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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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8,四つの黒い影



「借り物だったんですけどね」
 レーザーバルカンを受けた軍用バイクは見事に大破した。
 弁償にはならいだろうが、小言の一つくらいは言われるかもしれない。もっとも、バイクのために自分の身を犠牲にするつもりなど、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)にはない。道具は道具だ。
 唯斗から正面に立つのは、漆黒のパワードスーツだった。
 煙幕が撒かれる前に、パワードスーツは二体居るとテレパシーで連絡を受けている。だが、煙幕が晴れてみると、漆黒のパワードスーツは四体姿が確認された。今のところ、そのどれもが絶賛稼動中だ。
「ところで、あなたは全部で何人居るんですか?」
 道具である以上、量産できているのならパワードスーツが複数存在していることに疑問は無い。
「だんまりですか」
 漆黒のパワードスーツは、人差し指で頬をかくようなしぐさをする。フェイスガードがあるため、実際にはかくことはできていない。癖のようなものだろうか。
「ああ、いえいえ。少し考えてしまっただけですよ……貴方方は、一体何人までなら勝てると計算しているのでしょうか?」
 男の声で、漆黒のパワードスーツが答える。
「どういう意味ですかね?」
「ここに居る私一人ですら、倒すことができないというのに―――という事ですよ」
 漆黒のパワードスーツのレーザーブレードが煌く。唯斗は歴戦の立ち回りの立ち回りで、辛くも攻撃を受け流す。
「ふふふ、お上手ですね」
「舐めないでください!」
 レーザーブレードを払う。
 さらに、歴戦の必殺術で弱点を見抜く。パワードスーツといえど、全ての箇所が同じ耐久性を出しているわけではない。たった今レーザーブレードを払って見えた、わき腹に唯斗は目をつけた。そこに、則天去私を叩き込んだ。
「……なるほど、いい目をお持ちのようですね。危ない危ない、計算上大丈夫とは言っても、狙われたくはないですね。ついつい、気にしてしまいます」
 唯斗の拳は、漆黒のパワードスーツの手の平で受け止められていた。そのまま、信じられない力で上空に放り投げられる。そのまま、自由落下で地面に叩きつけられれば、相当なダメージを追うだろう。
 そこで、強化光翼を発動。勢いを殺すどころか、さらに上空へと飛び上がる。
 漆黒のパワードスーツはもう敵を排除したつもりで、悠然とプラヴァーに向かって歩き出していた。無防備な頭上が丸見えだ。
 高度を取ったのは威力をあげるため、そこから急降下で油断している漆黒のパワードスーツを狙う。
「うーん、本当に惜しい。私でなければ、あるいはこのスーツの一つぐらいお土産にできていたかもしれないのですが」
 再び、漆黒のパワードスーツは唯斗の一撃を受け止めていた。捕まえたままの唯斗に向かい、レーザーバルカンの銃口を向ける。
「殺すには惜しい人材です。気が変わったら私達を訪ねてください、歓迎しますよ」
「ふざけろ」
「今すぐでなくて結構、死なない程度に出力は落としてさしあげますので、時間ができた時にでもお考えください」
 ほぼゼロ距離で、レーザーバルカンのレーザーが発射された。言葉通り、かなり出力を落とされたバルカンの一発の威力は低く、即座に意識を奪うほどではない。
「……おや?」
 まだ唯斗の意識を奪う前に、攻撃が止まった。漆黒のパワードスーツの手から、レーザーバルカンがはじき飛ばされたのだ。それと同時に、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が飛竜の槍でもって突撃する。
 危険を感じ取ったのか、漆黒のパワードスーツはすぐに回避した。握っていた唯斗から手を離す。宙に投げ出された彼を、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が受け止めた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか」
「一度下がって、治療できる人に見てもらってください。ここは、私達で食い止めます」
 プラヴァーを狙って現れた漆黒のパワードスーツは、四体が確認されている。そのうち、二体は二人で一緒に行動しており、もう一体は仲間と思われる契約者と共に行動している。他の敵は、少数の蛮族と、これまた契約者が幾人か。
 決して一人で行動するようなことはなく、プラヴァーに近づいてきてはいるが、素早く取り付くというよりは周囲の護衛を確実に排除していくのが目的のようだ。ただ一人、この漆黒のパワードスーツだけは、単独行動をして護衛の少ない方からプラヴァーへと回り込んでいる。
 他は囮で、彼が本命。それで間違いない。
「プラヴァーを奪わせたりなんかしないんだから!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の弾幕援護によるサポートを受けながら、コハクとベアトリーチェの二人で漆黒のパワードスーツを相手取る。
 さすがは単独行動をするだけあると褒めるべきか、この個体は他のパワードスーツを装着した三人とは動きが別物といっていい。
「このままでは……」
 攻め続けることで、漆黒のパワードスーツをなんとか足止めしているというのが現状だった。援護に徹底している美羽と、中距離を保っているベアトリーチェはまだしばらく持つが、コハクの消耗が見るからに激しい。
 あっという間に、ジリ貧に追い込まれた。二人の援護があって、なんとかコハクは拮抗状態に持ち込めているため、二人は手を休めることなどできないし、交代することもできない。
「せやぁぁっ!」
 素早い攻撃が売りのライトニングランスが、相手を捕らえられない。肩などにかすった際に、電撃を流しているはずなのだが、動きを見る限り打撃が入っているのかどうかが判断できない。パワードスーツが完全に顔を覆っているせいで、相手の表情を全く読み取ることができないのだ。
「ふふ、どうやらお疲れのようですね」
「そっちこそ、辛いんだったらギブアップしてもいいんだよ」
 息に乱れはなく、落ち着いているように聞こえた。
 漆黒のパワードスーツは、徹底してコハクの攻撃だけは回避に専念していた。天のいかづちや、美羽のブライトマシンガンは避け切れないと判断したものは受けて対応している。
 恐らく、直撃すればダメージは通るのだ。
 だがそれは、電気を消した部屋で耳元を飛ぶ蚊を叩けば殺せると言っているようなものだ。どこに蚊がいるのか、暗い部屋ではわからない。叩きたくとも、そんなことはできない。
「私の計算では、この戦闘をあと六時間と二十二分八秒継続すれば、このパワードスーツは限界を迎えますね。さあ、あと一息ですよ、頑張ってください」
「そんな悪趣味な冗談っ」
 漆黒のパワードスーツは、誰もいないところに向かって手を伸ばした。その手に、吸い寄せられるようにして、美羽の射撃で吹き飛んだレーザーバルカンがやってくる。
「サイコキネシス」
「そうです。引き寄せて打ち落とされない距離まで近づくのに、少々骨が折れましたよ。おっと、これで先ほどの計算が狂ってしまいました。あと何時間粘ろうが、勝ち目はありません」
 漆黒のパワードスーツはさっそくレーザーバルカンを装着しなおした。



「これでは、殴り合いとそう違わないな」
 レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)はこちらに向かってくる敵を撃ち落しながら、ぼやいた。
 狙っているのは、比較的後方に居て、銃器などで武装している蛮族だ。漆黒のパワードスーツと、それと共に来ている輩は仲間に任せている。というより、近すぎて狙撃には向いていないというのが本音だ。パワードスーツの素早い動きに対抗するため、護衛も同じように高速で相手をしているため、完璧に狙いをつける必要がある。それよりも、確実に敵の数をそぎ落とす方が効率的という判断である。
「あまり無茶をしないで、遮蔽物にすぐに隠れられるようにするのだよ」
 初実践を迎える獅子の養女エーラに無茶をしないように指示しながら、一秒でも早く一人でも多く敵の数を減らすことに尽力する。殺すのではなく負傷させた方が士気の低下が望める、規律のない寄せ集めなら士気の低下はそのまま軍団を壊滅させるはずだ。
(状況はあまりよくないみたいね)
 テレパシーで問いかけてきたのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
(敵の数は確実に減っている)
(パワードスーツの奴は?)
(確認された四機全てが稼動中だ。相対している護衛のうち、何割かは負傷して下がっている)
(そう。確認するわ、このまま戦わせてパワードスーツを撃退、もしくは拿捕できる勝算はどれくらい?)
 パワードスーツが確認されて戦闘状態になってから、そろそろ十五分といったところだろうか。不意打ちという形でいくらかこちらに負傷者が出たとはいえ、煙幕も晴れた現状こちらの方が有利なのは確かだ。
(難しいな……見る限りではどれも相当な使い手だ。特に一人、頭一つ抜け出たのがいる)
(了解、だいたいみんな同じ意見ね。これからプラヴァーを起動させるわ)
(切り札というものは、切らないことに意味がある。私としては、それは反対したいところだな)
(言い分はこちらも重々承知よ。けど、他校の生徒に外側の守りを任せてしまった以上、このまま戦闘を続けたら例え任務を達成できても、彼らを捨て駒にしたという意見が出てくるわ。実際に、そういう形になりかけてるの)
(突破しようと思えば、煙幕に紛れてプラヴァーに取り付くことができたはずだ。彼らは何かを待っている節がある。気をつけろ)
(了解。プラヴァーを起動させるわ、近くに人が居るなら注意するように)