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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

リアクション

 話は少し遡る。

「TVの前のみなさーん! こんばんわー! ツンデレーションです!」

 改装中のアディティラーヤ内で、衿栖と未散のアイドルユニット『ツンデレーション』が、キャメラを持った飛装兵に向かって呼びかける。

「さてっ、今、私達は何処にいるかと言いますと……なんと! 牢獄要塞アディティラーヤです!なにゆえ!?と思う人いるでしょう。お答えします!」

 衿栖が慣れた素振りでスラスラと言葉を紡ぐ。

「皆さんはセルシウス、という人を知っています? そう! エリュシオンで人気急上昇中の設計士兼建築家です! 彼は今、アスゴルド大帝のニルヴァーナ訪問に向け、アディティラーヤのリフォームに挑もうとしているのです! これは凄いイベントですよね、未散さん?」

「うん。久しぶりに会ったけど顔色が大分悪くないか? 大丈夫なのかあいつ……?」

 未散があまりTV向きとは思えぬ本音コメントをする。

「……そ、それはこんな大きな仕事を任されているんですから、誰だってプレッシャー感じますよ!」

「プレッシャーってか、相当ストレス溜まってるみたいだな」

「だ、大丈夫です! 彼はやる時はやる人ですから……多分」

「うん、そこは同意する」

「そして、今回私達ツンデレーションに与えられた任務とは……じゃじゃーん!!『建築家セルシウスの人気の秘密を探れ!』です! 任務達成のためセルシウスさんに密着取材! 仕事ぶりや私生活まで拝見しちゃいます! 頑張りましょうね、未散さん!」

 衿栖の言葉に頷く未散。

「(そうだね、衿栖。今回は私達はアイドルっぽいことをしなくて済みそうだし)」

 衿栖は続けて小声でTVに向かって囁くように、

「ここだけの話……ちょっとしたサプライズ企画も考えているんです。楽しみにしててくださいねっ♪」

「何か言った?」

「ううん、未散さん。何でもないですよ! さ、アディティラーヤの話題のスポットをレポートしましょう!!」

 衿栖が未散にニコリと笑う。

「カーーット!! OKだ」

 番組のプロデューサーを務める神楽 統(かぐら・おさむ)がOKの声を出す。

「二人とも、いい表情が撮れた。上出来だ。未散も随分板についてきた」

「神楽さん、仕事だから仕方なくですよ。まぁ、今回はそんなに体を張らなくてもいいんで楽だけど」

「俺の完璧な企画力の賜物だな」

「……否定はしませんけどね、神楽さん」



 話はここでまた少し遡る。

 今まで未散達を使って色々撮ってきた統。そろそろ新機軸を打ち出していきたいところだな、と、深夜に題材を物色していた時、セルシウスがエリュシオンで宮殿造りをするという事を発見したのである。

「そうだドキュメント番組だ! 今までありそうでなかった形式!! シャンバラのアイドル×エリュシオンで注目の建築家のコラボ!! 話題性×話題性=超話題の代物の完成って公式だ! いける!!!」

 閃いた統の行動は早かった。

 親交のあるレオン・カシミール(れおん・かしみーる)に電話をして、即座に機材と撮影の段取りを組んだ。

 統から話を聞いたレオンは、すぐさま彼が立てた大まかな撮影計画の詳細を詰めていった。

「統、アスコルド大帝の別荘になるわけだから取材禁止の場所もあるだろう。撮影に当たっての根回しはこちらでやらせて貰おう」

 と、統が深夜3時に電話をかけ、翌朝9時には綿密な計画を立ててきたレオンの強靭さは、計り知れないものがあるが、それはまた別の話なので割愛する。



「毎回、おまえの根回しには助けてもらっているな、レオン」

 撮影の当日、現場で撮影機材の搬入やスタッフの配置についても調整を行っていたレオンに統がドリンクを手渡しながら言う。

「ヘタに動きまわって、エリュシオン側に警戒されてしまっては今後の活動にも影響があるからな」

「今後?」

 ドリンクを受け取るレオン。

「ツンデレーションはエリュシオンでも通用するユニットだと私は思っているから尚更だ」

「成程……俺はジャンルと番組の形式を考え……」

「私は統の形式を如何に実現させつつ、今後の展開について考えるというわけだ」

 二人は少しほくそ笑みつつ、ドリンクで乾杯する。

「ツンデレーションに」

「俺達の番組作りに」

「「乾杯」」

 尚、二人が乾杯したドリンクは『36時間以上働けますか?』との触れ込みを持つ強力な栄養ドリンクであったらしい。



 そんな紆余曲折を経て撮影にこぎつけた統が未散に釘をさす。

「未散。そんな風に構えていると不意のトラブルに巻き込まれるぞ? 気をつけろ」

「へい……」

「いよいよ始まりましたね! 今日も頑張りましょうね未散くん! みくるちゃんも!」

 マネージャーとして同行するハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)が声をかけると、未散はハルの顔を見ずに通りすぎていく。

「あ……あれ? 未散くん、どうしたのでしょうか? ねぇ、みくるちゃ……」

 若松 みくる(わかまつ・みくる)は、無言でジロリとハルを見ている。

「……ってなんで睨むのですか!?」

 予想外の反応にハルがたじろぐ。

「(折角の未散と衿栖とのお仕事! みくる頑張る! ハルにばっかりいいとこ横取りされたくないもん! みくるの方が役に立つところ見せるんだから!)」

 影で闘志を燃やすみくるがプイと顔をハルから背ける。

「みくるちゃん……なぜわたくしにだけ未だに懐いてくれないのでしょう」

 執事らしく、撮影現場でのツンデレーションの休憩中にタオルやお茶を出していた蘭堂 希鈴(らんどう・きりん)が、ハルに声をかける。

「今日はとてもご機嫌のようですね? 未散さん」

「希鈴さん?」

「見ればわかります」

「そうでしょうか? 心なしか未散くんはわたくしに冷たいような……わたくし何かしましたでしょうか?」

 希鈴がハルにやれやれといった苦笑を見せ、

「まぁ、ハルさんのせいと言えばハルさんのせいなのでしょうけど……」

「え?」

 希鈴は、手に持った盆のグラスから飲み物を一滴も零さずに、咄嗟にハルの足を払う。

「わっ!?」

 ハルがぺたんと尻もちをつく。

「希鈴さん!? な、何を……!?」

「失礼……実は『浮かれた人を見たら足払いをしたくなる病』なのです」

「う、浮かれてますか!? このわたくしが!?」

「ええ、とっても……」

 そんな様子を、今回はマスコット役にみくるが自ら立候補してくれたおかげで、特にやる事がない南大路 カイ(みなみおおじ・かい)をが欠伸をしながら見つめている。

 撮影は順調に進むハズであった……。





 セルシウスがシリウスとサビクと話をしている間。特にやることがなかった未散は、統から渡された当日の撮影プランの描かれた台本に目を通しながら、時折、チラリとハルを見ていた。

 衿栖がそんな未散に小さく声をかける。

「未散さん?」

「……」

「未散さん?」

「へっ!? ああ、衿栖。な、何?」

「私、気づいたんですけど……?」

「な、何に?」

「みくるちゃん、居ませんよね?」

 未散が周囲を見渡す。

「……本当だ」

 さっきまで元気にフリップめくってたみくるの姿がない事に気付く二人。

「どんだけあいつは迷子の才能があるんだ……面倒な騒ぎ起こさなきゃいいけど」

「希鈴さんは、今飲み物の補充に行ってていないですし……あ、ハルさん」

 衿栖がハルを呼び、ハルがやってくる。またしても台本に目をやる未散。

「はい、何でしょうか?」

「みくるちゃんが見当たらないんですけど、ご存知ですか?」

「え……本当ですね……わたくしが探してきましょう……と、未散くん?」

「な、何だよ!? 話かけるなよ、こっちは本読みで忙しいんだよ!」

 つっけんどんな未散の態度に幾分心を痛めつつ、ハルが手を伸ばして台本を掴む。

「上下逆さまですよ?」

「あ……」

 台本を取り上げられた瞬間、未散の前にハルの金色の瞳が大きく映る。

「し、知ってるよっ!! それくらい!!」

 顔を紅潮させた未散が渡された台本を持って立ち上がる。

「何か困りごとがあったら、わたくしが……」

「いいよッ! ハルはいいんだよッ!!」

 伸ばされたハルの手を振り払おうとした未散の腕が何かに当たる。

「ポキンッ!」

 何かが折れる音。

 セルシウスの絶叫がこだましたのは、その数秒後のことであった。





 プロデューサーの統とレオンが『考える人』のポーズのまま青ざめるセルシウスと話をつけて戻ってきたのは、それから数十分後であった。

 夕闇迫る、アディティラーヤの表にすっかり血の気が引いた未散が立っている。

「困ったな……」

「ああ……」

 難しい顔で戻ってきた統とレオンに、未散が頭を下げる。

「ごめんなさい! 神楽さん! 確かに私、神楽さんの言うように最近浮ついてたし仕事も疎かだった。アイドルの仕事だからって言い訳してたから、こんな事に……」

 衿栖が凹む未散を励ますように肩を抱く。

「未散さん、私がもう少し気をつけていれば……」

「違う! 衿栖は悪くない! 全て私が……」

「そんなことありません! 私たち二人でツンデレーションなんです! 私も謝る権利があります」

 統は長い溜息をついた後、言葉を発する。

「セルシウスが言うように、本当にアレは国宝だった……当然修復はするが、賠償しないと政治問題に発展する恐れがある」

「賠償額は幾らぐらいなんです?」

 ハルが恐る恐る聞く。

「とてつもない額になることは間違いないだろう」

 レオンが続ける。

「この額を払うには……」

 統がチラリと未散を見て、

「ヌード写真集を出すくらいしか、解決策が見つからない」

「!!!!!」

「ぬっ……ヌードッ!!!」

「駄目ですッ!! そんなの!!!」

 取り乱したハルが統の胸ぐらを掴み、顔を横に振る。

「ハル、俺だって辛いんだ」

「だからって、未散くんの裸を世間の人々に晒すなんて!! せめてパンツ……いや、パンツでも反対します、わたくしは!!」

 強烈に反対するハル。現場はすっかり混乱する。

「対策を考えつつ撮影は明日にしよう……その前に、カイ!」

 レオンがカイを呼ぶ。

「何だ?」

「カイはここに残るんだ。万が一に備えて重要な仕事がある」

 レオンはペンキ缶を持ち上げて、カイに静かに頷くのであった。

 一行が肩を落として去る直前、希鈴がふと気付く。

「ところで、みくるちゃんは……ん?」

 振り返った希鈴は、何故か唇の端を歪めた統に目を奪われ、すっかりみくるのことを忘れてしまうのであった。