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イナテミス防衛戦~颯爽の支城、氷雪の要塞~

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イナテミス防衛戦~颯爽の支城、氷雪の要塞~

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●イルミンスール:アルマイン整備基地

 イルミンスールが保有する機動兵器、アルマインが保管されている整備基地に降り立ったアーデルハイトは、送魔線を張る準備をすると同時に、一つの懸念事を解消するために、未だ残る数騎のアルマインの元へと向かっていく。

「すまぬおまえたち、私の事前の通達が上手くいっておらんかった。
 アルマイン・マギウスに装備されとる武器は、ブレイバーと共通のマジックソードとマジックショット、後マギウス初期のマジックカノンじゃ。使用方法はマニュアルに記載しておる通りじゃから、頭に叩き込んでおけ」

 事前に通達した段階では、今回初めてアルマインに搭乗する生徒が、マギウスのマジックカノンを使用できるかどうかの是非に触れていなかったのを、アーデルハイトがここで訂正し、カノンも使用可とした。
「はい、質問! ボクの雷の魔法は、アルマインに乗っても使えるかな?」
 レスフィナ・バークレイ(れすふぃな・ばーくれい)を装着し、グライス著 始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)を持った峰谷 恵(みねたに・けい)の問いに、アーデルハイトがううむ、と考え込んだ後、回答を返す。
「マジックソードに魔力を込め、天に放れ。上手く行けば、ソードを媒介にして雷を呼び出せるはずじゃ」
「なるほど……ありがとうございます。……ケイ、ではその際の姿勢制御と機動は、私が……」
 エーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)が礼を言い、恵と詳細を詰める。
「ふむふむ、そっか、カノンも使えるんだね! ……うーん、でもこれだとおっきすぎて、『アルマインの機動力を活かして近距離から一撃放って離脱する戦法』やりにくいかなー」
「カレン、マギウスはブレイバーほどに機動力を発揮出来んぞ。敵のワイバーンには機動力で負ける試算が出とる。ドラゴンとでほぼ同程度じゃな」
「えっ、そうなの? じゃあどうしよう、ジュレ?」
「ふむ、ならば敵が近付く前に遠距離で仕留めるか、もしくはドラゴンを狙っていく方が効率的かもしれんな。ワイバーンに囲まれることのないよう、我が全方位に注意を巡らせよう」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、武器と機体の特性から最適な戦術を見出そうとしていた。
「メガフロートでの経験が活かせるかしら? ……あっ、先生、アルマインの操縦をエレキギターで出来る様になったりはしませんか?」
「いきなり何を言い出すかと思えば……流石に今日明日でどうこうできるものではないぞ?
 ……まあ、生徒それぞれが操縦のしやすい仕様に変更することは、不可能ではないがな」
 北久慈 啓(きたくじ・けい)と共にマギウスに搭乗予定の須藤 雷華(すとう・らいか)の提案に呆れながら答えつつ、アーデルハイトがカノンのモード切り替えを可能にする術を施す。
「ふんふん……なるほど、こうなってるのねー」
 そんな中、一騎のブレイバー、駿河 北斗(するが・ほくと)ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)が乗り込む予定の機体を、マニュアルとにらめっこしながらクリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)が整備を行っていた。
「そういえば大ババ様が言ってたっけー、機体慣れしてない子にはオプションは向かない、って。
 まあ、ピーキーな機動をすればするほど、素人は混乱するわよね」
 遠くで聞こえてきたアーデルハイトと生徒たちのやり取りを耳にし、ピコーン、と何か頭に閃いたらしいクリムリッテが、不敵な笑みを浮かべ、腕に取り付けられていたシールドに目をやる――。

「ふー。これでいっかな、っと」
 一仕事終えた達成感を表情に、クリムリッテが浮かんだ汗を拭く。
「挙動に雑念が混じるのは、素人には致命的よ。イコンなんかの高速機動戦闘なら尚更ね。武器を持っていれば、隙を見つけたら攻撃したくなる。
 ……けれど武器が無かったら? そう、嫌が応にも“避けるしか出来ない”」

 どうだと言わんばかりの表情で告げるクリムリッテ、彼女の背後のブレイバーは、マジックソードとマジックショットがマウントされたマジックシールドを外され、武装なしの状態になっていた。

「やーん、クリムちゃんあったまいー、クリムちゃん超天才!」
「……何が超天才、じゃ。超天災、の間違いじゃないのか?」
「ひゃぁあああ!!」

 有頂天になっていたところを、背後からアーデルハイトに声をかけられ飛び上がるクリムリッテ。

「おまえ、本気でこの状態で出撃するつもりか? これは訓練ではないのじゃぞ!」
「でもでもー、北斗まだこれ乗ったことないし、北斗に射撃武器なんて無理だよー」
「あやつは魔法を学び直すために戻ってきたんじゃろう、ここで射撃武器に慣れんでどうする。それにソードまで外す必要はないじゃろ」
「でもでもー」

 北斗の戦闘スタイル(魔法剣一本で前衛を駆け回る)を知った上で、アーデルハイトの激昂にクリムリッテが反論する。
 生徒の安全を考えれば、出撃するからには武器を持たせたいアーデルハイトと、とにかくアルマインに慣れさせればいいと思っているクリムリッテの間で、意見が激しくぶつかり合う。

「むぅ……ならば、これでどうじゃ!」
 何やらぶつぶつと呟いたアーデルハイトが、元々シールドがついていた箇所に筒のようなものを強制的に取り付けてしまう。
「あれは“マジックセイバー”、魔法の刃を生み出す柄じゃ。あれならば動きを制限せず、教えなければ武器と分からぬ。
 私の面子も保てて一石三鳥じゃ」
「大ババ様、いくらなんでも唐突過ぎ――いたっ!!」
「元はといえばおまえの突拍子も無い思い付きがイカンのじゃー!」

 クリムリッテにゲンコツを食らわせたアーデルハイトが、ここでの仕事を終え、次の場所へテレポートで移動する――。


●ウィール支城

 土方 伊織(ひじかた・いおり)『雷電の精霊長』セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)が中心となり、ようやく完成を見たウィール支城には、イルミンスールから続々と機動兵器や生徒たちが集結していた。

「皆さん、このような非常事態にお集まりいただき、ありがとうございます」
 ウィール支城内、本丸・北郭・南郭に分かれた出城に到着した生徒たちを、セリシアが出迎える。彼女の奥、このウィール支城の主用に設けられた席には、今回の戦いで臨時の司令官を任された伊織が、落ち着かなそうな様子で座っていた。
「なんじゃ、男ならもっとしゃんとせんかい」
「お嬢様は心がお優しいのです。本来ならば、戦場という凄惨な舞台をお見せするのは誠に心苦しいのですが……」
 北郭の指揮官に任じられたサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)の呟きに、南郭の指揮官に任じられたサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)が複雑な表情で答える。
「しかし、お嬢様は皆様がお決めになったこの支城の司令官。そしてなにより、この場所はセリシア様との大切な場所。
 このベディヴィエール、お二人の愛の巣たるこの場所を、帝国ごときの軍靴に踏みじらせは致しません」

「ふふ、そうだの。今こそ、我の城に攻め寄せて来た事をその身を持って後悔させてやろうぞ。
 その間はセリシアに伊織の事を任せるのでな。伊織、余り弄るでないぞ」

(あぁぁ、僕には分かりますー、あの二人絶対何か勘違いしてるですー……)
 サティナとべディヴィエールの決意を秘めた視線を受けて、伊織は頭を抱えたい気分だった。
「現在判明している相手の戦力は、美央さんとカヤノさんがいらっしゃる雪だるま王国に数百、その奥に一〇〇から二〇〇の竜兵が控えています。竜兵はしきりにこちらを偵察していましたから、おそらく竜兵はこちらを襲撃するものと思われます」
 各地とのやり取りで得られた情報を元に、セリシアの説明が続く。
「伊織さんが決められた方針は、『状況が変化するまで、ウィール支城と雪だるま王国を防衛し続ける』です。私たちはここで、相手のドラゴンやワイバーンからこのウィール支城を守るために戦うことになります。
 そして、状況の変化……アメイアさんが戦場に出てきた場合は、その鹵獲も視野に入れるとのことです」
 伊織から伝えられた基本方針をセリシアが口にした後で、その伊織が立ち上がり、セリシアの横に立って口を開く。
「アーデルハイトさまには、王国上層部へ援軍要請を打診しました。明日の夜にはまた状況が変化すると思います。
 皆さん、明日一日、頑張ってください、お願いします!」
 ぺこり、と頭を下げる伊織に、向き合った生徒たちはそれぞれ思うところがありつつも、イルミンスールを守るという点では一致しているようであった。
「空戦を担当するイコン部隊の隊長には、リンネさん、お願いします」
「ふぇ?」
 そして、セリシアに名を呼ばれ、さも意外といった様子でリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)が振り向く。
「オリジナル機がリーダーというのは、分かり易いと思うのです。リンネさん、お願いするのです」
 再びぺこり、と伊織が頭を下げる。確かに、リンネたちの駆る『魔王』は、他のイコンとは一線を画している。混戦が予想される戦場において、目印となる(その分、敵に狙われやすくなるというデメリットもあるが)だろう。
「状況次第ではアメイアさんの鹵獲も狙って貰うので、フィリップさん達も上手く補佐してあげて下さいですよ」
「は、はい! どこまで出来るか分かりませんけど、やれるだけやってみます!」
「僕も頑張っちゃうよー」
 フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)が緊張した面持ちで頷き、隣のルーレン・カプタはどこか楽しげな様子で、フィリップにぴったりくっつきながら答える。
「よーし! リンネちゃん頑張るよー! 今度こそアメイアちゃんを倒しちゃうんだから!」
「リンネ、無茶はよくないんだな……って、聞いてないんだな……」
 今からアメイアを討ち取る気満々のリンネを、モップス・ベアー(もっぷす・べあー)が宥めようとするが、焼け石に水状態であった。
「えっと、隊長さんになればリンネさん……無理に突出しない筈……ですよね?」
 伊織の耳打ちに、セリシアは穏やかに微笑むばかりであった。

 全体向けの会合が終わり、それぞれが持ち場へと向かう。伊織は本丸の管制室へ、サティナは北郭、べディヴィエールは南郭へと向かい、セリシアがその場に留まり、生徒たちからの質問や提案に回答していた。
「支城外、ややエリュシオン寄りのこの位置に、簡易の医療所を開設したいと思います」
「その位置は……いえ、絶対に安全と言える場所はありませんね。分かりました。
 私たちの方でも、協力してくれる人を募ってみます」
「ありがとうございます。……あと、私たちは敵味方関係なく、治療を施す心積もりです。
 もしエリュシオン兵を回収した場合、彼らの傷が癒えるまでここに滞在させることは出来ますか?」
「私が今すぐに決定できることではありませんが、きっと伊織さんでしたら理解を示してくれるでしょう。
 私からも配慮してもらえるように伝えておきます」
 エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)と共に、必要な事柄をセリシアに伝えた高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が、準備のためにその場を後にする。
「あの、私たちにもお手伝いさせてください」
 その結和の元へ、ルーナ・フィリクス(るーな・ふぃりくす)セリア・リンクス(せりあ・りんくす)が進み出、協力を申し出る。いくつか言葉がやり取りされた後、一旦結和たちと別れたルーナとセリアが、セリシアの元へやって来る。
「セリシアさん、あの……」
 セリシアの顔を見、ルーナの言葉が止まる。
 ――戦場では何が起こるか分からない。もしかしたら今交わす言葉は、最期の言葉になるかもしれない――。
 そんな思いが過ぎり、次の言葉を紡げなくなる。
 ――正直を言えば、戦場に出るのは怖い。
  けれど、ここで一歩を踏み出さなかったら、種族を超えて分かり合うことなんて絶対に出来ない――。
「……行ってきます、セリシアさん」
「はい、行ってらっしゃい、ルーナさん」
 短い、けれど確かな約束を込めた言葉を交わし合い、微笑みの眼差しを背中に受けて、ルーナが結和の後を追う。
「あっ、そうだ。ニーズヘッグに連絡取れたの?」
「ええ、取れたわ。分かった、って言ってくれた」
 セリアの言葉に答えるルーナ、今はエリザベートと共にイナテミスに居るというニーズヘッグに、『もし戦場に出たとしても、エリュシオンの方を殺さないで欲しい』と伝えていた。
 ――こんな戦争で、お互いを傷つけ合うようなことがあってはいけない。
  エリュシオンの方達とも、エリュシオンの精霊達とも分かり合える未来の為に――。
 二人、そんな思いを抱いて、自らのやるべきことを為すために向かっていく――。