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リアクション
3.橋頭堡に集まる人々
「見渡す限り、岩ばかりね」
橋頭堡から歩いて数分、背後を振り返ればしっかりと建設中の橋頭堡の姿が見える地点で、ザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)は呆れたように呟いた。
既に周囲一キロ圏内は探索を行い、めぼしいものは何も発見できなかったとの報告は受けていたが、自分の目でも確認しておきたかったのだ。
岩と大地と、それだけの荒れ果てた大地は、生き物が生きていくには厳しすぎる世界だ。
もしもこの世界に知的生命体が存続しているのなら、この大地の下、地下に潜んでいるのではないか。そういう意見はいくつかあり、ザウザリアスもまた同じように考えていた。
見渡す限り、地下への入り口のような施設は無い。見つけていたら報告が来るだろうからあまり期待はしていないが、探索隊は地面をまじまじとは調べてはいないだろうという考えも同時にある。
正確な探索は、編成中の探索部隊が行うだろうし、まだここがどの程度危険かもわからないためこれ以上遠くを探索することはできないし、するつもりもない。
「何かあれば、陳情も通るのでしょうけど」
地下を探索するためのノウハウは現在持ち合わせてはいない。他の組織に力を借りるべきだろうと提案を行ったが、地下にあるかもしれないというのは推測であり何の根拠もない現状で、協力を仰ぐようなことはできないと却下された。
「こんな散歩のようなことで何か発見できるわけないものね」
今優先すべき事柄は橋頭堡を完成させて足元を固めることだ。それは理解しているが、しかしこの荒れ果てた風景を見るほどに、地下への推測は強まっていく。
周辺調査の小隊が何か発見してくれる事に期待するしかないだろう。今度はかなりの広範囲の探索をする予定になっている。
短い休憩時間を浪費するのはこの程度にしようと思った矢先、ふと視界に妙なものが見えた気がした。
「……なにかしら?」
見間違いをするほど、ここには物は溢れていない。確かに、視界に一瞬何かがよぎったのだ。それが何かまでは判別できなかったが、どちらに向かっていったかはわかる。
「……」
悩むような時間はかからなかった。周囲の気配を慎重に読みながら、ザウザリアスは見えた何かをゆっくりと追った。
必要な資材の手配に奔走する長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)が帰還と同時に、様々な報告が押し寄せる。さらなる物資の補充であったり、建築状況の報告であったり、調査隊の編成についての説明であったり、一日二日で溜まったとは思えないような量だ。
それだけ、ここは短い期間に仕事をこなしていっているという事でもあるため、あまり疲れた顔は見せられない。ほとんどは、順調に進んでいるのだから喜びこそすれ、不満を漏らしては士気にも関わるだろう。
そうして手早く雑務を片付けて、すぐさま月のアルカンシェルに戻る予定だったが、一つ問題が発生して足止めを食らうこととなった。
「あら、国軍の人がこっちに来るなんて珍しいわね」
出迎えた伏見 明子(ふしみ・めいこ)はふてぶてしい態度で、長曽禰を出迎えた。
建設途中の橋頭堡から出てすぐ、モヒカンとヤンキーによって建設されるもう一つの橋頭堡がある。まぁ、正直なところ見た限り、子供が作る秘密基地のような状態だ。施設も整っていないのに、見栄えに拘って妙な飾りを組み立てているあたりがそれっぽい。
ここに集まり活動しているのは、ほぼ全てがパラ実からやってきた面々だ。どうして外で、自ら施設を組み立てているのかといえば、彼らと教導団は不仲であるからで、余計な問題をまとめて放り投げているのである。
「こちらに迷惑をかけないという約束を破ったのはそっちだろ」
「……はい?」
意味がわかっていないようなので、長曽禰は資材泥棒のヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)を前に出した。正確に言えば、資材泥棒未遂、ではあるが。盗もうとしたものは、建築に必要な資材であったことから、この泥棒の元締めはここしか考えられない。
「……誰?」
「とぼけるな。食料や水ならまだしも、鉄骨を持ってくなんてここしか考えられん」
「あー、確かに手癖が悪い奴ばっかだけどさ、頭ごなしに犯人扱いはやめてくれる?」
剣呑な空気が流れる騒ぎに気付き、レヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)とサーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)の二人もやってきた。
「俺たちが泥棒したって?」
「まぁ、待ってよレヴィ」
今にも噛み付きそうなレヴィを制止して、サーシャがヘスティアを観察する。
「うちの人じゃないよ。それに、どうしても用意できないものは元々そっちに頼んでるし、わざわざ盗む必要なんてないだよね」
彼らの主要な素材は、廃材だ。だが、よくよく見れば新しいものも紛れている。
「え? あっちに頼んでるの?」
驚く明子に、
「だって、アルカンシェルを経由するんだよ。だったら、正規の手段の方がやりやすいよ。一応、ここも彼らの管轄下って事で許可も取ったんだし」
と当然のように説明する。
この地区、というほど大きなものではないが、パラ実がある程度勝手にやるのは、いくつかの条件を出して許可している。アルカンシェルに戻っている間に、根回ししていたのだろう。抜け目の無い事だが、彼らの言葉が本当だとすれば、この泥棒は一体どこからやってきたのか。
「そういうわけで、泥棒の元締めなんてしてませんよ。こっちだって、荒事にしたくないから居住区を分ける提案をしたんですから」
「しかし、だとしたらこいつはどこからやってきたんだ?」
「それはそっちの仕事でしょ。それとも、泥棒探しも条件の中にいれるってわけ?」
一歩も引く様子のない彼らは、確かに泥棒ではないようにも見える。どうせこいつらだろう、という先入観とさっさと終わらせたいという考えから勢いで踏み込んだが、ちゃんと尋問をしておくべきだったようだ。もともと、こういう事はありうるだろうと説教で済ますつもりだったのもいけないのだろう。
「……わかった、一先ずそちらの言い分で納得しよう」
あくまで今は一時的に戻っただけで、まだ仕事は向こうにも残っている。誰か部下に、泥棒を任せて、後日対処するしかないか。そう考えていたところに、ザウザリアスが少し息を切らせた様子でやってきた。
「お戻りになられたと聞きましたので」
「どうした?」
何か報告があるのは、明らかだった。
「少々面倒なものを発見しまして、これから何人か連れて向かうのですが、できれば少佐殿もご同行を願います」
「何があった?」
「それは移動中にお話しします」
急ぐ事態らしいというのは汲み取って、明子らに一言で非礼を詫びると彼女について一旦陣地に戻った。ヘスティアももちろん一緒だ。
有志の生徒を五人ほど募り、ザウザリアスを伴って目的の地点へと向かう。
そこで何が行われているか、については移動中に説明を受けた。話しを聞いている最中で明らかにヘスティアが動揺しているのがわかった。
「我々に対して人質を取るとは」
事態はあっさりと片付いた。
資材泥棒の元締めをし、勝手に自分達の秘密基地を作ろうとしたドクター・ハデス(どくたー・はです)と聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)とその部下達をまとめて捕縛したのだ。
「施工管理技士まで用意して、やってることは泥棒か……」
彼らは、大きな岩の下の窪みを掘り進める形で秘密基地を建設していた。
中を調査すると、資材以外にも若干の食料や水が発見された。どれも、手配して取り寄せたものだ。
「これは悪事ではないというのは嘘だったのか?」
「くっ、ニルヴァーナ征服計画をよもやこんなところで……」
「はわわっ、私達どうなってしまうんでしょうか」
それぞれに何か言ってる三人はひとまず放置し、内部の詳しい状況の報告を待った。
彼らが持ち込んだものを含めて検分し、その上で尋問を行った結果。彼らがこちらに危害を加えるために行動していたのではないと判断された。
彼らは、新雪の上に最初に足跡をつけるような気軽さで、面倒を一つ用意してくれたというわけだ。ある意味それは、浪漫のようなもので気持ちもわからなくはない。だが、実務の方が当然優先される。
長曽禰は個別に説教をそれぞれ施したのち、窃盗に対する懲罰として監視付きで作業に加わるよう命令を下す。秘密基地の様子を見る限り、作業員としては十分な能力はあるだろう。
「やれやれ。次に戻ってくる時には、メルヴィアの調査の報告か……何か見つかれば、少しはこの疲れも吹き飛ぶんだがな」
そうして、長曽禰はアルカンシェルに戻っていった。
物資の手配や、連絡などの雑務を片付けて再び戻ってきた彼を待っていたのは、待ち望んでいたものとは全く違うものだった。
未知の敵、イレイザーとの交戦報告。そして、調査隊との連絡の途絶という最悪の展開が待っていたのである。
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