イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

リアクション公開中!

【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

リアクション


【5】無明長夜……9


「……これで長い戦いが終ったのだよ」
 リリ・スノーウォーカーは言った。
 目的を達成したニルヴァーナ探索隊は負傷者の手当てをしつつ撤退の準備を始めている。
「さて、リリたちも帰り支度をするのだよ」
「ええ、そうですね。そろそろ武尊さんの目が覚めてくれるといいんですけど」
「う、うーん」
 シーリルは床に寝かせられている相棒を見つめた。
「ところで、さっき回収したヴァラーウォンドを見せてほしいのだ」
「ええ、どうぞ」
 シーリルがウォンドを渡すとリリは興味深く眺めた。
「不思議な力を感じるのだよ……。あ、携帯が鳴ってるのだ。すこし席を外すのだよ」
 さりげなくそう言うと、ウォンドを持ったまま、彼女はそそくさとその場をあとにする。
この辺りは携帯は通じないはずだが……?
「ぎくぅ……!」
 止めたのはダリル・ガイザック。不審な目でリリを睨む。
「ウォンドをどうするつもりだ?」
「リリたちも協力したのだ。2、3日調べるくらいしてもいいのだよ」
「そんなわけあるか」
 ダリルはぐっとウォンドを掴む。
「ヴァラーウォンドは王国の剣として俺が預かる」
「ずるいのだよ」
「武器には使用者が必要だ。女王と軍の管理の下、シャンバラの兵器として運用するには責任が伴う」
「だったらうちにも剣の花嫁がいるのだ。そっちが使用者になる必要はないのだ」
「俺にも剣としての誇りがある。剣として国家の役に立ちたい」
 睨み合う2人を前にして、間に挟まれたシーリルはオロオロ……。
 とそこにメルヴィア大尉がツカツカとやってきた。
「ブライドオブシリーズの回収ご苦労。よくやった」
 言うなり、あっさりウォンドをとりあげる。
「苦労したのに不条理なのだ……」
「た、大尉。ウォンドの使用者の件なのだが……」
その決定権を私は持っていない。本作戦は回収が任務だ。当分、ウォンドはニルヴァーナ探索隊預かりとなる
 2人はがっくり肩を落とした。


「取り込み中のところ失礼するよ」
 不意に黒崎天音が彼らの間に入ってきた。
 しかし会話をするではなく、ただ足下を確かめるように歩き回っている。
「何をしている?」
 メルヴィアが尋ねると、天音は無線機を指した。
『黒崎、こちら地下道だ。言われたとおり調べてみたが、人の入った痕跡があるぞ。しかも結構新しい』
「どっちの方角に行ったかわかるかな?」
 天音は地下道の地図を広げた。
『たぶん霊廟中央……そうだな、拝殿のあるあたりだ』
「なるほど。ありがとう助かったよ」
 通話を終えると、一同に向き直った。
「すまないけど、そこちょっと空けてもらっていいかな」
 首をかしげながらも言われたとおり空ける……とその直後、床が崩れ、真下から砂鯱が飛び出してきた。
「外しただと……!?」
 砂鯱を駆る羽皇 冴王(うおう・さおう)は思わず目を見開いた。
 砂鯱には三道 六黒(みどう・むくろ)両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)も乗っている。
 ウォンドを奪取するため、回収直後の疲弊したタイミングを狙ってきたのだ。しかし、奇襲は失敗に終った。


「なるほど。貴様らがそうか……」
「なんの話でしょう?」
 メルヴィアの言葉に、悪路は首を傾げた。
「不審な隊員が紛れているとの報告があった。既に拘束してあるが、貴様らの小飼の連中だろう?」
「ほう。すこしの間に、随分、連帯が回復したようですね。折角、あなたへの不満が広まるのを手伝いましたのに……」
 探索隊には悪路の手引きで数名の文官が潜入していた。
 もっとも連帯の高まった今、そう言う隊員は否応なく目立ち、炙り出されることになった。
「何故、ウォンドを狙う?」
「彼の地に至るは、何もあなた方だけの特権ではありませんよ」
「渡してもらおう……!」
 威厳に満ちた声で六黒は言った。
「ウォンドの持つ力、わしにこそ相応しい。不浄妃の無念、嘆き……、わしが継いでやろう
「ふざけるな! 誰が貴様らなんぞに渡すか!」
「虚勢を張るな娘、この時点でわしと戦えるだけの力を残した者はおるまい」
「そう見えるか?」
 メルヴィアは不敵に笑い、その手を水平にかざした。
 すると隊員たちがぞろぞろと六黒たちを取り囲む。疲弊しているものの、その闘志に疲れの色は見えない。
「有象無象に何が出来る……!!」
 大剣を構えた六黒の殺気に、気圧される隊員たち。しかし、メルヴィアは違った。
「貴様の目は節穴か? 私の手にあるものがなんだか忘れたのか?」
 ヴァラーウォンドをくるくる回し構える。途端、彼女の身体は杖の放つ青白い光に包まれた。
ブライドオブシリーズの真価を見るがいい……!
 ひとたびウォンドを降り下ろすや、凄まじい衝撃が走り抜けた。
 軸線をずらし、六黒は攻撃を回避する……その刹那、彼の背後にあった壁が粉々に消し飛んだ。
 特殊な能力ではない。ただ単純な攻撃力、ただ圧倒的な破壊力でもって、壁を吹き飛ばしてしまったのだ。
「面白い……。新たな火種を産むに十分な武器だ」
「引き上げるぜ、おまえら」
 冴王はニヤリと笑った。
「むざむざボコられる趣味なんざないンでな。それにそいつは誰が持っていても面白くなりそうだ」
「なに……?」
力ってなぁ争いを産む。それがこの世に存在する限り、俺の飢えが渇く心配もねぇ
 次の瞬間、冴王の仕掛けた爆弾が爆発した。爆風を隠れ蓑に、六黒ら一派は姿を消した。