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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【5】無明長夜……2


 霊廟の屋根に不穏な影が三つ。
 屋根に空いた穴から中を窺うのは、世界征服を目論む秘密結社『オリュンポス』の面々。
「フハハハ! 前回は戦力を読み誤り、戦略的撤退を余儀なくされたが、今回は準備万端だ!」
 大幹部ドクター・ハデス(どくたー・はです)はメガネをくいくい押し上げながら高らかに言った。
「今度こそ、ヴァラーウォンドを手に入れてみせよう!」
 そんな彼とは裏腹に妹の高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)は怯えた表情。
「に、兄さん……。もうヴァラーウォンドは諦めて帰りませんか……? べ、別に、怖いわけじゃ、ないですよ?」
 と言いつつもハデスの服の裾を掴んだまま離さない。
「何を言う。探索隊が何故未だにヴァラーウォンドを入手していないのか分からぬが今がチャンスではないか」
「でもぉ……」
「この隙に手に入れ、我ら秘密結社オリュンポスが世界征服を成し遂げるのだ!」
「ご主人様……じゃなかった、ハデス博士!」
 もう一人のオリュンポス、ポンコツ機晶姫ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が声を上げた。
「どうした?」
「中になんかすんごいのがいます」
「む、むむ……! なんだあの化け物キョンシーは!? ヘスティアよ、今すぐデータベース検索するのだ!」
「今度はちゃんと調べて来たからばっちしです! データベース照合……あれは『おっきいキョンシー』です!」
 ポンコツである。流石に不浄妃のデータは入っていなかったようだ。
「フハハハ! キョンシーならばもう恐るるにたらん! 行け、改造人間サクヤ、人造人間ヘスティアよ!」
「えー! ほんとにやるんですかー!?」
 咲耶は嫌々ながらも、ヘスティアと出撃。穴から飛び降りて不意打ちを不浄妃に仕掛ける。
 まず、ヘスティアが前回クソの役にも立たなかったミサイルポッドをパージ、軽量化とともに加速ブースターに点火。
「近接戦闘モード、起動します」
 光を纏った悪霊狩りの刀で斬り掛かる……がしかし、噴き上がった黒い霧がそれを弾いた。
 続いて、咲耶もバニッシュを連続で浴びせるがこちらもまるで通用しない。
「あわわわ……!?」
「な、なんですか、この化け物キョンシー!? 聖なる光が全然効きません……!」
「ええい、なにをしている!」
 今度はハデス。手にした銃弾を振りかぶる。
「ククク、我が発明品『悪の秘密兵器32号・ハデスフラッシュ』を食らえ。ハデスフラッシュは、暗い屋内でも、昼間の太陽と同等の明るさで照らしだす。光が苦手なキョンシーよ。この光の元でも力を発揮できるかな……?」
 ちなみにハデスフラッシュはインフィニティ印の信号弾を元に作ったものだそうだが、効果はまるっきり同じである。
 放たれた発明品は炸裂と同時に強烈な光で部屋を覆った。
 ダメージこそないが、不浄妃の動きが止まる。しかし……。
まぶしっ!
 それと同時に自分たちも探索隊も目をくらまされ身動きがとれなくなった。
 無意味な時間が30秒ほど流れたあと再び廟内は元の明るさに戻った。
「しまった……! 己の武器の対策を怠った! そして何一つダメージを与えられなかった……!!」
 口惜しそうに唸りハデスは探索隊に言う。
運が良かったな、探索隊諸君! ウォンドはひとまず預けよう! しかし次もこう上手くいくとは思わんことだ!
 ヴァラーウォンド回収を断念し、オリュンポスの面々はいそいそと天井の穴から逃げていった。