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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ

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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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 ■ 飛び込んできた、新世界への翼 ■
 
 
 
 秘術の話を聞いて興味をもった布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)は、龍杜を訪れた。
 迎えに出た龍杜 那由他(たつもり・なゆた)に、まず基本は挨拶から、と2人は簡単に自己紹介する。
「あなたが那由他さん? 私、蒼学の布袋佳奈子、どうぞよろしくね!」
「同じく蒼学のエレノア・グランクルスです。よろしくね」
「龍杜那由他です。ようこそ、龍杜神社へ」
 那由他も挨拶を返すと、どうぞと2人を中へ導いた。
 
「過去見の秘術が使えるなんて、面白そう〜」
 さっそく水盤の前に座り込む佳奈子に、那由他はありがとうと答える。
「なかなか条件が揃う時がないから、今回使えて良かったわ。秘術も使わずにいると、正しく伝承できないの」
「やり方はどこかに書いてあったりしないの?」
「もちろん書き残されてるわ。どんな巡りの時に出来るか、何を揃えて、どう設置すればいいのか、どんな手順で執り行うか。でもね、どんなに詳しく書いてあっても、それだけでは衰えていってしまうの。文字や図では伝えきれない何かがあるのかしらね」
「そういうものなんだ〜」
 良く分からないけれど術というのはそういうものなんだろうと、佳奈子は納得する。
「説明書を読んでもよく分からないときがあるけど、ああいう感じに近いのかしら?」
 エレノアに聞かれ、那由他はうーんと首を傾げる。
「どうなのかはよく分からないけど、全く知らないと説明書きすらさっぱり理解できないっていう点では似てると思うわ」
 だからこうして術を使えることは自分にとっても有り難いのだと言って、那由他は過去見の手順を進めていった。
 
 
 ■ ■ ■
 
 
 中学卒業が見えてくると、生徒たちは将来自分が何をしたいのか、どうなりたいのか問われるようになる。
 まだ自分の中の可能性はよく分からない。
 けれど、今の段階で自分に出来ること、出来ないこと、やりたいこと、なりたいもの、を自分なりに見定めて、進路を決めなければならない。
 佳奈子もまた、その岐路に立たされつつあった。
 
 佳奈子の両親は共に日本人だけれど、先祖のヨーロッパ系魔法使いの血は脈々と受け継がれていたらしい。それが佳奈子の代で色濃く出たのか、この頃佳奈子には、魔法使いの能力が現れてくるようになっていた。
 その為、佳奈子の進路の悩みには、どこの高校に行こう、という以外に、もしかしたら自分もパラミタに渡ることが出来るかも知れない、という希望もまざりかけていた。
 
 パラミタに佳奈子が興味を持ったのは、合唱部の活動を通してだった。
 今年佳奈子の中学校の合唱部は、全国コンクールに出場を果たした。
 その時、パラミタからのゲストとして、蒼空学園の聖歌隊に所属しているという女の子がステージに立った。
 その子の綺麗な白い翼も、聖歌隊で磨いた歌声も、佳奈子に強い印象を残した。
 といってもその子と接触したのは、コンクールの時は彼女の横をすれ違って、一声挨拶しただけでしかなかったのだけれど。
 それ以来、パラミタという大陸のこと、そしてあの女の子のことは、ずっと佳奈子の心の何処かに留まり続けていた。
 
「佳奈子、部活に遅れるよ」
 気付かぬうちにぼんやりしていたらしい。クラスメイトに呼びかけられて、佳奈子は慌てて立ち上がった。
 教室にはもうほとんど人が残っていない。
「わ、ぎりぎりだ。行ってくる!」
 鞄を手に音楽室まで大急ぎ。皆が発声練習を開始したところに佳奈子は滑り込んだ。
 
 
 合唱の練習をしていると、色々な物思いから解放される。
 うまくいかなくて歯がゆいこともあるけれど、皆で歌声をあわせるのはとても楽しい。
 佳奈子が練習に没頭し始めた、そこに。
 音楽室の扉がいきなり開いて……ついさっき思い出していた、あの白い翼の女の子が立っていた。
 
 皆が唖然としている中、女の子は音楽室を横切り、佳奈子の前にやって来た。
 記憶にあった通り、輝くような白い翼を持つ女の子だ。それに加えて整った顔立ちと長い綺麗な金の髪、という姿に、佳奈子はまるで天使のようだと、こんな時なのに見とれてしまう。
 女の子はそんな佳奈子の目を覗き込んで、こう言った。
「蒼空学園の聖歌隊に入らない? あなたと一緒に歌ってみたいわ」
 いきなりの誘いに、言われた佳奈子も驚いたけれど周囲にいた部員も驚いた。何事かと囁き交わすざわめきがわき起こる。
「どうして私と?」
「合唱の全国コンクールで会ったことがあるんだけど覚えてるかしら? 客席からあなたが歌うのを見て、なんて楽しそうに歌うんだろうって感心したの。それとあなたとすれ違ったときに、なんとなく魔法の力を感じ取れて、ずっと気に掛かっていたのよ」
 あの後、佳奈子と契約を結びたいと考えたのだと、女の子……エレノアは言った。聖歌隊やコーラス部で一緒に歌うことのできるパートナーがいたら、きっと学園生活も楽しいだろう、と。
「契約をすれば、地球人もパラミタ人も、お互いのの世界が行き来しやすくなるわ。そうしたらいろんなところに行けるようになるし、いろんなことが出来るようになる。それに、あなたの魔法のポテンシャルがどんなに強いものかを、この目ではっきりと見ることができるかも知れないわ」
 そう誘うエレノアに、佳奈子の胸も躍る。
 目の前に開ける新たな世界。
 自分の魔法能力を試してみたいという欲求。
 エレノアと一緒に歌ってみたいという願望。
 そして何より、こんな運命的な出会いに対する感動で何だかわくわくしてきてしまう。
「私もあなたと歌ってみたいな」
 そう答えると、エレノアは笑顔になった。
「良かった。地上の普通の女の子に、パラミタに渡るのを打診するのって、難しいかなって思ってたの。あなたが前向きな性格で良かったわ」
「こういうの、前向きって言うのかな。えっと……」
 佳奈子が呼びかけようとして詰まると、それを察したエレノアが名乗る。
「エレノア・グランクルスよ。あなたは?」
「私は布袋佳奈子。これからよろしくね」
 
 
 それが佳奈子とエレノアの出会い、パラミタへ渡る最初の1歩だった――。