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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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 セルシウスは、残ったアスカと話をしながら次の依頼者を待っていた。

「私は基本的に画家として動いてるけど色んなジャンルを扱ってるのよね〜。それで一番多い依頼が絵画修復やインテリアデザインなのよぉ。その家やお店に合わせた小物や家具なんかをオーダーメイドで作ってあげるんだ〜、費用はまちまちねぇ」

「報酬に目もくれぬとは、流石だな」

 感心するセルシウスだが、アスカの『まちまち』だと言った費用は、ネットオークションで売れた商品の発送があると言い、オルベールと一足早く空京へと戻っていったホープとオルベールがきっちり依頼者から徴収していた。アスカが知ってるかどうかは不明だが……。

「次の依頼者は、インテリアに関して非常に気を遣う者らしいからな。貴公が手伝ってくれると私が外装だけに集中できる」

「へぇ〜。それは楽しみねぇ、腕が鳴るわよ〜」

「なんと心強い、本当に助かるぞ。心から感謝する」

「いいのよぉ。金髪ギリシア彫刻君ばっかり負担が多いと、また胃がキリキリしちゃうかもしれないしねぇ」

 アスカはそう言って笑う。彼女は今、どんな依頼が来るのかを楽しみにしていた……。

 と、ドアが開く音がする。

「む、来たようだな」

「ヒャッハー!! 俺様のお越しだぜ!!」

 例え台風の日でも倒れる事の無い、ピンク色の光るモヒカンの男、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が同じく金のモヒカンを揺らすバーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)を連れて意気揚々と入ってくる。

「(うわぁ……想定外だわぁ……)」

 顧客に関して選り好みをしないアスカが小さく呟く中、ゲブーとバーバーモヒカンが椅子に座る。

「久しぶりだな。ゲブー殿」

 以前にも面識があったセルシウスが軽く会釈する。

「ハッ! 俺様達のすばらしい店を、モヒカンの次に友のセルシウスが作ってくれるなんてイカスじゃねぇかっ!!!」

 ゲブーはセルシウスに笑うと、傍のアスカを見る。

「あン? てめえは……」

「私は〜、師王アスカよぉ」

「おい、聞いてねぇぞ? セルシウス?」

 ゲブーが非難の声をあげる。

「む……?」

「俺様におっぱいを揉まれたいヤツを同席させるなんてよぉ! いくら俺様でもおっぱいを揉みながら打ち合わせなんて事はできねぇぜ!?」

 あくまでも紳士におっぱいと向き合うゲブーには、『ながら作業』等もっての外らしい。

「……こちらは今回貴公の店のインテリアを担当してくれるアスカ殿だ……」

「どぅも〜……」

 会釈しながら少し椅子を後方にズラすアスカ。ゲブーの射程範囲には入りたくないのがよくわかる。

「そうか! ならいいぜ!!」

 ゲブーはそう言うと、足を組み高らかに笑う。

「ピンクモヒカン兄貴? 早く店の話をしようよ?」

 シャンバラ大荒野でパラ実生たちに愛される伝説のモヒカン刈り専門店『バーバーモヒカン』。そこ集まったモヒカン愛より生まれた地祇であるバーバーモヒカンがゲブーを肘で小突く。

「そうだな。今回、俺様とコイツで2店舗も建てなきゃならねぇんだからな!」

「まずは、ゲブー殿。貴公の店を聞こうか?」

「……シャレ?」

 アスカが少し突っ込むが、セルシウスは至って真面目だ。

「俺様の店は、ミード(蜂蜜酒)を使った女性用エステサロンだ!」

「ミード! 我がエリュシオン帝国の名産品だな」

「なので、ミード(蜂蜜酒)をイメージした店作りを頼むぜ!」

「……エステでお酒……甘い大人のイメージかしらぁ?」

 アスカが言う。

「違うぜ! 大人と子供の中間層あたりがターゲットなんだ!」

「……子供はお酒飲めませんけどぉ?」

「ミードは飲むもんじゃねぇ!! 揉むもんだッ!!」

「断固違うッ!」

 セルシウスが抗議するがゲブーは気にせず、面食らうアスカにゲブーがとくとくと説明する。

 ゲブー曰く、ミードをたっぷりと胸にかけてあげ、ゲブーが(真面目にマッサージする)揉むことで、貧しい者を豊かに美しくする効果があるらしい。

「パラ実のお水な女子生徒達には悪くない店だろうし、かつて地球でも『モロッコと言えば性転換手術』てのが流行ったじゃねぇか? ニルヴァーナに行っておっぱいマッサージてのが主流になる時代が来る……俺様はそう信じて出店するんだぜ……」

 瞼を閉じ、彼だけに輝く未来を想像するゲブー。

 店の壁には、良くある『お客様の声』的なもの。短く言えば、『今までにゲブーがおっぱいを揉んだ俺様の嫁の写真』を飾る予定だ。ずばり、そのタイトルも『俺様の嫁たち』という直球仕様。今のところ、一番最初の候補としてはテティスがノミネートされているらしい。

 勿論、店員の配置もゲブーには考えがあった。

 『算術士』には会計をさせるが、「でも基本おっぱい愛のおかげでタダなんだぜ!」と、携帯電話会社もビックリなプランが用意されている。

 『メイドロボ』は、お掃除やメニューを聞いたり雑用係をさせる予定だ。流石のゲブーも「おっぱいはメカなので揉めないぜ!」と、これに関しては無難な配置か?

『獣人の罠師』は、お客が奥に踏み込んだら罠でがっちりつかまえてマッサージ台に運んじゃう役を与える。所謂、キャッチ役だ。

「……」

 ゲブーの構想を聞かされたアスカは、少々頭痛がしてくる頭を抱え、一応聞いておくことにした。

「それでぇ……ゲブーさんは?」

「俺様か? 当然マッサージ担当だぜ! おっと、エロじゃないぜ? おっぱいを癒す! それが俺様のジャスティスだぜ!!」

「……ど、どんな風にぃ?」

「がはは、よく来たな! セルシウスのミードと俺様のゴットハンドで気持ちよくなりやがれだぜーっ! ってとこだな」

 手をモミモミさせるゲブーに、アスカが椅子をさらに後ろへとずらす。

「待て! 私の名を使う気か!?」

「当たり前だろうが!! セルシウスと俺様のおっぱいの癒す空間なんだからな!!」

 椅子をギィィと揺らして笑うゲブー。傾けすぎたため椅子ごと床に倒れていく。

「…………」

 ゲブーが一瞬視界から消えた間に、アスカが「聞いてないわよぉ!」とセルシウスを振り向くと、彼は光速の速さで顔を背ける。

「てわけで……そんな店の名は、『ミード・エステサロン G.O.D(ゲブー・オブイン・大統領)』で決まりだ! おっと、アスカって言ったな? 勿論、グレートな看板も頼むぜ? デザイナーの腕の見せどころだろーがぁ! ハッハー!!」

「ストップ〜! そのエステって、まさか……?」

「勿論! おっぱいマッサージ専門店だぜ!!」

「……」

 モヒカンと、無から超まで全てのおっぱいをこよなく愛するゲブーの依頼に、アスカが悶絶する。その横ではセルシウスがバーバーモヒカンの話を聞いていた。

「モヒカン刈り専門店だと?」

「うん。ピンクモヒカン兄貴の店の隣でいいかな? そこに、『バーバーモヒカン ニルヴァーナ1号店』を建てて欲しいんだ」

 無邪気な笑顔を見せるバーバーモヒカン。彼はモヒカン刈りを芸術と信じて疑わない。

「ニルヴァーナにはパラ実分校もあるし、お客もばっちりだよね」

「……蛮族の生産工場か……確かモヒカンと言うのは、音楽で言うところのパンクの象徴……ならば、全て黒色や銀色、ドクロマーク等を付けるか?」」

 しかし、バーバーモヒカンが依頼した店は、一見実に堅実な理髪店であった。ただし、サンプルからカタログから全てがモヒカンオンリーだが……。

「おまかせからなんでもご指定のモヒカンに、モヒカン以外の指定でもモヒカンに、バーバーモヒカンが刈り上げるんだよ? あんまり怖い感じにはして欲しくないなぁ」

「騙し討ち、と言わぬか? それ?」

「完成したら、セルシウスのおっちゃんをお客様1号にしてあげるよっ!」

「……」

 店が完成したら近づかないようにしよう、とセルシウスは誓う。一方、次々と店の内装のアイデアを出すゲブーとの打ち合わせを終えたアスカは、頭を抱えながらセルシウスの仕事場を後にしたのであった。