
そして、花束を渡し終えた少女は理子が先程まで使っていたマイクを取り、自らの声をざわめく観客へ向けて響かせる。
「皆さん、初めまして」
そう挨拶する少女に、会場の者たちは何と答えていいか分からない。
本当に初めましての人もいれば、彼女の復活を実際に願った人もいる。そして多くの人が、少女と同じ姿の人物を知っている。
「……これから私が言うことは、皆さんには信じ難いかもしれません。
理解はしてくれなくても、構いません。
ただ、聴いていただければと思います」
そう前置きして、少女が自らの素性を話す。
「私は、皆さんに愛され、そして皆さんに惜しまれながら亡くなった前シャンバラ女王、アムリアナ・シュヴァーラの転生体です。
けれども私には、アムリアナだった頃の記憶も、力もありません。
……そう、アムリアナは、死んだのです」
会場が、静まり返る。
アムリアナによく似た人物が、『アムリアナは死んだ』と告げる。その意味に気付いた者は、動揺を静観に切り替え、事態の推移を見守る。
「ですが、アムリアナの意志は、願いは、途切れることなく引き継がれました。
今日のイベントの成功が、その確たる証拠です。
素晴らしい方々によって、素晴らしい国が成立したと、私は思います」
「国が成立したことは、ほんの始まりに過ぎません。これから多くの困難が待ち受けていることでしょう。
それでも、今日という日を忘れず、自分たちのしたことに誇りを持って立ち向かえば、必ず道は開けます。
……私は、皆さんがそう出来ると、信じています」
マイクを下げ、青い髪の少女が向き直る。
「……ごめんなさい、女王でもないのに、このようなことをお話ししてしまって」
「いいえ……。私が言うのもおかしな話ですけど、あなたはシャンバラの女王です……それは今でも、変わりません」
ステージに上がってきていたアイシャと、少女が見つめ合う。
かつて女王だった者と、そして女王。
(……シャンバラを、お願いします)
(……はい)
視線を外した二人、そして少女が次に、理子に向き直る。
「私は、あなたのよく知っている、ジークリンデ・ウェルザングとは、おそらく違っているでしょう。
……それでも、私を、友達であると、言ってくれますか?」
告げた少女に対し、理子の返答は――。
「何度だって言うよ。あなたが忘れたとしても、何度だって言うよ。
あなたはあたしの友達だよ、“ジークリンデ”!!」
理子が少女を“ジークリンデ”と呼び、抱きつく。
ジークリンデと呼ばれた少女は、驚き、戸惑い、やがて笑顔に変わり、理子を抱き返す。
「ありがとう……リコ」
会場から、小さな拍手が、やがて大きな拍手に変わり、二人に送られる――。