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リアクション
強い光と熱と放電、そして、揺れ。
投げ出されるようにして及川 翠(おいかわ・みどり)は着地した。
背中から落ちたので、下手をすれば負傷していたかもしれない。だが翠を包んだのは、湿っぽいが柔らかな草むらだったのである。
見上げた空は天鵞絨(びろーど)のように黒く、空気には草木の匂いが濃い。
「えっ……ここはどこ……なの?」
タイムワープの余波でまだ、周囲に青白い光の粒子を放ちながら緑は立ち上がった。
「東京……よね? 1946年の?」
どうも山中のようだ。鬱蒼と木々に囲まれており人の姿はない。
翠は同行者の姿を探した。
「お姉ちゃん!」
ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)はすぐに見つかった。翠同様、タイムワープの余韻と思わしき小さな放電を繰り返している。シャンパンの泡がはじけるようなプチプチという音が小刻みにしていた。
「ああ、大丈夫……? どこか手違いがあったようね……都心部に降りるはずだったけど、山みたいだし」
目にかかった前髪を手で払い、ミリアは眼を凝らす。
「それでも、致命的なミスをしたとは思えない……。やはり1946年の東京、せいぜい武蔵野あたりに着いたんじゃないかしら……?」
後から判ったことだが、このミリアの読みは的中していた。
「それはそうとして……」
「うん……」
「スノゥさんがいないの」「スノゥさん、どうしたのかな」
言葉が重なった。
今回翠は、ミリア、そしてスノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)とともに時間遡行の旅に出たのである。
山中を二人は手分けして捜した。だが光の粒子が消え、時間酔いと通称される軽い頭痛が消えても、二人はスノゥの姿を見つけることができなかった。
「ど……どうしよう、スノゥさん、時間のはざまに落ちちゃったかもしれないの!」
考えてみれば、時間旅行をあまりにも簡単に捉えすぎていたかもしれない――翠の膝がガクガクと震えた。このまま二度と、スノゥの姿を見ることができなくなったら、と考えると胸が張り裂けそうになる。
しかし翠の肩に、ミリアの腕が添えられていた。
「大丈夫、私たちが到着できてスノゥさんだけ……という可能性は低いと思うよ。きっと同じ時間軸にいると思う……場所がいくらか離れてしまっただけただよ」
「うん……」
「スノゥさんだって魔法少女、一人っきりになったってそうそう心配することはないよ。私たちは私たちで使命をまっとうしよう。最低でも、パラミタが出現しなくなるって未来は回避しないと……」
涙がこぼれそうになっていた翠は、ぐっとこらえて「そうだね、そうだね、お姉ちゃん」と答えた。
「スノゥさんを探しながら敵さんをやっつけることにするの!」
「その意気よ。新宿との抗争は重要なイベントになりそうよね? スノゥさんだってそこに向かうはずよ」
いったん手を放すと、ミリアは彼女の背に両腕を回し、翠の頭を自分の胸に押し当てた。
「がんばろうね……」
そう言って、翠をしばらく抱きしめた。
自分の手が、震えているのを悟られないように。