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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【5】無明長夜……6


 通路を塞ぐ瓦礫を吹き飛ばし、再び辿り着いたのは最奥の拝殿。
 前回、ブライドオブヴァラーウォンドが安置されていた場所に今度は不浄妃が逃げ込んでいる。
「よーし、みんなー! いっくぞーっ!!」
「うおおおおおおおおおおっ!!」
 大剣を振り回してミネルバが声を上げると、探索隊からも戦の始まりを告げる叫びが返った。
 不浄妃はあらかた再生を終えたようだが、どうも光輝属性による傷は完全修復出来ないらしい。
 微妙にふさがらない傷からもくもくと黒い霧……おそらく穢れが漏れだしている。
「来るよー」
「オオオオオオオオオオ!!」
「がーど! がーど!」
 ミネルバは大剣の刃を寝かせて、後ろにいる仲間を守る盾となった。
ウォォイッスァァァ!!
 しかし攻撃自体は防げたのだが、そのまま押しやられ壁に叩き付けられる。
「ぐえええっ!!」
「だ、大丈夫か、ミネルバ!」
 ぐるぐる目を回す彼女に、樹月 刀真(きづき・とうま)はあわてて駆け寄った。
「と、とーまちゃん、前見て、前……」
「!?」
 間一髪、伏せるともう一本の腕が彼の頭上をかすめ、そして呼吸を置かず更にもう一本が振り下ろされた。
 刀真は黒曜石の覇剣で攻撃を受け流す。ところが威力が尋常じゃないため、一回流すだけで刀身はボロボロだ。
「噂に違わない怪物だな……! しかし……!」
 素早くワイヤークローを放ち三本の腕を絡めとる。
「月夜!」
「任せてっ!」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はダッシュローラーで走りながら不浄妃の脚にワイヤーを巻き付けていった。
 ぐるぐると三周もすると完全に縛り上がる。上半身を刀真が、下半身を月夜が、それぞれ拘束し動きを封じた。
「長くは持たない! 今のうちに……!」


「……若い奴は無茶しやがる。OK、こっちのほうは俺に任せてくれ」
 そう言って、アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は鈍く光るメガネを押し上げた。
「ちと骨が折れるが、乗りかかっちまった船だ。最後まで付き合うぜ」
 『ティグリスの鱗』と『ユーフラテスの鱗』二対の刃を手に不浄妃を挑む。
 とその時だ。さっきと同じく怪物の胸に黒い光が見えた。前兆。そして、またも光条兵器の無数の匕首が発射された。
「まぁ両手が縛られてるんじゃそうするしかないわな」
 カッと目を見開き飛び交う攻撃を紙一重で回避していく。
 それから相棒のクリビア・ソウル(くりびあ・そうる)に視線をやった。
「クリビア、あいつらを頼む」
「ええ、心得ています」
 身動きがとれない刀真と月夜の前に割り込むや、クリビアは『リヒト・ズィッヘル』をゆらりと振るう。
エルンテ・フェスト
 透き通るその声に反応し、青光をたたえる鎌刃が発現。飛来する匕首を次々に払い落とす。
「すごい……!」
「すみません、助かります……!」
「いいえ、お気になさらず。申し訳ありませんが、もうしばらく辛抱してください」
 こちらはなんとかなったが、けれども後ろに続く隊員たちの中には直撃を喰らう者も多数いた。
「今のが見切れない奴はこれ以上近付くな。余計な怪我人が増えるだけだ」
 アキュートは音も無く疾走するや、不浄妃の胸元に両手の牙を滑らせた。
「クリビア!」
 発生する黒い霧に阻まれるのを見届け、すぐさま彼は離脱の態勢へ。
「そこっ!」
 離脱と同時にクリビアはバニッシュを不浄妃に叩き込む。閃光は直撃前に霧に拡散され露と消えた。
 そこに間髪入れず挑むのは玉藻 前(たまもの・まえ)
 髪の毛がふわりと逆立つと同じくして、艶かしい曲線を有する臀部に美しい金毛九尾が発現。
「下がれ、怪物……! 祓い給え!」
 指先から放たれる見えない力が叩き込まれる。しかしこれもまた霧が弾いた。
「これだけ連撃を加えても、まだ霧を展開する余力があると言うのか……」
「いや、まだ根を上げるには早いんじゃないか」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に憑依した奈落人伊勢 敦(いせ・あつし)は不敵に言う。
 天狗の面を付けた彼は空気を踏むように舞い上がった。
「折角のチャンスだ。きっちり礼を返させていただく。コンロンの瘴気よりうちの瘴気の方が心地よいんでね」
 とその時、不浄妃を拘束していたワイヤーが引きちぎられてしまった。
 敦は息を止め、敵の知覚の外に出る。そして空中で構えるは流派『未武谷』。
「それにしても、こんなにドキドキするのは、一ノ谷以来だな」
 一瞬の静けさから転じて強烈な蹴りを不浄妃の顔面に叩き込む。
「はっ!!」
「オオオオオオオオッ!!!」
 光を纏わせた一撃は大きく怪物の身体を震撼させた。
なるほど、四発目で入るのか。見た目通り不吉な数字だな」
 黒い霧は光を弾くと同時に散ってしまう。
 彼女の内包する霧の総量からいくと、一撃必殺級の攻撃に連続して対応出来るのは三発が限界なのだ。
「……つうことはこっから先は俺たちの攻撃が全通しってことかい」
「そのようですわ」
 アキュートはカタクリズムでまた表面に張り付こうとする霧を吹き飛ばす。
 刹那、クリビアは風の如く吹き抜けた。不浄妃の攻撃を残像を残す神速の速さで回避、そして迫る。
 リヒト・ズィッヘルが怪しく輝いたその時、閃光とともに不浄妃の腕がどす黒い穢れを散らしながら宙を舞った。


「呪詛を祓い給え……!」
 その連撃に混じり、鎧人間ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は呪詛祓いを不浄妃に放った。
 元は普通の剣の花嫁と言っていたね……。君がここまで歪んでしまったのは呪われてしまったからじゃないのかい。
 もっとも今の姿も背徳の美を醸し出していて奇麗だけどね。ぐふふ……。
「……なにしてんの、あんた?」
「ん?」
 声とともにジル・ドナヒュー(じる・どなひゅー)がブルタの前に割って入った。
 念動力でこちらに飛んで来る光条兵器の匕首の軌道を曲げる。
「あんたなら、むしろ呪詛でコイツを強化させちゃうぐらいのことやりかねないのに。なんで呪詛祓いなんか……」
「なんでかな。ちょっと可哀想かなって思って」
 それはもしかしたら自分と同じ異形となってしまった彼女へのシンパシーなのかもしれない。
「きっとこうなったのは『ブセイ』の所為さ。歴史なんて勝者の歴史だよ、本当の犠牲者は彼女かもしれない」
「へぇ意外、でもさぁほんとに呪詛祓いが効果あるの?」
「……あんまり」
 繰り返し呪詛祓いを叩き込むのだが、わずかに不浄妃を覆う穢れを飛ばせるものの、すぐに元に戻ってしまう。
 少なからず何かに呪われている可能性がある。しかし呪いをかけたのはブセイではない。
 不浄妃は不老不死の秘術の失敗によって生まれた。生の秘術は死に反転し、こうなってしまったのである。
 もし、呪詛をかけた者がいるのなら、それは不浄妃、そう彼女自身なのだ。
 しかしそうなると、彼女の本当の名前を知らないブルタには呪いを祓うことは難しい。
「キミはボクが救ってあげる。そしてボクと契約してパートナーになってよ……。呪詛を祓い給え……!」
 若干の下心をのぞかせつつ、彼は術を放ち続けた。