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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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第6章

 深紅海。
 数度の水質調査の結果、深部にも毒性は認められなかった。人間が泳ぐことに関しては、何も問題はないだろう、と思えた。
「となれば!」
 ばさっ!
 制服を翻した桐生 理知(きりゅう・りち)は、一瞬ののちには水着姿になっていた。
「泳ぐっきゃないね!」
「ちょ、ちょっとー」
 パートナーである北月 智緒(きげつ・ちお)が、あわててフォローに入る。
「なんでもう水着着てるの? それに、調査に来たんじゃなかった?」
「準備は先にしておかないと! それに、泳いだらどうなるか、ちゃんと生身で確かめなきゃ! ほら、ルシアちゃんも一緒に!」
「え、えー……私、水着は……」
「ご安心ください」
 ぬっと進み出たのはプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)。その背後には、ずらりと並べられた水着の数々。
「調査隊全員分を用意してあります」
「じゃあ、いっか」
 と、ルシアは納得した。本当に水着がないという理由だけで反対したらしい。
「そっかー、じゃあ、いいのかな?」
 と、智緒もそのまま納得してしまったので、みんなで泳ぐことになった。
「こ、これでいいのかな?」
「ああ、よく似合ってるぞ」
 水着に着替えたルシアに紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が親指を立てて答えた。ちなみにプラチナムが用意した水着は体のラインを強調するものだったり、布面積が極端に少ないものが多かったのだが、比較的マシなものを見繕った。ルシアはそのまま着てしまいそうだったからだ。
「とーう!」
 どぼーん、と、智緒とルシアとともに理知が赤い海に飛び込んだ。そうして駆け回ったり、泳いだりするのだが……
「なんだか、水が重たい感じだねえ」
「鉄分が多く、血に近い成分らしいからのう。普通の海より重たくて粘り気がある感じだ」
 びしっと、こちらはボディラインを強調する水着をしっかり着こなしたエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)がその疑問に答えた。
「水の中が真っ赤で、潜っちゃうと周りが見えなくて怖いですね……」
 と、こちらは紫月 睡蓮(しづき・すいれん)。エクスのものと違って露出は少ないが、かえってその体格をマニアックな意味で強調しているように見えなくもない。
「あの、そういえば私、泳いだことがなかったんだけど!」
 と、ルシアが言った。地球に降りてきたのも最近なのだから、泳ぐ訓練などしたことがなくて当然だ。
「それじゃあ、私が教えてあげる。波にさらわれちゃダメだよ。ふらっとどこかに行っちゃいそうで危なっかしいよ」
「理知もね」
 ぽそりと、智緒が理知にツッコんだ。
「いやあ、いいねえ……みんな、明るくて元気で」
 そんなふうに水着の女の子たちが戯れているのを見ると、唯斗は思わず、我が子を見守る父親のような気分になってしまうのだった。
「いいんですか? 一緒に仲間に入らなくて」
 と、プラチナム。もちろん唯斗は首を振る。
「守らなきゃいけないんだから、一緒に遊ぶわけにはいかないだろ」
 と、唯斗が見守る先で……
「ほら、ルシア! こっちまで泳いでみよう! 教えたとおりにすれば……ぎゃっ!?」
 ルシアに泳ぎを指導していた理知がいきなり消えた。どうやら、いきなり深いところにはまり込んだらしい。水底が見づらい深紅海では、足下に気をつける必要があるのだが……。
「あれ、理知さん? どこに……きゃっ!?」
 どぼん。
「あっ! 唯斗兄さんに守るように言われたのに! ルシアちゃん!」
 どぼん。
 なだれるように同じ場所に少女たちが沈んでいく。いつもと勝手の違う水質のせいで、普段と同じようには泳げないようだ。
「少し目を離した隙に! ……仕方ない!」
 というわけで、唯斗はしばし、レスキュー隊さながらの活躍をすることになったのっだった。


 ……というわけで、ちょっぴりうかつにも危険な目にあったルシアは海岸で待機を命じられたのだった(隊長なのに)。
「もっと泳ぎたかったのに……」
「もっと安全な場所がいくらでもあるだろ」
 やれやれと、唯斗はため息をついた。すっかりおもり役である。
 と、そこへ近づいてくる影があった。
「こんにちは! ちょっと、いいかな?」
 赤城 花音(あかぎ・かのん)だ。その手の中には、資料らしきものが紙とフラッシュメモリにまとめられている。
「ニルヴァーナに作る学校のことで、提案があるんだ」
 と、言うので、ルシアは居住まいを正して話を聞くことにした。
「今のところ、学校を作るために必要なお金は、いろんな所からもらったり借りたりしてる状態だけど、でもそれだと、みんなに負担をかけちゃうし、開校した後に独自にいろんなものを決められないと思うんだ」
「う……うん?」
 早速、ルシアにとってイメージしづらい話になってきたようだ。経済学や組織論を頭で理解していても、お金を通じてどんなやりとりが行われるか、という部分までは、実態を伴った想像が難しいのだ。
「えっと、つまり、独自にお金を集められる方法を提案しようと思って」
「ほんとに!?」
 ぱっと顔を輝かせるルシア。
「それって、どうやるんだ?」
 と、せっかく隣にいるので、唯斗が聞いてみた。
「名付けてニルヴァーナ基金・プロジェクト。設立される学校の音楽科の生徒たちで楽曲を作って、地球とパラミタに販売することで利益を得るんだよ」
「本格的な開校の前にカリキュラムとして行うことで、学校としてのノウハウを培うことにもなるでしょう」
 資料作成のためにかなりの体力を使ったのだろう。いくらか眠たげな様子でリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)が行った。
「人が多く集まれば、注目も高まります。どうやるかは、これから考えることですけど」
 申 公豹(しん・こうひょう)が薄く笑みを浮かべて見せた。本心では、活動を妨害されることを望んでいるのだ。そうすれば、戦う相手が現れるかも知れない。
「えっと、今は調査中だからすぐには決められないけど、もっと偉い人に話を通した方がいい……のかな?」
 さすがに調査隊を訪ねてきてくれた相手だ。どうすればいいか分からない、とは言えない。
「これを、長曽禰少佐の報告書と一緒に提出してもらえれば。話はボクたちもがんばってつけるからさ」
 と、花音が笑顔で言う。ルシアはしばらく考えたが、
「うん、分かった。長曽禰さんに渡しておくね」
 と、答えたのだった。