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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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第3章

 イレイザーの巣……とされているそこは、驚くほど生物的な気配が感じられない場所だった。
 当然と言えば、当然である。強い生物は身を守る必要がない。だからこの巣には身を隠すための穴や壁はないし、ただ単に「イレイザーが長時間居る場所」という風情であった。
「水晶の破片のようなものが見られますが、クリスタルフォレストのものでしょうか? それとも、イレイザーの生態に関わるものか……」
 リファニー・ウィンポリア(りふぁにー・うぃんぽりあ)が、その風景を写真に納めながら呟いた。
「おそらくは、イレイザーのものでしょう。背中に水晶のようなものを背負っている、という報告があります」
 彼女のそばで言葉少なに調査に当たっていた叶 白竜(よう・ぱいろん)が答えた。この場所には、完全に生物が居ないわけではないらしい。足下には小さな虫のようなものが、数種確認されている。
「今までのイレイザーとは種類が違うようだけど……違う進化のしかたをした?」
 世 羅儀(せい・らぎ)が推論を口にしながら、水晶に触れた。水晶化のような兆候はない。
「違うように作られた、という可能性もあります」
 白竜が小さく答える。
「中尉はイレイザーが何者かによって意図的にあのようになった、と考えているのですか?」
 リファニーの問いにも、白竜は小さく頷く。
「イレイザーの戦闘能力は異常です。ニルヴァーナに独特の自然環境があるといっても、イコン並みの耐久力や破壊力までは必要ないはずです」
「となれば、もしかしたらイコンは何かと戦うためにあのような姿になったという可能性も……」
「もしくは、誰かによってあのような姿にされたか」
 リファニーと羅儀が交互に呟いた。
(なるほど、あり得る話だ……)
 姿を隠したままの甲賀 三郎(こうが・さぶろう)が、心中でそっと頷いた。
(……巣だというから、警戒していたが。どうやら、自分の身を守ることについては無頓着らしいな、イレイザーは)
 三郎の分析は続く。となれば、おそらくイレイザーが戻ってくるまで、たっぷり状況を分析する時間はありそうだ。
「先に、準備をしておくか。いずれ、ここで戦闘になるだろうからな」
 いずれ、イレイザーがここに戻ってくることは明白だ。その時、少しでも多くの情報を得ることが、三郎の目的だった。
「戦いはまず情報、次に戦場把握……行動は情報の分析が終わってからだ。我の情報収集に役立ってもらうぞ、リファニー隊」
 ……と、言われている当のリファニーには、白竜に変わって宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が近づいてきていた。
「聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
 ウルフアヴァターラに警戒を任せて、軽い調子で問いかける。
「何でしょうか?」
「あなた、ルシアと契約したのよね?」
「ええ……それが、何か?」
「ルシアはあなたのようにシルエットが使えるの?」
 と、聞くのは、契約者とパートナーとの間に生まれるつながりで得られる、いわばパートナースキルの有無についてだ。熾天使との契約を交わしたのはルシアだけなのだから、彼女が得た力について気になるところだが……
「……いえ、そういえば、契約によってルシアがどんな力を得たか、私たち自身にもよく分かっていません」
「……そう。普通にしているだけでは気づかないスキルもたくさんあるし、そういうものが発現しているのかもしれないわね」
 気になるところだが、今すぐ調べるというわけにはいかない。むしろ、今は……
「雰囲気がぴりぴりしてきたわね」
 ウルフアヴァターラの背中を撫でてなだめる。どこか、落ち着きがなくなっている。
「……そろそろ、ですか」
「たぶんね。かなり激しい戦いになるわよ」