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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

リアクション

 謎の闇の悪の秘密の結社ダークサイズを攻略するには、二つの方法がある。
 一つは、ダイソウトウを始め悪の幹部たちを倒しつくすこと。
 もう一つは、ダークサイズが発行したスタンプカードに、ダイソウトウ、キャノン・ネネ、キャノン・モモ、超人ハッチャン、クマチャン、ダイソウ親衛隊のスタンプを集めること(勝負の方法は問わない)。
 神殿そばの遺跡の主の館跡では、別途休憩所の作成が進んでいる。
 中でも、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、ご機嫌である。
 彼女は完成したスタンプカードをご丁寧に額縁に収め、すっかり緩んだ顔で何かと言えばスタンプカードを眺めている。

「へへへへへへ〜。なーにお願いしよっかなー」
「美羽さん? カードばかり見てないで。今日は拠点を作るお手伝いをするんでしょう?」

 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、休憩用の仕出し料理を作りながら美羽にお小言。
 美羽はカードから目を離さず、手を振って返事をする。

「わかってる〜。あと5分〜」
「もう、寝起きの女子高生じゃないんですから……」
「なんだか、ずいぶん善い事があったみたいだね」

 休憩所の設営のため、設計図を描いたノートを見ながら、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)がベアトリーチェの傍を通りかかる。
 ベアトリーチェの隣で、仕出しの手伝いをしているコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が段ボールからみかんをいくつか出しながら、

「長い苦労が実ったからね。もう少しそっとしてあげようよ」
「苦労? 彼女は何かやってたのかい?」

 と、ローズに続いた冬月 学人(ふゆつき・がくと)が、石材を運ばされながら言う。
 かくかくしかじかと、コハクがスタンプカードの事を二人に説明すると、

「へえ、それはすごい! おめでとう!」
「スタンプカードを集めてる人がいるとはなぁ。とっくに無くなったものだと思ってたよ」
「じゃーん!」

 祝うローズと学人に、美羽が誇らしげに額縁を掲げる。
 そんな様子を冷静に見ていたシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)
 彼は縫ったキルト生地に綿を詰めながら、

「おい、どーでもいいけどよ、それ……ダークサイズ攻略されてね?」
『!?』

 と、ローズと学人が驚愕の眼差しでシンを振り返る。

「いやいやいやいや!」
「ないないないない!」

 二人は手をぱたぱた振る。

「何言ってるんだシンちゃん」
「シンちゃんってゆーな」
「あるわけないだろう。そんなことしたらダークサイズ終わりじゃないか」
「打ち切りよりひどい最終回じゃないか」
「しかも気付かない間にやられてるって、意味分かんない」
「てめえら、現実から逃げてねえか……?」

 そこに、ずいぶん顔色の悪い神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)と、それを支える山南 桂(やまなみ・けい)がやってくる。

「すみません皆さん……お待たせしました」
「主殿、もう少し体調の回復を待った方がよいのでは?」

 翡翠は風邪でも引いているのか、熱で赤らんだ顔と力の入らない瞳で、無理を押して拠点設営にやってきている。
 加えて遺跡のうっとうしい暑さが、翡翠の不調に拍車をかけているようだ。
 ベアトリーチェとコハクが、驚いて駆け寄る。

「まあ! 翡翠さん、大丈夫ですか?」
「何だって、そんなに具合が悪いのに……」
「俺も主殿に忠告したのですが……」
「ふふふ……みなさんが頑張っているのに、自分だけ寝ているわけにはいきませんからね……」

 見上げたダークサイズ愛である。

「外に出ちゃ、良くなるものも良くならないだろう。まだ仮設営だけど……」

 と、ローズが紐を引く。
 すると、カラカラと乾いた音を立てて上のプロペラが回り、プロペラが別の紐を巻き取って隅にある小さな仕切りが持ち上げ、仕切りの奥からビー玉が転がり、ビー玉がドミノを倒し、ドミノが蝶つがいを外し、蝶つがいで風船が浮き上がり、上の針が風船を割り、風船の中から石ころが落ちてが別のドミノを押し、ドミノが最後の重しを突き落とし、重しでドアを開いた。

「さあ、此処に入って。シンちゃん、余った綿でくるんであげよう。布団の代わりだ」
「シンちゃんゆーな」

 ローズが指示を出すと、シンはすでに羽毛布団をこしらえている。

「ったく、ダークサイズはいつも急だぜ。おかげでAAAランクの保温と通気性しか確保できてねえ」
「いやいや、充分ですよ」

 桂が礼を言うが、シンは怒って、

「ふざけんな。色味が寒色系だぜ。これじゃ落ち着いて養生できねえじゃねえか。あぁくっそ、今日アロマオイル持って来てねえ。ったく足手まといしやがって」

 と、シンはさらに生地の山から特に柔らかい布を引っ張り出し、そばで飲み物の仕込みをしていた椿 椎名(つばき・しいな)に、

「おい、この水もらっていいか?」
「ああ、いいよ」

 と許可を取って、火にかけてないやかんから水を布にかけ、

「ほらよ」

 と、濡らした布を翡翠の頭に巻いてあげる。

「ああ、ひんやりします……」
「ったくよー、体調管理も幹部の仕事だろーが」

 翡翠は気持ち良さそうに笑みを浮かべ、

「面目ない……優しいのですね」
「ばっ/// てめーが仕事できなきゃこっちも困んだよ!」

 さらに椎名が水を持って来る。

「冷水はあんまりよくないからな。ぬるいけどガマンして飲みなよ」
「ああ、すみません」
「『亀川』がいないから冷凍はできてないけど、むしろその方がいいよね」

 と、コハクはみかん。

「体の芯を温めないと。はい、どうぞ。温かいうちに召し上がってくださいね」

 と、ベアトリーチェはパラミタチキンをオレンジソースで煮込んだスープ。
 作業を中断し、総がかりで翡翠の看病が始まっている。
 翡翠はぬくもりで半開きになった目で、布団の中から手を出して指をさす。

「あ、あれを……」
「なんだ、翡翠?」

 椎名が翡翠の人差し指の先を見ると、お手製のおにぎりやらお茶やら薬箱が山と積まれている。

「出発前に総統と話し……無理をしないよう強く言っておきました。特に……アルテミスさんや他の皆さんの食事は、持って行っただけでは足りないはず……ほどなく、補給に戻ってくるはずです。その時には……あれを。神殿の中もある程度……くつろげるように整えておきました……皆さんの、体力回復には……役立つ……は……ず……」

 翡翠の手がコトリと落ちる。
 ざわっと椎名達の顔色が変わった。

「……翡翠?」
「翡翠……さん……!」
「ひ、翡翠! 翡翠―!」
「おい、目を開けろよ! てめえ、こんな所でくたばっちまう奴なのかよ! ふざけんな!」
「おのれフレイムタン! 僕たちダークサイズの同胞を……!」
「絶対に許さない……絶対にだ!」

 皆の怒りを、桂があえて冷静に止め、

「すみません。薬で眠ったのでお静かに……」
「あ、うん、ごめん。やってみたかっただけ」

 と、全員我に返り、翡翠を起こさぬよう外へ出る。
 外では、でかいクマと美羽が話している。

「それでねー、遺跡の主の館、なくなっちゃったじゃない? ネネちゃんとモモちゃんと、ついでにダイソウトウのお部屋を作ってあげようかなーって。あ、一番おっきいのは私の部屋だよ?」
『なるほどね。じゃあ結構資材が必要だなぁ』

 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は、

「よーできてんなぁ」

 とか言いながら、スーツを覆う毛皮を撫でている。
 出てきたみんなの目が一瞬点になり、

『く、クマー!?』

 と、祥子がやったのと同じ反応をする。
 美羽が出てきたみんなに気付き、

「ねえねえ、クマチャンが手伝ってくれるってー」
「く、クマチャン……?」
『やー! みんな休憩所やらお店やらを作るってるんだって? 住宅地域からも石材持ってきたから使ってよ! 必要なら組み立てもやっちゃうぜー』

 綾香からのクマード・スーツの提供と聞いて、俄然作業のスピードが上がる。
 クマード・スーツですっかり気分が良いクマチャンは、率先して作業を進める。
 崩壊した館の瓦礫から、形の残っているものを選別し、柱、壁、天井と、完全な復元とはならないが空間分けができていく。
 住宅地域の残骸も利用して、美羽の言っていたネネとモモの部屋やダイソウの部屋の仕切りが何となく仕切りがなされ、ローズの休憩所にも、仮設置に補強がなされてゆく。
 クマチャンは、寝ている翡翠に石が落ちないように天井を組みながら、

『ロゼ、この休憩所ってトラップハウスみたいになってんだね。すげー仕掛けじゃん』
「うん。実はこの設計プランは、うちで発見したノートに書かれていたんだ」
「ろ、ロゼ? どうも見おぼえがあると思ったら、そのノート……」

 ロゼは笑みを作り、

「ああ、学人の引き出しの中から見つけた」
「うわああああああ! 何で勝手に持ち出してるー!?」

 ローズがノートを掲げると表紙には、

ひみつきち せっけいず

 と、子供らしい字で乱暴に書かれている。
 学人はノートを奪おうと襲いかかるが、ローズの手が学人の顔を押さえ、学人は手をジタバタさせるばかり。
 クマチャンは感慨深げに、

『学ちゃんにもこういう時代があったんだね』
「いや、小さい頃の話だから!」
「にも関わらず、今も大事に保存しているという……」
「い、言うなロゼー!」
「おい、もういいか? 中に小物を置くぜ」

 と、シンは落ち着いた様子で両手いっぱいのファンシーグッズを休憩所に入れる。
 休む場所だから癒しを、とのことで、パステルのマットやら青空のカーテン、クッションと、加えて子犬用のミニベッドを置く。
 シンは、中で手伝う裕輝を振り返り、

「べ、別にフレイムたんへのプレゼントとか、そういうアレじゃねぇんだからなっ!」
「うん……聞いてへんから大丈夫……ていうかこれ、あの犬のベッドかいな」

 裕輝が、ミニベッドに手を伸ばしかけて、パッと手を引く。

「うわああ、ここに犬入れる気か? あかんあかん」

 と、裕輝はミニベッドを外へ蹴りだす。
 もちろんシンは烈火のごとく怒り、

「てめえ、何してんだ!」
「ベッドを外に出したんや」
「見りゃわかるよ! そういうことじゃねえ、何てことしやがんだよ!」
「オレ、犬嫌いやねん」
「知るかよ! それてめえの個人的なアレだろ」
「犬なんか外でええやん。むしろおっ死んでもええやん」
「お、おい、何てこと言ってんだよ」
「そもそも、なんで犬のギフトなん……犬とかオレ使えへんやん。何で犬なん……鍵なんやから鍵の形でええやん……」
「いや、今さら言われてもな……」
「つーか、拠点にするんなら、こんな暑いとこやなくてええやん。もっと快適な所探したらええやん」
「おま、ここまで作って今それ言うか?」

 もはや、裕輝の今さら論は、シンの手に余る。
 クマチャンは続いて、石材をテーブルとイスの配置のように並べ、

『椎名、エニグマのニルヴァーナ出張所の店舗、ここでいいよね?』
「い、いいのか?」
『閣下やネネもご近所だし』

 と、クマチャンはクマ・クローを駆使して石材をテーブルと椅子の形に整えた。

『あとでシンちゃんにクッション作ってもらおう』
「へー、クマチャン。器用なんだな」
『クックック。クマード・スーツを纏った俺様に、不可能はない!』
「はは、ずいぶんテンション高いなぁ」

 美羽が【大商人の無限鞄】から、余計に持って来た箱を出し、

「クマチャーン。ハッチャンとクマチャンのお部屋はこれねー」
『クッハッハッハ! みかん箱かー。懐かしいな!』
「クマチャン、浮かれすぎ。笑い方変だよ」
『クァッハッハッハ! 確かに! あ、そうだ。ネネたち、商業地域で温泉作るって言ってたな。あっちも大変そうだから、俺様は行くぜー!』

 と、クマチャンは商業地域に向かっていった。
 クマチャンが椎名の目の前を通り過ぎた時、スーツの隙間から黒い霧のようなものが溢れたように見えたが、

「?」

 一瞬で消えてしまったため、椎名は「気のせいか?」とすら思わない。