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【カナン再生記】すべてが砂に埋もれぬうちに

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【カナン再生記】すべてが砂に埋もれぬうちに

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 サンドワームのなれの果て
 
 
 
「どうやら避難は無事に出来そうですね」
 エルシャが空高く運ばれてゆくのを見上げ、サトゥルヌスはほっと息をついた。
「これでやっと、ちまちましたやり方からはおさらば出来るってわけだ」
 敵を刺激するのを避ける為、思い切った攻撃を避けていた御弾知恵子がやっと暴れられると肩を回す。
「敵も随分増えてきましたし、手早くいきましょうか」
 これまでは1体ずつ相手をしてきたシャクシャインが、弓を構えた。
 スルクカムイ。毒の神の名において弓に纏わせた気は敵に深刻なダメージをもたらす。
 砂鰐、サンドワーム問わず届く限りの相手へとシャクシャインは毒矢を放った。
「もとより毒矢の技術は我らアイヌの得意分野。その身で知りなさい!」
 身体に回る毒が敵の体力を容赦なく削り取ってゆく。
 数を減らそうと、サトゥルヌスも機関銃のごとくに弾を敵へとばらまいた。
「さあ、先にぶち抜かれたいヤツはどれだ?」
 体力を削られた砂鰐に目を付けると、知恵子はそこに集中的に弾丸を浴びせかけた。
「どうだい? 『おハジキのチエ』の弾の味、とくと味わうが良いさ」
 エルシャの救出が終わったのなら、後始末は任せておけとばかりに知恵子は思いっきり銃を撃ち続ける。
 それをシャクシャインは弓で援護し、着実に敵の数を減らしていった。
「これで終わりだ!」
 敵が弱ってきたのを見計らい、知恵子はまとめて十字砲火を放つ。
「食らえ、パラテッカ!」
 エヴァルトのアーマーの肩部が展開し、噴き出すように炎の嵐が吹き荒れる。
「あら、まだ足りないのかしら」
 それでも倒し切れない敵をアドルフィーネは後方から弓で狙いうち、着実に沈めていった。
 これで概ね終わったかと思った途端。
「砂からでてくるのです!」
 ナイトが指さした場所の砂がはねあがり、サンドワームが身をもたげた。
「これまで隠れてたんだね。サンドワームにも頭の善し悪しはあるのかな」
 透乃はサンドワームの前に出ながら、敵の出方を窺った。陽子は逆にやや下がり、サンドワームとの間合いを取る。
 泰宏は陽子の力を高め、近くにいるコントラクターたちの防御の力を増す。備えあれば憂いなし。敵は速やかに倒せる方が良いし、味方は傷つかない方が消耗が少ない。
 サンドワームはもたげた身体の高さを利用して、透乃に体当たりをかましてきた。
 しなやかにうねる身体に打たれた透乃を、泰宏がすぐさま回復する。
「透乃ちゃん、大丈夫か?」
「もちろん平気。今度はこっちからも行くよ」
 再び身体を振り上げたサンドワームが狙ってくるのにあわせ、透乃は自分からも前に出て、左拳の一撃を叩き込んだ。
 弾かれて転がる透乃を陽子が受け止める。
 陽子の心配そうな視線にもにっと笑って、透乃はまたサンドワームへと向かう。
 危険な戦い方だけれど、透乃は最近はこれくらいしないと物足りなくなってきた。戦いに恐怖心が麻痺してきたのかも知れない、と思う。
 捨て身で攻撃する透乃をもてあまし、サンドワームは砂中への待避を試みた。
 目的はサンドワームの殲滅ではないから、逃がしても構いはしない。
 だが、今後またこのサンドワームが生きている限り、他のものを襲い、食べ続けるだろう。
 それを陽子の凶刃の鎌が絡め取る。
 陽子は抑制していた力のすべてを解放し、それを留めようとしたが力比べでは相手に利がある。ぎりぎりと鎖を身にくいこませながらも、サンドワームは砂中へと沈んでゆく。
「助太刀するぜ」
 そこに自分が相手していた砂鰐を片づけ終えた風次郎が参戦した。サンドワームを浅く攻撃し挑発し、逃走から意識を逸らさせる。
「ほらほらこっちだよ」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は光る箒にまたがってサンドワームの前を飛んだ。わざとふらふらと箒を揺らし、囮となって自分に意識を引きつける。
 いったんは潜ろうとしていたサンドワームだが、目の前をちょろちょろする相手が気になったのだろう。逃走から反撃へと移った。
 丸く開けられた口が自分を飲み込もうとするのを見、弥十郎はその口内へと氷の固まりを撃ちこんだ。
「ワタシよりかち氷の方が似合いだよ」
 不意の冷たさにサンドワームが動揺するところに、ローランダーが地面にミサイルを着弾させてより一層の混乱を狙う。
 サンドワームが吐き出した氷の固まりがコントラクターへと撃ち出される。
 それを透乃がまっすぐに突き出した拳が砕き、きらきらと砂漠に氷の欠片が舞う。
 まだ動揺を見せているサンドワームへと、風次郎は六花の氷柱の刃を叩きつけた。
 押し返すサンドワームからの手応えを無理矢理に怪力でねじ伏せ、六花で押し斬る。
 ぶちり……という感触が伝わった、と思った次の瞬間。
 サンドワームの身体は砂塵をあげて砂漠に崩れ落ちたのだった。
 
 
 
 
 戦闘が終わった後の砂漠には、砂鰐やサンドワームの死骸が幾つも転がっていた。
 このままにしておいても自然と砂に還ってゆくのだろうけれど。
「カナンって食べるものがろくにないんだろ。なら、このサンドワームを食べればいいんじゃね?」
 アキラはそう言ってサンドワームの死骸に顎をしゃくった。
「本当に飢えて死にそうなヤツっていうのは、草だろうが虫だろうが、なんだって食うからな」
「そうだね。日曜大工セットを持ってきてるから、ノコギリを取ってくる。このままだと大きすぎて運べないよね」
 透乃は荷物を取りに行く途中、砂鰐の方も持っていくようにと倒した人に頼んでおく。
「肉だけじゃなくて、皮も日用品の材料になるから忘れないようにね」
 使えるものは何でも使わなければと、透乃は言ってノコギリを取りに行った。
「まあ、倒したからには有効に利用した方がいいだろうね。地球でも鰐肉は食用に供されるのだし」
 復興地へと戻る前に、黒崎 天音(くろさき・あまね)がそう声をかけて行った。
「鰐肉はさっぱりして美味しいからね。サンドワームの方はどうなのかな?」
 砂漠で生きているのだから、水分や脂肪分を蓄えているかも知れない、と弥十郎は試しにと、サンドワームから肉を剥ぎ取り口に入れてみた。
「ああ、なるほど……」
「どんな感じの味なのかな?」
 真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)に聞かれ、弥十郎は答える。
「外見そのまま……っていうか、まさしくミミズの味だねぇ」
 水分は豊富だが、脂肪分は思っていたようには無く、さっぱりとしている。
「とすると、刺身でも天ぷらでも焼いても……潰してつくねにして煮物にしても美味しそうだよね」
 どうするか、としばらく考えた後、真名美は干し肉を作ることを提案した。
「昼間は日差しが強いからすぐに乾燥できるし、水分を減らせば持ち運べる量も減るし。よく干せば長期保存することも出来るもん」
 切り分けたサンドワームを、真名美は持ってきた塩と香辛料につけ込んだ。
 ミミズは良質のタンパク質を含んではいるが、風味には欠ける。美味しく食べるには香辛料をきかせた方が良いだろうとの判断だ。
「干さずに新鮮なところを焼いてもいいんだろ。俺はこのまま持っていくぜ」
 アキラはサンドワームの死骸を持てる限り荷物に詰め込んだ。
 作業をしているうちに日は落ち、周囲は真っ暗だ。本格的に干すのは明日のことになるだろう。
 砂漠を徘徊している生き物にサンドワームが食べられてしまわぬように覆いをかけると、弥十郎たちは復興地へと帰っていった。